その出会いは始まりで
“どんな物語にも終わりがあるように、
いつか私達にも終わりが訪れます。
楽しいこと、悲しいこと、その全ての終焉が。
しかし、それは……”
☆☆☆
「…ぅ、ふぁあ…もう、朝か」
眩しい日差しに目を細めながらゆるゆると起き上がる。
伸びを一つして、立ち上がる。
「よし」
草を編んで作られたドアを開けて、
そのポケモンは日課の散歩にいく。
いつも通りの何でもない、けれど、とても大きな意味を持つ朝のことだった。
☆☆☆
………で、ここは何処だ?
眩しさと地面のゴツゴツ感に目を覚ましたら何故か草むらに寝転がっていた。
状況がさっぱり掴めない。
これはあれか、ドッキリなのか?
何にせよいつまでも寝転がっているわけにもいかない。
まずは状況確認をしなくては。
そう思って立ち上がると目の前にチョロネコがちょこんと座っていた。
家のそばには生息してないはずだし、
もしドッキリなら相当遠い所まで連れてこられたのか。
悩んでいるとチョロネコがこちらをじっと見つめてきて…
「あなた、見慣れない顔ね」
少し鼻にかかるような生意気な声で思いっきり不機嫌そうに言った。
……………ん?
ちょっと待った、何でチョロネコが話しているんだ?
ニャーと鳴くあのチョロネコだぞ?
(いや、本物は見たことないが)
しかも目線が、目の高さが同じだし。
(見たこと無いけどそんなにデカい筈がない)
ポケモンは俺が寝ている間に謎の進化を遂げたのか?
このときすでに俺の頭には、ある嫌な予想が浮かんでいたのだが
心は全力で否定をする。
「聞いてますの?」
「あれか、縮んだやつだろ」
しまった。
言ってしまった。
「…見るからに怪しいですわ。
ヤドン、マルマイン、こっちにきなさい」
なんだかよく分からないが不審者認定されたようだ。
……とか、のんびり考えている訳にもいかない。
やってきたヤドンとマルマインは完全に戦闘モードに突入しているようだ。
こいつら警察か何かか?
なら、まず話を聞け、話を。
いや、状況説明しろとか言われても何もできないんだった。
「ちょっと、キミ達、何やってるの?
無抵抗のポケモン相手に戦おうなんて」
思考がこんがらかって動けずにいるとチョロネコたちの後ろの草むらから
ツタージャが頭を出した。
「ほらほら、落ち着いて。ふぅ、それでどういう状況なの?」
それは俺が聞きたい。
「…朝の巡回にきたらこのロコンが転がっていたのですわ。
どういうことなのか聞いても変なことを言うばかり…
どう考えても怪しいから連行しようとしただけですの」
「おいらは〜チョロの〜言うとおりに〜してただけだよぉ」
「自分は姐さんを信じて行動しただけだ」
「ちょ、ちょっとまって、それじゃあキミは?」
ごちゃごちゃ話すチョロネコたちに背を向けてこっちに振ってきた。
だから、分かんないんだって。
「えーと…分かんない」
歴史上の偉人の名前でも言おうかと思ったが
さらにややこしくなりそうなので自重。
「やっぱり怪しいですわ」
「ま、待って待って、えと、と、とりあえずボクと警察にいこ?」
……助けるんじゃなかったのかよ。
まあ、チョロネコたちといくよりかはましか。
「分かった」
答えるとツタージャは嬉しそうに手を差し出す。
一方、チョロネコたちは草をかき分けて退場。
そういや巡回とか言ってたし、仕事に戻るのかもしれない。
「ふぅ、もう行ったね。じゃ、まずは色々聞かせて」
十分に時間がたったところでツタージャは手を引っ込めた。
俺、中途半端に手、伸ばしたんだけど。
そして手が栗色のふさふさの毛に被われているような気がするんだが。
でもって警察にはいかないのか?
「ボクはナズナ。キミの名前は?」
「さあ?」
考えて、何も浮かばなかった。
何一つ分からない。
「えっと、それは言いたくないの? 分からないの?
それとも、何か騙そうとか…は出来なさそうだけど」
最後のところ、失礼だぞ。
「分からない」
「うーん、記憶喪失ってやつかな?」
そうなのかも知れない。
「身元が分かればいいんだけど…
この辺にロコンは住んでないからね…どうしたものか」
「さっきからロコンって名前が度々出てくるんだけど…
俺、人間だよ?」
訂正をいれるとナズナが固まった。
「…いや、ロコンに見えるんだけど」
うん、薄々、というかはっきり分かってた。
突然、手に毛が生えたり目線がチョロネコ並みになった時点で
そうじゃないかと思ってた。
じゃあ何でポケモンに…
ぐぅ〜
「…………お腹すいてるの?」
訳が分からなすぎて腹が鳴った。
…何言ってるのかも分からない。
「なんて言うか、お困りのようだし、家にくる?」
そして何故そうなった。
「ね?」
笑顔で念を押してくるナズナをみて
やっぱりチョロネコたちについて行った方が
ましだったかも知れないと思い直した。
☆☆☆
ところ変わって木と草でできた小さな家の中。
いや、家というよりかは木で骨組みを作った草のテントと言ったところだ。
そのテント、もとい家に入るとナズナは何処からか
藁っぽい草を持ってきて即席の座布団を作った。
「さっきはちょっと強引でごめんね。
別に悪気は無かったんだけど…
おばあちゃんに人間って名乗る変なポケモンを
見つけたら何が何でも……こほん」
何が何でも何なんだよ、最後まで言え。
「…お友達に成りなさいって」
嘘つけ、なんだその間は。
「で、これからどうするの?
行く宛…以前に記憶がないんだったね。
働かざるもの食うべからずだし、
何か仕事見つけないと駄目だよ?」
「例えば?」
ナズナがにや、っと笑ったような気がした。
「探検隊!」
このときのナズナを見たら
それが目的だったかと誰もが言うことだろう。
ナズナはキラキラと目を輝かせてまくし立てる。
「ボク、探検隊に憧れてて、いつかパートナーを見つけて
チームを組もうってずっと思ってたんだ。
多分、こんなチャンス、二度と来ないよ。
だからさ、一緒に探検隊やらない?
警察とかいったらたぶん暫く放してくれないからさ、
こうして匿ったのだってそのためだし…」
こいつは…意外としたたかな奴なのかも知れない。
でも、俺は断れない。
「ほら、リンゴ食べる?」
餌付けされたからだ。
…じゃなくて、
ここでこの家を出ても俺はまともに生活していけない。
知識も金もない俺には生きるための選択肢はかなり少ない。
(乗せられてる感は否めないが)
こいつと探検隊をやるのも悪くないだろう。
「食べる。それと探検隊だけど、やる」
「ホントに!? やってくれる?」
「ああ」
「でも、命とか賭けないとやってけないよ?」
聞いてないぞ。
そしてこいつ、言質を取りやがった。
俺が歯噛みしている間にも話はどんどん進んでいく。
「…ということなんだよ。
じゃ、探検隊登録に行くけど…名前」
あ。
「どうする? ボクが勝手に仮の名前、付けようか?」
俺はポケモンたちの常識的な名前は知らないからな。
任せるか。
「ああ」
「炎っぽい名前がいいよね」
「じゃあ…ホタルとか?」
「イルミーゼあたりと被りそうだな」
「じゃあ…ヒノコとか?」
「弱そうだし技と間違えそうだな」
「じゃあ…ヒオとか?」
「そのヒオは氷魚のヒオだよな」
「じゃあ…ダイチとか?」
「もう炎関係ないよな?」
ネーミングセンスは無いらしい。
「ああ、もう、最初のでいいから」
「分かった。これから宜しくねホタル」
やっぱ、被りそうだな。