10話 スピードとテクニック
あたしのサイドはまだ五枚。それに対して相手のサイドは四枚。と劣勢に追い込まれている。
さらにサイドだけでなく、場の整い具合でも劣っている。
あたしのバトル場には水エネルギー一枚のキングドラ130/130。ベンチにはエネルギーなしのヒトデマン50/50。
その一方で西山のバトル場は草エネルギー二枚ついたリーフィアLV.X70/110、ベンチには同様に草エネルギー二枚のジュカイン80/100、草エネルギー一枚のシェイミ70/70。
しかも相手のリーフィアLV.Xの深緑の舞が決まると先のターンみたいにあたしのキングドラは一撃で倒されてしまう。
だというのに、今のあたしの場と手札ではリーフィアLV.Xを倒すことが出来ない。むしろよくキングドラを一匹残せたなと褒めてほしいくらいだ。
そんなとき、不意にあの言葉を思い出す。
『余裕で勝ってるよりさ、苦戦してるくらいの方が楽しいだろ?』
中学時代、二年間東京で過ごしたあたしと親友になってくれた奥村翔の言葉だ。
常に前を向いていて、くじけたってすぐに立ち上がって。笑顔の眩しい少年だった。
そう。これくらい負けてるときのドキドキが楽しいんだ。
逆転への道が切り開かれるかもしれない。この期待がカードの醍醐味!
「手が止まってるけど諦めたんか?」
「何言ってんねん。勝負はこっからやで! あたしのターンっ!」
来いっ、逆転への道標!
……そう願って引いたカードはポケモンの道具、達人の帯。
「来たで、リーフィアLV.Xをトラッシュに送る用意しときや!」
「……はぁ? どうするつもりやねん」
「ふふっ、あたしはサポーターカードのバクのトレーニングを使うで。その効果でデッキから二枚ドロー。更にベンチにタッツー(50/50)、フローゼルGL(80/80)をベンチに出す!」
これで手札が残り三枚。エネルギーをポケモンにつけたかったが、キングドラのワザの仕様からリーフィアLV.Xを倒すには我慢するしかない。
「キングドラにポケモンの道具、達人の帯を付けんで。達人の帯をつけたポケモンのHPは20アップし、与えるワザのダメージも20アップ! デメリットとして、このキングドラが気絶したときに相手はサイド二枚引くことができる」
「わざわざサイドをくれるようなもんやな。いくらHPをあげてもたかが20、おれが草エネルギーを次のターン誰かにつけるだけで気絶やん。それにワザの威力をあげたかてリーフィアLV.XのHPは―――」
「そうはいかへんねんで。手札を二枚トラッシュしてキングドラで攻撃、ドラゴンポンプ!」
水エネルギーとクロツグの貢献を手札からトラッシュ。これであたしの手札は0。
キングドラ150/150が噴射する水が水龍となり、バトル場のリーフィアLV.Xとベンチのジュカイン60/100を襲う。
「ドラゴンポンプは手札を二枚トラッシュすればワザのダメージが20上がり、ベンチポケモン一匹にも20ダメージ与えることが出来るワザや。それに達人の帯の効果も合わせて威力を20上げても、リーフィアLV.Xの抵抗力は水タイプから受けるワザの威力を20下げるもの。60ダメージをリーフィアLV.Xが受けたところで、残りHP10となってギリギリ耐えきる!」
「忘れもんやで」
バトル場の横においたカードを、西山に見せる。
「バッ、バクのトレーニング……!」
「バクのトレーニングがバトル場の横にあるとき、このターンのワザの威力を10上げる! サポーターは使うとバトル場の横において、自分の番にトラッシュすんのはもちろん常識やんな?」
水龍がリーフィアLV.Xにその身をぶつける。リーフィアLV.Xは衝撃で体が後ろに飛ばされながらHPバーを緩やかに減らしていく。その残りHPはもちろん、0/110だ。
「くそっ、せやったらシェイミをバトルに出す」
「サイドを一枚引いてターンエンドや。追い付いたで」
「よしっ、おれの番や」
西山の手札はこれで三枚。決して多いとは言えない手札でどう仕掛けてくるか。あたしの場には達人の帯で強化されたキングドラ150/150がおる。迂闊には相手は動けないはずだ。
「キングドラが怖いな……。でもまた一撃で倒せる程のパンチ力はもうあらへん。なら粘って機を伺うまでや! おれはシェイミに草エネルギーをつけてレベルアップ!」
シェイミの体が薄い光に包まれて輝く。HPバーも70/70から100/100に上昇だ。
「シェイミLV.Xのポケボディー、感謝の気持ちによってこのシェイミ以外の全ての草ポケモンのHPは40上昇する!」
HPを上げることによって耐久力を増して、チャンスを狙う作戦かしら。ベンチのジュカイン60/100も100/140までHPがアップする。
「そしてサポーター、デンジの哲学によって手札が六枚になるまで、つまり六枚ドロー。ベンチにイーブイ(50/50)を出してシェイミLV.Xで攻撃、シードフレア!」
シェイミLV.Xが、蛍に似た光を身体中に帯びる。
「シードフレアの効果により、手札の草エネルギー二枚をベンチのイーブイにつける。シードフレアは自分の手札の草エネルギーを好きなだけ選び、自分のポケモンに好きなようにつけれる効果や。つけた場合、つけたエネルギーの枚数かける20ダメージを追加、二枚つけたため元の威力40に40を加えた80ダメージ!」
シェイミLV.Xを包んだ光がレーザーとなって真っ直ぐキングドラを貫く。150もあったキングドラのHPがあっさり70/150、半分を切ってしまった。
「あたしのターン、ヒトデマンをスターミー(80/80)に進化させ、ユクシー(70/70)をベンチに。そしてこのときユクシーのポケパワーのセットアップを発動や、セットアップ。手札が七枚になるようにデッキからドローする。あたしの手札は0。やから七枚引くで」
キングドラのドラゴンポンプは高火力を保つために手札がたくさん必要とされる。そのための対策としてのドローソースはしっかり用意してある。
デッキから引いたカードは、フローゼルFB LV.X、夜のメンテナンス、シードラ、ハンサムの操作、水エネルギーが三枚。これで残りのデッキも26枚、引きすぎもまた破滅。そろそろデッキの方にも気をかけなくちゃならないかな。
「スターミーのポケパワー、アクアサイクロンの効果によってトラッシュの水エネルギーを手札に加え、それをベンチのタッツーにつける。さらにタッツーをシードラ(80/80)に進化させ、グッズカード、夜のメンテナンスを使うで」
「夜のメンテナンス……。トラッシュの基本エネルギーかポケモンを三枚までデッキに戻すカードか」
「あたしはタッツー、シードラ、キングドラの三匹をデッキに戻してシャッフル! 手札の水エネルギーを二枚トラッシュしてキングドラのドラゴンポンプで攻撃!」
ドラゴンポンプがあたしのデッキのメインとなる攻撃ワザ。威力ももちろん、ベンチも狙え、そしてなにより必要なエネルギーが少ない!
「シェイミLV.Xは水タイプに抵抗力がある。達人の帯で威力が上がっても食らうダメージは60!」
「言うてもドラゴンポンプの効果で、ベンチにおるイーブイにも20ダメージ」
シェイミLV.X40/100を襲った水龍がベンチのイーブイにも食らいつく。イーブイのHPバーは削られて30/50。
シェイミLV.Xのポケボディー、感謝の気持ちのせいでジュカイン100/140のHPは40も上がった。20ずつ削ってもキリがない。
それにどうせシェイミLV.Xは次のターン、ポケボディーを継続させるためにベンチに引っ込むはず。
だったら次に出てきそうなイーブイのHPを少しでも削るべき。
ベンチを攻撃出来るからこそ広がる選択肢、それがこのデッキの強みだ。
「おれのターン! シェイミLV.Xの草エネルギーをトラッシュし、ベンチのイーブイと入れ換える。そしてイーブイをリーフィア(本来のHPは70/90だが、シェイミLV.Xのポケボディーによって110/130)に進化! さらに手札からサポーター、オーキド博士の訪問を発動。デッキから三枚引いて、手札から一枚デッキの底に戻す。そしてベンチのシェイミLV.Xに手札の草エネルギーをつけ、この瞬間にリーフィアのポケボディー発動。エナジーリフレッシュ!」
「っ……」
「リーフィアがバトル場にいて、自分のポケモンに手札からエネルギーをつけたときに発動し、エネルギーをつけたポケモンのHPを20回復させる」
のびをするかのように体を立たすシェイミLV.XのHPバーが緩やかに上昇し、60/100へ。
「リーフィアで攻撃、アロマスリープ!」
リーフィアから淡い緑の霧が発せられ、キングドラを包み込む。その霧の中でキングドラのHPが10/150まで落ち込んだが、なんとか間一髪で持ちこたえる。
がしかし、あろうことかキングドラは横になり始める。程なくHPバーの少し上に眠りの表示が現れた。
「アロマスリープの追加効果でキングドラには眠ってもらうよ。ターンエンド」
「けどこのポケモンチェックでオモテ出したらええだけや」
ポケモンチェックのときにコイントスでオモテを出せば、眠りは回復になる。ここで眠りから回復出来なければ相手からダメージを受けるだけのサンドバッグになってしまう。
コイントスボタンを押すと、データで処理した判定が来る。コイントスによるイカサマやいざこざを減らすための処理だ。
「よしオモテや。キングドラはこれで起きるで」
「……せっかく眠らせたったのに」
「へへん、残念やったな」
これでこの番キングドラは自由に動ける、しかしキングドラ10/150のHPは僅か。次のターンにはほぼ間違いなく気絶させられてしまうだろう。
しかも達人の帯をつけているせいで、このキングドラが気絶した場合は相手はサイドを一枚多く引くことが出来る。
現在どちらのサイドも残り四枚、ここで二枚差をつけられるのは辛い。中盤になると挽回をするのが難しくなる。
「あたしのターン。まずは手札の水エネルギーをフローゼルGLにつけ、手札からサポーター、ハンサムの捜査を発動。相手の手札を確認して、自分か相手のどちらかを選択し、選択されたプレイヤーは手札を全てデッキに戻してシャッフルし、五枚ドローする。手札見せてや」
西山の手札はジュカイン、リーフィア、ジュカイン、不思議な飴の四枚。いい手札とは言えないそれを、わざわざ戻して五枚引かせる義理はない。
「あたしは自分の手札をデッキに戻してシャッフル、五枚ドロー。よし、手札の水エネルギーを二枚捨ててキングドラで攻撃。ドラゴンポンプ!」
リーフィアの抵抗力も水なので受けるダメージは20軽減されて60ダメージ。これでようやく残りHPは50/130だ。そしてドラゴンポンプの効果でシェイミLV.Xに20ダメージを与えたが、まだ40/100。あと二発食らわせてやらないと気絶させれないが。
「よし、今の一撃で道は開いたで。そろそろこの対戦、終いにさせよか!」
由香里「今回のキーカードはシェイミLV.X
草タイプ専用のポケボディーは超強力!
HP40アップは文字面以上に厄介や」
シェイミLV.X HP100 草 (破空)
ポケボディー かんしゃのきもち
自分の場の草ポケモン全員(「シェイミ」はのぞく)の最大HPは、それぞれ「40」ずつ大きくなる。自分の場で、すでに別の「かんしゃのきもち」がはたらいているなら、このボディーははたらかない。
草無無 シードフレア 40+
のぞむなら、自分の手札の草エネルギーを好きなだけ選び、自分のポケモンに好きなようにつけてよい。その場合、つけたエネルギーの枚数×20ダメージを追加。
─このカードは、バトル場のシェイミに重ねてレベルアップさせる。レベルアップ前のワザ・ポケパワーも使うことができ、ポケボディーもはたらく。─
弱点 炎×2 抵抗力 水−20 にげる 1