114話 ロストワールド
「俺は手札からこのスタジアムを場に出す。ロストワールド!」
カードをセットすると同時に、激しい地鳴りが起こる。空が薄暗くなり、周囲の廃墟が一瞬にして消えて、俺達のいる場所も含め辺りにはいくつもの浮遊島が現れる。見上げた薄暗い空に奇妙な紫色のうねりが発生し、そこから稲妻が立て続けに降り注ぎ続ける。
「このスタジアムの効果を教えてやる。互いのプレイヤーは、それぞれ自分の番に相手側のロストゾーンにポケモンが六枚以上あるならば対戦を終了し、自分の勝ちを宣言出来る」
「……っ!」
「今お前のロストゾーンにポケモンは三枚。分かってるよな? さあ、ゲンガーのワザだ。闇にぶち込む!」
闇にぶち込むの効果は相手の手札を確認し、その中にあるポケモンをゲンガーについている超エネルギーの数だけロストさせるワザだ。どろどろ渦巻きで手札をリセットさせた以上、ポケモンが手札に紛れ込む確率は十二分にある。
「さあ、手札を確認させてもらうぜ」
「いいわ。でも、残念ながらポケモンのカードは無しよ。闇にぶち込むは不発ね」
確かに黒川の手札はトレーナーズかエネルギーだけ。こうなることは想定出来る範囲だが、思い通りにいかないとやはりいい気ではない。
俺のバトル場には超エネルギーを一枚つけたゲンガーグレート130/130、ベンチにはミカルゲ60/60とバリヤード70/70、ゴースト70/70。サイドは六枚残っている。
対する黒川のバトル場には鋼エネルギーをつけたエアームド80/80。ベンチには特殊鋼エネルギーをつけたイワーク90/90。サイドは五枚残っているが、ロストゾーンにはヨーギラス、エアームド、バンギラスグレートの三枚。
スタジアムカード、ロストゾーンの効果で黒川のポケモンをあと三枚ロストすれば俺の勝利は確実。実質的にはサイドで劣っていても俺が有利なのは確かだ。今ここで闇にぶち込むを失敗しようとまだ焦るレベルではない。
「闇にぶち込むは必ず成功するワザじゃない、それが弱点ね。ならば闇にぶち込むを使うゲンガーをすべて倒し尽くせばいいだけ! 私は手札からサポート、ポケモンコレクターを使うわ。その効果で山札からたねポケモンを三枚まで手札に加える。私は二枚のヨーギラスとイワークを手札に加える」
「けっ、手札に加えれば逆に闇にぶち込むの餌になるだけだぜ」
「ならば手札のポケモンを全て出し切ればいいだけよ。私は今加えた三枚を全てベンチに出す」
ベンチにヨーギラス50/50が二匹、イワーク90/90が現れる。俺のデッキは相手のポケモンを倒すことにはあまり特化していない以上、ヨーギラスのようなHPの低いたねポケモンを並べられてもどうしようも出来ない。
それにこうして山札からポケモンをサーチし、並べられていくと黒川のデッキの中でのポケモンの枚数の割合が減っていく。つまり闇にぶち込むの成功率も自然と下がる。そこは謀ってやっているのかは分からないが、言葉では黒川のそのプレイングを躊躇わすのはかなり難しい。
「前の番に出していたイワークを進化させるわ。これが私の第二の切り札よ、ハガネールグレート!」
イワークの体が白く輝き、大きな全長がさらに大きくなる。鋼鉄に輝くそのボディは光を跳ね返し、見上げれば眩さと大きさからより威圧感を感じる。
「このハガネールに手札のダブル無色エネルギーをつける。続けてバトル場のエアームドの鋼エネを一つトラッシュし、ベンチのハガネールと入れ替えるわ。ハガネールグレートでゲンガーグレートに攻撃。唸れ、エナジーストリーム!」
ハガネールが力強く雄叫びを上げると共に大地が大きく揺れ始める。ハガネールを除いた全てのポケモンが揺れに気を取られている中、ゲンガー130/130の足元だけ白く輝いている。
「エナジーストリームの効果! 私のトラッシュにあるエネルギーを一枚、ハガネールにつける。私は鋼エネルギーをハガネールにつける!」
揺れが収まってエネルギーがゲンガーの足元の光に集約していく。その光は間もなく束となり、槍のように足元からゲンガー100/130を貫く。そしてその光はハガネールの元へ赴いてはエネルギーと化した。
「はっ! たった30ダメージ程度じゃ俺様のゲンガーはビクともしねえよ。俺の番だ」
引いたカードはオーキド博士の新理論。手札を全て山札に戻した後山札をシャッフルし、新たに六枚カードを引くサポートだ。今の俺の手札はこれ一枚のみ。使うには最高の条件だ。
「手札のオーキド博士の新理論を発動。俺の手札は無い。山札をシャッフルして六枚引く」
ここでの問題は黒川が手札のポケモンは可能な限り場に出そうとしてきたことだ。ベンチは五つまでだから限りはあるといえ、大概はデッキにポケモンは二十枚もない。だから早い目に手を打ってロストさせれる可能性を上げておく!
「ベンチにメタモン(40/40)を出す。メタモンのポケボディー、メタモリックの効果でお前はベンチにポケモンを四匹までしか出せなくなる。残念だがこれでお前のベンチはもう埋まったことになる!」
空いていたはずの黒川のベンチの一枠が、紫色のジェルのようなものに覆われて塞がれてしまう。これでメタモンがいる限り、黒川はベンチにたねポケモンを出す事ができない。
「ベンチのゴーストに超エネルギーをつけ、ゲンガーのワザを発動。闇にぶち込む! ……けっ。また不発か」
当然と言えば当然だが、あれだけ啖呵を切ってた以上手札にポケモンが無いのは想定の範囲内だ。問題は次の番より後。メタモンがいることによって黒川のプレイングの幅は狭められたはずだ。
「私は、特殊鋼エネルギーをハガネールにつけて、オーキド博士の新理論を発動。ベンチのヨーギラスを二匹ともサナギラス(70/70)に進化させ、ハガネールで攻撃よ。ガイアクラッシュッ!」
ハガネールが体をうねらせ、地面に何度も尾や頭を叩き付ける。すると、平衡を保てない程の大きな衝撃が場を揺るがす。衝撃は収まることなく拡大し、周辺の浮遊島がまるで力を失ったかのように下降していく。
気を取られているうちにゲンガーの足元の地盤が隆起し、鋭く尖った岩がゲンガー0/130を貫く。
「なっ! ゲンガーのHPが全て持っていかれただと!?」
「このワザは鋼鋼無無無の超大型のワザ。その分ワザの威力も100よ。さらにガイアクラッシュの効果が発動。場に出ているスタジアムをトラッシュする!」
「何だと!?」
地面にいくつもの亀裂が走り、俺たちがいる浮遊島が崩れていく。俺の足元にも亀裂が走り、ヒビから眩いばかりの光が差し込み──。
くらんだ視力が回復し、気付けば元の廃墟に戻ってきた。なるほど、確かにロストワールドが無ければいくらロストしたところで俺は勝てない。しかもゲンガーが気絶して、黒川はサイドを引き、俺はロストする手段を失った。
「サイドを一枚引いてこれで私の番は終わりよ」
「ならば俺はゴーストをベンチに出す。今度は俺様の番だ! まずは手札から──」
その瞬間。視界の遠くに映っていた山の頂上から、赤、黄、青の三色の光の束がそれぞれ三方向に散って行った。
「なんだあれ……」
いつもの「感」とは違う、嫌な予感がする。あそこには有瀬達がいるはず。今のもヤツらの仕業か? ともかく今は目の前の勝負を方さないと。
「仕切り直しだ! 手札からゴーストをゲンガーグレート(130/130)に進化させる。ロストワールドはデッキに一枚だけじゃねえ、それまで先にロストし切ってやる。だがその前に。手札のグッズカード、ロストリムーバーを使うぜ。この効果でお前のポケモンの特殊エネルギーをロストさせる。ハガネールのダブル無色エネルギーをロスト!」
しかし今ロストしたのはエネルギー。ロストワールドで勝つには六匹のポケモンをロストする必要があるから、実質的な勝利には繋がらない。今のはガイアクラッシュを連打させないための時間稼ぎだ。しかしそれでも十分!
「サポート、ふたごちゃん。このカードは相手のサイドの枚数が俺より少ない場合のみ発動出来る。山札から好きなカードを二枚手札に加える。そしてゲンガーのワザ、闇にぶち込む!」
「残念ね。私が手札にポケモンを残す訳が無いでしょ」
「けっ、言うねぇ」
「あなたの考えていることくらい、私にはお見通しよ。まずはグッズカードのジャンクアームを使うわ」
ジャンクアームは手札を二枚捨ててトラッシュのグッズカードを一枚手札に戻すカード。黒川がトラッシュしたのはハガネールグレートとポケモンコレクター。ハガネールグレートは今引いたばかりのヤツだな。そして効果でトラッシュからサルベージしたのはクラッシュハンマー。
このタイミングでクラッシュハンマーはハガネールを捨ててまで欲しいカードではない。むしろ手札からハガネールをトラッシュするためにジャンクアームを使ったな。
「今回収したクラッシュハンマーを発動! ……ウラね。続けてサポート、坊主の修行。山札を五枚確認し、そのうち二枚を手札に。残り三枚をトラッシュ」
ここでトラッシュに行ったのはアララギ博士、特殊悪エネルギー、特殊鋼エネルギー。どれも優先出来るクラスのカードだ。それをトラッシュしてまで手札に加えたいものがあるってことか。
「私は……、手札からポケモン入れ替えを発動。その効果でハガネールとサナギラスを入れ替える!」
「何だとっ?」
「サナギラスに特殊悪エネルギーをつけ、サナギラスをバンギラスグレート(160/160)に進化させる! バンギラスで攻撃。響け、悪の雄叫び!」
深く息を吸い込んだバンギラスは獰猛な叫び声と共に全身から黒色の波動を周囲全体に放つ。バトル場のゲンガーはもちろん、バンギラスを除く全てのポケモンがダメージを受けている。
「このワザは悪タイプ以外のポケモン全てに20ダメージを与えるワザ。そしてバンギラスについている特殊悪エネルギーの効果で、相手バトル場のポケモンには与えるダメージがさらに10足され、しかもゲンガーは悪タイプが弱点。つまりゲンガーにだけは60ダメージよ」
これでバトル場はゲンガー70/130、ベンチにはミカルゲ40/60、バリヤード50/70、メタモン20/20。黒川の場にはサナギラス50/70、イワーク70/90、エアームド60/80。特殊鋼エネルギーの効果でハガネールグレート140/140はダメージが無し。俺が受けた分の総計だけでも120だ。エネルギー一つでこんなに被害を受けるとは。
特に俺のベンチは基本的にHPが低いポケモンだらけ。メタモンに至ってはもう一度悪の雄叫びを受ければ気絶してしまう。
先の番のふたごちゃんで探究者を手札に加えたが、こいつをどうするか。瀕死のメタモンか、それとも同じくHPがメタモンよりも余裕があるが、ポケパワーのあるミカルゲか。
メタモン……いや、ミカルゲか? どっちだ。落ち着け、冷静に考えろ。メタモンのポケボディー、メタモリックによって黒川のベンチ枠を一つ潰しているが、探究者を使えば効果も薄くなる。というのも探究者の効果は互いのベンチポケモンを手札に戻す。そうすればメタモンがいようがいまいが結果的に探究者を使うことで黒川のベンチには空きが生じる。サイドを一枚献上することになるが、それより先に俺様が勝てば良い!
「俺は早速、手札から探究者を使うぜ。その効果で俺はミカルゲを手札に戻す」
「ミカルゲ? ……私はエアームドを手札に戻すわ」
「へっ、予想通りだ! 続けてポケモンキャッチャーを発動。お前のベンチにいるイワークをバトル場のバンギラスと入れ替える! もう一枚グッズ、元気の欠片を発動。トラッシュにあるたねポケモンをベンチに呼び戻す。俺はゴース(30/30)をトラッシュからベンチに出し、ゲンガーで闇にぶち込む! そのエアームドをロストしてもらうぜ」
これでヤツのロストゾーンにはポケモンが四枚。あと二枚ロストしてロストゾーンさえ出せば俺の勝ちだ。ようやく黒川も、顔には出さずとも焦りが浮かび始めてもいい頃だろう。
「勝負も後半だ。そろそろ教えてくれてもいいんじゃねえか、お前が能力者かどうか」
「能力がどうとか私は知ったこっちゃない! 私は、お父さんの──」
黒川がつい漏れた言葉に気付き、ふと目を丸くして右手を口に当てる。普段はあまり表情に大きな変化の無い黒川の顔が大きく変化した。それだけで十分だ。やはりこいつも……。
「くっ私はサポート、アララギ博士を使う。手札(エネルギー付け替え)を全てトラッシュして、山札からカードを七枚引く。続けてジャンクアームを発動。イワーク、ピィをトラッシュしてポケモン入れ替えを手札に加え、それを発動。イワークとバンギラスを入れ替えるわ」
さっきよりも黒川の喋りが随分と早口になった。カードを扱う手も少し動きが荒くなってきている。それでも無駄なプレイをしないのが流石だ。手札のポケモンをすぐにトラッシュに送りやがる。逆に火を点けてしまったかもしれねぇ。
「もう一度バンギラスで攻撃。悪の雄叫び!」
バンギラスの無差別な猛攻に全てのポケモンが傷ついていく。黒川のベンチはサナギラス30/70、イワーク50/90、ハガネール140/140。そして俺の場はゲンガー10/130、バリヤード30/70、ゴース30/50、メタモン0/40。HPが尽きたメタモンが力無く伏した。
「サイドを一枚引いて私の番は終わりよ! これでサイドは三枚。十分逆転も狙えるわ」
「やってくれるじゃねえか。細かいことは知らないが、勝利への執着が伺えるな。俺は、手札からチェレンを発動。その効果で山札からカードを三枚引く。……くっ、まずはベンチのゴースをゴースト(50/70)に進化させ、超エネルギーをゴーストにつける。さらにバリヤードのポケパワー、タネ明かしを使わせてもらうぜ。互いのプレイヤーは手札を相手に見せる」
黒川の手札はエネルギー交換装置、ダブル無色エネルギー、ポケモンキャッチャー、不思議なアメ、特殊鋼エネルギー。手札にポケモンのカードが無い、……だったら。
「ミカルゲをベンチに出し、この瞬間にミカルゲのポケパワー、どろどろ渦巻き! 相手は手札を全て山札に戻しシャッフル。そして新たに六枚引く。さあ、仕切り直しも終わったことだ。ゲンガーで闇にぶち込む!」
しかしまたしても黒川の手札にはポケモンが無い。いくら運要素があるからとはいえここまでポケモンをロストできないなんて。そうこうしているうちに黒川はポケモンをトラッシュするなりベンチに出すなりで山札のポケモンの数を減らしていく。どうしたもんか。
「今度は私の番よ。私はダブル無色エネルギーをバンギラスにつけて攻撃。パワークロー!」
バンギラスが鋭い爪を振りかざしてゲンガーに襲い掛かる。元の威力が60だが、特殊悪エネルギーと弱点の効果を踏まえて計140ダメージ、ゲンガー0/130の残りHP自体も高くなかったがこんな一撃をまともにくらえば俺の後続がもたない。
「サイドを一枚引くわ」
これで黒川のサイドは残り二枚。黒川のバンギラスの攻撃を二度受ければ俺の負けはほぼ決まったようなもんだ。一方の俺は黒川のポケモンを二枚ロストした上でロストワールドを発動させなければならない。それでもまだマシなのは黒川より精神的余裕があることくらいか。
焦れば勝利になんとしてでもしがみつきたくなる。そうしたいから直線的な攻撃を繰り出すようになる。上手くそれを誘導するのがいつもの俺のスタイルだったが、今回のデッキではむしろ攻撃を受ければ受けるほど圧倒的に俺が不利になっていく。
でもただ勝つだけでは「収穫」が一切無い。黒川から聞き出したいことを聞き出したうえで勝つ。そうしなければ意味が無い。とにかくゴースト50/70をバトル場に送り出せ。ここからだ。
「俺の番だ! ……なるほど、まだ終わるなってことだな。サポート、探究者を発動。その効果で俺はミカルゲを手札に戻す」
「っ! わ、私はイワークを戻すわ」
「さらにゴーストをゲンガーグレート(110/130)に進化! ゴース(50/50)をベンチに出して、ゲンガーで闇にぶち込む! そのイワークをロストしてもらう。これでお前のロストゾーンにポケモンは五枚!」
「まだよ! 私は特殊悪エネルギーをバンギラスにつけて、サポートのNを発動。互いのプレイヤーは手札を全て山札に戻し、シャッフル。そして各自のサイドの枚数だけカードを引く。私のサイドは二枚。よってカードを二枚引くわ」
折角戻したミカルゲが再び山札に眠ったか。だがこの状況で俺の手札を増やすだと? 俺のサイドはまだ六枚もあるから、事実六枚も引いた。探究者が山札に眠っている可能性もあるというのにかなりアグレッシブに来たな。おそらく本心的な狙いは手札を減らし、ミカルゲを戻させることで闇にぶち込むを食らう確率を下げようという狙いか?
「バンギラスでゲンガーに攻撃。メガトンテール!」
バンギラスが背を向けた状態から、体を半回転させて凶悪な尾でゲンガーを文字通りぶっ飛ばす。容易く吹き飛ばされたゲンガー0/130は周囲の建物にぶつかり、そのまま仰向けになって目を回した。
「このメガトンテールの威力は120。その強力な威力の代償として、私は効果で自分の山札を上から三枚トラッシュする。そしてサイドを一枚引くわ」
山札の枚数がちょうど二十枚まで減っていった黒川のそれが、さらに三枚削られていく。ダブル無色エネルギー、バンギラスグレート、N。またここでも上手いことトラッシュされていく。
しかも黒川の残りサイドは一枚。一方で俺のベンチには戦うポケモンなんて全くいない。皆HPが少ないポケモンばかりだ。それでも手札にはまだ希望が残っている。積極的に行くしかない!」
「俺はバトル場に新たにゴースを出す。そして俺の番だ! ゴースに超エネルギーをつける。さらにグッズ、不思議なアメを発動。その効果でゴースをゲンガーグレートに進化!」
「いくらゲンガーに進化させても無駄よ。私のデッキにはポケモンが十八枚入れてある。そのうちトラッシュ、ロストゾーン、場に出ているポケモンは計十七枚。貴方が探究者でも使わない限り、どう考えてもポケモンをロストゾーンに送るなんて無謀よ。たとえ送ったとしても私は次の番にバンギラスでそのゲンガーを一撃で仕留めてしまえば私の勝ち。これ以上あがいても無駄よ」
「たとえ無駄だろうが俺は最後までやってやる。それにまだ負けるつもりはねえ! 俺の相棒や、こんな俺を仲間としてくれたあいつらのためにも俺は勝って、生き残って、集まって、有瀬をぶっ飛ばして元の世界に帰ってやるんだよォ! そのためにはこんなところで負けてられっか! 手札からロストリムーバーを使い、お前のベンチのハガネールについている特殊鋼エネルギーをロストする!」
「そんなことしてもバンギラスの攻撃は避けられないわよ」
「これだけじゃねえ。ポケモンキャッチャーを使い、お前のバンギラスをハガネールと入れ替えさせる!」
「なっ……」
ハガネールに必要な逃げるエネルギーは四つ。それに対して今ハガネールについているエネルギーは二つだけだ。ダブル無色エネルギーはバンギラスにつけたり、トラッシュしたりロストしたりでもう全て使い切っている。黒川がポケモン入れ替えやエネルギー付け替え。或いはポケモンキャッチャーで、ベンチのバリヤード30/70などがバトル場に引きずり出され、攻撃さえ受けない限り、次の番俺は生き残れる!
「お前の言い素振りから手札にポケモンは無いことはタネ明かしを使わなくてもわかるぜ。だったら手札からミカルゲ(60/60)をベンチに出し、ポケパワーのどろどろ渦巻きを発動だァ! お前の山札と手札の総数は25枚。そして六枚引けば、その中にポケモンのカードは四分の一で含まれる。それだけあれば十分だ、ゲンガーで闇にぶち込む!」
「そっ、そんな!」
「見つけたぜ、そのバンギラスグレートをロストだ!」
後は俺の番が回ってきて、なおかつロストワールドを発動させることが条件だ。ここからは俺の実力は問われない、運否天賦の領域。山札の一番上のカードをめくる黒川の手に目が行く。今の黒川の手札のままならば、黒川は逆転をすることが一切出来ない。頼む、このまま終われ! 終わってくれ!
「私だって……。私だって負けたくない! 私がいないとお父さんはまた動けなくなってしまう。でも私がお父さんのそばにいるときだけ、どうしてか動けないはずのお父さんが動けるようになる。それがさっき言うような能力とやらかどうかは知らないけど、私はまだお父さんと一緒にたくさん過ごしていたい。そのためにも私は……負けない! 私は手札からサポート、アララギ博士を発動! その効果で手札を全て捨てて、新たに七枚引く。私はこれに全てをっ、全てを懸ける!」
周りの騒音が全てふっと掻き消えるような……。そんな緊張の一瞬。この引いた七枚のカードが俺と、黒川の命運を決めてしまう。それを決めるにはあまりにも短すぎる一瞬で、あまりにも厳しすぎる。
今出来ることは願うだけだ。ロストワールドは既に手札で握っている。ここを凌げるか、凌げないか。頼む、逆転のカードは来るな。
この緊迫した様子は向かいの黒川からも聞こえてくる。速く脈打つ黒川の鼓動までもが、俺の耳にまで飛び込んでくる。胸が焼けるような、苦しみが体の中でただただうねり出す。
先に崩れたのは……。黒川だった。
「うっ……、うう……。まっ、まだよ。ロストワールドはまだ場に、出てないわ。……まだ私だって可能性は残ってるんだから! ハガネールに悪エネルギーをつけてエナジーストリーム!」
ゲンガーの足元からエネルギーの渦が巻き起こり、ゲンガー100/130はそのまま真上に吹き飛ばされる。それに加えてエナジーストリームの効果で、黒川はトラッシュの鋼エネルギーをハガネールに付け直す。これでハガネールについたエネルギーは四つ。
「ぐっ、しつけえな。だが一歩遅かった! 手札からスタジアム、ロストゾーンを発動! さらにロストゾーンの効果を使う。相手の場にポケモンが六枚ロストされている場合、対戦を終了して勝利を宣言することができる!」
浮遊島へと再び変わった風景の、上空に生じているうねりから六度も雷が黒川めがけて直撃する。華奢な体が後方に吹き飛び、勝利が決まると共に全てのビジョンが解けていく。
やはり程なくして、黒川の体から橙色の光の粒が現れ、光の粒は空へと昇っていく。
「今回のお前の失敗は、運悪く俺と出会ったことだったな」
「……お願いがあるの」
「あァ?」
「もしも貴方が生き残ったら、これをお父さんに渡して欲しいの……」
黒川は自らがかけていた小さなネックレスを俺の右手に無理やり渡した。が、ネックレスからも光の粒が出ている。負けると本人だけでなくその所持品まで全て消えていくのは、黒川と戦う前の男との対戦で分かっていた。
そしてそれを見ていた黒川自身も分かっているはずだ。徐々に右手にのしかかっていた小さな重しが消え、さきほどまで確かにあったその暖かさが失われていく。
「……勝ったってのに胸糞悪いったらありゃしねぇ」
唾を地に捨てて背を向け、廃墟の遠くに映る大きな山を見上げる。覚えてろよ有瀬。必ずお前の尻尾を掴んでやる。全てを暴いてやる。
拓哉(裏)「今回のキーカードはバンギラスグレートだ。
他を寄せ付けないタフさと、圧倒的パワーがウリだな。
どんな相手でも蹴散らしてやれ!」
バンギラス HP160 グレート 悪 (L2)
悪 あくのおたけび
悪ポケモン以外のおたがいのポケモン全員に、それぞれ20ダメージ。[ベンチへのダメージは弱点・抵抗力の計算をしない。]
悪無無 パワークロー 60
このワザのダメージは、相手のバトルポケモンにかかっている効果の計算をしない。
悪悪無無 メガトンテール 120
自分の山札を上から3枚トラッシュ。
弱点 闘×2 抵抗力 超−20 にげる 3