3-3 時代が呼んだうねり
セーロ部隊は、街を楽しみながら爆撃、攻撃し続けた。
「隊長、いつ殺っても面白いぜすねぇ、コレ!」
彼らは、まだ街を出られず彷徨っている、非武装の民間人を容赦なく襲い殺していった。
『もう、これ位にしておけ、本来の目的に移るぞ』
「了解!」
隊長の指示で、セーロ部隊は街を離れ、森のある方へと飛び去っていった。そして森に到着すると
『これより、ポケモン捕獲作戦を実行する!どんな奴でもいい、総員、この森にいるポケモンを一匹たりとも逃すな!』
セーロ部隊の本来の目的は、この星にいるポケモンたちを捕らえることだ。
そして、捕獲が開始されると、戦闘機から特殊な捕獲マシンが放たれ、ポケモンたちが次々と捕まえられていく。
中には、何とか抵抗しようと技を出すポケモンもいたが、対策を万全にしている戦闘機には、全く通用せず、他のポケモンたちと同じように捕まえられた。
森のポケモンたちが次々と捕まえられていく中、ピカソは、炎を掻い潜りながらも街から脱出でき、妹がいるところに戻ってこれた。
「お..にい..ちゃん...」
先程の爆撃によって、怪我をしてしまい、身体中流血の跡が目立っていた。
そして、妹は見てしまった、ピカソが手に持っているものを
「これっ...て」
持っていたものは、もげた右腕だった。それは血まみれになっていて、指には指輪をつけていおり、それを見たリナは誰の腕かすぐに分かった。
「どうして...どうしてよォ!!」
あまりにもの凄惨さに、見るに耐えれなくなってしまい、ひざまずき涙を流してしまうリナ。
「ゴメン、ゴメンよォリナ!母さんを助けられなくて」
ピカソは腕を地面に置き、リナを抱きしめて同じく涙を流すのであった。
「なんで...何であいつらは、俺たちをいつも襲うんだよ!!」
リーカ星は、以前からサーン軍の攻撃を受けており、二年前にルーイン家は空襲を受けた前の街から今の街に引っ越していたのだ。
どこへ逃げても同じ何だと二人は思い、次第にピカソは復讐の心を抱き始めていた。
「サーン帝国がァァァァァ!!!」
ピカソは半径500mぐらいは、軽く響き渡る叫び声を出した。
その後、二人は避難した住人たちが、集まる場所にやってきた。
「少ないね...」
「ああ...」
避難所には、多くの人たちがいたが、それでも街の人口と比較すると、かなり少ない。
「クッ...サーン帝国、ここまでやるのかよォ!」
親戚のおばさんやお隣の知り合いなどが、一人もいないことに気がつく。恐らく、逃げ遅れたか爆撃に遭ったのだろう、それを思うピカソは、再び怒りが込み上がる。
「お兄ちゃん、落ち着いてよ」
「アッ...そうだな、とりあえずポケモンを出そう。」
手持ちポケモンたちを出して、ポケモンフーズを与える。
「ニンフィアもデデンネも無事だったのね」
「母さんから譲り受けたんだ」
ピカソは母を、ご主人を亡くしたショックで、暗く落ちこんでいる、ニンフィアとデデンネの頭を撫でる。
「ゴメンよ、母さん...救えなくてよ」
「フィーア...」
「デネデネ...」
"心配しないで"などとピカソに言う、二匹であった。
街から5km程、離れた場所にサーン帝国軍やその他の侵略国軍に対抗するために結成された、ラフター連合軍の基地が存在し、パロス基地と呼ばれている。
「なぜだ!?なぜ奴らは街を襲ったんだ、狙いは我らではないのか?」
基地の司令室では、幹部の一人マホーが、サーン軍の蛮行に怒りを募らせていた。もう一人の幹部キドが冷静に答える。
「おそらく別の目的で来たのだろう。」
「民間人に対する直接的な殺戮を目的にか?」
「いや、奴らはポケモンを兵器として活用するとか何とか言っていた。今回の目的はポケモンの捕獲、街への襲撃はそのついでだろうな」
「そんなのあんまりだ!戦争にだってルールがあるだよ、
ルールが」
そこに、この基地の隊長であるバロンが入ってきた。外で彼らの会話を聞いていたのだ。
「バロン隊長!」
「戦争にだってルールがある。確かにそうだ、しかしそ!は所詮、建前に過ぎん」
「...」
「争いを続けると人はいずれ、誰もがおかしくなってしまう、ルールなど関係なくなってしまうのだ」
バロンの言葉によって、マホーは戦争という現実を再び理解する。
彼も、軍に入る前は、腕っぷしのポケモントレーナーとして活躍していたのだが、サーン軍によって故郷を破壊され、家族を失い、さらにパートナーのポケモンたちも殺されたり、または連れ攫われたのだ。
そんなサーン帝国に復讐、或いは侵攻を阻止するため、二年前に連合軍に入隊したのだ。
「バロン隊長も、かつて何かあったのですか?」
「...」
バロンは黙り込み、質問には答えなかった。
「悪いが無闇やたらに、経歴を教えるわけにはいかん」
そういって、バロンは再び部屋を出ていくのであった。
「あの人にも、何かあったんだな、きっと」
「よせマホー、あまり他人の秘密に突っ込まないほうがいい」
キドもかつては、ポケモントレーナーで、しかもリーグ優勝経験ありのポケモンマスターであった。しかし、どういう経緯で軍に入ったのかは不明だ。
「元トレーナーとして、私たちが今やることは、ポケモンやトレーナーたちが、安心して動けるように、努力することだ」
「そうだな」
リーカ星、ラフター星雲から、ずっとずっと離れた場所にある太陽系。サーン帝国がある火星もここに存在している。
そのサーン帝国と隣り合わせになっているのは、太陽系第三番惑星の地球だ。
連邦制をとる地球は、火星と敵対関係であり、それもあってラフター連合軍には軍事的な援助を行っている。
もともと、火星は爆発的に増えた人口を調整するために地球人が開拓したのだ。入植地だった火星だが、次第に独り歩きをするようになり、最終的には独立し現在に至る。
地球連邦の首都が置かれている、スイスのベルンにある議会ではサーン帝国の侵攻について話し合っていた。
「いずれ奴らは、絶対にこの星に攻めてきます。そうする前に対策すべきです。」
「しかし、今ここで刺激してしまうと返って危険です!」
「お前たちはいつもそうだ!弱腰な態度したか取らないだからナメられるんだよ!」
「落ち着きたまえ、ここで揉め事を起こすでない」
結局、話し合いは平行線に進んだままになってしまった。
議席の真ん中あたりには、連邦大統領のリーン・マッカートニーが腕組みしながら、じっと聞いていた。
サーン帝国の玉座では、ザルクが大型モニターで、連邦議会の様子を、座りながら聞いていた。
議会に数人のスパイを送り込ませて、情報を皇帝のザルクに、リアルタイムで発信していた。
「くだらない話だ、お前たちが何を考えようが、いつかは地球に侵攻する。宇宙征服のためにな」
サーン帝国に朝日が昇り始める。しかし、国民の大半は晴れることがない。来るのは特権階級だけである。
「お兄ちゃん、起きて!」
「う〜ん...あっ!」
避難所でも朝がやってきた。先に起きたリナは、ピカソを揺らしながら起こした。
「おはよう」
「うん、おはよう」
ポケモンたちも次々と目を覚ました。二人は、朝食を済ませ、外に出る。
「ひどいよ...こんなのって」
外に出て、すぐに目に入ったのは、焼け野原になった街であった。それを見たリナは、すぐに目をそらした。
「大変だぁー!!」
森のある方から、男性が慌てて戻ってきた。
「ハァ...ハァ...森のポケモンたちが...いなくなっている...」
「何だと!」
ピカソ含めた数名の男たちが、急いで森へと向かう。
森に到着するが、ポケモンたちの気配や鳴き声がなかった。
「一体、何が起きたんだ?」
かなり荒らされた状況で、木がなぎ倒されたりもしていた。それを見たピカソは、すぐに理解した。
「サーン軍...」
「!?」
「きっとサーン軍がやったんだ。あいつら、前からポケモンたちに目をつけてたから」
すると、森の上空に突然、戦闘機らしきものが飛んできた。
「あれは、サーン軍の偵察機」
「くっ!」
偵察機を見たピカソは、怒りが込み上がる。そして
「おい、どこ行く!?」
ピカソは、猛ダッシュで偵察機が飛んでいった方向に、走っていった。
(サーン帝国!絶対に許すもんか!!)
母を殺し、住民を巻き添えにし街を破壊して、さらにポケモンたちを連れて行った。そんなサーン帝国にピカソは、復讐を込めた怒りを出す。
「待ってろよォ!」
偵察機に向けて、そう叫ぶのであった。