115話 伝説の力
突然空から三色の光の束が飛び散り、そのうちの黄色い光の束が僕こと向井と長岡先輩のいる近くへと降り注いだ。
それと同時に激しい眩さが僕らを襲い、思わず両目を閉じてしまう。再び目を開ければ、その光の落ちてきた地点にライコウ──当然、ポケモンのライコウだ──が現れた。
最初は幻か、それとも近辺で誰かが戦っているのかとばかり思っていたけど、頬をつねっても周りを見渡してもそれららしき様子は見当たらない。ただ、ライコウは動く様子も無くただ僕たちをジッと見つめている。不快感と緊張感のせいで胃の中で暴れそうな気がして全く落ち着けない。
そんなライコウだったが、ゆっくりと一歩僕らに向けて踏み出した。驚き慄(おのの)いた僕らも、足を後ろへ一歩下げる。そうすればまた、ライコウがまた一歩近づいてくる。
二、三歩下がっても同じように近づいてくるライコウに、僕らは合図も無いのに同時で振り返って走り出した。背後からはライコウが荒野の砂を踏みしめる音が聞こえてくる。
何だか分からないけど、何かしらヤバい気がする。先輩は定期的に何だかんだ叫びながら、ライコウから逃げるべく走り続け──。
「くそっ、どうなってんだよおおお!」
時計が動かない以上時間は正確には分からないが、かれこれ三十分は走り続けている気がする。それなのに、
「なんでか分からないけど全然息が切れねえし!!」
今先輩が空に向かって叫んだように、どれだけ全速力で走り続けても体が疲れることもなければ息が切れたりすることもない。どう考えてもありえない。
加えて、ライコウはずっと付かず離れずの距離で僕らの背後十メートルくらいを維持し続けている。僕らが最初にいた荒野から、だいぶ走り続けたためか辺りはいつの間にか砂浜に変わっていた。
理由は分からないけれど、いつまでも追いかけられるってのはたまったものじゃない。体は疲れないけど、不安と焦燥が長く続いたせいで心が疲れてくる。
海が視界の遠くで見えてくるところまで走って、ついに僕らの足は止まった。止まればライコウに追いつかれるとはいえ、止まらなければ永遠に走り続ける事になる。まだ止まった方が打開策はあるかもしれない。そう心の中で言い訳をして。
「どうした、追いかけっこはもう終わりか」
低い男の声がライコウから聞こえる。それに対して「ライコウが喋った!」と、先輩が声を張り上げた。
ライコウがこちらに向かって歩き始めた。今まで同じ距離を保ちつつあった僕らとライコウの距離が縮まる。
「向井、分かれて逃げるぞ!」と、先輩の叫び声が聞こえた瞬間。
「あれっ?」
背後にいたはずのライコウが、いつの間にか真正面にいる。しかも目と鼻の先だ。僕らよりもいくばか高い背から見下ろされ、威圧感を感じるあまり腰を抜かしてしりもちをついてしまった。
「遊びはお終いだ。もうここからは逃げられない」
ライコウが右の前足をダン、と踏み鳴らすと同時に、空から雷が数本、僕らとは離れた場所に続けて落ちる。激しい音と光にもみくちゃにされつつも、気が付けば雷は形を変えて電気の糸で作られた檻が僕らを囲んでいた。
「縦、横、奥行きともに十二メートルの雷の網で作られた闘技場だ。貴様らはこれからこの己(おれ)に勝つまでここから出られることはない。覚悟しておけ」
そういって、ライコウは勢いよく跳躍して僕らとは向い側までひとっとびで降り立つ。再び右の前足をダン、とライコウが踏み鳴らすと、砂の中から石で出来たかなり大きなテーブルが姿を現す。
「安心しろ、貴様らにも勝ち目は用意してある。貴様らと同じレベルで戦ってやるのだ。まずはそこのお前からからだ」
何の操作もしていないはずなのに、突然僕のバトルベルトが起動し始めた。強制的にデッキがシャッフルされ、戦う準備が自然と整えられる。
「察しているとは思うが、この勝負からはどう足掻いても逃れることは出来ない。この己をポケモンカードで倒すまでは、な。フンッ!」
ライコウが体から電撃を自身の前にある石のテーブルにぶつけ続けると、大判のカードがデッキポケットに現れていく。
『周囲の使用可能なバトルベルトをサーチ。コンパルソリー。スタンダードデッキ、フリーマッチ』
仕方なく手札を取り、ポケモンを場にセットする。落ち着くんだ、どうなろうともただポケモンカードで戦うだけなんだ。現に勝ち目は用意してあると相手も言っていたじゃないか。
対するライコウは縦一メートル程はありそうな大判のカードを(ここまで来れば、細かい事はもはやどうでもよくなってくる)どういう理屈か宙に浮かせ、それを操って大きなテーブルにカードをセットしている。
「コンパルソリー状態で対戦を始めた場合、否応が無しに仕掛けた側が先攻になる。己の番から始めさせてもらう」
僕の最初のポケモンはバトル場のエアームド80/80のみ。相手は、ライコウだから雷タイプのポケモンを使う、と予想していたがそれに反してバトル場にマンタイン80/80のみを繰り出している。
「己はサポート、チェレンを発動。その効果で山札からカードを三枚引く。そしてワニノコ(60/60)をベンチに出し、手札の水エネルギーをマンタインにつける。そしてマンタインのワザ、仲間と泳ぐを発動だ。その効果で己は自分の山札の水エネルギーを一枚、相手に見せてから手札に加えてシャッフルをする」
「おっ、おい! お、おおお前ライコウなのに全然雷ポケモン関係ねーじゃねえか!」
先輩が語頭を震わせながらも戦いを割って啖呵を切った。そういう意図かまでかは分からないけど、時間を稼いでくれている。今のうちにもっと心を落ち着かせて集中させ、勝てるように考えるんだ。
「貴様が長岡恭介か」
「な、なんだよ……」
「風見雄大はまだしも、あの一之瀬が貴様のような人間に興味を寄せているとはな」
「きょっ、興味ってまさか一之瀬さんってそんな趣味が……!」
「いやいやボケてる場合じゃないですって! てか風見さんに一之瀬さんってどっちも僕らの知り合い──」
「でもその言い方からして、少なくとも一之瀬さんの知り合いっぽそうなのは確かだな」
「思ったよりも頭の回転も早いようだな。その推察通りだ、と言っておこうか」
「てか俺の最初の話し掛けを無視してんじゃん」
「論ずるに値しないということだ。さあ、向井剛。次は貴様の番だ」
ライコウが一之瀬さんの知り合い? なおのことこんがらがってきた。それに気にするようなことではないかもしれないけど、先輩の名前が挙がって僕の名前が挙がらないのも少しだけ癪……、というよりもジェラシーのようなものもあったけど。
いやいや、集中するんだ。相変わらずライコウの存在やその他諸々怖いことには変わりはないが、先輩が僕の二歩後ろくらいで見守ってくれている。しっかりいいところを見せないと!
「僕の番だ。まずは手札からデュアルボールを使います。コイントスを二度して、オモテの数だけ山札のたねポケモンを手札に加える。……オモテ、オモテ。僕はココドラ(60/60)とストライク(70/70)を手札に加え、その二匹をベンチに出す。さらにエアームドに鋼エネルギーをつけ、ワザのスチールコートを発動。山札の鋼エネルギーを自分のポケモンにつける。僕はベンチのココドラに特殊鋼エネルギーを山札からつける」
「そちらが攻めないのならばこちらから仕掛けよう。己はマンタインに水エネルギーをつけ、グッズ、研究の記録を発動。自分の山札を上から四枚確認し、好きな順で山札の上、及び下に戻す。さて、ベンチのワニノコをアリゲイツ(80/80)に進化させてマンタインで攻撃。アクアスラッシュ!」
マンタインがヒレを扱い、エアームド40/80の体に斜め方向に一閃。エアームドは衝撃で少し後ずさるも、すぐに翼を広げてマンタインを睨み付ける。
「このワザを使ったマンタインは、次の番アクアスラッシュを使うことは出来ない。これで己の番は終わりだ」
一気にエアームドのHPを半分持って行かれた。それでもエアームドのワザはアクアスラッシュと仲間と泳ぐの二つのみ。しかもアクアスラッシュは次の番使えない。
ベンチにいるアリゲイツの能力も確認したけど、エネルギーが三つないとエアームドを倒すことは出来ない。今のアリゲイツのエネルギーは0だから、次の僕の番までエアームドは生き残る!
「僕はココドラにダブル無色エネルギーをつけ、サポート、オーキド博士の新理論を使います。手札をすべて山札に戻し、シャッフルした後新たに六枚ドロー。よし、ココドラをコドラ(80/80)に進化させ、エアームドでスチールコート!」
前の番とは違い、スチールコートで今度はストライクに特殊鋼エネルギーをつける。余裕があるんだから、エネルギーを固めずにばらして、それぞれの進化系、ボスゴドラかハッサムが来ればそれに合わせてすぐに対応できるようにする。それがベスト。
「呑気なものだな」
「え?」
「己はマンタインに水エネルギーをつけてからサポート、坊主の修行を使う。山札のカードを上から五枚まで確認し、二枚を手札に加え残りをトラッシュする。不思議なアメ、デュアルボール、マンタインをトラッシュする。そしてアリゲイツを進化させる。出でよ、オーダイルグレート!」
大きなアゴと牙を見せつけ、一つ大きな足踏みをしてオーダイルグレート140/140が現れる。これがライコウのエースポケモンか?
「マンタインの水エネルギーを一つトラッシュしてベンチに逃がし、オーダイルをバトル場に繰り出す。ここでグッズ、ポケモン入れ替えを発動。オーダイルとマンタインを入れ替える」
「な、なんでそんな無駄なことを……」
「無駄? 果たしてそうかな。一度ベンチに戻ったポケモンは状態異常が治る。それと同様に、そのポケモンにかかっている全ての情報がリセットされる。これがベンチキャンセルだ。つまり、前の番にアクアスラッシュを放ったという情報が無くなり、新たに攻撃することができる。エアームドに攻撃だ。くたばれ、アクアスラッシュ!」
奇声を発し、エアームド0/80はうつ伏せに倒れて消えていく。想定外だった。まさかこんなことになるなんて。
「サイドを一枚引く。さあ、せめて全力でかかってこい」
「ぐっ、僕はコドラをバトル場に出す。僕は、サポートのふたごちゃんを発動。相手のサイドが自分より多いとき、自分の山札の好きなカードを二枚加える。コドラに鋼エネルギーをつけ、ベンチのストライクをハッサムグレートに進化!」
ストライクが鋼に肉体を変え、大きく強靭な二つの鋏を振り回すハッサムグレート100/100へと進化する。
エアームドを倒されたのはもちろん良くないが、逆に今はチャンスでもある。マンタインを倒せば相手のベンチはオーダイルだけ。
しかもオーダイルにエネルギーはまだついていない。だから拙攻で相手のポケモンを空にして勝つ!
「ベンチにココドラ(60/60)を出し、コドラで突進攻撃!」
果敢に頭から突っ込んでいったコドラはマンタイン0/80を一撃で彼方まで吹き飛ばす。しかし突進の反動として20ダメージ(だが、特殊鋼エネルギーの効果で10ダメージに減少)を受けてしまう。
サイドを一枚引いて、これで追いついた。それどころか上手くやれば勝ちも見える。よし。
「呑気と思えばせっかちだ。だが安心しろ。全ての用意は整った。私はグッズ、ポケモン通信の効果で手札のアリゲイツをスイクン&エンテイLEGENDの下パーツを手札に加える」
「れっ、レジェンド?」
聞き覚えの無いカードに驚く間もなく、ライコウは全身から電撃を天に向けて放つ。
「ここからが本番だ! 逆巻く水と盛る炎、集った力は全てを飲み込む! これが我が同胞達だ。現れろ、スイクン&エンテイLEGEND!」
「うわあああああっ!」
「うおおおおおお」
赤い光と青い光が天からこちらに飛んできて、ライコウのベンチで二つの光がぶつかって、火柱とそれに巻きつくような水流を生じて小爆発を起こす。
僕はかろうじてバトルテーブルを支えとしたが、爆発の風圧が強いあまり、先輩が檻まで吹き飛ばされて電撃を背面に受けてしまう。
「先輩っ、先輩!」
「このLEGENDカードは上下異なる二枚のカードを一枚としてベンチに出すことができる究極のカードだ。しかしその強大な力の代償として、このカードが気絶した場合相手はサイドを二枚引くことが出来る」
振り返って、小走りでうつ伏せに倒れる先輩の元に駆けつける。背中の服が一部焼けているようだ。皮膚は腫れている場所がいくつかあり、辛そうな声が呼吸と共に小さく漏れている。意識はあるみたいだ。
「大丈夫ですか!?」
「わかんねぇ……。俺のことよりもお前──」
「そうだ。他人のことより自分の心配をした方がいい。己は手札からレインボーエネルギーをスイクン&エンテイLEGENDにつける。このエネルギーはポケモンについている限り全てのエネルギーの役を果たすが、つけた瞬間にそのポケモンにダメカンを一つ乗せる」
先輩の手を取り、なんとか座らせながらもライコウの方を振り向けば、スイクン&エンテイLEGEND150/160がベンチからでもライコウと同じように鋭い眼光でこちらを睨みつけている。蛇に睨まれた蛙、なんて言葉が脳裏を駆け抜けた。
「サポート、チェレンを発動。その効果で山札から三枚引き、手札からジャンクアームを発動。手札のデュアルボール、研究の記録をトラッシュして、トラッシュのポケモン入れ替えを手札に戻す。さらに今戻したばかりのポケモン入れ替えを使い、オーダイルとスイクン&エンテイLEGENDをバトル場に繰り出す」
バトル場に出すということは何かあるはずだ。どう考えてもあのLEGENDとかいうカードが弱いはずがない。せめて少しでも早く効果を確認して対策を練らないと。
より僕の近くに迫ったスイクンとエンテイに萎縮しながらも、バトルベルトであのカードの情報を確認する。スイクン&エンテイLEGEND。最大HPは160で、上下の組を揃えなければベンチに出せず、このポケモンが気絶すれば相手はサイドを二枚引く。タイプは水、炎の二つ? でも、どうしてなんだ。どうしてそれだけしか見えないんだ。ほとんどのテキスト部分にグラデーションがかかっているように、文字が霞んで見えない。
「得体のしれない相手と戦わざるを得ない。その危機感が肝要なのだ。だが、せめてワザエネルギーだけでも教えておいてやろう」
ふっ、とカードのグラデーションが僅かに解かれる。ワザは二つあり、水水無、炎無無の二つ。今あのカードについているエネルギーはレインボーエネルギー一枚だけだ。じゃあどうしてワザが使えないのにバトル場に……。
「ここで、オーダイルのポケパワーを使わせもらう。雨乞い!」
突如空が暗くなっていく。見上げれば、晴れ渡っていた空を分厚い灰色の雲が僕らの上だけを局地的に覆い、シトシトと雨が降り始める。
「この雨乞いは自分の番に何度でも使え、自分の手札の水エネルギーを一枚自分の水ポケモンにつけることができる。その効果で己は手札の水エネルギー二枚をスイクン&エンテイLEGENDにつける」
「い、一ターンにエネルギーが三枚!」
「喰らえっ、これが全てを飲み込む炎だ。バーストインフェルノ!」
顔を上げて深く息を吸い込んだエンテイが、大きな火球をバトル場のコドラにぶつける。コドラに火球が触れると同時に爆発を起こし、大きな火柱がコドラを焼き尽くす。
「ゴホッ、映像のはずなのっゴホッ、なのに熱い……」
本来はどれだけ炎や雷があれどあくまで映像のはずなのに、コドラ0/80を攻撃した炎からは確かに熱さを感じる。実際にこのライコウが出した電撃の檻に触れた先輩が怪我をしたように、まさか……。
それでも僕らがライコウから逃げ続けていたときは、どれだけ走っても体が疲れない身体的不自然があったのにこのアンバランスさは一体どういう……。
「このワザの威力は80だが、コドラの弱点は炎。スイクン&エンテイLEGENDは水、炎の二つをタイプを持つため実際に受けるダメージは160だ。貴様のデッキでは相性が悪い相手だったな。己はサイドを一枚引く」
「それでもまだだ! まだ勝負は終わっていない。僕はハッサムグレートをバトル場に出す!」
「ほう、これを見てもその意気か。いいだろう、最後まで付き合ってやろう」
ライコウの残りサイドは四枚だ。スイクン&エンテイLEGENDを倒せば残りサイドが五枚の僕はサイドを二枚引けて逆転することができる。そのデメリットがある以上、まだ勝負をひっくり返すチャンスは残ってる。
「僕は、ハッサムに鋼エネルギーをつけ、ベンチのココドラをコドラ(80/80)に進化させる。さらにグッズ、デュアルボール。……オモテ、ウラ。僕は山札のストライク(70/70)を手札に加え、ベンチに出す。そして手札からアララギ博士を発動」
手札のN、鋼エネルギーの二枚をトラッシュして、新たに七枚のカードを引く。一発逆転のカードは最初から無いが、それでも上手くやれるカードは……、来てない。
「っ、手札からクラッシュハンマーを発動、コイントスをしてオモテなら相手のポケモンのエネルギーを一枚トラッシュする。……ウラ。それでも攻撃は残ってる! ハッサムで攻撃、メタルシザース!」
一直線にスイクンとエンテイの間に飛び込むと、風のように素早く、クロスして下に構えていたいた両腕を斜め上に振り上げ、二匹の脇腹に大きく殴打する。
このワザの威力はわずか30だけど、ハッサムについている鋼エネルギーの数かける20ダメージだけさらに威力が上がる。これで与えたダメージは30+20×2=70ダメージ。スイクン&エンテイLEGENDの残りHPは80/160だ。
次の番、ハッサムにもう一枚エネルギーをつけて攻撃すれば威力は90になり、あのポケモンを倒すことが出来る! ハッサムが倒れない算段ももう僕は既につけてある。
「その程度のダメージ。このハッサムを犠牲にして、そこのベンチのストライクがハッサムを進化させ、プラスパワーを発動してからメタルシザースで攻撃する。と言ったところか。その浅知恵がこの己に効くと思ったか。己はスタジアム、セキエイ高原を発動!」
砂浜と電撃の檻が姿を消して、代わりに足元が丈の短い草原になり、高台へと運ばれる。ライコウの背後にはゲームで見覚えのある、ポケモンリーグ本部が見える。
「このスタジアムがある限り、全ての伝説ポケモンの最大HPが30上昇する。よって、スイクン&エンテイLEGENDのHPは110/190だ」
「そ、そんなスタジアムが……」
「続けて攻撃だ! 一撃で沈めてやる。バーストインフェルノ!」
再びエンテイから視界を覆い尽くすような巨大な火球が迫り来る。でも、このタイミングを待っていた!
「ハッサムのポケボディー、レッドアーマーの効果発動!」
火球を正面から受け、火柱に包まれるハッサムだが──。
「どういうことだ! 何故ハッサムのHPが減っていない!?」
「レッドアーマーの効果は、特殊エネルギーをつけたポケモンから一切のダメージを受けなくする! スイクン&エンテイLEGENDには特殊エネルギー、レインボーエネルギーがついている。だから受けるダメージは0だ!」
「いいぞ、向井。その調子だ……!」
「なかなかどうして、思っていたよりはやってくれる。だが、防げるのはワザのダメージだけだ。効果は受けてもらう。バーストインフェルノを受けたポケモンは火傷状態になる」
「うっ……。ポケモンチェックで火傷判定。……オモテだから火傷のダメージは無し。よし、僕は手札のポケモン通信を使い、手札のエアームドを山札に戻してボスゴドラを手札に加える。そしてゴドラをボスゴドラ(140/140)に進化させ、ボスゴドラに特殊鋼エネルギーをつける。ベンチのストライクをハッサムグレート(100/100)に進化させ、新たにストライク(70/70)をベンチに出す」
この番ではスイクン&エンテイLEGENDを倒すことは出来ない。それでも今、僕の手札にはポケモンキャッチャーがある。
恐らくスイクン&エンテイLEGENDはレインボーエネルギーをトラッシュしてベンチに逃げるはず。でも次の僕の番、ポケモンキャッチャーの効果で強制的にバトル場に引き出し、トドメを刺せば一発逆転も狙える大きなチャンスだ。
「ハッサムで攻撃、メタルシザース!」
鋏の両撃を受け、先ほどは一切動じなかったスイクン&エンテイLEGEND40/190はついに大きくバランスを崩す。続いてのポケモンチェックで再びオモテ。どちらでも問題はないけれど、ダメージは受けないに限る。このままなら勝てる可能性はある!
「……ここまでやられるとは想定外だった。よくもこれほどのダメージを与えたと素直に賞賛しよう。だが、その程度で己が止まると思っているのならば笑止千万! 次元の違いを見せてやる。己は、手札からまんたんの薬を使う。その効果でスイクン&エンテイLEGENDのエネルギーを全てトラッシュし、乗っているダメカンを全て取り除く」
「そ、そんな……」
ダメージを回復されるだけじゃなく、特殊エネルギーもトラッシュされた。これじゃあハッサムのレッドアーマーの効果が発揮されない……。
「手札からサポート、デントを発動。山札の基本エネルギーを三枚手札に加える。己は炎、水、水エネルギーを手札に加え、スイクン&エンテイLEGENDに炎エネルギーをつける。さらにオーダイルの雨乞いの効果で手札の水エネルギー二枚をスイクン&エンテイLEGENDにつけ、攻撃。やれぇっ! バーストインフェルノ!」
もう攻撃を無効化出来ないハッサムを大きな火球が飲み込み、巨大な火柱がハッサム0/100を包み込む。膝の力が抜け、カクンと膝立ちになって火柱をぼんやりと見つめる。
ダメだ……、もう勝てない。
恭介「今回のキーカードはハッサム!
特殊エネが台頭しているから、レッドアーマーはかなり強力だ。
メタルシザーズも案外使いやすいんだぜ」
ハッサム HP100 グレート 鋼 (L2)
ポケボディー レッドアーマー
このポケモンは、特殊エネルギーがついている相手のポケモンから、ワザのダメージを受けない。
鋼無 メタルシザーズ 30+
このポケモンについている鋼エネルギーの数×20ダメージを追加。
弱点 炎×2 抵抗力 超−20 にげる 2