22話 フローゼルとチャンス
現在お互いのサイドは二枚。あたしのバトル場には水エネルギー三枚ついたオーダイル80/130、ベンチにはブイゼル60/60とアリゲイツ80/80。
対戦相手の向井のバトル場にはジバコイル120/120、ベンチには50/50。そしてスタジアムは帯電鉱脈が広がっている。
「僕のターン。特殊鋼エネルギーをジバコイルにつける。そして帯電鉱脈の効果発動、自分のターンに一度コイントスをし、オモテならトラッシュの鋼または雷エネルギーを手札に加える」
特殊鋼エネルギーが鋼ポケモンについてると、その鋼ポケモンが受けるダメージを−10させる効果を持つ特殊エネルギーだ。
そして帯電鉱脈のコイントスはウラ。効果は不発に終わる。そこから向井は手を顎に上げてやや長考するが、その末に出した決断は意外なものだった。
「……。トレーナーカード、ポケモン入れ替えでダンバルとジバコイルを入れ替えてターンエンド」
い、入れ替える? 入れ替えるくらいなら最初からダンバルをバトル場に出していればいいものの。それにHPの低いダンバルをバトル場に晒して。もしかして誘っているのだろうか。
「あたしの番ね。まずはブイゼルに水エネルギーをつけてフローゼル(90/90)に進化させる。そしてサポーターカード発動。オーキド博士の訪問! 山札からカードを3枚引いて、その後手札を一枚山札の下に置く」
オーキド博士の訪問の効果でオーダイル、不思議なアメ、フローゼルの三枚を引く。望んでいたのは水エネルギーだけど山札の下の方で固まっているのだろうか。私は今引いた不思議なアメを山札の下に戻す。
「ベンチのアリゲイツもオーダイル(130/130)に進化させてバトル場のオーダイルで攻撃、破壊の尻尾!」
オーダイルが尻尾を鞭のように振り回し、ベチーンとダンバル0/50を弾き飛ばす。HPの低いダンバルに威力60の破壊の尻尾は痛恨の一撃だ。
「破壊の尻尾の効果発動、相手の手札から表を見ずに一枚選んでそれをトラッシュする。私から見て右のカードをトラッシュしてもらうわ」
向井がカードをトラッシュしてから、モニターで何を捨てたか確認する。む、鋼エネルギーかぁ。本当はキーカードを落としてやりたかったんだけど。
「ダンバルは気絶したためサイドを一枚引いて私の番は終了ね」
「次はジバコイルをバトル場に出す」
あとはジバコイル120/120を倒せばあたしの勝ちね。ところで今引いたサイドはまたしても不思議なアメ。ここまで縁があるんだったら帰りに飴買おうかしら。
さて、ジバコイルはよほどのことがない限り倒せる。ジバコイルの技、クラッシュボルトは80ダメージだ。この向井の番でオーダイル80/130は倒されるが、ベンチにいるフローゼル90/90はなんとかギリギリで耐えきれる。
「僕のターン、帯電鉱脈の効果を発動。コイントスをしてオモテならトラッシュの雷か鋼エネルギーを手札に加える。……、オモテなので鋼の特殊エネルギーを手札に加え、それをジバコイルにつける。そして攻撃! クラッシュボルト!」
ジバコイルがオーダイル80/130に向かって真っすぐ電気の塊の玉を飛ばす。それがオーダイルに触れると、盛大に光をバラ捲いて爆発する。
「オーダイルは80ダメージを受けて気絶! そしてクラッシュボルトの効果により僕はジバコイルについている雷エネルギーをトラッシュする。サイドを一枚引いて終わりだ」
「次のポケモンはフローゼルよ。そしてあたしの番よ」
ジバコイルに鋼の特殊エネルギーが二枚……。これでワザのダメージを与えても特殊鋼エネルギーの効果で−20されてしまう。だとしたら。
「サポーターカード、オーキド博士の訪問を発動。三枚引いてその後一枚を山札の下に置く」
今度引いたのはポケヒーラー+、水エネルギー、水エネルギー。今度は当たりだろう。先ほどサイドを引いた際に加えた不思議なアメを山札の下に置く。
「フローゼルに水エネルギーをつけて水鉄砲!」
フローゼルの口から激しい水流が噴き出され、ジバコイルのフォルムを痛めつける。
「このワザは、このワザに必要なワザエネルギーより多く水エネルギーがついている場合そのエネルギーの数かける20ダメージを追加する。今、フローゼルには水エネルギーが三枚。よって合計60ダメージとなる!」
「ジバコイルについている鋼特殊エネルギーの効果! 鋼のポケモンに特殊鋼エネルギーがついている場合ダメージを減らす。その効果で20受けるダメージを減らしてジバコイルが受けるのは40ダメージ!」
向井のジバコイル80/120はまだピンピンしている。むう、思うように相手のHPが減らない。
「僕の番です。まずは帯電鉱脈の効果を発動。……ウラなので不発です。続いてジバコイルのポケパワー、磁場検索を発動! その効果でジバコイルLV.Xを手札に加え、バトル場のジバコイルをレベルアップ!」
「なっ!」
思わず拍子抜けした声をあげてしまう。さっきのターンに磁場検索を使わなかったから、ジバコイルLV.X100/140は入っていないものだとばかり思っていた。
「ジバコイルLV.Xに雷エネルギーをつけて攻撃。サイバーショック!」
拡散するように放たれた電撃が、多角的にフローゼル10/90を襲う。HPはギリギリ10だけ残り、首の皮一枚だけ繋がったか!
「サイバーショックの効果で、自身の雷エネルギーと鋼エネルギーをそれぞれ一個ずつトラッシュし、相手をマヒにする!」
「マ、マヒ!?」
マヒ。それは状態異常の一つである。
マヒは二回目のポケモンチェック。この場合だと次のあたしの番が終わった後に自然に回復する。
しかし、マヒになったポケモンは逃げることもワザを使うこともできない。
手札のポケモン入れ替えを使ってオーダイルに入れ替えたりすればフローゼルの麻痺は治るが、ロクにエネルギーのついていないオーダイルはただの木偶の坊。攻撃せずにやられるのがオチだ。
今の状態は俗に言う手詰まり。これ以上どうしようも出来ない。
振り返ってこちらを見つめる翔の方を向く。ごめんねという表情を作ろうとしたそのとき。
「姉さん!」
翔の怒声が耳に反響する。
「まだだ、まだ終わってねえ! 自分のデッキを信じたら、必ず奇跡は起こるんだ!」
……そうだね。何はともあれ、一緒に戦ってくれたデッキのために最後まで精一杯頑張ろう。
最愛の父がいつも言っていた言葉を反芻する。「勝負事は諦めの悪いヤツが最後に笑うんだ」
「あたしのターン!」
恐る恐る引いたカードを確認する。……ポケヒーラー+。奇跡は起きた!
「ポケヒーラー+を二枚発動! このカードは二枚同時に使うことが出来る。二枚同時に使ったとき、自分のバトルポケモンのダメージカウンターを八つ取り除き、特殊状態をすべて回復させる!」
「しまった!」
フローゼルに明るく優しい光が包み込む。状態異常のマークが外れ、HPも90/90に全回復。
「本当に首の皮一枚で助かったわねぇ。さあ、フローゼルに水エネルギーをつけて攻撃。スクリューテール!」
フローゼルが巧みに尻尾を回転させ、ジバコイルLV.Xにぶつける。
「スクチューテールの効果はコイントスをしてオモテなら相手のエネルギーをトラッシュする。……オモテね、鋼の特殊エネルギーをトラッシュ!」
しかしスクリューテールのダメージは30。−10されてわずか20ダメージ。しかしジバコイルLV.X60/120についてるエネルギーは全て無くなった。
これで鋼の特殊エネルギーにダメージを減らされることもなくなる。
「僕のターン、帯電鉱脈を発動。……ウラなので不発。雷エネルギーをジバコイルLV.Xにつけてターンエンド」
もうジバコイルLV.Xを守る盾はない。これで決めてやる!
「あたしの番ね、フローゼルで攻撃するわ。水鉄砲! フローゼルにこのワザに必要なエネルギーよりも多く水エネルギーがあれば、その数かける20ダメージを追加する。余分なエネルギーは二つあるので80ダメージ!」
フローゼルから放たれた強力な水流を受けたジバコイルLV.X0/120はこれで気絶。最後のサイドを引くと、試合終了のブザーが鳴り響く。
「勝った……」
目をつぶりながら上を向く。肩の力が一気に抜けて、ちょっとした至福の時間だ。
翔が背中を一押ししてくれたお陰ね。
翔「今日のキーカードはフローゼル!
相手のエネルギーをトラッシュしつつ、
みずでっぽうで一気に倒せ!」
フローゼルLv.29 HP90 水 (DP1)
水無 スクリューテール 30
コインを1回投げオモテなら、相手のエネルギーを1個トラッシュ。
水水 みずでっぽう 40+
ワザエネルギーよりも多く水エネルギーがついているなら、多い水エネルギー×20ダメージを追加。追加できるのは水エネルギー2個ぶんまで。
弱点 雷+20 抵抗力 ─ にげる 1