第2話 年老いた学者とソウの過去
あれから二人は、それぞれ自分たちの家に帰り、ソウは二度寝、ライは朝食を済ませた。そして、昼を迎えた。
ライは、老人を会いに行くため、噴水のある公園まで歩いている。
「お爺さんは、いつもベンチで歌ってるからな」
歩き続けるうちに、段々公園の近くまでやってきた。街は、大きくないがそれなりに賑わいを見せている。
「着いた着いた、さて…」
公園についたライ。真ん中に噴水が置いてあり、子供連れのなどの親子や友達同士で遊ぶ子どもたちで賑わっていた。
ベンチには、既に何人か座っていた。老人は、いつもならベンチで座っており、鼻歌でのびのびとしている。だが今日は、どこにも座っていない。
「今日に限っていないぞ、まぁ、そう都合よくいかないか」
どうやら老人は、この公園には来てなかったようだ。ライは諦め、引き返し公園を後にする。そして、家に戻る道中の事。
「あの人、どこに住んでんだろう…」
老人が住んでいる場所は、誰にも分からない。それどころか、この街に住んでいるのかも分からないのだ。
ある日、ひょっこりと公園のベンチに現れるため、誰にも分からない。ただ分かるのは、その老人がかつては、有名な考古学者だったという事だ。
なぜその事が判明しているかは、ライには分からない。ただ口コミか何やらで広まったのだろう。
「ライ!」
考え込んでいると、突然後ろから、自分を呼ぶ声が聞こえた。振り向くとそこには、ソウの姿があった。
「ソウ、老人ならいなかったよ」
「ああ、分かってるよ。俺もさっき、公園の方に行ってたからな」
「そうだったのか、あれ…それって?」
ライは、ソウの右手に何かを持っているのに気がつく。丸く折りたたんでおり、見るからにして、かなり古い物だった。
「これか!家の地下室で見つけたんだけど、凄いんだよ!!見てくれよ!」
ソウは、この場で折りたたんでいた物を広げる。見てみると何か地図みたいな物であった。
「これって地図か?」
「そうだ、それもただの地図じゃねぇ、これを見てくれ」
ソウの指した所を見てみると、地図の真ん中には、スフィア大陸群と思わしき形が描かれていた。
「スフィア!?じゃあ、周りの大陸って」
「ああ、かつて突然消えたと言われている、外の大陸群だよ、きっと」
真ん中のスフィア以外にも、周りに数々の大陸や島などが描かれていた。
「でも、それって迷信なはずじゃ?」
ライは地図を見て、そう疑問に思う。この世界は、スフィア大陸群だけ存在しており、周りは全て、何もない海が広がっているからだ。
外の大陸群というのは、スフィアの人々の間で伝わっている、おとぎ話みたいなものであり、信じる者は基本的にいない。
「それじゃ、この地図はなんだよ!見るからにしても偽物じゃないぜ」
「ほれ、わしにもその地図見せてくれんか」
またしても突然に、後から声をかけられ驚く。二人は振り向くと、そこに老人が立っていた。
「じいさん!」
ソウは驚く、そしてライも。それもそのはず、二人が探していた元考古学者の老人が、今、目の前にいるからだ。
「その地図は、かなり前のものじゃな」
老人は、二人を押しのけて、地図の前まで来てじっくりと眺める。
「俺達、今まであんたを探してたんだぜ」
「ほほう、わしに頼みごとか?珍しい事じゃな」
ソウは、老人に話しかける。それを聞いた老人も二人の方に顔を向けた。
「それで、わしに何の用じゃ」
「昔は、考古学者って聞いてるんです。ですから調べてほしい事があるんです。」
今度はライが喋り、老人に対して丁寧な口調で要件を話す。
「確かに昔は、名のしれた有名な学者じゃったよ、調べてほしいってのは一体なんじゃ?」
「今から一緒に、
八裂山まで来れますか?」
ライは、真剣な眼差しで老人をみつめながら、要求を話す。
「あそこに何かあるのか?」
「俺達、遺跡を見つけたんだ、かなり古い遺跡で俺達じゃ、調べるのが限界だったんだよ。」
「遺跡か…よかろう案内してくれ」
二人の話に、疑問を投げかける事なく、老人は、あっさりと理解してれたようだ。
「ありがとうございます!」
二人は、嬉しそうな顔をして、ライはお礼を言うのであった。
「早速だが、案内してくれんか、わしはこう見えても体力には自信がある。」
「よし行こう!」
地図を、再び折りたたんで、ソウの号令で、三人は、遺跡へと向けて出発するのであった。
三人は、遺跡へと続いている森を歩いている最中であった。歩き始めてから時間が経っており、結構深いところまで来ていた。
「ところで、どうしてわしに頼んだんじゃ?」
「え?」
歩いている最中に、老人は、何故自分を選んだのかについて、二人に質問する。
「現役の学者なら、たくさんいるじゃろうに」
二人が住んでいる街、パロスの周辺には、沢山の古代の建築物や文献などが存在しており、学者が集まりやすい地域である。
そのため、現役で活躍している学者が、この街には、大勢いるのだ。
「色々事情があって…なんて言うかその…そこにいるソウの父親の事で」
「ほぉ、お主の父親も学者なのか?」
ライから聞いた老人は、ソウの方に体を向け、質問する。
「ああ、俺んちの親父は、有名な学者でな。だけど研究の事しか考えない奴で、家族とは、余り接しないし、ちょっと家に帰ってきたかと思えば、研究の話ばっかだし。」
「なる程な、それで学者嫌いって訳じゃな」
老人は、ソウの話を聞いて理解したようだ。しかし
「それだけじゃないです」
「うむ?」
ライの言葉に、老人が首を傾げるのであった。まだ続きがあるようだ。ソウは、顔を下に向きながら歩いている。
「実は、ソウの母は、病気で亡くなってるんです。」
「なんと!」
それを聞いた老人は、驚いた顔をして、ソウの方を向くのであった。ライは、老人に話続けていく。
「彼の母が二年前に急病で倒れて、病院に運ばれたんです。だけど助からなくて…でも彼の父は、病院にも駆け付けず研究に没頭した。それどころか葬式にも出席しなかったんです。」
「それは、ひどい話じゃのう…それで自分たちで調べようとしてたのか」
話を聞いた老人は、納得の表情をする。そしてソウは、下の向いていた顔を上げて、再び口を開く。
「学者ってのは、自分勝手な奴ばっかだ。親父は、あの後も研究しか頭になくて、終いには家にさえ帰ってこなくなった。あいつは家族を捨てたんだ!」
そして、ソウは先に進むべく、一人で走り出して遺跡の所まで向かうのであった。
「すいません、学者の悪口みたいな事言って…」
「何、気にするな。あの子の言うとおり学者たちは、皆研究しか頭にない、わしもかつてはそうじゃった」
そう言って老人は、止めていた足を再び動かして、歩き出す。ライも後をついていき、三人は遺跡へと向かうのであった。
To be continued…