129話 邂逅
「ああ。やることはもう決まってる。有瀬を倒す! そんで皆を助け出す。それだけだ!」
そう力強く意気込む奥村翔をモニターから眺めて、有瀬は懐かしい記憶を思い出す。
ああ、そうだ。数少ない私の友たちは、皆ああして力強く生きていた。もしかしたら私が彼に惹かれているのは、そういうものが感じられるかもしれない。
今もこうして着実と計画通りことを進めてくれているその友の一人である一之瀬和也。彼は有瀬の用意した装置に入っているため、しばらく意識はない。
彼と出会ってもう数年も経つ。その間、彼は質問こそもちろんすれど、文句を言った覚えがない。どこまでも従順……、そういうわけではない。彼には彼なりの理念があり、私の思惑が偶然その理念にのっかかっているだけだった。
三年前の八月末の夜。この頃はまだ充満する精神エネルギーが顕現することはほとんど無かったものの、負のエネルギーは今にも殻を突き抜けて、物理的に世界に干渉しようとしていた。
このままでは友の『予言』通りの状況に陥ってしまう。そんなときだった。能力とは違うベクトルの何かを、電波を受け取ったかのように有瀬は感じ取った。何か、ではない。確かに有瀬はこの感覚を知っていた。正のエネルギーが生み出す力の脈動だ。
彼はその力の巡りを頼りに真っ先に空間を飛び越え、そのエネルギーの発祥源であるハワイのとあるホテルの一室へと向かった。
空間を飛び越える以上、鍵なんてものは必要ない。そのため、いきなり部屋の中に現れた有瀬を見た青年は言葉にならない悲鳴を上げてひっくり返った。
「大丈夫。私は君に危害を加えるつもりはない。むしろ逆だ」
そう言うも、まるで甲羅を引っ込めた亀のように僅かにこちらの様子を伺うだけの彼に、流石の有瀬も閉口し、この演出は失敗だったと考えた。せめてドアから入るべきだった、と。
そんな折りに、ふとホテルの一室でアンティークには不釣り合いな楯を見つけた。その楯はポケモンカードの世界チャンプを決める大会、ワールドチャンピオンシップスの優勝者に送られるものだと表記されている。
なるほど。優勝した喜びが大きな正のエネルギーを生み出したのだろう。それがポケモンカードを通じて次元の狭間にいた有瀬にも響いたのだ。
「君の名はなんと言う?」
そう尋ねたにも関わらず、青年は警戒をしているようで一向に答える気がしない。それもそうだ。部屋に突然現れた人間が有益になるとは、普通どう考えてもそう思わないだろう。有瀬は仕方なく両手をあげて、何もするつもりが無いことをアピールする。
「一之瀬……、一之瀬和也」
「一之瀬和也、か。……良い名だ。私は……そう。有瀬だ。有瀬悠介、よろしく頼む。早速だが一つ質問をさせて欲しい。君はポケモンカードが好きか?」
「あ、当たり前だろ!」
未だ敵意の眼差しを向ける一之瀬に対し、有瀬は柔和な表情をもって話しかける。
「この先ポケモンカードを中心に災難が起こる。だが、君の力なら。君と私の力があれば、それを乗り越えてあわよくばポケモンカードを守ることが出来るかもしれない。是非とも君の力を貸してほしい」
一之瀬自身に力があったため、話の証明をすることはとてもたやすかった。問題は危険に陥るケースも存在するため協力を拒まれるかもしれない、という点だったが、ポケモンカードを守るという言葉が響いたのかそれくらい問題ないと了承してくれた。
有瀬にはどうしても『完全な』オーバーゲートを持つ一之瀬が計画には必要だった。だからこそその協力を断つ訳にはいかない。
方や奥村翔達には次元を作り替えると話し、方や一之瀬にはポケモンカードを守るためと話した以上、一之瀬に今の会話を聞かれてしまうと性格的に不振や反感を買う可能性がある。まだ一之瀬を手放すわけにはいかない。そして、翔達にはそう伝えねばならない必要があった。
ならどうすればいいか。一時的に一之瀬の意識を閉じる。その結論に有瀬は至った。
本来必要でなかった『ディープディヴァイダー』、そう名付けた装置を作り上げ、
「君にはこの装置に入ってもらう。この装置は、装置の中に入った生物を一時的に眠らせるが、その生物のポテンシャルの約二十五%を一時的にコピーし、複製することが出来る。私がエンテイ、ライコウ、スイクンの三体を創り上げる。そして、その三体に君のカードプレイングのポテンシャルを与えて、WWへ誘い込んだプレイヤー達と戦わせる。これを絡ませれば、君ほどの力がある以上我々の計画もより成就しやすいだろう」
と、それ相応な言葉を投げて一之瀬を無理矢理納得させたのだ。かくして一之瀬の意識はひとまず落ち、今のところは思うように全てが進んでいる。……成果を除けば、だが。
「一之瀬……」
ディープディヴァイダーに腰掛け、目を閉じたままの一之瀬を見て、有瀬は不安そうに呟いた。
彼自身、自分がやっていることには絶対的な自信を持っている。しかし、友を騙した微細な罪悪感だけが、彼の足首を捉えていたのは間違いではなかった。
一人だけ二勝だった薫が無事に勝ちを重ねて三勝になり、無事に有瀬の元へ向かう権利を得た俺たちは、やっとの思いでこの世界の中央に位置する山エリアへたどり着いた。既に太陽はもうすぐ地平線と出会う頃。定められた時間いっぱいいっぱいとはいえ、やれることはやった。あとは来たるべき最終決戦のみだ。
「アレはなんだ?」
風見が指さす方向に、険しい山肌がポッカリと開いた洞穴が見える。有瀬は確か、山エリアの奥にあるワームホールの先で待っていると言っていた。ということはまずは山エリアの奥に行く必要があるってことだ。
「おそらくアレが山エリアの奥へつながる道、じゃないのかな。あの洞穴の中からワームホールを探しに行けばいいということだろ」
「っぽいな。それにここまで来たらアレがなんだろうと行くしかないっしょ。ここで立ち止まってたってどうにもならないんだ」
「それもそうね。……そうと決まれば行きましょう、有瀬に好きにさせるわけにはいかないわ」
洞穴の入り口にたどり着くとともに、松野さん、風見、恭介、薫、俺の順番に入っていく。そして最後の拓哉が入ろうとしたそのとき。拓哉が突然二メートルほど吹き飛ばされ、仰向けになった。
「お、おい! 大丈夫か!」
「……ってぇな。何がどうだか」
拓哉は上体を起こし、打ちつけたところをさする。他の皆がその異変に気づいた頃、どこからか声がする。
『エラーレポート。既定条件を満たしていないので入場を許可することが出来ません』
既定条件? この洞穴の入り口が何かしらの条件を判別するゲートだったのだろうか。でも勝利数以外に条件があったのだろうか。
まさか時間切れ──そんな考えが頭をよぎった時、拓哉はむくりと起き上がり、頭をかきながら苦笑いをする。
「悪ぃ、よくよく考えれば俺まだ二勝しかしてなかったわ。一勝足りねえ。すぐどうにかするから先行っててくれ」
松野さんのあからさまなため息が洞穴の中に響きわたる。先に行け、と言われても。と悩んでいると、恭介が肩を叩く。
「こうなりゃ待ってても仕方ねえよ。それにあいつのことだしまたすぐに追いついてくれるさ。肩パンするなら全部終わってからだ」
「肩パンしねえよ」
「ま、追いつくことを信じて先に行くのも俺らの役目ってことで! 拓哉、絶対追いつけよ!」
半強制的に恭介に引きずられながら、薄明かりが点いている洞穴の中を進んでいく。当たり前だ、という声が向こう側から聞こえ、やがて曲がり道を経て拓哉の姿は見えなくなった。
翔達の姿が見えなくなって、ホッと息をつく。あの感じ、恭介がいなければ翔は本気でこっちまで戻ってきたかもしれない。ここは素直に感謝しよう。
「さて、いい加減来いよ。三勝目はお前を倒して頂くぜ」
洞穴を背にして岩陰をジッと見つめると、向こうさんは観念したのか、諦めて姿を現した。
「よく私のことが分かりましたね」
「ライコウやエンテイを倒した、っていう話は聞いてたけど、お前を倒したっていう話は聞かないからな」
岩陰にいたそいつは四本の脚に力を込めて跳躍すると、俺の少し前に音もなく着地する。頭に水晶を光らせ、流麗な出で立ちを見せる、スイクン。こいつが俺の最後の敵。
「おおかたこんなところで待ち伏せするってことは、俺ら以外に山の中へ入らせないってことだろうが……。残念だったな」
「貴方はそれを分かっていてあえて三勝しなかった訳ですか」
「まさか! いくらなんでもそんなエスパーじゃねえよ。お前がいるいないに関わらず、俺はあいつらと一緒に行くつもりはなかったさ」
スイクンは少し考えるが、やがて首をかすかに傾げる。どうやらスイクンには理解しがたいことだったらしい。
「俺もお前と一緒だよ。スイクンがまだどこかに残っている以上、翔達を追いかけて時間稼ぎなり足止めなりされるのを防ぐための待ち伏せのつもりさ。それに、俺には待ち人アリなんでな」
きっとこの世界のどこかにいる、俺の相棒。アイツが来るまで俺はここを動くつもりは無かった。ちょうど良い感じで都合がついたんだ。
「待ち人を待ちながら、障害の排除。一石二鳥ってとこだ。勿論相手になってくれるよな?」
「……いいでしょう。お望み通り相手をしてさしあげます」
「物分かりがいいねえ。嫌いじゃねぇ」
スイクンはバックステップで距離を取り、俺はバトルベルトに手を伸ばし、互いに臨戦態勢に入った。しかし、それを妨げる声がスイクンのさらに後方から響く。
「悪いがその勝負、少し待った!」
スイクンすらも振り返ったその視線の先には、顔の右半分が火傷でただれた見覚えのある男の姿があった。
「お前は……!」
高津洋二。かつて半年前のPCCに出場し、ワザの衝撃を相手の任意の箇所に現実の痛みとして与える能力(ちから)を持っていた能力者だ。確かに、この世界には能力者が多く呼ばれている。いたとしてもさほどおかしくはないだろう。
だが俺からすれば、勝ちさえしたがお陰様で骨折するわとあまり良い感情がないし、向こうとしても俺が散々(わざと怒らせるためとはいえ)罵言雑言を散らした以上もっと良い感情はないだろう。それなのになぜこんなところへ。
まさか、リベンジか復讐にでも来たのか?
なんて思っているうちに、高津は俺とスイクンの間に割って入っていた。
「おい、おま──」
「スイクン、お前の相手はこっちだ!」
「ちょっ、はぁ!?」
「……私はどちらが相手でも構いません」
高津の元へ歩み寄り、いったいぜんたいどういうつもりかと問い詰める。
「どうもこうもない。藤原君、少しでも君の力になろうと来た」
「……頭でも打ちつけたか?」
「かもしれない」
「なんだそりゃ」
相変わらずあまりよく分からない奴だ。ただ、敵として現れたわけではないだけよしとしよう。
「ある意味頭でも打ちつけたかのような衝撃だった。君と戦ったとき、『他人を認めないヤツが自分を認めてもらえるわけはねぇ』って言ってくれた。よくよく考えれば当たり前の事だったけど、あの頃はそんなことさえ考えられなかったんだ。いつか再び君と会ったらお礼を伝えたくてね」
ナチュラルにそんなもん結構だ、と言おうとしたが、なんとなくそこを堪えておく。
「とはいえ君には待ち人がいるんだろう? それなら君はまだ消えるわけにはいかないはずだ」
「まさか俺様が負けるとでも」
「そういう訳じゃない。リスキーなことは避けるべきだと言いたい」
若干ネガティブなところは変わっていないようだが、ここは意地を張ってもただ時間が無駄になるだろう。それにスイクンがどんなカードを使うか、俺はまだ何も知らない。恭介や、翔ですらエースカードの能力を見極めてからようやく勝てた相手だ。そういう意味ではリスキーな勝負は避けた方がいいかもしれない。
「……った。分かったよ。任せる。ただ、戦う以上負けるなよ」
高津はコクリと頷くと、身を翻してスイクンと対峙する。仕方なく高津から離れ、手頃な岩に腰を下ろして二人を遠目で見つめる。
「貴方が相手で構いませんね?」
「そうだ」
「相手が誰だろうと私のすること、してもらうことに代わりはありません。では始めましょう。死力を尽くした激しい命の燃やし合いを!」
凛とした声にそぐわない言葉と同時に、スイクンの体から風が巻き起こる。凍てつくような冷気が辺りにばらまかれる。
風が止めば、スイクンの目の前にエンテイのものとほぼ同じ大きさで出来た氷のバトルテーブルが広がっていた。
「……話には聞いていたものの、いざ目にしてみると信じられないな」
まあ、スイクン達はどうしても存在が異常過ぎる。狭くて広いこの世界では噂やそれに準じるものが広まるのもおかしくはないってことだろう。
『使用可能なバトルテーブルをサーチ。パーミッション。スタンダードデッキ、フリーマッチ』
スイクンの最初のポケモンはクチート60/60、ベンチには雷タイプのチョンチー60/60の二匹。対する高津のバトル場にはオドシシ70/70。他の二人からの報告にもあったが、どうもエンテイなら自身と同じ炎タイプを、ライコウなら雷タイプを使わないようにスイクンも水ポケモンを使わんようだ。
おそらくそれぞれが持っているLEGENDが自分とは違うタイプ。たとえばエンテイならライコウ&スイクンLEGENDを使っているから雷、水タイプ。が、中心になるからだろう。そう考えると、おそらくスイクンの持っているLEGENDは効果こそ分からないが、名前はエンテイ&ライコウLEGEND。そしてデッキに含むエネルギーは炎、雷エネルギー。となると雷タイプのチョンチーを使うことにもすぐ合点が行く。
「先攻は私がもらいます。私はグッズカードの研究の記録を使います。自分の山札の上から五枚を確認し、それらを好きな順に山札の上、及び下に置き換える。そして手札の炎エネルギーをクチートにつけます」
ほら来たやっぱり炎エネルギーだ。チョンチーもいるし雷エネルギーも来ると読んでも間違いはない。
「続けて、新たにチョンチー(60/60)をベンチに出し、クチートのワザ、わがままドローを使います。自分の山札の一番上を確認し、それを手札に加えるかトラッシュします。トラッシュした場合、山札から一番上のカードを引く。私は山札の一番上のセキエイ高原をトラッシュし、その次のカードを引きます」
つまり自分の山札の一番上のカードを見て、それを引くか引かないかを選択出来るってことか。研究の記録で順番を見てからこのプレイをしてる以上、スイクンはわざといらないカードをデッキの一番上に置いてトラッシュさせることで、山札の数を積極的に減らそうとしている。おそらくLEGENDポケモンが手札に来る確率を少しでも上げるためだろう。
さて、今度は高津のお手並み拝見といきますか。
「俺のターン。オドシシに闘エネルギーをつけ、グッズのデュアルボールを発動。コイントスを二度して、オモテの数だけ山札からたねポケモンを手札に加える。……ウラ、ウラ。ならばワンリキー(60/60)をベンチにおき、サポートカードジャッジマンを発動! 互いの手札をすべて山札に戻してシャッフルしたのち、互いにカードを四枚引く」
「なるほどねえ。わがままドローでスイクンが加えたカードを戻すだけじゃなく、研究の記録で入れ替えたカードもシャッフルして順番をぐっちゃぐちゃに混ぜ変えてやったか」
「さらにオドシシのワザ、仲間を呼ぶ。自分の山札からたねポケモン二匹をベンチに置く。俺はランドロス、ワンリキーをベンチに出す」
オドシシが振り返り、角から紫色の波紋をベンチに向けて放つ。するとそれに呼応してベンチに白い穴が開き、そこから二匹目のワンリキー60/60とランドロス110/110が現れた。
「……今度は私の番です。私はベンチのチョンチーを進化させます。出でよ、ランターングレート!」
チョンチーの姿形が見る見る変わり、頭のライトを点滅させながらランターングレート110/110が現れる。
これも想定内だ。今までのデータでは、エンテイもライコウも一種類はグレートポケモンを持っていた。ただ、問題はこいつの効果だ。オーダイルにしろマルマインにしろLEGENDポケモンのサポートだったが、こいつはどんな効果を持っている?
「手札の雷エネルギーをランターンにつけ、サポートのベルを使います。今の私の手札は二枚。ベルの効果で手札が六枚になるように、四枚ドロー。っしてポケモン通信を発動します。手札のクサイハナを戻してエンテイ&ライコウLEGENDの上パーツを手札に加え、クチートでわがままドロー。山札の一番上のベルをトラッシュし、その次のカードをドローします」
クサイハナ? どうして草タイプがデッキにあるんだ。クチートのようなただカードをドローするような展開ポケモンと違い、進化させるということは何かしら策をはらんでいるかもしれない。
「あいつが今手札に加えたLEGENDっていうカードに気をつけろ!」
「ああ。……俺はまずオドシシの闘エネルギーをトラッシュしてベンチに逃がし、ランドロスをバトル場に出す。そしてランドロスに手札から闘エネルギーを加え、ベンチのワンリキー一匹をゴーリキー(90/90)に。そしてサポート、オーキド博士の新理論! 手札を全部山札に戻してシャッフル。そして六枚ドロー」
「おっ」
悪くない。むしろいい手札じゃねえか。
「まだだ。不思議なアメを手札から発動! その効果でベンチのワンリキーをカイリキーグレートへ進化させる!」
光の柱に包まれたワンリキーの体格が徐々に大きくなり、背中に一対腕が生える。強烈なファイティングポーズと共に、カイリキーグレート150/150がその姿を現した。
これだけじゃない。高津の手札にはポケモンキャッチャーもある。スイクンのポケモンの中軸を担っていると思われるランターンは闘タイプが弱点。その上ランドロスは雷タイプに抵抗があると来た。まだランドロスは攻撃を与えるワザを使うにはエネルギーが足りないが、次の番にはポケモンキャッチャーを絡ませてランターンを撃破くらいは出来そうだ。
「ランドロスのワザ、豊作を発動。自分のトラッシュの闘エネルギーをランドロスにつける。これで俺の番は終わりだ」
それに、高津も前の力任せなプレイングと違ってかなり落ち着けている。もしかすると本当にやってくれるかもしれねえ。
「なるほど、悪くない手ですね。ですが、それほど良くもない」
「なっ、何!?」
「どーいうつもりだ」
「すぐに分かります。私はクチートの炎エネルギーをトラッシュして逃がし、ランターングレートをバトル場に出します。続けてダブル無色エネルギーをランターンにつけ、サポート、坊主の修行。山札の上から五枚を見て二枚を手札に。残り三枚をトラッシュします」
スイクンがトラッシュしたカードはジャンクアーム、レジェンドボックス、クチートの三枚。
そして坊主の修行を使い終わってからのスイクンの雰囲気が、今まで以上に威圧感を解き放っている。この流れ、まさか。ジロリと視線を動かしたスイクンと目が合う。まさか、なんてもんじゃない。分かる、これは確実に来る!
「私は手札の二つのパーツを組合わせ、エンテイ&ライコウLEGENDをベンチに出します」
大地を割るようにベンチの地面が隆起して火柱が噴き上がる。そしてその隣に一筋の雷が飛び込んでくる。天変地異はすぐに収まり、やがてエンテイ&ライコウLEGEND140/140が俺たち前へ姿を見せる。
この空気までピリピリさせる感じ、有瀬の言った通りだ。あれは、本物のエンテイとライコウだ。むしろ、ここまでのプレッシャーを持っていないあのスイクンの方がーー。
「手札からスタジアムカード、セキエイ高原を発動。その効果でLEGENDポケモンは最大HPが30上昇します」
ゴツゴツとした山道が一瞬で穏やかな風の吹く高原へとコンバートする。これでエンテイ&ライコウLEGENDのHPは170/170……。今までのLEGENDよりもHPが20少ないとはいえ、驚異的な数値だ。
「そしてランターンのポケパワーを発動します。潜水! その効果でこの番の終わりまでランターンを水タイプにします」
「そ、そんなバカなっ!?」
「自分のタイプを変えやがっただと!」
まずい、ランドロスは雷タイプには抵抗力を持っていたが、水タイプはむしろ弱点だ。ダメージを減らすどころか倍増で飛んでくる!
「ランターンでパワフルスパーク!」
スイクンの場からランターンへ光が集まると、レーザー砲のように頭のライトからランドロス0/110へ向けて解き放たれる。
「このワザの元々の威力は40ですが、私の場に存在するエネルギーの数かける10だけ威力が上昇します。私の場のエネルギーは三つ。さらに水タイプに変化したことでランドロスの弱点をつき、70×2で140ダメージです。……サイドを一枚引いて、これで私の番は終わりです。それと共にランターンは雷タイプへ戻ります」
高津はまるで夢でも見ているんじゃないか、という面もちで口をぱくぱくさせている。
全く持ってその通りだ。なにもかもが馬鹿げている。でも、これは現実だし、まだ終わってもいない。
ここからが勝負どころだぞ、高津洋二!
拓哉(裏)「今回のキーカードはカイリキーグレートだ。
ファイティングタッチですぐさまスイッチ。
どでかい一撃を降り下ろせ!」
カイリキー HP150 グレート 闘 (L3)
ポケパワー ファイティングタッチ
このポケモンがベンチにいるなら、自分の番に1回使える。自分のバトルポケモンについている闘エネルギーをすべて、このポケモンにつけ替える。つけ替えた場合、このポケモンを自分のバトルポケモンと入れ替える。
闘無無 クラッシュパンチ 60
相手のバトルポケモンについている特殊エネルギーを1個トラッシュ。
闘闘無無 かいりきバスター 100+
ダメカンがのっている自分のベンチポケモンの数×10ダメージを追加。
弱点 超×2 抵抗力 − にげる 3