117話 勝者の条件
「今から俺と戦え!」
「いいよ。この際正直に認めよう。確かに宮内の言う通り、オレが君たちと手を組もうとしたのは君たちのデッキの中身を予測して確実に仕留めるため。本当はもう一戦くらい見ていたかったがこの際仕方ない。翔クンと雫さんを潰して二勝は頂く」
「しょ、翔!」
姉さんが近づいてこようとするのを、右手を前に出して制する。これは宮内とも約束した勝負なんだ。
「お前にだけは絶対に負けない!」
「オレに負けない? ふっ、はははは! 思い上がりも甚だしい。全国ベスト8経験者と無名雑魚の格の違いってヤツを身を以て教えてやる!」
『対戦可能なバトルテーブルをサーチ。パーミッション。スタンダードデッキ、フリーマッチ』
この斉藤は、宮内の友人のカードを奪った上に能力者の可能性が非常に高い。宮内が何分か先の未来を見ることが出来るというのに、それを破る能力となるとかなり曲者だろう。今まで出会った能力者は対戦とは直接関係ない能力(ちから)だったが、今度はそういうモノを相手にしなくちゃならない可能性が十二分にある。
「ん? スペードの……5?」
斉藤のデッキポケットに、小さなスペードと5のシールが貼り付けてある。一体どういうセンスなんだ?
「宮内が消えてオレは確信した! あの有瀬とかいうヤツはこのオレよりも圧倒的な能力を持ってる。そう、圧倒的だ! 変な場所に飛ばした挙句、人を消すなんてとんでもない。だから、だからこそヤツは能力について何か知ってるはずだ! 能力のコツなりなんなりあれば、オレはそれを頂く。頂いて、それを利用して来年の世界大会で優勝する!」
「そんなことで勝って嬉しいか!」
「そうよ。そんなことをして勝っても何にもならないわ」
「はぁ? そんな『正々堂々』厨のフリはやめろよ。翔クンだって雫さんだって、負けるよりも勝ちたいはずだ。そうだろう?」
「一緒にするな!」
「口ではそう言ってるかもしれないが、誰だってそうだ。世間の体裁だとか仲間内での評判だとか面倒な事を考えるあまり自分の本能を社会の中に埋めてしまった。オレはそんなことをするやつほどクズだと思う。そしてそんなクズほどオレ達のような勝者に敗れ、あいつは卑怯者だのなんだのと言い訳をのたまう! どうしてだか分かるか?」
「……」
「なぜならそのクズ達も本当は勝ちたかったんだから。勝ちたいからこそ、勝者を僻み、妬み、羨む。馬鹿げてる! 勝利を追わずしてどうやって勝利を得る!? 勝利は転がってはやってこない。歩いてもこない。自分で探し、奪い、掴み取るものだ! それをどいつもこいつもしないクセに勝利ばかり望む。オレは……、オレ達はそんなクズとは大違いだ! 勝つべくして勝つ。勝つために勝つ。そして勝利の果ての世界へ……! そう。究極のオーガニズム! そこを目指すためならオレは自分を偽らない。ただ勝利を追及する!」
「こいつ……」
「まあ、オレ達(アルカニック)全員がそう思っているわけではないんだけどな。……このイベントだって最初は影込さんやクラウドくんが参加するから仕方なしで来たけど、思わぬ良い拾いモノに巡り合えそうだ。お前はオレの目指す境地の記念すべき最初の礎になるんだ。さあ、始めるぞ!」
斉藤のバトルポケモンはブーバー70/70、ベンチにはヤドン60/60、マグマッグ60/60。対する俺のバトル場にはピィ30/30とロコン60/60。先攻は斉藤から、か。ブーバーにマグマッグ、それにヤドン……。一瞥しただけじゃあ分からないが、炎を軸に置いてるのか?
「ふっ。今からお前に面白いものを見せてやる。……ん?」
「なんだあれ……」
突然遠くの山の頂上から赤、黄、青の三つの光の束が飛び出し、四方へ降り注いでいく。
「ね、ねぇ翔、あの赤いのこっちに向かってない?」
「くっ! 斉藤ォ!」
「オレじゃねえ! なんでもかんでもオレのせいにすんじゃねえよ! クソ、逃げようにも勝負を始めた以上動けねえ!」
「翔っ……!」
「くっそ! 姉さん、せめて姉さんだけでも逃げろ! うおおおおっ」
赤い光の束が視界を大きく占め始めた頃、ビュウという音に遅れて突風が巻き起こる。まともに立っていられず、膝を地につけてなんとかその場に留まろうと、体に力を入れて踏ん張る。
ようやく光と風が消え、右手を支えに立ち上がる。あんなに強い風だったのに、周囲は先ほどとほとんど変わりない。一体今のは何だったんだ。
「あれ?」
いや、さっきとは明らかに違う。姉さんがいない。
「あの光だ……。あの光、実体があった。光の柱が、雫さんを乗せてどこかへ行きやがった」
「何!? 姉さんはどこに」
「そこまでは知らねえよ。だが考えればラッキー……」
「ラッキー? 何がラッキーだ! ふざけるな!」
「そう怖い顔をしなくても。と、言うのは流石に無理だよな。図らずともオレを倒さなければ雫さんを助けに行けないという特別なカードになったわけだ!」
確かに、さっきの対戦では降参のアイコンが消えていた。今すぐにこれを中断なりして打ち切って、姉さんを助けに行くことが出来ない。斉藤を倒さない限りは。
「アクシデントを挟んだが、勝負を再開だ! 改めて面白いものを見せてやる」
「御託はいい! さっさと来い。ぶっ倒す」
「それはお前に番が回ってきたら、の話だがな」
「っ……! どういうことだ……」
「すぐに分かる。オレは手札の炎エネルギーをバトル場のブーバーにつけ、グッズカードのポケモン図鑑を発動。自分の山札を上から五枚まで確認し、好きな順番に入れ替える。……よし、さらにマグマッグのポケパワー、活火山を発動。自分の山札の一番上のカードをトラッシュし、そのカードが炎エネルギーであればマグマッグにつける。トラッシュしたカードは、炎エネルギーだ」
ポケモン図鑑で山札を操作してわざと炎エネルギーを一番上に置き、そこから活火山に繋げて必ず成功させるようにしたのか。
しかしこれではさっき言っていた、俺の番が回ってこないことに対する答えにはならない。まだ何かある。
「サポートカード、探究者を発動。互いのプレイヤーは、互いのベンチのポケモンを一匹選んで手札に戻す。オレはベンチのヤドンを手札に戻す」
「俺は……、ロコンを手札に戻す」
選んで手札に戻させようが、ロコンしか俺のベンチにはいない。俺の番が回ってこない……、ようやくわかったぞ。俺のバトル場のピィ30/30が一撃で倒されれば、ベンチにはポケモンがいないため俺は負ける。最初からヤツはこれを狙っていたのか!
「くっ、ここまでか……」
「おいおい。さっきの威勢はどうしたんだ。いいことを教えてやろう。ブーバーが炎エネルギー一つで使えるワザ、噴火の威力は30ではない」
「じゃあ一体……、プラスパワーか」
「残念、それでもない。よく聞け。この噴火の効果は互いの山札の一番上のカードを一枚ずつトラッシュする。そして、その中のエネルギーの数かける20ダメージを与える。オレのデッキトップはポケモン図鑑の効果で炎エネルギーになるように調整をした。お前のデッキトップ次第で勝負が終わる。最高のエンターテイメントだろ?」
「っ……」
まだ完全に勝負がついたわけじゃない。それが分かっただけで息をつけたが、まだ負ける可能性は十二分にある。俺のデッキにはエネルギーが十七枚。山札は四十七枚。手札も然り、サイドにもエネルギーがある可能性が十分にあるから正確な確率は分からないが、ほぼ三分の一。分は悪いどころかむしろ良い。とはいっても所詮は──
「何を考えたところで確率論だ。楽しもうぜェ! ブーバーで攻撃、噴火!」
「あいたたた。一体何が……。確か翔たちといたはずだったんだけど、赤い光が飛んできて、それから……。あれ? 翔たちは?」
辺りを見渡してみても、翔たちがいない。それどころか風景が草原から森に変わっている。目の前にはかなり広そうな泉があって、その周囲をランダムに木が並び立っている。
元々ここ(空間)がどこだか分からないのに、今いる場所がさっきからどれだけ遠いか。ましてやさっきの場所にどうやって戻るかなんて見当がつかない。
どうすればいいんだろう、と途方に暮れていた瞬間、前触れなく泉の手前に大きな火柱が巻き起こる。
「奥村雫、か。我らからすればここにいること自体が想定外だが、もたらす結果としては最高のモノになるだろうな」
一人合点する低い男の声が、火柱の中から聞こえる。
「だ、誰……?」
「おっと、名乗りが遅れたな」
火柱が静まると共に、大きなシルエットが現れる。四足歩行に蓄えた白色の毛。マスクのようないかつい顔に、全身を覆うさらさらとした栗色の毛。これじゃあまるで、あたし達が知っている……。
「我が名はエンテイ。早速だが、我と戦ってもらおう。もちろん拒否権は認めない」
『周囲の使用可能なバトルベルトをサーチ。コンパルソリー。スタンダードデッキ、フリーマッチ』
「惜しい! 外したか」
俺のデッキからトラッシュされたのは、フラワーショップのお姉さん。これで先攻ワンキルの脅威は去った。
「それでもオレがトラッシュしたのは炎エネルギー。20ダメージは受けてもらう!」
「ぐうっ……!」
軽い炎に炙られたピィ10/30は、熱風にころころと体を転がされるも、なんとか立ち上がって元の立ち位置まで戻る。
「今度は俺の番だ。行くぞ! 手札からチェレンを発動。その効果で山札からカードを三枚引く。グッズカード、ポケモン通信を発動。マグマラシを山札に戻し、ヒノアラシを手札に加える。ここで、ロコンとヒノアラシ、そしてヒメグマをベンチに出す」
ベンチに白い空間の穴が開き、そこから飛び出したポケモン三匹(HPは共に60/60)がベンチに並び立つ。これだけポケモンを並べればもうワンキルの脅威は去るはずだ。
「手札の炎エネルギーをヒメグマにつけ、ピィのワザのピピピを発動。手札を全て山札に戻し、シャッフル。そしてカードを六枚ドローする。それに加えてピィを眠り状態にする」
「ベイビィポケモンはワザを使うと必ず自ら眠り状態に陥り、眠り状態であればポケボディー、天使の寝顔の効果でワザを受け付けない。そこまで上手くいくかな?」
俺の番が終わったことで、ポケモンチェック。ここでコイントスをしてオモテであればピィが眠りから覚めてしまう。……オモテ。ダメだ、ピィの目が覚めてしまった。
「まだツキは十二分にあるな! オレは、手札のヤドン(60/60)とマグマッグ(60/60)をベンチに出す。ベンチにいるマグマッグ二匹のポケパワーを発動! おっと、山札の上から二枚とも炎エネルギー。というわけで、それぞれに炎エネルギーをつける」
斉藤が前の番にポケモン図鑑を使ってから、一番上のカードは炎。その次も噴火で炎をトラッシュしていた。三枚目はこの番の初めに斉藤が引いたカードだ。そして活火山の二回発動で四、五枚目までもポケモン図鑑で想定済みというわけか。最低でも五分の四は炎エネルギーという驚異的な引きだ。
とはいえ偶然を装っておきながら、ワンキルのチャンスに溺れずに次の番への布石をしっかり敷いている。こいつも拓哉みたいに言葉で惑わすタイプか。
「ブーバーに炎エネルギーをつけ、ブーバーンに進化させる!」
「ブーバーンッ……!」
『ブーバーンのカード。忘れたとは言わせない』
これが宮内が言っていた、斉藤が宮内の友人から奪ったブーバーン100/100。
「安心しろ! この対戦の結果がどうだろうとお前のカードは奪わない。その代わり、オレが直接やる訳ではないが、お前には宮内のように存在ごと消えてもらう!」
「こいつ……」
「手札からサポートカードNを発動。互いのプレイヤーは手札を全て山札に戻し、シャッフルする。そしてサイドの枚数分だけカードを引く! 今互いにサイドは六枚だ」
よし。偶然だけどNを使って手札を交換してもらえたお陰で、明らかに良くなってきた。
「グッズカード、エネルギー付け替え。炎エネルギーが一枚しかついていないマグマッグの炎エネルギーを、ブーバーンに付け替える。ここ辺りでそろそろ『アレ』をしておくか」
斉藤は自分の手札から俺の手札に視線を移す。アレってなんだ、と問いただす前に、斉藤が一人で目を丸くした。どうやら何かがあったようだ。
「なっ、見えない……? どういうことだ?」
「見えない?」
「クソッ、こういう時に限ってどうして。なんで見えないんだ」
「だから見えないってなんだよ!」
「まさか、お前も能力(ちから)を持っているのか?」
「能力? そんなもんねえよ!」
「だったらどうして……」
「だから何の話だ!」
「……オレの能力は、相手の手札を透視する能力。やたら疲れるから普段はあまり使わないけど、そうやって宮内みたいなイカサマ能力者と渡り合ってきた。今回は場合が場合だから遠慮なく解禁するつもりだったのに、全然見えねえ。何か仕掛けたのか?」
「俺はそんなことはしない。最初にも言ったけど、お前とも違って正々堂々と戦う!」
宮内の能力は確か数分先かそれくらいの未来を予知すること……。それに対して斉藤の能力が今言った通りであれば、確かに読みあいという点では非常に似通っている。未来を見られても、見られた未来を逆算して戦ってきたとでも言うのか。
「この空間自体が原因なのか? それとも……。チッ、考えても仕方ねえ。続行だ! ブーバーンでピィに攻撃。バーストパンチ!」
両手の噴射口をジェット噴射に利用して、高速で移動しながらピィの寸前まで近づくと、右腕を振るってピィ0/30に大きな一撃を与える。
「バーストパンチの威力は60。そして相手のポケモンを火傷状態にする。まあ、ピィが気絶したから効果は関係ないけど……。サイドを一枚引く」
「俺はヒメグマをバトル場に出す。俺はヒメグマをリングマグレート(120/120)に進化! グッズカード、不思議なアメを使ってベンチのヒノアラシをバクフーングレート(140/140)に進化させる!」
「まだ四ターン目だぜ。そこまで慌てなくてもいいだろ。楽しもうぜ、オレ達の勝負を」
姉さんが非常時だってのを分かってて……!
「リングマに炎エネルギーをつけ、サポートカードのエンジニアの調整を発動。手札の炎エネルギーを一枚トラッシュして、四枚山札からカードを引く。そしてヒノアラシ(60/60)をベンチに出して、バクフーングレートのポケパワー、アフターバーナーを発動!」
アフターバーナーはトラッシュにある炎エネルギーを自分のポケモンにつけ、そしてエネルギーをつけたポケモンにダメカンを一つ乗せるポケパワーだ。
確かにダメージを受ける点では痛いが、それでも自分の番にエネルギーを二つつけれるという意味では十分お釣りが来る!
「リングマはダメカンが乗っていると、ポケボディー暴走の効果でワザの威力が60上がるんだったか。そんな気張らずにもっと肩の力抜いてこいよ」
「他人事みたいに言いやがって!」
「実際他人事だからなぁ? 違うか?」
「くっ……! リングマでブーバーンに攻撃、アームハンマァー!」
リングマが両手を組んで、大きく振り下ろした拳がブーバーン10/100に襲い掛かる。
元の威力は30だが、暴走の効果で30+60=90。ブーバーンを倒すには打点がほんの少しだけ足りない。足りないが!
「アームハンマーには効果がある! 相手の山札の一番上のカードをトラッシュする」
トラッシュしたのはクラッシュハンマー。斉藤のデッキは活火山などで自分から能動的に山札を削ってくる。だからこそ、こうしてこっちからデッキを削るのにも意味があるはずだ!
「ふん。HPが10でも残れば同じこと。さて、三十六か……。ここはまだだな」
「まだ?」
「オレはヤドンをヤドキング(80/80)に進化させポケパワーの千里眼を発動。自分の山札のカードを上から三枚確認し、好きな順に入れ替える。ベンチのマグマッグ二匹のポケパワー、活火山を発動。トラッシュしたのは二枚とも炎エネルギー。というわけで一枚ずつその炎エネルギーをつける。ベンチにブーバー(70/70)を出し、このブーバーに炎エネルギーをつける。さらに、グッズカードのポケモンキャッチャーを発動! ベンチのヒノアラシを強制的にバトル場に引きずり出す」
「なっ!」
ポケモンキャッチャーは相手のベンチポケモンを一匹選び、それを強制的にバトル場のポケモンと入れ替えさせるグッズだ。ブーバーンのバーストパンチの威力は60、ヒノアラシのHPは60/60。ということはつまり……!
「ブーバーンでバーストパンチ!」
重い一撃を受けて、ヒノアラシ0/60が宙を舞う。斉藤がサイドを引き、これでサイドは6−4。ジリジリと差を開かれている。
それでもブーバーンの残りHPは10/100。一撃ぶつければそれで十分だ!
「よし、今度は俺の番だ!」
俺の山札の残り枚数はこれで三十五枚。……まさかさっきの斉藤の、
『三十六か……。ここはまだだな』
これは俺の山札の枚数をカウントしていた? いいや。こんな序盤で、しかも特別山札を削るようなことをしていない俺の山札の数を気にする必要が無いはずだ。
だったら一体どういう意味になるんだ! 絶対裏があるはずだ。でも考える余裕はない。むしろ早くここを切り抜けて、姉さんを探すことが先決だ!
「俺はベンチのロコンをキュウコン(90/90)に進化させる! キュウコンのポケパワー、炙り出しの効果で手札の炎エネルギーをトラッシュ。そしてカードを三枚引く。ヒノアラシ(60/60)をベンチに出し、ベンチのバクフーンに炎エネルギーをつける。リングマでブーバーンに攻撃、アームハンマー!」
今度こそブーバーン0/100を沈めてやった。それに加えてアームハンマーの効果でトラッシュした斉藤のカードはポケモン図鑑。これでもう好きに活火山はさせない!
「よし! サイドを一枚引くぜ」
「ぐっ……。オレはベンチの炎エネルギーが三つついているマグマッグをバトル場に出す。ヤドキングのポケパワー、千里眼を発動」
いくら順番を入れ替えたからとはいえ、活火山を成功させるには三枚のうちに二枚が炎エネルギーでなくてはならない。そう何度もうまくいくはずが。
「ベンチにいるマグマッグのポケパワー、活火山を発動。おっと、ラッキー。炎エネルギーをトラッシュしたからマグマッグに炎エネルギーをつける」
「くっ、また……!」
「おっと。細工やサマはしてないからな。中にはそんなことをしてるヤツもいるみたいだけど、オレはそんなことをしねえ」
「人の手札を能力で覗こうとしていたクセによく言う!」
「それとこれとは別だ。オレは手札の炎エネルギーをブーバーにつけ、グッズカードのクラッシュハンマーを発動。コイントスをしてオモテなら、相手のエネルギーを一つトラッシュする。……ウラか。ならばサポート、オーキド博士の新理論を発動」
斉藤は手札を全てリセットし、新たに山札からカードを六枚引く。本当にイカサマをしているかどうかは判別出来ないが、怪しいところだ。
「ここで手札からグッズ、研究の記録を発動。山札の上からカードを四枚確認し、その中のカードを好きな順でデッキトップ、デッキボトムに戻す。バトル場のマグマッグのポケパワー、活火山を発動。当然、成功だ」
まだ七ターン目だというのに斉藤の場には炎エネルギーが計七枚もある。それに加えてトラッシュには四枚。あまりにも多い!
「マグマッグをマグカルゴ(100/100)に進化させる。そしてシェイミ(70/70)をベンチに出す。シェイミのポケパワー、祝福の風をこのタイミングで使わせてもらう! このポケパワーはベンチに出した瞬間に使え、自分の場のエネルギーを好きなように付け替えることが出来る」
「好きなように!?」
マグマッグにエネルギーをため込んでいたのは無策じゃなく、シェイミで大量展開するためか。
「オレの場には今、八枚の炎エネルギーがある。うち三枚をバトル場のマグカルゴに。残りの五枚をブーバーにつける」
「五枚……?」
「よし、マグカルゴでリングマに攻撃。溶岩流! このとき、マグカルゴについている炎エネルギーを全てトラッシュする」
マグカルゴの背中の殻から大きな溶岩が三発撃ちあがり、リングマ110/120めがけて降り注ぐ。
「溶岩流の初期威力は60。しかしマグカルゴの炎エネルギーを任意の枚数トラッシュすることで、トラッシュした枚数かける20ダメージ増加する。トラッシュしたエネルギーは三枚」
「ということは、……120ダメージか」
ドォンと鈍い音が三発響くと共に、溶岩が放つ蒸気が視界を一時的に覆い尽くす。蒸気と溶岩の映像が消え、うつ伏せで倒れるリングマ0/120もフッと消えていく。
「サイドを一枚引く。これでオレの残りのサイドは三枚。どうしたどうした! 差は開くばかりだ」
「まだだ! 俺はバクフーンをバトル場に出す。俺はバクフーンに炎エネルギーをつけて、ベンチのヒノアラシをマグマラシ(80/80)に進化させる。キュウコンのポケパワー、炙りだしを使って手札の炎エネルギーをトラッシュし、三枚ドロー! ヒメグマ(60/60)をベンチに出し、バクフーンのアフターバーナーでバクフーン自身にトラッシュの炎エネルギーとダメカンを一つつける!」
考えている余裕はない! 急がないと。どうすれば最短で倒せるかを直感で得るんだ。
斉藤のベンチにいるブーバーが怪しい。エネルギーを五つもつけていて怪しくないポケモンはいない。でも手札にポケモンキャッチャーはない。だったら他を叩くしか選択肢もない!
「手札からプラスパワーを発動。この効果でバクフーンがバトル場のポケモンに与えるワザの威力がプラス10される。そしてジャンクアームも発動だ!」
ジャンクアームは手札を二枚トラッシュして、ジャンクアーム以外のグッズカードを手札に戻すことが出来るカードだ。マグカルゴを最短で倒すためにはこのカードを経由するしかない。
手札のポケモン通信、ロコンをトラッシュして、トラッシュにあるプラスパワーを手札に戻す。
「今回収したばかりのプラスパワーを発動! さらにサポート、アララギ博士を使う。手札を全てトラッシュして、山札からカードを七枚引く。ここでもう一枚プラスパワーを発動!」
トラッシュしたのは炎エネルギー。手札が一枚だけだったので、ロスが少なく大きくハンドアドバンテージを得ることが出来る。
「バクフーンで攻撃。フレアデストロイ!」
フレアデストロイの元の威力70に加え、プラスパワー三枚で、計70+10×3=100ダメージ。これでマグカルゴを一撃だ! フレアデストロイのデメリット効果としてバクフーン130/140の炎エネルギーを一枚トラッシュする。
「どうだ! サイドを一枚引く」
「……ふふっ」
「何がおかしい! 早く次のポケモンを出せ!」
「ははははっ! そりゃ笑うさ。ここまで綺麗にオレの誘導に引っかかってくれたんだからな! オレはブーバーをバトル場に出す」
「っ……!」
「オレは手札の炎エネルギーをブーバーにつけ、ブーバーン(100/100)に進化させる。ヤドキングのポケパワー、千里眼を発動。加えて、マグマッグのポケパワー、活火山を発動。山札の一番上のカードをトラッシュ。トラッシュしたエネルギーは炎エネルギーだ。活火山の効果でその炎エネルギーをマグマッグにつける。グッズ、エネルギーリターナーを発動だ」
エネルギーリターナーはトラッシュの基本エネルギーを四枚山札に戻すカードだ。エネルギー回収のように手札に戻したりはしないが、その分エネルギー回収よりも多くのエネルギーを戻せ、しかも山札のエネルギーを自身につけるマグマッグともシナジーしている。
「ここからが楽しいショウタイムだ! ブーバーンで攻撃。喰らえっ、山焼き!」
ブーバーンの右腕がバトル場のバクフーン……、ではなく俺の方に向けられた。
「何をするつもりだ!」
「山焼きはブーバーンについている炎エネルギーの数だけ相手の山札をトラッシュする。ポケモンを攻撃するより手っ取り早いだろ?」
斉藤が指をパチンと鳴らすと、ブーバーンの右腕から直線状に炎が飛び込んでくる。
「うおおおおっ……!」
「ブーバーンについている炎エネルギーは今六つ! 六枚をトラッシュしてもらうぜ」
バクフーングレート、ポケモンキャッチャー、炎エネルギー、キュウコン、チェレン、ポケモン通信。六枚が呆気なくトラッシュに吸い込まれていく。あっという間に山札が十五枚に……!
「このワザはコイントスをしてウラの場合、ブーバーンについている炎エネルギーを全てトラッシュする。……オモテだ。どうだ! 手札破壊なんかの狡(こす)い手よりも、やっぱデッキ破壊の方が爽快、豪快だ! そのお前の焦りと驚き、悔しい表情がいいねえ。ここからが、第二ラウンド。本当の勝負だ!」
翔「今回のキーカードはブーバーンだ。
ハイリスクハイリターン、まさしくそんなワザ、山焼きを持っている。
ポケカでは稀有な、青天井なデッキ破壊効果。どうやって攻略するんだ……!」
ブーバーン HP100 炎 (L3)
炎 やまやき
このポケモンについている炎エネルギーの数ぶん、相手の山札を上からトラッシュ。コインを1回投げウラなら、このポケモンについている炎エネルギーをすべてトラッシュ。
炎炎無 バーストパンチ 60
相手のバトルポケモンをやけどにする。
弱点 水×2 抵抗力 − にげる 2