Perfect edition
─4話 Greedy daybreak
「ご苦労だ。これは俺からの褒美だな」
 篠原さんのところに戻れば、かなり大きなチョコパフェが待っていた。勝てばたまにご褒美がやってくる。ここに来てから勝つ度に注文していたら、いつの間にかおごりで出してくれることがたまに出てきたのだった。
「いただきます!」
「食べながら反省会でもするか。ヤドランのあの対処法はあまり良く無かったぞ」
「ブーバーンは最後に取って置きたかったんで……」
「ヤドランをトリックルームの範囲外に引きずり出させるようになれないとな。あと、結果良ければとはいえボール転がしてる最中に砂嵐は悪手だろう。今回は運が良かったがもし風で相手の手に渡ればスナッチキルもありえたぞ」
 スナッチキル。相手のボールを開く前に自分が手中に納めることで、間接的に戦闘不能にするボールテクニック。砂嵐があったとき、風に吹かれてブーバーンのボールも転がっていた。藤田がもしそれをキャッチしていたらブーバーンが出せなくなっていた。
 という篠原さんの言い分は認めるけど、余計な心配性が過ぎる。ちょっとグダグダと言うところは好きになれないところだ。
「が、まあそれ以外は良かったぞ。特に序盤のエルレイドの動きとブーバーンを出してからはよかったな」
「ありがとうございます」
「ってもう食べ終わったのか! 相変わらず早いな。頭の回転もそれだけ早ければな」
「ひっ、一言余計ですー」
「篠原さん、こんばんは」
「おっと前田か。悪いな皐月、反省会はここまでだ。今月もまたいつもの口座に振り込んどく。それと協会運営トーナメントの通知が来たらメールでもいいから連絡よこせよ」
「はい、ありがとうございます」
 後輩トレーナーの前田が入店し、先ほどあたしにそうしたのと同じように、篠原さんと打ち合わせを始める。
 ブライトムーン所属のトレーナーは五人。篠原さんはプロ時代は有名だったので、伝があるためサポプロの育成選手やリハビリ選手との対戦機会を手筈してくれることがあり、実戦指向のハウプロ(トレーナーハウス所属のプロ)からは人気が高く、開店から間もなくマークされていた。もっとも、ここを志望するトレーナーは多いが篠原さんはなかなか簡単には手をさしのべない。
 トレーナーの指導は全て篠原さんが行うが、五人分を店の切り盛りをしながらしなければいけない。だからこうして少ししか指導を受けられないときが多い。だから、たまにこうして後輩トレーナーが妬ましく感じてしまう。
 自分で自分が嫌だな、と思いつつもこの後にチャンスが来ることを信じ、深夜のバイトギリギリまで店に残り続ける。
 結局望んだ通りにはいかず、前期の間繰り返したサイクルを最後まで繰り返して、前期最後のブライトムーンの活動を終えた。



 十月三日の朝だった。
 アパートのポストを確認すると、日本ポケモンバトル協会から一封の封筒が届いていた。
 はやる気持ちを抑えられず、部屋に戻る前に開封する。
 協会運営全国トーナメント通知。来たっ!
 周囲を気にせずやったと叫び、大きくガッツポーズを繰り返し、小走りで部屋に戻る。
 何度も読み直したし、何度も顔を洗って頬をつねった。それでも何にも変化なし、夢じゃない。
 十月九日、都道府県予選神奈川大会。やった、協会運営トーナメントに本当に参加出来るんだ。プロ初の参戦、何としてでもチャンスをモノにしなきゃ!
 急いで部屋で柔軟してるエルレイドの横を走り抜け、携帯電話を手に取る。
 コール音が鬱陶しいなんて初めてだ。
『あい、篠原――』
「篠原さん来ました!」
『はぁ?』
「通知! 通知が!」
『だからなんの』
「大会がっ! 協会運営の!」
『本当か。よくやったぞ』
「はい、ありがとうございますっ」
『一応大会の日程とかいろいろ詳しいことはメールしてくれ。今からちょっと仕事があるからまた今夜。いや、今日の昼だな。二時にうちにこい。それまでトーナメントのルールとかについて通知のときに来た封筒の資料を読んで熟読だ。いいな?』
「はっ、はい!」
 嬉しすぎて顔が自然と緩む。このままだと顔のパーツが落ちちゃいそう。
 この生活をしてから嬉しい事なんて滅多にないから、その反動が大きい。気付いたらエルレイドにギューっと抱きついていた。苦しそうな悲鳴を聞いて、ようやく我に帰って解放する。
「あたし達ね、頑張った甲斐があったの。協会運営トーナメントに参加出来るの!」
 それを聞いて、胡座をかいてテレビを見ているブーバーン以外のあたしの手持ちが集まってくる。
 トーナメント形式の大会に出るのは初めてだ。公式大会自体が二年前に一度、全プロ合同大会のグループ予選に出て一勝三敗で終わったとき以来。
 そう、つまりあのときから進歩出来たんだ。チャンスへの道を切り開いたんだ。
 とは言ってもまだ第一歩に踏み出せただけ。本領はこれからだ。
 机に置かれた封筒を手にとって中をひっくり返し、大量に出てきた資料の中からまずは適当に小冊子を抜き取った。

照風めめ ( 2011/10/14(金) 21:52 )