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公園を抜けると、どうやらそこは団地のようだった。見上げると、布団が干してあったり、仕事に出かけるサラリーマンがちらほら遅れて出てきたりと生活感が漂っていた。
サラリーマンや散歩する老人達の目になるべくつかないように、通勤するサラリーマン達の後に続いた。もしかしたら、有名な大通りや知っている道に抜けるかもしれないからだ。
私が今すべき事は、家に帰ることだと私は判断したのだ。
裸足で歩いているため、足の裏の痛みが尋常では無いし、早くに訪れた初冬の寒さは身に応えるし、今すぐ街行くサラリーマンに助けでも求めたい。しかし、文字通り丸裸な私は勿論身元を示す物も持ち合わせていないし、その上助けを求めても相手にされないのがこの世の中だ。どこに丸裸の女に助けを求められて警戒しない人間が居るだろうか。
暫く歩くにつれて、人通りも増して来た。どうやら主要の大通りに抜けるようだ。
勿論そうなるとどうしても人目についてしまう。それでも構わなかった。周囲から好奇の目が向けられたが、それでも歩き続けた。
そこは、まさに都会の町並みだった。朝日を受けて輝く全面ガラス張りの高層ビル群。その下で歩き働く人間達と、自然からかけ離れたこの環境で強く生きるポケモン達。
そして私の目の前に映るのは巨大なスクランブル交差点だった。
そろそろ迂回しようか。そう考えた時だった。
高層ビルに掲げられたディスプレイからニュースが流れる。
『只今、7時30分を迎えました。朝のニュースをお伝えします。
今日、世界人口が記念すべき90億人を突破しました。これに伴い、日本の人口も数年前から爆発的に増加し、様々な問題が発生しました。そこで政府は、人口が密集した都市部から人口の少ない田舎への、強制移住や強制疎開等の措置を取ることを発表しました……』
世界の人口が90億を突破するのはみんな目に見えていた。人口の増加よりも、それと共にポケモンの勢力が増し既存の生物が消え去って行く事にみんなは興味を示していた。世界は、突如現れた高次元の生き物、ポケモンの研究に没頭した。
しかし私が注目したのはニュース自体ではない。ディスプレイに表示された今日の日付だった。
ディスプレイには、
12月4日 7:33
そう表示されている。
信号が、青になる。
考える暇も無かった。
人ごみに巻き込まれる前に、私は路地へ逃げ込んだ。時間なんて、気にしなくてもいいのに、速度を上げて。
ついに怪我でもしたのか、足の裏から血が滴った。