8話 決勝リーグ第一戦
「レントラーG LV.Xのポケパワー、輝く眼差しを発動。相手のバトルポケモンをベンチポケモンと入れ替えさせる! ベンチのミュウとバトル場のピクシーを入れ替えさせ、レントラーG LV.Xで攻撃! トラッシュボルト!」
よし、これでピクシーは気絶。最後のサイドを引いて俺の勝ち。予選第三ラウンドを勝ち抜いて決勝リーグに出場確定だ。
小さくガッツポーズを作った後、スタッフから決勝リーグ用のバトルシートをもらって予選会場から離れる。
決勝リーグの集合時間が思ってるより早いので、あまりのんびり昼飯は食えない。
もっと早く昼飯買っとくんだったなぁと自らの判断の悪さを嘆く。一之瀬さんみたく早めに買うのが正解だった。
なんとなく携帯を開くと由香里からメールがあった。三分前に来たそれには、会場出口辺りに来いとだけ書いてあったので、仕方なくそこに向かうとやけに笑顔の由香里が待っていた。
「どやった?」
「俺決勝リーグ行きやで」
「へー、啓史も勝ったんや」
「お前はどうなん」
「予選くらい余裕に決まってるやろ?」
男子のように無邪気に笑う由香里。余裕余裕っていつか足元掬われそうなことを言いやがる。
「飯食わへん?」
と言って由香里はハンドバッグを掲げる。
「どーせ売店込むやろと思っておにぎり作ってきてん。杉浦の分も作ってたんやけど、なんか知り合いとあっこのやたら値段高いレストラン行くとか言ってたから二人で食うで」
「おおっ、マジか! ありがとう。えぇ子やなぁ」
「えぇ子ってなんやねん」
「とか言いながらめっさ笑顔やん」
「そんなんええから! はよ食べに行くで!」
再入場用のスタンプを押してもらい、笑いながら一旦会場を後にする。会場内の飲食は流石にマナー的にも気になるところだしね。
とりあえずインテックス大阪をうろついて適当なベンチを見つけ、二人腰を下ろす。
「啓史ってなんか苦手なおにぎりの具とかあったっけ?」
「なんやろ。ツナマヨとかは好きちゃうな、梅干しも食えへんことはないけどもあんまり」
しかしおにぎりの具なんてやりたい放題だから苦手な具と言われても。極論、ハバネロを突っ込んでもおにぎりに成りうる。
「ハバネロは?」
「ハバネロなぁ。……は?」
「いや、せやからハバネロ食える?」
「まさかおにぎりにハバネロ入れたとか」
「割りと普通の選択肢やろ?」
「アホ言うな。ってか何の具があんのか教えてーや」
「えー、そんなん言うたらおもろないやん。ロシアンルーレットみたいなのを……」
「殺す気かい」
もはや呆れ調子でおにぎりを適当に一つ受けとる。
若干びくつきながら食べてみるとどうやら鮭フレークが入っていたようだ。まともでよかった。
「塩が利いててなかなかいけるやん」
「お茶いる?」
由香里がバッグから小さめの水筒を取りだし、水筒のフタにお茶を注ぐ。
「ありがと」
「もっと大阪城公園とか万博公園で食った方が風情あんのになー。何が悲しくてこんな埋め立て地で食うてるんやろ」
「俺に文句言わんといてーや」
たとえそこに行ったとしても、なにより季節がまだまだ冬なので寒いのなんの、風情もないよ。
陽は照っているものの、前も言ったが埋め立て地だけあって海に近いせいか、風が強いし冷たい。お陰で鼻水が止まりそうにない。海風本当に辛いぞ。
「やっぱでかい公園みたいなとこで食いたかったなぁ」
「やろ? あたし今それ言うたやん。あっそうそう」
「うん?」
急に話題の切り返しをしてきた由香里は、首からぶら下げた決勝リーグのバトルシートを指差す。
「啓史の番号何? あたしは7やねんけど」
番号というのはバトルシートに書かれているものだ。この番号によって対戦相手を決めるらしい。
「俺は15やったかな」
「なんや、まあさすがに一回戦じゃ当たらんか」
「普通に考えて、順当に行けば準決勝で対戦か」
「決勝で当たるわけでもないねんなぁ」
決勝リーグは32人で行われるトーナメントだ。また、今年からバトルベルトを用いて行われるため、場所的な問題で四試合ずつしか出来ない。同時に最大八人ずつ対戦する仕組みだ。
だから、一回戦は由香里の試合を俺が観戦することも出来るしその逆も然り。
観戦可能になるとカードプレイヤーのライフラインであるデッキの中身がバレてしまうが、バトルベルトにカードが登録されるとかでデッキ自体は変更不可能となっている。ゲームならばそれでも十分問題だが、カードならこれである程度条件緩和がされる。
「まあ由香里と公式戦なんて面白そうやし、頑張って準決勝行くで」
「その前にくたばらんといてや? あたしかてあんたと対戦したいんやから」
由香里が頬を緩ませていたずらに笑う。本当にこいつは……。
「ん? なんかあった?」
「あ、いや」
思わず由香里の顔を見つめていた。昔よりも表情のレパートリーが増えた気がする。それが良いことなのか悪いことなのか。
一つため息をついて、残りのおにぎりにがっつく。
一回戦が始まろうとしている頃。出場選手は所定の位置に立たされる。
というのも、バトルベルトはポケモンを立体的に再現するための機械なので場所をそれなりに要する。
お陰で同時に複数人しか対戦出来ず、大会進行に時間がかかるデメリットもある。
指示通りにバトルベルトを操作すると、ベルトについているモンスターボール型のオブジェクトが変形してテーブルを形成する。
そして形成されたバトルベルトのデッキポケットにデッキを挿入し、シャッフルボタンを押すと、オートでシャッフルし出す。この瞬間にデッキはバトルベルトに登録され、この大会ではこの60枚しか使えなくなる。もし違うカードが一枚でも混ざればブザーが鳴って戦えない仕組みだ。
サイド六枚もセットされ、最初の手札の七枚を引く。
互いにたねポケモンをセットし、バトルの準備を整える。
「よろしくお願いします!」
対戦相手の西山 弦(にしやま ゆずる)の最初のバトルポケモンはミカルゲ、ベンチにはイーブイ。あたしのバトルポケモンはヒトデマンでベンチポケモンはなしだ。
「おれのターン!」
西山が先攻をとる。ミカルゲ60/60とイーブイ50/50という組み合わせではまだ相手のデッキを類推出来ない。
「イーブイに草エネルギーをつけ―――」
イーブイに草エネルギーということはリーフィアがデッキにいる可能性が非常に高いか?
「ミカルゲのワザを使う。ダークグレイス!」
ミカルゲの体から真っ黒い霧のような何かが噴出され、ベンチにいるイーブイを覆っていく。
少ししてその黒い何かがすっと消えると、イーブイの代わりにリーフィア90/90が現れる。
「このワザは自分のデッキから自分のポケモンを進化させるワザ。その代わり、ダークグレイスを使ったミカルゲはHPを10減らさなくてはならない」
ミカルゲの右下に表示されているHPバーが僅かに減少し、50/60と表示される。
「よし、あたしのターン。まずは手札の水エネルギーをバトル場のヒトデマンにつけて、ベンチにタッツーを出すわ」
ヒトデマンの後ろに新たにタッツー50/50が現れる。
タッツーはこの後のための大事な種、今はそのための準備をしよう。
「手札からグッズ発動すんで。ゴージャスボール!」
「悪いけどそうはいかへん、ミカルゲのポケボディーの要の封印によって、こいつがバトル場におる限り互いにトレーナーは使えない!」
しまった。速攻を仕掛けるつもりが、こうもあっさりと止められてしまうなんて。
更にこのミスで手札にゴージャスボールがあるのを露見させてしまった。
「……それならヒトデマンのワザを使うで。コスモドロー。相手の場に進化ポケモンがおるとき、デッキからカードを三枚引く」
進化ポケモン、リーフィアがしっかりいてくれるお陰で序盤から簡単に手札増強は出来る。
「さっきミカルゲのダークグレイスで進化させたのが仇やったな。これであたしの番は終わりや」
由香里「今回のキーカードはミカルゲ。
序盤の展開役として最高のカード。
要の封印は超強力なロックポケボディーや」
ミカルゲ LV.39 HP60 悪 (DPt4)
ポケボディー かなめのふういん
このポケモンがバトル場にいるかぎり、おたがいのプレイヤーは、手札から「トレーナー」を出して使えない。
─ ダークグレイス
自分の山札から、自分のポケモン1匹から進化する「進化カード」を1枚選び、そのポケモンの上にのせ、進化させる。進化させた場合、自分にダメージカウンターを1つ乗せる。その後、山札を切る。
悪 おにび 10
弱点 ─ 抵抗力 無−20 にげる 1