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周囲は黒い。暗いのではなく黒い。周囲は黒い死で満ちている。躰にと纏わり付く様な黒き死が、何もかもを塗り潰している。
周囲は五月蝿い。死に蝕まれた何かの断末魔が幾重にも取り巻いている。
周囲は臭い。死の臭い――燃える燃料の臭いや錆びた鉄の臭いが充満している。
そんな耐え難い場所に俺は立っている。
否、座っているのか。それとも伏しているのか。わからない。躰の感覚が喪失している。
ただ、痛い。ただただ痛い。その感覚だけしか俺には残っていないかの如く激痛が絶え間なく襲ってくる。
痛い。
恐い。
あるはずの両腕に力をこめる。僅かに自分の一部の動く気配。嗚呼。まだ躰は、在る。
そしてそのまま感覚の無いその
腕の内に居るはずの、オカッパ頭の小さな相棒を抱きしめる。
痛い。
恐い。
けれども、まだ生きている。
俺の動きに応える微かな鳴き声。僅かに感じる体温。それのお陰か若干痛みが引く。
生きている。生きている。生きている。痛みと恐怖に声も出せないがそれでも俺は生きている。
余裕が少しだけ出来たのか抱きしめるそれ以外にも、俺の周りの死に温かさが有ることに気が付いた。更には生き物の臭いも漂わせている。
死にかけた、生者の臭い。
終いには何か言葉を発している。
「ヨカッタ。ヨカッタ」
「ガンバッテ。ガンバッテ」
聞き覚えのない二つの声が何か言っている。覚えのない温もりが俺を包んでいる。
嗚呼。またか。
これは夢だ。
――俺の記憶にこの情景は無い。