第一章 不思議な力を持つ者たち
7-7 ピカソとチャロ
 ラフターの宇宙空間、そこに一人の美青年が、小型の宇宙船を使って、宇宙(そら)を駆け巡っていた。
 紺色の軍用スーツと襟元の階級バッジを付けており、彼はサーン帝国軍の将校、名前はチャロ・ルーシフェン(23)である。
「セーロ部隊の多くがやられたと聞くが…」
 彼は、このラフター星雲に来てまだ二週間程であり、ここの知識はまだ乏しいかった。セーロ部隊が、パロス基地で多くやられたという情報は、すぐに彼の耳にも入った。
「あれがそうか」
 宇宙船は、リーカ星の辺りの所までやってきた。そして彼は、リーカ星に向けて降下していく。

「君は、どうしてあんな真似を…」
 パロス基地の司令室では、ピカソが隊長であるバロンに、説教を受けていた。
「そうよ!お兄ちゃん心配したんだからね」
 妹のリナも、ピカソに問い詰める。
「あいつらが許せなかったんです。それに僕達を守るために死んだあの人を見て…」
「ピカソ君…」
 ゼーラは、小さな声で彼の名前を言うのであった。
「まったく、しょうがない子供だ」
 バロンは、呆れた口調で話す。そこに司令室の入り口の扉が開き、マホーとキドが入ってきた。
「作戦成功です。」
「しかし、上からなんと言われるか…」
 その言葉に他の兵隊は動揺するが、バロンは冷静でいた。
「構うな責任は私がとる。」
「しかし…」
 すると、また司令室の扉が開く。そこには先程の女性のユカリと付き添いの人がいた。
「ユカリ!大丈夫?」
 ゼーラがすぐに彼女のもとに駆け寄る。
「ゼーラさん…大丈夫です…でも」
 ユカリは、ものすごく暗い表情をしており、顔が下に向いていた。
「シュールのこと?」
「シュールは、私のせいで」
「そんな事ない」
 ゼーラは、泣いているユカリを優しく慰める。
 ユカリとシュールは、恋人同士だったのだ。二人の両親は、既に戦争によって他界してしまい、その事をきっかけに軍に参加する。元々、ポケモントレーナーだった二人、旅の途中で二人は運命的に出会ったのだ。
 そして、この状況にいても居られなくなったリナは、部屋を出る。
「リナ、どこ行くんだよ!?」
「ごめん、ちょっと…」
 リナは兄に告げた後、どこかへと行った。
「リナ…」
 妹の行動を、心配そうにするピカソであったり

 リーカ星に到着したチャロは、宇宙船を降りて地上に立つ。降りた場所は、ピカソが住んでいた街の近くの森だ。
「サモンタウンからそう遠くないか…!?」
 地図を開いて場所を調べていたチャロは、突然後ろから気配を感じ取り、振り向く。
「誰だ!そこにいる一人と一匹」
 なぜか彼は、木の奥に隠れているのが何者かを当てた。もう無理だと思ったのか、隠れていた何者かがチャロの前に現れる。
「やはり人間とポケモンか」
 現れたのは、ポケモントレーナーの10歳くらいの少年であった。ニャオニクス♀を抱きかかえていた。ニャオニクス♀は、チャロに睨みをきかせていた。そして少年は、震えながらも口を開く。
「お前、サーン帝国の奴だな」
「そうだが」
「どうして、あんな事をするんだよ!!」
 少年は、ピカソが住む焼け野原になった、サモンタウンを見てきたのだ。
「なんの事だか、さっぱり」
「とぼけんな!それだけじゃないお前たちは、他の街も…」
「言いたいことはそれだけか」
 そしてチャロは、少年の方へ足を歩かせる。少年は、怖いのか動けずニャオニクス♀は、さらに睨みつかせる。
「く…来るな!!」
「ニャークス!!」
 チャロは、少年の目の前までやってきた。ニャオニクス♀は、耳を上げてサイコパワーで彼を攻撃しようとしたが、何故か彼に通じなかった。
「どうしてだよ…」
「私は、他の人とは違う能力を持っている。それよりも君に言いたい事がある」
「トレーナーである僕が、何をしろって?」
 チャロは、決して少年に危害を加えようとはせずに、彼に質問する。
「この近くに、パロス基地というのがあったはすだ、何処にあるのか教えてくれないか」
 脅迫も何もせず、ただ彼は少年に優しく問いかける。少年もこれで助かるのかと思ったのか、基地の場所を教えた。
「この先をまっすぐいけばあるよ」
「ありがとう」
 そしてチャロは、少年が指差した方角へと歩いていく。
「そうだ君、名前は何と言う」
 彼は、呆然と立ち尽くす少年に再び話しかける。
「ユサ…」
「ユサか、覚えておくよ!!」
 そう言って彼は、再び基地の方向に振り向くと歩く。そしてユサに対して後ろ手に振るのであった。
 チャロは、森の中を歩きながら、携帯機で何かを見ていた。
「ここは、セーロの奴らが標的にはしてなかったはずだが」
 彼が歩いてる森は、いつもなら野生ポケモンたちが、たくさん暮らしているのだが、今は一匹も見当たらない。標的にはされなかったが、恐らく身の危険を感じて逃げたのであろう。
「セーロの奴ら、やりすぎじゃないのか」
 この前の空襲や、村への襲撃、基地への無差別攻撃などセーロ部隊の過激なやり方に、彼は不満を持っていたのだ。
「もうすぐ基地だな」
 彼は一旦止まり、背負っていたカバンから何かを取り出した。
「敵に見つかるのはヤバイからな」
 そして彼は、ラフター連合軍の軍服とバッジ、そして偽造証明書などを出して身につけた。作業を終えると彼は、基地へと向かう。
 彼は、今回敵に潜入するためにここにいるのだ。

 パロス基地では、ピカソが妹のリナを探していた。手持ちポケモンたちを出して一緒に探すも見つからない。
「ポッチャマ、そっちは見つかったか」
「ポーチャー」
 ポッチャマは、首を左右に振る。後から来たコリンクもまた同じであった。
「リナ、一体何処に…」
 ピカソは、基地の入り口辺りでずっと立っていた。
「ひょっとしてあそこか!」
 思い当たる場所があった。ピカソは、ポケモンたちをボールに戻す。すると入り口近くの森の中からラフター連合軍の服を着たチャロが現れた。
「えっ!?」
 ピカソは、当然驚く。しかし服装を見て敵ではないと、すぐに思い込む。
「何だ、少年?」
「そっちこそ、あなた誰なんですか」
「ローグ・ウィザードリィ、連合軍から派遣された。ちょっと聞きたい少年」
 彼は、ピカソに偽名を使い質問する。心の中で彼は
(何だこの子は、ただならぬ気を発している。)
 ピカソは、ただ者でないと感じるチャロであった。
「何ですか」
「バロンと言う人に会いたいんだが」
「多分、中の司令室に…」
「ありがとう少年」
 ピカソに感謝を告げると、彼は基地の中へと入っていく。
「何だったんだ、あっ!それよりも」
 本来の目的を思いだすと、ピカソは、街の方角へと走っていく。

 焼け野原になったサモンタウン。生き残った住民たちが街を徘徊していた。
「父さん、ごめんよォ俺だけ逃げて」
 家があった所に、男性が一輪の花をその場に置く。
「店がなくなってる…」
 パン屋を経営していた男性は、灰になった店を見ていた。
「私達、いつもこの中で一緒だから」
「僕の姉が見つからない!!」

 ピカソも街に入る。頭の中に入ってくる心の声を、なんとか抑えようと必至になる。そしてピカソは、ある場所へと到着した。
「やっぱりいた。」
 ある場所には、妹リナがずっと立っていた。ピカソは、ゆっくりと妹の方に向かう。
「リナ!!」
「お兄ちゃん!」
 リナは、兄の声に驚く。ニンフィアやデデンネもそこにいた。
「やっぱりここかぁ、ダメじゃないか一人で」
「ごめん…なさい…」
 いま二人がいるのは、かつて家があった場所だ。すでに跡形もなく灰となっていた。
「母さんは、託したんだ。あの時、ニンフィアとデデンネを」
「そうなんだ。」
 リナは、顔を下の地面に降ろす。すると目から涙がこぼれ落ちる。
「フィーア…」
「デネ…」
 その様子を見た二匹は、リナに擦り寄る。
「リナ…」
「どうしてこんなんなっちゃうの?あの二人だってそう、他のみんなだってこんな事望んでないよ誰も」
 涙は、下を向いていた為、地面にポトポトと落ちる。
「戦争なんて早くなくなっちゃえばいいのに」
「リナ、とりあえず戻ろう」
「…うん」
 リナを連れて、基地へと戻る。家があった場所には、花が置かれていた。

 その頃、基地の司令室では、チャロがいた。
「誰ですかあなたは」
 ゼーラは、チャロに問いかける。
「私は、連合軍から派遣されました、ローグ・ウィザードリィといいます。」
 突然の訪問に、基地の兵士たちは驚くのであった。
BACK | INDEX | NEXT

■筆者メッセージ
次回予告

 パロス基地の潜入に成功したチャロは、自分をローグ・ウィザードリィと偽り隊長のバロンに接触する。その頃、ピカソとリナにまた新たな災いが降りかかろうとしていた。それにパロスの人たちは、早速駆けつけるが…
 セーロ部隊とは何者なのか、そしてサーン帝国の宇宙支配とは、いずれにせよ多くの命が宇宙から消えていっているは事実。

次回のポケットモンスターGalaxyは、「サーン帝国の野望と目的」

お楽しみに!!
toeistars ( 2015/08/16(日) 23:22 )