第一章
5VS6!メガシンカVSメガシンカ
ネビリムと呼ばれた少女は不敵に、不遜にシリアを見て笑った。ミミロップの背からぴょんと降りて、シリアを指さす。前髪の耳のような部分がぴょこんと揺れた。

「そう!このシンオウ一!否、世界一強可愛い(つよかわいい)四天王ことネビリムがあなたを倒しに来てあげましたよ!私の可愛いポケモンたちと、パ……博士の科学力が合わさればあなたなどけちょんけちょんです!」
「困りましたね、あの時のリベンジのつもりですか?そんなことのためにあの博士に手を貸すのは感心しませんよ」
 額を手で抑えるシリア。どうやらネビリムとシリアは過去にもあったことがあるらしい。シリアはその時のことを話し始める。
「懐かしいですねえ。シンオウリーグとホウエンリーグでの交流会の時にあなたが私にバトルを挑んできた時からもう早2年ですか。確か試合の結果は……6-0でしたっけ?」
「なっ!何を失礼な、3-0です。あの時は3対3だったでしょう!」
 どうやらこの少女、昔シリアにボロ負けしたことがあるらしい。そのことを掘り返されてネビリムは耳まで真っ赤になった。
「ああ、そうでしたね。……で、あの博士の科学力とやらがあればそれを埋められると?」
「と、当然です。そもそもあの時の勝負はきっと何かの間違いだったんです!美しいシンオウ地方の中でも一番強可愛い私が暑苦しくて野蛮なホウエン地方のトレーナーに負けるなんてありえないんですよ!」
 何を根拠に言っているのか知らないがネビリムはホウエン地方自体を見下しているようだ。サファイアがむっとなって言い返そうとするが、ルビーに止められる。
(……ここは兄上に任せておきたまえ、今の君やボクじゃ太刀打ちできる相手ではなさそうだよ)
 確かに彼女はシンオウの四天王らしい。そんな相手に立ち向かうのは今のサファイアには無謀だ。
(でもだからって、黙ってみてるなんて……)
「困りましたねえ、その様子では退いてくれなさそうですし……手っ取り早く、始めましょうか。――ヤミラミ、出番です」
「ふっ、一匹だけですか?悪いですが強可愛い私は最初から全力で行かせてもらいますよ!出てきなさい、エルレイド!!そして行きなさいミミロップ!」
 ヤミラミ一体に対して、容赦なく二体目を出し、カメラを前にしたアイドルか何かのようにポーズをとる。


「さあ、このシンオウ一強くて可愛い私たちの伝説のリベンジバトルのスタートです!」


ネビリムが腕につけているサークレットにはめられた小さな石と、ミミロップの体が桃色に光り輝く。光はミミロップを包む渦となり、その体を隠す。

「まさか……」
「これは!!」

シリアが驚いた表情を見せ、サファイアも固唾を飲む。そしてネビリムは天に手を掲げ、高らかにその名を呼んだ。

「更なるシンカを遂げなさい!その強さは巨人を斃し、その可愛さは天使に勝る!いざ、このステージに現れ出でよ――メガミミロップ!」

中から更なる光が漏れ出し、渦となった光が砕け散った。その中から現れたのは、特徴的な耳が三つ編み状になり、足の部分も黒いタイツ状に変化したミミロップの新たな姿だった。
「どうです?博士にもらったメガシンカ……これを手に入れた以上、もはやあなたが私に勝るものはありません。さあ、覚悟しなさい!

メガミミロップ、とびひざ蹴り!」
 ネビリムが誇らしげに胸を反らして命じる。だがその指示にサファイアは違和感を覚えた。
(ゴーストタイプのポケモン相手にとびひざ蹴りだって?)
 とびひざ蹴りは強力な技だが、格闘タイプの技でありゴーストタイプには効果がない。おまけに外した時反動を受けるデメリットも抱えている。
「気を付けて、シリア。何かある!」
「でしょうね…ヤミラミ、パワージェム」
 シリアのヤミラミの瞳が輝き、いくつもの鉱石がメガミミロップに向けて打ち出される。が。

「その程度でメガシンカしたミミロップは止められませんよ!」

ミミロップのとびひざ蹴りは飛来する鉱石を砕き、そのままヤミラミに強烈なひざ蹴りを――叩き込む。ヤミラミの体が大きく吹き飛ばされ、地面を転がった。
「ッ!?攻撃が当たった!?」
 困惑するサファイアだが、さすがにシリアは冷静なままだった。彼は肩をすくめる。

「なるほど……あなたのメガミミロップの特性は『きもったま』ですか。その自信も、ただのはったりではなさそうですね」
「『きもったま』……ゴーストタイプ相手にもノーマル・格闘の技が当たる特性か。さすがに対策はしてあったようだね」
「ふふん、ようやく私の可愛さと強さがわかりましたか?ミミロップ、ピヨピヨパンチでとどめを!」
「どうでしょうね。ヤミラミ、不意打ち!」
 メガミミロップがその長い耳でヤミラミを捉える前に、ヤミラミが死角に入りこんで手刀を叩き込む。不意を付かれたメガミミロップのパンチは外れた。

「そのままパワージェムだ!」

 続けざまに技を決めようとするヤミラミをよそに、ルビーは考えていた。
(あのエルレイドは何のために出したんだろう?悪・ゴーストタイプのヤミラミ相手じゃ、エスパー・格闘のエルレイドはでくの坊同然で手が出せていない……何かあるだろうね)

「ミミロップ、炎のパンチ!」

 メガミミロップもすぐに体勢を立て直し、炎の拳があっさり鉱石を相殺する。だがヤミラミは更に動いていた。ヤミラミの体の周りに光が集まり、とびひざ蹴りで負った傷が治っていく。

「自己再生とは姑息な技を……」

――そしてルビーの疑問を解決するように、エルレイドが前へ動いた。

「ならばいきなさいエルレイド、インファイトです!」
「レレレレェイ!!」

 エルレイドが目にも留まらぬ速さで拳を連打する。格闘タイプの強烈な技はやはり先ほどと同じように――ヤミラミを打ち抜き、吹き飛ばした。カナズミジムの壁に叩きつけられ、ヤミラミが動かなくなる。
「まさか、このエルレイドも『きもったま』を!?」
「いえ、そんなことはありえない……まさか」
 さすがのシリアも驚いた顔をする。それを見て満足したのか、ネビリムが笑みを深めた。

「そんなに驚きましたか、チャンピオン?ならば説明してあげますよ。私のエルレイドはミミロップがとびひざ蹴りを決めた後、スキルスワップを発動していたのです!」
「スキルスワップ……そういうことですか」

 シリアは納得したようだが、サファイアには何のことかわからない。ルビーが説明する。
「スキルスワップ……自分と他の一体の特性を交換する技だね。それでエルレイドはミミロップの『きもったま』を得た。よって格闘タイプの技がヤミラミに当たった……そういうことだろう」
「その通り!ですがそれだけではありません。エルレイドの特性は『せいぎのこころ』です!これが何を意味するか分かりますか、チャンピオン?」
 質問されたチャンピオンはサファイアが今まで見た限り初めて……ほんのわずかに苦い顔をする。

「……『せいぎのこころ』は悪タイプの技を受けた時、攻撃力が上昇する特性でしたね。だから炎のパンチで岩タイプのパワージェムをいともたやすく打ち砕けたわけですか」

それを聞いて、勝ち誇ったように笑うネビリム。

「そうですその通り!これで4VS6……あっさり自分のポケモンを倒された気分はどうですかホウエンチャンピオン!」

 確かにこの状況は良くない。2体がかりだったとはいえ、ティヴィルを簡単にいなしたヤミラミが容易く倒されている。おまけに相手のポケモンはゴーストタイプ相手に有利な特性を持ちほぼ無傷の上、能力まで上昇しているのだ。
 そしてそれだけではなく。状況は更に悪い方に転がっていく。戦闘の音や、チャンピオンという言葉を連呼するネビリムに、カナズミシティの人達が集まってきたのだ。

「おい、あれって……チャンピオンのシリアじゃないか?」
「おまけにシンオウのアイドルのネビリムちゃんまで!」
「ちょっとまって、じゃあさっきのテレビってホントだったの!?」
「取材のチャンスだ、見逃すな!」

 ぞろぞろと集まってくる野次馬。しかもその中にはテレビカメラを持っているものまでいるのがルビーとサファイアには見えた。

「シリア…」
(大丈夫ですよ、サファイア君)

 不安そうにシリアを見るサファイア。観衆の目もあり逃げ場もなく、手持ちの数も相性も不利な状態。だがシリアはそんな状況で、爽やかな笑みを浮かべて観衆を見た。

「お集りの皆さん、まずはお忙しいところに足を止めてくださりありがとうございます」

 にこやかに手を振る。その動きには、ホウエンの危機や自分のふりなど微塵も感じさせない余裕があった。

「これから皆さんに、シンオウからはるばるお越しいただいたアイドル四天王と名高いネビリムさんと。この私シリアの素晴らしいバトルのショーをお見せしましょう!」

 どうやらシリアはこの状況を、一旦ただのショーということで片づけてしまうつもりの様だった。観衆がどっと沸き立つ。

「チャンピオンと他の地方の四天王のバトルだって?こいつは見逃せねえな!」
「ネビリムちゃーん、負けないで―!」
「頑張れシリアー!」
「カメラ、もっと持ってこい!」

 だがネビリムが勿論黙っているわけはない。

「ちょっと待ちなさい、私たちはホウエンのメガストーンを奪うためにやってきたんですよ!そんな口八丁でごまかそうたって……」

「おっ、そういう設定か。凝ってるねえ」
「悪役のネビリムちゃんも素敵だなあ……」

 完全に観衆の空気はこの状況をショーとして受け止めてしまっている。ネビリムもしばらくどう説得するか考えた後諦めたのか、シリアを指さした。

「ええい、どのみち私があなたを倒してメガストーンを奪えばいい話です!さあ、次のポケモンを出しなさい!」
「お待たせしました、では続けましょうか。――サファイア君、妹君、よく見ていてください」

 シリアが二個のモンスターボールを取り出す。片方のモンスターボールはミミロップがメガシンカした時と同じ光を放っていた。その中から現れたのは――

「現れ出でよ、霊界への案内者、ヨノワール!そしてシンカせよ、全てを引き裂く戦慄のヒトガタ……メガジュペッタ!」

「この姿は……」
「……」

 現れた二体のポケモンの姿は、間違いなくシリアの手持ち――がさらに進化した姿だった。そして同時に、サファイアのカゲボウズとルビーのヨマワルの最終進化形態でもある。

「ふふふふ……とうとう出てきましたね、メガシンカ!そいつを倒し、私はあなたに完全勝利してみせます!いきますよ!
「ええ……本当の勝負は、ここからです」

 二人の勝負は、ヒートアップする観客とともにさらに激化していく。

 そのバトルを見ながら、ルビーはやはり思考を巡らせていた。

(用意が良すぎる……やはり、あなたは信用できない)


(あなたはいつも周到すぎて、そして回りくどいんですよ――兄上)

■筆者メッセージ
じゅぺっとです。今回は四天王の強さを前面に押し出してみました。強可愛い?ネビリムの恐ろしさ、いかがでしたでしょうか。

感想は初めての方でもいつもの方でも歓迎です。ここまで読んでくれた方、ありがとうございました。
次回で決着がつくかどうかは、今のところ未定です。じっくりバトル描写を書いていこうと思いますので、お楽しみに!
じゅぺっと ( 2015/10/18(日) 20:16 )