第8話 夢の中で
ミチは、少し間を置いて、今回の事件の犯人の名前を言い出す。彼女の表情は、どこか悲しく怒りにも満ちていた。
「名前は、ジーク!」
その名前を聞いた途端に、三人はミチの方に振り向くのであった。
「ジーク…」
「それがこの事件の元凶ですか」
「はい。奴は、魔族なんです」
魔族と聞いて、ライとゲンが驚きを隠せない。どうやら二人は、聞き覚えのある名前のようだ。
「魔族って、あの…」
「二人共、なんか知ってるのか?」
ソウは、心当たりがなさそうだ。頭上に?マークを浮かべている。
「知らないのか、おとぎ話に出てくる人間とポケモンを襲い続けた、悪魔だよ。」
しかしソウは、言われても分からなかった。おとぎ話の絵本など読んだことが無かった。小さい頃に母に読んでもらったが、あまり記憶にない。
「その通りです。ジークだけでなく、魔族たちは、いつでもどこでも我々を苦しめさ続けています。」
どうやら、魔族も実在するらしく、絵本通りの悪であった。
「それで、ジークはいつから…」
その質問を聞いてから、ミチは窓から離れて、家族写真が置かれた台まで行く。写真の中には、幼きミチと両親、そして進化前のピカチュウが写っていた。
「奴が現れなのは、3年前なんです…」
「3年も前から…」
ライは、それを聞いて静かに驚く。ジークは、約三年もここの人々を苦しめて続けていると聞くと、拳を握りしめる。
「3年前のある日、突然ジーク率いる魔族が現れ、あっという間に空を暗闇に変えました。そして、次々とポケモンたちを捕えては、洗脳させて人を襲わせました。」
「なんて野郎だ!そのジークっ奴」
ソウも、感情が込み上がり、ジークに対する怒りが出てきた。
「ジークは、野生やトレーナーの有無言わずに、ポケモンたちを捕まえていきました。私のライチュウも同じく、数日前に…」
どうやらジークの部下に、ライチュウが入ったモンスターボールを無理やり取られたらしいのだ。
「酷い事しやがる!」
「野生たちは、怯えて姿を現さなくなりました。」
だから森では、気配はしていたが姿を確認できなかったのだ。そして事情を知ったソウは
「なあ、俺達でジークを倒さねぇか」
「ソウ、僕もそう思ってたところなんだ!」
ライも、同じ考えを持っていたため、すぐに同調した。
「無茶です!あいては魔族ですよ、あなた方がどこから来たかわかりませんがジークは、強敵です。とても…」
確かに、魔族とやり合うなんて基本的に無茶な話だが、しかしソウがそれを言い返す。
「無茶でもやる。俺たちは救世主としてここまで来たんだから!」
「救世主…」
その言葉を聞いてミチは、驚く。今までここに助けなんて来なかったのだから。
「僕たちは、ある人から助けを求められて、ここまで来たんです。そう簡単に引き下がる訳には行きません。」
「わしも、出来る限りの事はするぞい」
三人の意見は同じであり、どうやら本気で乗り込む気でいるようだ。それを見たミチは、嬉しくなり目に涙をためる。
「みなさん…ありがとう、」
そして夜、もっともここは一日中真っ暗なのだが、時刻的には夜になった。三人は、家の中にある、来客用の寝室に泊めてもらう事になった。
もう既に三人は、ぐっすりと就寝についている。
「ん!?なんだこれ、」
ライは、夢を見ていた。それは、不思議な感じを漂わせており、周りの景色や街、人やポケモンが写っていたが、どれもセピア色に染まっていた。
「これって…リソルタウン?」
映し出されていたのは、今、ライたちが居るリソルタウンの光景であった。しかも空は蒼い。セピア色に染まっていて、よく分からなかったが人々は、笑顔であった。
「あれって、ミチさん…」
道の真ん中らへんには、ミチと思わしき少女がピカチュウと遊んでいた。それも写真と同じぐらいの感じで、まだ幼かった。
どうやらライは、この街の過去の姿を見ているようだ。すると、突然ノイズが入りだす。そして景色が変わる。
それは先程とは打って変わって、住人たちがパニックを起こしている。
「あいつらって?」
写っていたのは、村が襲撃されている光景だった。何十人もの軍勢が村を容赦なく襲い、ポケモンたちを捕まえていく。
「あれが…あれが魔族なのか」
魔族と思われる軍勢は、姿形は人間そのものであるが、両目が赤く染まっており、雰囲気が全く異なっていた。夢の中でもそう感じるライ。
そして、その中でも禍々しい気を発している者がいた。
「あいつがジークか?」
その者は、明らかに魔族たちを指揮しており、リーダー的なポジションにいた。そしてさらに、ノイズが走る。またしても映像が変わり、真ん中にはミチとライチュウがいた。
すると、彼女たちの背後に赤目のフーディンが迫ってくる。フーディンは、サイコキネシスで二人を不意に縛る。
「おい待て!」
ライは、フーディンを止めたいが、夢の中なので不可能であった。そしてフーディンは、ライチュウを塔の方に連れ去っていった。そこで夢が終わり目が覚めた。
夜が明け…もっとも空は暗いままだ。ライとソウは、ある程度の装備を済ませて、塔に乗り込む準備は万全であった。
「ジークなんてふざけた奴なんて、俺達がやっつけてやる!」
「行くぞ!」
そして少年二人は、塔へと向かうのであった。