北風と太陽
「いや……もうやめて!私……ちゃんと言うこと聞くから……」
「本当……?」
バトルダイスの出口で、ジェムは再び会った少年――ダイバに泣きながら許しを乞っていた。彼女の手持ちはすでに全員戦闘不能になり、目の前で相棒のラティアスがメガメタグロスの4つの拳に殴られ続けている。既に瀕死になっているにも関わらず、メガメタグロスは甚振るのをやめない。どうしてこうなってしまったのか。それはジェムがブレーンのゴコウに敗北してバトルダイスを出た直後のことだった――
施設の外に出ると、自分をメタグロスで殴った少年、ダイバが待ち構えていた。彼は相変わらず帽子を目深に被ってジェムの目を見ずにこう言う。
「考えたんだけど……君、僕の代わりに挑んでくるのを追い返してくれない?雑魚でも群がられると面倒くさいからさ」
「……なんで私がそんなことしなきゃいけないの」
敗北し、まだ顔の赤いジェムは憮然としてそう返事をした。今自分たちはこの島に集まったトレーナーから狙われる立場であり、ジェムも挑んでくる相手を退けている。お互い難儀な立場ではあるが、だからと言って自分をポケモンで殴り飛ばすような奴に協力するほどジェムは聖女ではない。
「……さっきのバトル見てたよ。随分な負け方だったね。あの程度の実力じゃ、パパの集めたブレーン達には勝てっこないよ」
バトルフロンティアでの勝負は町のいたるところに設置されたモニターで観戦出来るようになっている。ましてやブレーンとのバトルとなれば放映はされるだろう。事実かもしれないが、言い方にむっとするジェム。
「だから……言うこと聞いてくれたら、僕がアドバイスしてあげてもいいよ」
静かだが傲慢な物言い。自分の方が上だと確信している態度に、ジェムは反論する。
「じゃああなたは私より――ブレーンより強いの?」
「……はいこれ。ファクトリーシンボル」
ダイバは無言で、ポケットに入れた歯車を象ったバッジを見せる。それはブレーンに勝った証であるフロンティアシンボルだった。ダイバがすでに施設の一つをクリアした証だ。
「ブレーンには僕のパパやママもいるから、全員より強いとは言えないけど……少なくとも君よりは強いよ。なんなら、バトルで証明しようか。それで僕が勝ったら、言うことを聞いてもらう。もし君が勝てたら、もう関わらないよ」
「本当に……『ポケモンバトル』で勝負するんでしょうね?」
「あれはいきなり引っ叩く君が悪いんだよ……?」
メタグロスで殴ったことに悪びれもしないダイバ。そして彼は傍に控えさせていたサーナイトを前に出す。
「わかった、勝負しましょう。……絶対負けないんだから。出てきて、クー」
「さっき負けたばかりでよく言うよ……」
二人のバトルが始まる。だがその内容は酷いものだった。強力なポケモンとメガシンカを使いこなすダイバに、ジェムはほとんど手も足もでない。ラティアスのミストボールさえも、メタグロスの特性『クリアボディ』の前には無力で、あっさりと組み伏せられ甚振られていた。
ダイバは膝をつき泣きながら許しを乞うジェムを帽子の陰から見下す。
「……何がお父様の娘だ。何が絶対負けないだ」
そして彼女を心を嬲るように言った。
「君、ポケモンバトルの才能ないよ」
「――――!!」
その言葉に、ジェムが何も言い返せずに泣き崩れる。周囲のトレーナー達に哀れむような眼を向けられているのがとてつもなく惨めに感じた。
(私は、お父様の娘に相応しい、皆に尊敬されるトレーナーでなきゃいけないのに……)
ジェムの心が真っ黒になって、瞳の輝きがくすんでいく。自分の弱さと情けなさに絶望しかけた、その時だった。
「そこの少年、女の子をいじめるのは感心しませんよ?」
二人の間に割って入ったのは肩までかかる黒髪の一部だけを赤と白で染めた三十歳前後、長身痩躯の男性だった。となりにはイカをひっくり返したようなポケモン、カラマネロを連れている。
「何君、邪魔なんだけど……」
「邪魔にし来たからね。少年も女の子と『ポケモンバトル』をすると約束したのでしょう?今少年がやっているのはバトルではなく暴力です。それはいけません」
「うるさいよ……メタグロス、バレットパンチ」
露骨に不機嫌さを現し攻撃を命じるダイバ。だがメタグロスは動かない。
「私は争いを望みません。――というわけで、君たちのポケモンには催眠術をかけさせてもらいました。カラマネロの催眠術はポケモンの中でもトップクラス。一度かかればなかなか起きませんよ」
「……」
気づけばダイバの隣のサーナイトまでが眠ってしまっている。ボールに戻して、新たにガルーラを呼び出すが、相手はただ者ではないと判断しこれ以上攻撃はしなかった。
「さ、お嬢さん。こんな暴力的な子の言うことを聞くことはありません。ひとまず、ポケモンをボールに戻してあげましょう?」
男性がジェムに呼びかける。ジェムは無言でラティアスをボールに戻した。蹲っているジェムに男性は手を差し伸べる。
「私の名前はアマノ。さあ、まずはポケモンを回復させないといけませんね。――全てのポケモンが戦闘不能とあっては一人では危険でしょう。ついてきてください」
ジェムはその手を取り、立ちあがる。何故だかこの男――アマノの言うことは、すっと心の奥に入ってきて、警戒する気が起きなかった。ダイバがジェムを冷たく吹き付ける北風なら、アマノは温かく心を照らす太陽のようだった。
(この人を見るとなんだか心が、ぽかぽかする……)
普通に考えて出会ったばかりの男にそのような気持ちを抱くのは不自然なことだったが、ジェムは沈んだ心を癒してくれるなら何でもいいと思った。アマノは、まだ歩調がおぼつかないジェムに合わせ、ゆっくりと歩いてくれている。その心遣いもまた、怖いくらい気持ちがよかった。
「……もう少しで手に入ったのに。目障りなんだよ……メガガルーラ、岩雪崩」
残されたダイバは、忌々しげにアマノを見る。追いかけたかったが、ポケモンが眠ったのを好機とトレーナー達がバトルを仕掛けてくるのでそうはいかなかった。それらを岩石の奔流で怯ませていきながら、遠ざかる二人を見ていた――
「なるほど……チャンピオンの娘らしくありたいのに上手くいかない、ですか」
ジェムはアマノの使っている部屋まで通され、ポケモンを回復してもらい落ち着いた後、ソファに座らされて彼に今の自分の状況と不甲斐なさを偽りなく話していた。彼になら、何でも話せるような気がしてしまう。部屋に入ることにも、何ら抵抗感はなかった。だがそれを疑問に思うことが出来ない。
「あの少年はあなたに才能がないなんて言いましたが、私はそんなことはないと思いますよ。ブレーンとのバトル、そしてメガシンカは素晴らしかった」
「でも私……負けちゃった」
あくまで自分の敗北が許せないジェム。傲岸な心の壁を優しく溶かすように、アマノは言う。
「いいじゃありませんか、負けても」
「え……?」
「あなたはまだ若い。確かにあなたの父親は今は無敗の絶対王者かもしれませんが、果たして昔からそうだったのでしょうか?私はそうは思いませんね」
「……でも」
「あなたには父親と同じ人々を魅せる実力がある。それは間違いないですよ。ただ――あなたは、張り詰め過ぎているのではないでしょうか?」
アマノの黒い瞳はジェムのオッドアイを見つめてゆっくりと語る。
「あなたはまだまだ不完全で歪な原石。これから研磨されてゆけば美しい輝きを得るでしょう……ですが常に自分に負荷をかけ続けていれば、宝石として完成する前に壊れてしまいます。今のあなたは壊れかかっているんですよ。少し休んで、他の事を考えた方がいい」
「……はい」
普段のジェムならそんなことはないと一蹴しただろう。チャンピオンの娘として自分を磨かなければいけないのだと。だがアマノの言う通り、今のジェムの心は限界に近かった。
「でも私……どうしたら」
だがジェムは今までずっとポケモンバトルに明け暮れてきた。それに疑問を持つことはなかったし、それを楽しんでいた。だから、他の事と言われても困ってしまう。教えを乞うジェムに、アマノはジェムの顔に手を伸ばして、唇の横をくいっと吊り上げた。
「簡単だよ。どこにでもいる女らしく――家族のこともポケモンのことも忘れて、誰かに身を委ねればいい」
「え……?」
優しいアマノの言葉に、優しさ以外の異物が混じる。それは白雪姫に渡されたリンゴのように、体に入れてしまえば二度と戻れなくなる毒だった。いや、その毒は気づいていなかっただけで既にジェムの体を回っていた。疑問の声をあげるが、否定することが出来ない。
「私が君の凝り固まった心を溶かして、私が女の子の幸せを教えてあげよう。――何も不安に思うことはない」
アマノのカラマネロが瞳を光らせる。するとジェムの頭がぼうっとしてくる。今ジェムの心の中に浮かんでいるのはアマノの言葉と……普段はバトルの闘争心へと昇華されている、少女としての欲求。
「さあ――繰り返せ。私の、アマノの言葉に不安を覚える必要はない」
「この人の言葉に、不安を覚える必要はない……」
「私の言葉に身を委ねていれば幸せだ」
「この人の言葉に身を委ねるのが、幸せ……」
「そう、お前は私の言うことを聞くのが幸せ――だからお前は、私に全てを委ねる」
「私は、この人に全てを委ねる……」
アマノの言葉がすべて正しいと錯覚してしまう。完全に今のジェムは、アマノとカラマネロの催眠術にかけられていた。
「く、くくくく……チャンピオンの血を引くものといえど、所詮は小娘か」
「……」
もはやアマノの声に、態度に先ほどまでの優しさはない。野心と征服欲に燃える一人の男がそこにいた。彼はジェムを餌を見る蛇のような眼でねめつける。
「お前には望んだとおり『チャンピオンの娘』として、私の計画の役に立ってもらう……だがその前に、少し味見をするとするか。立て、ジェム」
「……はい」
アマノはソファに座るジェムを立ち上がらせ、その顎をくい、と持ち上げる。まるで良いワインでも扱うような『物』に対する態度だが、ジェムは陶酔した表情でアマノを見つめている。若い女が自分を熱い目で見ていることはアマノの欲望を大いに満足させた。
「では、いつものように……頂こう」
ジェムの細い体に手を回して抱きしめる。ジェムの体は無抵抗にアマノに身を預けながらぼんやりとした頭でこんなことを考えていた。
(はじめてなのに、いいのかな……でも、しあわせ……たたかってつらいおもいをするより、ずっと……)
ジェムの唇が奪われようとしたその時。部屋の外で、凄まじい破壊音が鳴り響く――
部屋のドアが破壊され轟音が鳴り響く。アマノが忌々しげに振り返ると、そこにはダイバがメタグロスを連れて立っていた。薄っぺらな笑顔を取りつくろってアマノが口を開く。
「何の用ですか、少年?せめて人の部屋にはいるときはドアを開けて入るという最低限のマナーは守っていただきたいですね」
ジェムはまだ催眠術の効果が解けておらず、ぼんやりしたままだ。それだけカラマネロとアマノのかけた催眠術は深い。ダイバはそれを見て小さく舌打ちした。
「手間かけさせるな……その子、返してもらうよ」
「残念ですがこの子はあなたのものではありません。既にこの子は、私といることを望んでいます」
平然とのたまうアマノに対してダイバは吐き捨てる。
「ほざきなよ、このロリコン催眠術師」
「……」
アマノの顔に青筋が浮かんだ。険悪な空気が流れる。
「いきなり入ってきたあげくその態度……真に勝手で浅薄ですね。少年相手にやるのは趣味ではありませんが、少し教育をしてあげましょう。ジェムも手伝ってください」
「……出てきて、ラティ」
「メタグロス、バレットパンチ」
「カラマネロ、リフレクター」
ジェムが何かする前にまたしてもメタグロスで殴り飛ばそうとするダイバ。それを読んでリフレクターで攻撃を防ぐアマノ。催眠術をかける過程でジェムがダイバに何をされたかは聞いている。よって彼の行動を予想するのは人の心理を操ることに長けたアマノには容易いことだった。
「また暴力に走りますか。いけませんね。女の子の身体というのはもっと大切に扱わねば」
「関係ないよ。……僕の言うことを聞くって約束したのに勝手にあんたに着いていく方が悪いんだ。僕は悪くない」
「無理やり約束させた、でしょう?」
「それはあんたもだろ……メタグロス、メガシンカしてコメットパンチ」
メタグロスが光輝き、その体が浮き上がる。地につけていた鉄腕を振り上げ。4本の腕全てが一回り大きくなったメタグロスの本気の姿。それがジャブの様な一撃ではなく、鉄腕を思い切り振りかぶり、彗星の如く勢いのある拳を放つ。この威力の前にさっきジェムは手も足も出なかった。マリルリの特性『力持ち』もクチートの特性『威嚇』も無力だった。
「カラマネロ、リフレクター」
「ラティ、竜の波動」
カラマネロが障壁を発生させるが、メタグロスの鉄拳はそれを打ち破る。だがそこへさらに竜の波動が相殺しにきて、威力を弱められた。
「さあ行きますよ。カラマネロ、催眠術!」
「出番だよミロカロス、神秘の守り」
「……!」
相手を眠りに誘う術をかけようとしたところに、美しい虹色の鱗を持つポケモンが現れて不可思議なベールが彼らを包む。すると術の効果は無効化され、ダイバもメタグロスも眠りには落ちなかった。
「ワンパターンなんだよ……同じ手が何度も通用すると思った?」
「ふん……なら容赦はしません。出てきなさい、ランクルス!」
白い赤子を緑色のスライムで包んだようなポケモン、ランクルスが現れる。アマノは早速指示を出した。
「ジェム、ランクルス。サイコキネシス!」
「……サイコキネシス」
二人が同じ指示を出すと、ランクルスがラティアスの脳波を乗っ取り、二体分の威力を合わせた強力な念動力の塊を作る。そしてそれを無色透明の圧力として、神秘のベールを作る厄介なミロカロスにぶつけようとした。
「メタグロス、光の壁。ミロカロス……ドラゴンテール」
「カラマネロ、リフレクター!」
お互いが攻撃を防ぐ障壁を出現させ、それぞれの技を防ぐ。ダイバが帽子の下でにやりと笑った。
「うっ……」
「ジェム!?」
ドラゴンテールはただの攻撃技ではない。その衝撃はダメージにならずとも相手を物理的に吹き飛ばす効果がある。ジェムの体が衝撃で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。ジェムは小さく呻いて気を失った。それを見て、アマノは舌打ちする。
「ちっ……受け身の一つも取れんのか」
「この子はお上品すぎるんだよ……で、どうするの?まだやる……?」
「親子そろって忌々しい……まあいい、ここは一度退こう。少々見くびっていたというところか」
そう言うとアマノは紫色のボール……マスターボールを取り出す。そこから現れたのはポケモンではなく。空中に空いた『黒い穴』だった。それを見た瞬間、ダイバの意識が途切れた――
「……逃げられたか」
ダイバが意識を取り戻し時計を見ると、5分が立っていた。アマノとカラマネロ、ランクルスの姿は消えている。どういうからくりか知らないが、逃げたらしい。壁にはジェムがもたれかかるようにして眠っていた。近づき、その顔をしばし眺める。さっきまで戦っていたというのにあどけなく、自分の状況への危機感のない寝顔だった。それを見てダイバは無性に腹が立った。自分の寝顔は母親にアルバムで見せられたことがあるが、こんなに安らかな表情ではなかったし。自分にこんな間抜けな顔で寝られるとは思えなかった。
「……起きてよ」
「……」
ダイバが呼びかけるが、ジェムはすやすやと眠っている。腹が立つので、思いっきり両方の平手で頬を叩いてやることにした。パチン、と気味の良い音が鳴る。
「あ、あれ、私……」
ジェムはようやく目を覚まして、周りを見回す。そして自分の状況を思い出したのか、怯えるように自分の肩を抱いた。当然だ。見ず知らずに男に騙され、催眠術にかけられ、キスまでされそうになったのだから。
「……助けてくれたの?」
「そうだよ、君には僕の言うことを聞くって約束してもらったからね」
当然の権利のように言うダイバ。ジェムとしては本意ではないが……助けてもらったのも、約束してしまったのも事実だと考えた。
「わかった。でも、私や私のポケモンに変なことはしないでね。……そしたら許さないから」
アマノよりマシだろうが、ダイバも大概危険な男だ。そう念は押しておく。ダイバは頷いた。
「君が僕に逆らわなければ、何も酷いことなんてしないよ。僕はパパとは違うんだから……」
ダイバは父が嫌いだった。傲慢で、人の意思など何とも思っていなくて、息子や妻のことなど自分のビジネスの道具としか見ていないと思っている。
世界の誰より父を愛しているジェムとしてはその言い方に賛同は出来なかったが、実際自分の息子を容赦なくハンティングゲームの獲物にしているのを見ているが故に口は出せなかった。
「じゃあその……これから、よろしくね」
「……?」
手を差し出すジェムに首を傾げるダイバ。こう言うしぐさは年相応に見える。ジェムが恥ずかしそうに言った。
「……これからはあなたが言った通り、私があなたに挑んできた分まで相手にするんでしょう?だったら一緒に行動しなきゃダメじゃない。だから、よろしく」
「何それ、子供みたい」
「あなたも私もまだ子供でしょ。私、ここに来るまでは大分大人に近づけたって思ってたけど……全然そんなことなかった」
父親にもここに来ることを認められ、恩師との勝負にも勝って。もしかしたらフロンティアでも順調に勝てるかもと思っていた。でも蓋を開けてみればどうか。自分はバーチャルに負け、ブレーンに負け、自分より年下の子に手も足も出ず、あまつさえ敗戦の心の隙を突かれて妖しい男に体を明け渡してしまいそうになっていた。トレーナーとして、人として、なんと弱いことだろう。お父様が旅に出してくれなかったのも納得だ、と思った。
「だから、これも修行だと思ってあなたに付き合うことにする。それでいいわよね」
「君に否定する権利はないんだけどね……まあいいよ」
ダイバもおずおずと手を差し出し、二人は握手を交わす。お互いすぐパッと離してしまうのは、致し方ないことだろう。手を離した後、ダイバは昏い笑みを心の中で浮かべていた。
(同じ偉い人の子供なのに……こいつは父親に愛されてるんだ。それが当然だと思って、心の底から尊敬してるんだ。そんなの許さない。壊して、堕として、僕と同じにしてやる)
それがダイバがジェムに執着する理由だった。バトルでは自分の方が強くとも、心のありようとしてジェムはダイバの遥か高みで眩しく光っている。その光が疎ましく、そして穢したいと思ったのだ。
(少し思ってたのとは違うけど……私はここからもう一度自分を鍛え直してみせる。そしてお父様に誇ってもらえる私になるんだから)
こうして二人は真逆のことを考えながら協力してこのフロンティアに立ち向かうことになる。そう、ここからが物語の本当の始まり――
「……ふん、さすがに奴の息子か。くそっ、思い出すだけでも胸糞悪い」
施設の裏でタバコを吸いながらアマノは吐き捨てる。彼は今ダイバの父親――エメラルドについて思い出していた。彼に対しては怒りと憎しみしか覚えない。
「だが、それもここまで。雌伏の時は終わりだ。俺はこの力で、バトルフロンティアを――支配する」
マスターボールを見つめてにやりと笑う。そこにはこの島一つを余裕で支配しうるほどの力が眠っていた。
「それまで首を洗って待っているがいい……く、くくくく。ははははは!!」
アマノは哄笑する。水面下でもまた、この島への脅威は動き始めていた。