強欲チャイルド
目がちかちかするほど光り輝くイルミネーションに、店から洩れる楽曲から辺りはもうクリスマスムード真っ盛りである。
十二月二十五日まであと五日の今日、自分の息子と共に街を歩いていた。
「修也、今年はサンタさんに何をお願いするの?」
自分の右傍を歩く小学二年生の息子の梨乃修也に問いかける。
「えーとね。ポケモンカードを(※)十箱」
(※)十箱・ポケモンカードのパックは1つで315円。一箱にはパックが20個あるので6300円。つまり十箱は……。
「じゅっ……、高すぎだな」
そんなに買ってあげれるお金はない。不景気の煽りを受けてボーナスが出なかったんだ。とても買う事なんて家系的に無理である。
修也はこちらの顔を見つめながら首をかしげる。
「パパ、どうしたの?」
そうだった。修也は僕に買えと言っているのではなくてサンタさんにお願いしているんだ。
だからと言ってそのお願いをされると正直に応えるのは無理。こちらが堪えられない。
「(※)ポケモンのクリスマスのぬいぐるみじゃダメなの?」
(※)ポケモンのクリスマスのぬいぐるみ・ポケモンスイーツクリマス09のこと。ギザみみピチュー、ピカチュウ、チコリータの三種があり各1200円。三つ合わせても3600円。
「いらないもん」
なっ……。可愛げのない。眉がひくひく動くのを覚えた。
「でも十箱なんて欲張ったらサンタさん来ないよ?」
「えー!」
子供なんて甘っちょろいもんだ。頑固な取引先と違ってあっさりと誘導に引っかかってくれた。
いや、子供は頑固な取引先よりも凶悪な武器を持っていた。
「サンタさん来てほしいよぉ」
「なっ、泣くな泣くな」
修也は僕のジーンズにしがみついて泣きじゃくる。泣きたいのはどっちだよと心で苦笑い。周りからの、「うわぁ、子供泣かせてるよ」といかにもな視線がズブズブ胸を貫く。
「でも欲張らなかったらサンタさんは来てくれるよ」
「ホント……?」
涙で崩れた顔があっという間に光り輝く。うーむ、凶悪だ。
「カード五パックとかならきっと来てくれるよ」
「やだ! 五パックなんてやだ!」
なんでそこで粘るんだ……。いつもトイザらスに行っても一〜二パックしか買ってあげてないのに、どうして今日に限って。
「そんなワガママ言うんだったらパパ怒っちゃうぞ」
もう既に怒ってるんだけどな。
「もう既に怒ってるじゃん」
誰のせいだ。
「サンタさんプレゼントくれないぞ! 修也の悪いとこちゃんと見てるんだからな!」
「ごめんなさい……」
「それじゃあ何頼む?」
「カード一箱!」
「まだ欲張りすぎ!」
「一箱ったら一箱!」
「だから───」
「やだ! 一箱なの!」
「……」
結局のところ、なんやかんや言いながら一箱買ってしまった。
赤い包装紙に白のリボンで包んでもらい、どこからどう見てもクリスマスプレゼント。トイザらスは相変わらず良い仕事をする。
現在十二月二十五日夜の一時半。修也は十一時まで起きていたが力尽きたようで今はベッドの中でぐっすり。足音を立てないように気をつけて、枕元に小箱を置こうとした。
その時!
小さな腕が僕の腕をしっかり掴んでいたのだった!
「パパ、何してるの」
「しゅ、修也! は、は、は、はっ、はやく寝なっさい!」
完全に動揺してしまった。頭の中が完全に混乱してもう何が何やら。どうしてっ。一体どうして起きてるんだ!
修也は僕の右手が掴んでいた小箱を見つけると、ほとんど不可視の闇の中でもはっきりと分かるほど修也の顔に怒りの色が浮かび上がる。
実はサンタさんはパパでしたー。なんて言える訳がない。しどろもどろするだけで、上司にしかられる時よりも緊張した。
その後、翌年の三月まで修也は口をきいてくれなかった。