Hyper fresh
7話 PCC大阪開戦!
「あっ、アイコさん。今着きましたよ」
『お疲れ様ね』
「とりあえずホテルにチェックインしてからポケモンセンターオーサカにでも行ってみます」
『遊びに行かした訳じゃないわよ、ちゃんと仕事しなさい』
「分かってますよそれくらい」
『いつもはもっと大人数で行くんだけどもごめんね? こっちもいろいろ忙しくて。言わなくても分かってるだろうけど』
「大丈夫です。任せてください」
『うーん、そう言われると逆に不安ねぇ。とにかく、大阪はよろしくね。一之瀬くん』
 PCC大阪地区予選が明日に控えた日の昼頃、新大阪駅に一人の男が現れた。
 一之瀬と呼ばれた彼は、携帯電話の通話が切れたのを画面で確認する。通話相手は松野藍。クリーチャーズの社員であり、彼の上司である。
 とある仕事のために彼は東京から大阪にやって来たのだ。
 携帯電話を畳んでポケットに入れると、彼は新大阪駅の出口を目指す。



 来る二月下旬の土曜日。翌日が模試とぶつかるため、二日あるPCC大阪予選を、日曜日ではなく土曜日を選んだ。由香里ももちろん土曜日だが、タカは俺達の都合に合わせてくれた。
 会場はインテックス大阪。大阪市の南西部に位置する建物で、こういうイベントにならなければ陽の目を浴びない埋め立て地である。とはいえ割りと頻繁にイベントは行われているが。
 地元の地下鉄の駅で集合した俺達は、しばらく電車に揺られると、途中から中央線へ乗り換えて今度はコスモスクエア駅に行き、そこから更に南港ポートタウン線に乗り換えて二駅次の中ふ頭駅で降りる。
 もちろん、電車に乗っている間は口を開けて天井を眺め、だらっと寝ている訳もない。
 タカのようにゲーム部門出場者はギリギリまでポケモンを確認、及び努力値を振っていない場合はさっさと振る。ちなみにこの作業は電池との戦いであり、前日にきちんと充電しないと痛い目に会う。余談だが去年のタカはその目に会った。
 今年からカードで出場する俺と由香利は、自分のデッキとスペアカードを見比べうんうん唸る作業をしなくてはならない。他のカードゲームとは違い、デッキが60枚以上ではなく60枚ジャストでなければならないので、欲しいカードを全部詰めておくという訳にはいかないのだ。そもそもデッキ圧縮的に60枚を越すというような考えは普通はないのだが。
「啓史、コスモスクエア着いたで」
 由香利が俺の右肩を結構な力でバシバシ叩きながら言ってくれる。痛いです。
 適当に頷き、広げてたカードを慣れた手つきで手に持ったケースに直して席を立つ。そしてホームへと降り立ち、南港ポートタウン線へと向かおうとしていた時、背後から急に現れた人とぶつかった。
「でふっ!」
 後ろからの衝撃に耐えきれず、思わず前に倒れそうになる。
 ギリギリのところで踏みとどまったが、手に持っていたカード数枚が手の中からこぼれ落ちる。線路に落ちなくてよかった。
「ごめん、大丈夫!?」
 ぶつかった張本人が、慌てて重そうなショルダーバッグを下ろして落ちたカードを回収する。
 幸いにもそんなにあちこちに散らばりまくったわけでもないのですぐに回収することが出来た。
「本当にごめんね」
「えっと、大丈夫です」
 時間ギリギリだったらぶちギレだった。早めに家を出れて本当に良かった。
 改めてぶつかった男を見れば、ひょろい体格で、髪型にもあまり特徴がなく、大学生のように見えた。この人にかろうじて印象をつけるなら優男?
 しかしまあ用は済んだわけだし、軽く会釈して立ち去ろうとすると、それを引き止めるように男が声をかけてきた。
「君たちはPCCに出るんだよね」
「はぁ」
「僕も行くんだけど、連れて行ってくれないかな、この辺全然来ないもんだから分からなくて」



 別に断る理由があるわけでもないので、この優男と一緒に行くことにした。
 男の名前は一之瀬 和也(いちのせ かずや)というらしい。
 言葉の訛りが関西圏ではなさそうなので、どこの人かと尋ねたところ、なんと東京から来たらしい。
「なんで東京から大阪に来たんですか?」
「えーと、まあ仕事みたいなのかな」
 仕事ってことはスタッフ? 会場のスタッフって東京からわざわざ来てるの? っていうか選手と同じ時間で来るってどーよ。
「ところで森くん達はカードでPCCに出るの?」
「えっとここにいるタカだけゲームで、俺と由香里はカードです」
「へー。それじゃあさっきのお詫びも兼ねて、僕が森くんと宇田さんにプレゼントをあげよう」
 と言うなり一之瀬さんはすぐさま重そうなショルダーバッグをごそごそ漁り始めた。
 一之瀬さんは横に広い直方体の段ボールを二つ取り出し、それぞれ俺と由香里に渡した。
「お?」
「それは『バトルベルト』。今年から公式大会で導入される機械で、TECKって会社が作ったんだよ。企画したのが高校生らしいけどすごいね」
 バトルベルトはよく聞くし、玩具店などでショーウィンドウ越しに見たことはある。
 一色のベルトにモンスターボールのような球体が六つついた機械で、一定の操作を行う事でモンスターボールがテーブルに変形し、そのテーブルを使ってポケモンカードを使うと鮮明な3D映像として実際にポケモンが動いてるように見える最新機械である……らしい。
 もちろん、立派なものだけあってか値段が相当なので買う気にはなれなかった。大会の予選はともかく本選ではこれが導入されるのだが、レンタル可能なのでそっちに頼るつもりだったものの、もらえるなんて嬉しい誤算。俺は一之瀬さんの手を握って何度もありがとうといいながらその手をぶんぶんと強く振った。
「杉浦君はごめんね。今はゲームの方も作ってるらしいから、そっちが出来てまた会えたときに」
「あっ、ありがとうございます!」
 しかしこんな高いものをくれるなんてただ者ではない。親しくなってウルトララッキー。ここで運を使い果たしたかもしれない。
「箱のまま持っていくのは大変だし、大会まで時間があるからここで開けてみたら?」
 一之瀬さんは荷物の減ったショルダーバッグを担ぎ直して提案する。
「よっしゃ、開けよか!」
 段ボールに一切の配慮なく豪快に開けていった由香里を尻目に、俺も自分のを開けていく。
 薄いブルーのバトルベルト。なかなかいい色だ。持った感じはやはり重みがあるのだが、これくらいはなんてことない。
「よし、着けれたで」
 今つけていたベルトを外して新たにバトルベルトをつける。
 由香里も着けたらしく、自慢気に見せつける。色は薄い赤だ。
「似合ってる似合ってる」
 一之瀬さんはご満悦らしく、俺たちのことを称賛する。
 いやぁ、しかし結局はほんと時間よりも早めに出てよかった。早起きは三文の得ということわざを初めて体で知った。
 段ボールや梱包材等を駅のゴミ箱に押し込み、説明書や備品を鞄の中に入れ、目的地に向かい再び歩き出す。
「思ってたより遅くなったけど、そろそろ行こか」
 コスモスクエア駅からようやく南港ポートタウン線に乗り換え、中ふ頭へ向かう。
 予想通りであるが、南港ポートタウン線にいる人のほとんどがDSをいじくっている。
 俺はゲームで出場しないのでこいつらすげぇと遠目に見るも、隣にいるタカにしてはプレッシャーを感じているかもしれない。
 この二駅の間は短く、中ふ頭駅に着いた。
 乗客の大多数がこの駅で降りる。普段は使われなさそうな線なだけに多少は金が回るな、なんてどうでもいいことを考えていた。
 中ふ頭駅は至ってシンプルな駅で、キップ売り場と改札とホームしかないといっても反論はないような小さい駅だ。そこがごった返すんだから大変大変。
 人で溢れる改札をサクッと通り、駅から直結している白い橋を渡る。
 橋を渡り終え、別れ道を右に進むとすぐにインテックス大阪が見えてくる。
 インテックス大阪は国際会議に使われることもあるらしく、そのときに旗をつけるであろう白い棒が風でカタカタ騒いでいた。
 そこから少ししてインテックス大阪の玄関口が見えてくる。
「ねぇ、この辺りってコンビニとかない? 喋り疲れて喉渇いちゃってさ」
 一ノ瀬さんが尋ねてくる。
 この人、出会ってからずっと喋りっぱなしなのだからそりゃ渇くだろう。が、
「ないです」
 そう、全くない。
 一ノ瀬さんが後ろにエフェクトが付き添うなほど露骨なリアクションをとった。
「えぇ!? お昼ご飯もなし!?」
「あ、でも会場内に売店みたいなのがいくつかあるからそこで弁当やらペットボトルやらありますよ」
「それならよかった」
 とやりとりしてる間に、インテックス大阪の玄関を越える。すると開放的な空間が広がり、いくつか売店の姿が見える。
「ほら、あれとか売店ですよ」
「おぉ、ありがとう! みんなも喉乾いてるんじゃない? なにか買ってあげるよ」
「いや、いいですいいです」
 いいですと言いつつ、めっちゃ欲しいです。
 でも露骨におごってもらうと悪い気がするからね。無駄な抵抗をして少しでもいい人っぽく装った方が印象がいい。
 由香里はそのことを知っているのですごい白い目で俺を見つめた。どうせお前も欲しいだろうに。
「いやいや、案内してくれたお礼ってことで」
 俺の呼び止めも虚しく一ノ瀬さんは売店の中に入っていった。しめしめ。しかし同時にタカも一之瀬さんとは反対方向に去っていく。
「それじゃあまた後でな」
「おう」
 タカはネットの友人と会いに行くため、ここからは別行動である。あとでまた合流することにはなっているのだが。
 遅れて売店から出てきた一ノ瀬さんは、おにぎりと爽健美茶と、缶ジュースの温かいコーンスープを三つ持って来た。
「あれ、杉浦くんは?」
「別の友達のとこに合流しました」
「そっか。じゃあとりあえず二人にはコーンスープを。僕もこれからいろいろあるからまた後でね」
 立て続けに一ノ瀬さんとも別れてコーンスープを手に持った俺と由香里の二人はただ立ち尽くす。なぜコーンスープ。とにかくもらったコーンスープをさっさと飲んで処理(入場の際に持ち物検査があり、そのときに飲み物は徹底的に調べられて面倒だから)して会場へ入場する。
「ゲームのカテゴリーBの最後列はこちらでーす!」
 スタッフ専用の赤いウインドブレーカーを羽織った男性職員が大きな声を張り上げる。
 まだまだ寒さの続く二月。海に近いため冷たい海風もやってくるインテックス大阪で、ゲームカテゴリーBみたいな列に並ぶだなんて冷えて冷えてたまらない。
 そんな行列を横目に、俺たちは手早く会場の方に進んでいく。ゲームと違ってカード出場選手は少ないため、列は並ばずさっさと中に入れるのだ。
 会場入り口のスタッフに、だいすきクラブのカードと身分証明となる高校の生徒手帳を提示すると選手証を受けとる。
 そのあと、荷物検査と金属検査を受ける。
 そしてようやく会場内だ。俺と由香里は迷う暇なくカードの予選ラウンドが行われる方へ向かった。

啓史「今回のキーカードはガブリアスC LV.X!
   ポケパワーも強力やけど、なんといってもそれ以上の魅力はワザやな。
   ドラゴンダイブに死角はなし!」

ガブリアスC[チャンピオン] LV.X HP110 無 (Pt)
ポケパワー いやしのいぶき
 自分の番に、このカードを手札から出してポケモンをレベルアップさせたとき、1回使える。自分のSPポケモン全員のダメージカウンターをすべてとる。
無無無 ドラゴンダイブ
 自分のエネルギーを2個トラッシュし、相手のポケモン1匹に、80ダメージ。次の自分の番、自分は「ドラゴンダイブ」を使えない。
─このカードは、バトル場のガブリアスC[チャンピオン]に重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 無×2 抵抗力 ─ にげる 0

照風めめ ( 2011/08/08(月) 12:55 )