Hyper fresh
6話 昔の約束
 フードコートにやってきた。大概こういうところは相当な広さを誇り、人が多くて困るのだが由香里達を探すのに時間はかからなかった。
 それもそのはずフードコートに入ると同時に石焼きビビンバを乗せたお盆を運ぶ由香里とすぐに出会った。
「勝てた?」
「当たり前やん、ちゃんとカードもらって来たで」
「まあそれくらいは当然やな。で、とりあえず杉浦も待ってるから席教えるわ」
 今いるところからタカが待っているところまではそう距離はなく、ちょっと歩くだけで席に着いた。タカはラーメンを食べながらDSしている。
 席について由香里はビビンバを置くと水取ってくると言って雑踏に混ざっていった。
「どやった?」
 タカがスープをレンゲで掬いながら話しかけてくる。こっちを見てない。
「ちゃんと勝てたで。そっちの方は?」
「ここ来てからワイヤレス通じるようなって、今三戦目。ちょこちょこギラティナ出てきてめっちゃうっといわ」
「パルキア入れてへんかったっけ」
「いつもとちゃうPTでやってる」
「ふーん。とりあえず俺もなんか飯買ってくるわ」
「ゲームの方までまだ一時間あるからあんま慌てなくてもええで?」
「じゃあのんびり決めてくるわ」
 そう言って、タカのいるテーブルを離れる。そんなお昼の一時だ。
 店を回ってうんうん言った割には、俺もタカと同じくラーメンを食べることにし、ささっと食べるとデッキケースを直して午後のゲーム部門のためにDSを取り出した。
「あれ、由香里はゲームも出るっけ」
「あたしも出るよ? ちゃんとDS持ってきたし」
 と、ハンドバッグから黒いDSLiteを見せつける。
 DSを出したのと入れ替わりにデッキケースを直しかけた由香里だが、手が滑ったらしくケースを床に落としてしまう。
 しかも蓋がきちんと閉まっていなかったがために中のカードがこぼれ落ちている。
「おっと」
 なんだか俺のせいで落とした気がしてなんだか悪い。という訳でもないのだが、脊髄反射的に落ちたカードを拾うのを手伝う。
 由香里のカードは基本的にデッキシールドされているのだが、一枚だけデッキシールドのされていないカードが落ちていた。
 他のカードがまだ拾われていないにも関わらず、先にそのカードを拾いあげる。
「なんだこれ」
 裏面は普通のカードだが、表面の部分は剥がされ、剥がされたところにボールペンでイラストとテキストが書かれていた。※プロシキカードかと思ったがそうでもないようだがなんだこれ。
※プロシキカード・代理のカード。持って無いカードを代理で別のカードを入れて使うこと。
 カード名は「マニーの決意」とのことで、サポーターカードらしい。バクフーンを連れ、腕組みをした男がイラストにある。
 そのカードテキストには、「約束を守る」。はぁ?
 なんだこれと思っていると、由香里がひったくるようにそのマニーの決意を奪い取った。
「……」
 急に手元のカードをひったくられたことに呆気に取られ、由香里を見つめる。
「な、なんでもええやん!」
 顔を赤くして大きな声を出す由香里。よくわからないままこれまた反射的にごめんと謝ってしまう。
 とはいえあのカードのことを思い返してしまう。あの字は筆跡からしても由香里のではない。力強くカクカク書かれた具合が男の字だと物語っていた。
 まさか彼氏とかか!
 一人でニヤニヤしていると、隣のタカが不審な顔でこっちを見てきた。
「なるほど、そういうことか」
 確証を得るためにアタックを仕掛ける。
「な、何よ」
「誰からもろたん?」
「……」
 自分でも余計に顔がニヤつくのを実感する。そして自分で自分が気持ち悪いとも思う。
「もー、鬱陶しいし隠すことでもないから言うわ」
 開き直って白状モードか! さあ真実はなんなのか!
「ほらあたしさ、中学んとき東京行ってたやろ? 東京から大阪に戻るときにあたしと向こうの友達二人と作ってん」
 もらった、ではなく作ったらしい。まあ自作カードなのは分かるが。
「離れても、ポケモンカードやってたらまた三人いつか会えるっていう約束こめて、な」
 青春臭くて妬ましい。いや、でもポケカしてたらまたいつか会える? 意味が分からん。
「やからポケモンカードで会うっていう約束を守ろう! って忘れへんようにね」
「なるほど」
 あんましわからん。
 そういえば、由香里は東京行く前はポケモンカードやってなかったのに、戻ってきたらポケモンカードをやっていたな。
 その東京の友達らに影響されたんだろうか。
 でもこれ以上根を掘るのはなんだか野暮っぽいから、今は遠慮しておこう。
 さっさと残りのカードを拾い、ぐだぐだしていると、割りといい時間になっていた。
「よし次のゲーム部門もサクッと行こか!」



 再び会場に戻ると、先程よりも大きいお友達が一段と増えていた。
 予想していたよりも多く、少し面食らいそうになる。
「来年のPCCの調整に来てるんやろな」
 タカは俺の表情を察してか、声をかける。
 PCCとはポケモンチャレンジカップの略で、毎年行われるポケモンの世界大会である。
 各都道府県で予選を行い、その予選と東日本、西日本で行われる敗者復活戦の勝者が東京で更にトーナメントで戦い、そのうち何名かがハワイで行われる世界大会に行くのだ。
 このバトルチャレンジはゲームもカードもPCCと同じルールなので、各環境を調べる絶好の場である。Wi-Fiとは違った臨場感もある。
「うーん、なんかちょっと緊張するな」
 ちなみに俺は、PCCではカードではなくゲームで出場予定。
 というわけでここからが正念場だ。



「メタグロスで大爆発!」
「ディアルガのトリックルーム」
「ミュウツー、吹雪だ!」
「ドーブルでこの指止まれ!」
「ギラティナのシャドーダイブだ」
 声が飛び交う会場の中に俺はいなかった。
 現在、ギャラリーに混じって遠目でタカを応援している。
 距離があるのでもちろんDSなんて見えず、かろうじて浮き沈みするタカの表情で試合の優劣を推し測るのみ。
 俺は一回戦で手持ちのカイオーガが放った雷の威力が足りず、相手の攻撃を急所に受けてリズムを狂わされたために負けてしまった。
「まさか一回戦で負けるってのはなぁ」
「運ゲーで負けたんやろ? しゃーないやん」
 同じく一回戦負けの由香里が、ざまぁねぇなと言わんばかりににやつきながら話す。
「くっ、めっちゃ腹立つ」
「あたしはカードでPCC出るから別にええんやけど、啓史はゲームやろ? この調子やったら予選も危ういやん」
 タカが大きくガッツポーズを作る。
 俺らとは違って、きっちり三連勝をして記念品を受けとる。
「俺、やっぱさ」
「?」
「ゲームよりカードで出るわ」
「これまたずいぶん都合良い考えやん。ま、相手になっても手加減せーへんで?」
 調子の良い由香里の返事を鼻でふんと笑って一蹴する。
 そんなことをしているうちにどうやらタカも戻ってきたし、時刻も陽が沈み始める頃だ。半日くらい世話になったショッピングモールを離れ、俺たちは大阪の街へと戻っていく。



啓史「今日のキーカードはマニーの決意!
   約束のカード、ねぇ」

マニーの決意 サポーター
 全国大会で再会する約束を守る。

 サポーターは、自分の番に1枚だけ使える。使ったら、自分のバトル場の横におき、自分の番の終わりにトラッシュ。

照風めめ ( 2011/05/08(日) 23:41 )