エトワール・フィランテ〜星降りの夜の導かれし出逢い〜 - 第八章 迷宮の森と運命の出会い〜特殊な力を持つものたち〜
第五十四話 二重人格者の結末〜交互に吹き抜ける正負の風〜
 ウィンが無情にもライズに攻撃を繰り出した事に、アルムは絶句するしか無かった。頭は一瞬にして真っ白になり、ライズの身体が倒れていく光景を見ていても、時間の経過がとても遅く感じられた。まるで久遠という時間の輪に捕らわれてしまったように。
「あ、あっ、ライズっ!」
 身体が倒れきった時にようやく時間認識の歪みから解放されて、声と恐怖が一度に戻ってきた。目の前で倒れているマイナンが、さっきまで笑顔を振り撒いていた事も忘れてしまう程の恐怖が。
「突然攻撃してすいません。しかし、アルムさん、心配は要りませんよ。あれは祝福の風――“エンジェルブリーズ”というものです。肉体的には損傷は与えません」
 アルムの心情を察し、ウィンが優しく語りかけるように説明に入る。現状の負の感情を生み出した張本人の声に最初はびくつくものの、暖かい知らせの内容自体が頭の中でゆっくりと溶け出していくにつれ、全身の強張りが解けていく。
 思考もはっきりとしてきた頃に倒れているライズに視線を送ると、ウィンの言う事を裏付けるように、身体は無傷の状態であるのが見えた。
「でも、確かに刄が貫通していったはずなのに」
「ええ。身体には何事もなく通り抜けていったんです。その代わりに別の物を“断ち切り”ました」
 訳がわからずに首を傾げていると、不意にライズが目を覚まして身体を起こした。どこか不思議そうに辺りを頻りに見渡している。
「ねぇ、大丈夫? 君はライズなの? それとも――」
 アルムの声を聞くや否や、迷子になっていた子供が親を見つけたように、ライズの顔つきは晴れ晴れとしたものへと変化した。振り向き様に見せたその笑みは、先程までの様子からは想像出来ない程に眩しく映る。
「アルムくん、何だか信じられないよ。てっきり刄に貫かれたかと思ったのに」
 打って変わって、ライズは悩ましげな色を浮かべた。両手で身体を触って無事を確認しながら、何度も瞬きを繰り返している。
「それに、何か心が軽くなったような気がするんだ。何と言うかこう、束縛から解放されたような」
 身振りを交えながら説明を試みるも、当の本人にも何が起こったのかわからないようであった。アルムとライズの視線は、状況を把握しているウィンの方へと自然と移っていく。
「実はこの“エンジェルブリーズ”は、相手の心に干渉して悪の部分――つまりは“悪魔”を断ち切るような浄化の技なのです。ライズさんの場合でしたら、狂暴な別人格がそれに当たりますね」
「へぇ、それで何か自分を押さえ込むような力を感じなくなったんですね」
 しみじみと感慨深げに声を発しつつ、ライズは胸に手を当てた。目を閉じて深く息を吐くその姿には、鮮明に安堵の様子が窺える。それを祝福するかのように、風が足元の植物を撫でるそよ風も、暖かく心地好いものとなっていた。
「それじゃ、もうライズは別人格に悩まされる事はなくなったという事ですか?」
「ええ、恐らくは」
「そう、なんだ。ライズ、良かったね!」
 自分の事のように喜びの色を顕わにして、アルムはライズに抱き着いた。あまりにも勢いが強くて押し倒されてしまうが、ライズも両手でしっかり受け止めながら笑みを零している。
「ありがとう、アルムくん。僕も何だか変な感覚だけどね。それもこれも、ウィンさんとアルムくんのおかげだよ」
「えっ、僕は何もしてないよ?」
「ううん、そんな事ない。アルムくんはきっかけを作ってくれたんだ。理由はわからないけど、僕の声が届いてくれた事がすごく嬉しかったし、それが役に立った。僕が今までどうやっても逃れられなかった別人格から逃げるにはね」
 哀愁に満ちた表情に変わったライズを見て、アルムは共感を覚えて胸を締め付けられるような思いがした。同時に自分が役に立てた事を聞けて、思わず表情も綻んでいる。
「ねえ、良ければ別人格が表れた理由とかを教えてくれないかな?」
 今まで束縛され続けていたライズの心を少しでも楽にしてあげようと、アルムは優しく微笑みかけて切り出した。冴えない顔をしていたライズも、自らの心の内にある精一杯の明るさを絞り出して言葉を紡ぎ始める。
「あのね、自分で言うのはすごく恥ずかしいんだけど、実は少し前まで僕は、雷使いとしては何年かに一度の逸材って言われてたんだ。何だか電気の蓄積量と質が良いとか」
 自画自賛のような話の流れになるのが嫌なのか、一旦そこでライズは苦笑を浮かべる。照れ隠しとも取れる行動にアルムが微笑を見せると、また少し恥ずかしそうに咳払いをして続ける。
「それで、しばらくの間は特に何事も無く過ごしていたんだ。でもある日、それまで使う機会の無かった電撃を使った際に、力が強すぎて物を破壊しちゃった事があったんだ。それ以来かな。力の放出が一線を越えるようになって、周りの皆に恐れられるようになったのは。それと、力をセーブしようと思う一方で、もっと強い電撃を使いたいと思う別の自分が心の内にいる事に気づき始めたんだ」
 区切りの良いところで一息吐いた際に垣間見えた表情の色からは、これまでの苦労が窺い知れた。すぐに暗い色を払拭すると、ライズは繕って微笑んで見せる。
「その当時はまだ何とも無かったけど、いつの間にか感情が高ぶると暴発する事が徐々に増えていった。それを防ぐ為に必死に自我と感情を抑える内に、いつの間にか破壊衝動を抱く別人格が生まれるようになってしまったんだ。抵抗しないと押さえ込めないくらいに狂暴な人格がね」
「それがさっきまでいた“レイズ”なんだね?」
 確認の為にアルムが尋ねると、ライズは小さく頷いた。電気を溜められる青い頬袋からは微かに電気が弾けており、悲しみの感情が少しずつ表面化しているのがわかる。ほの暗い中で光っているせいか、ライズの悲愴な様子を一層際立たせていた。
「下手に感情を表に出さなければ乗っ取られる事もないんだけど、今日は久しぶりのお客さんが来たから、気持ちが高ぶっちゃったんだ」
「あ、ごめんね。僕が来たせいでライズを困らせてたなんて……」
 自分が招いた事態に反省するようにアルムがうなだれると、ライズはすかさず両手でアルムを捕まえた。地面に向けていたアルムの視線を自分の方に向けさせると、今度は作り笑いではない、純粋な笑顔を見せる。表情の移り変わりが激しいのは、今まで封じ込めていたものを一挙に解き放った現れだった。
「そんな事ないよ。寧ろアルムくんが来てくれたおかげで、こうやって自由でいられるんだから。さっきは言いそびれたけど、アルムくんが出してくれたこの青いバリアのような物が力を与えてくれたような気がするんだ」
「えっ、僕が?」
 思いがけないライズの言葉にアルムも驚き、一気に双方に明るさが戻った。未だに仄かに光を放って存在し続けている青いドームを見上げると、アルムは何度なく浴びて感じたような心地よさを今になって覚える。
「僕には自覚ないんだけどなぁ。ただ、二人に戦うのを止めて欲しいって思っただけだし」
「アルムさん、想いが強い力になる事はよくある事ですよ」
 答えを差し出すようにして、ウィンが横から顔を覗かせた。ゆったりとした物腰で、それでいて柔和な面持ちでもあった。この状況で目の前にして、アルムは改めてウィンの貫禄のようなものを感じる。一種の憧憬を抱いて見つめていると、ウィンはアルムから一旦視線を外し、同じく大きく広がるドームを仰ぎ見る。
「しかし、不思議なものですね。このドームに覆われた時から、体力の消耗が無くなったような気がするんです」
「えっ? このドームはウィンさんにも何か影響を及ぼしてるんですか?」
「ええ、そうみたいです。“ウィンドモード”になるといつもは体力を奪われてしまうのですが、このバリアが展開されてからは一切身体に負担が掛からなくなったんです」
 意識して操作した訳ではない事であるため、ウィンの言葉を聞いてもアルムは実感が湧かなかった。返答にも詰まってしまい、珍しい物でも見ているような表情でウィンをじっと見つめる。
「このバリアが? えっと、確かリーブフタウンとリプカタウンでも出たんだけど、僕にも良くわからないんですよね……」
 安堵と戸惑いとが混在しており、アルムは自然と苦笑を浮かべていた。当の本人が理解出来ていないという事で話題が尽きてしまい、全員が喋る機能を失ったかのように静かになってしまう。

『私が代わりに説明しましょうか?』
 暗闇の恐怖を増長させるような一切の沈黙が辺り一体を支配する中で、不意にこの場にいる誰のものでもない声が響き渡った。周りは開けている上に木々に囲まれているというのに、まるで狭い部屋にいるような残響効果が起こって声が木霊(こだま)する。
「この声、僕に助けを求めてきた声と全く同じです」
 声の発信源を探るように辺りを見渡しながら、ウィンは訝しげに言葉を発した。正体も見えない状態でも確信を持った発言に、アルムとライズを除いた他の全員が一斉に振り向く。
「僕も聞き覚えがあるよ。最近じゃないけど、前に聞いた事があるような」
 朧げな記憶を辿るようにぼんやりと遠くを見つめる眼差しのまま、アルムも声の出所を探し始める。耳を立てて神経を研ぎ澄ますが、反響のせいで全く見当がつかないようである。
「ちょっと待った。お前も聞いた事があるってどういう事だ?」
 アルムが何気なく呟いた事に違和感を覚え、ヴァローは問い詰めるように切り出す。しかし、アルムの方はと言うと、ぼうっと宙を見つめながら首を軽く傾げるだけで、それ以上は何も答えようとしない。
『おや、覚えてくれていたのですね。アルム、あなたに会ったのは随分昔ですのにね』
 代わりに応答したのは、再び辺りに響いた声だった。声が一方通行では無い事がわかったが、未だにその居場所すら特定出来ない。何よりも、気まぐれに吹く風が邪魔するのも相まって、捜すのは無理な話であった。
「じゃあ、やっぱりあなたは……。あの、姿を見せて頂けませんか?」
『すいません、今はあなた達の前に現れる事が出来ないのです。ともあれ、本題に入りますね。まず先に説明しておくべきなのは、そこのイーブイ――ウィン、あなたが神の器に選ばれし者だという事です。それも、“破壊の神”の器にです』
 “神の器”と“破壊の神”という耳慣れない単語が飛び出し、アルム達は困惑する。しかし、事の重大さは何となく感じとっているようで、恐る恐るウィンに視線を送る。
「あなたには全てお見通しのようですね。僕にも詳しい事はまだわからないのですが、どうやら僕の中には“破壊の神”の力が眠っているらしいんです。そのおかげで先程のような特殊な力が使えるんですけどね」
 自分の内に秘めた物さえも把握している姿の見えない相手に対しても、ウィンはあくまでも冷静に受け答えをする。
『そう、だからこそあなたに助けを求めたのです。アルムに宿っている“守護の力”を引き出す為にね』
『“守護の力”?』
 話題に挙がったアルムの声はウィンの声と重なり、二人のイーブイは同じ単語を反復した。いつの間にか横並びになっており、互いに顔を見合わせて不思議そうな表情を見せる。
『ウィン、このバリアが展開されている時は、あなたが特別な力を使っても負担が掛からなかったでしょう? あれは、使用者の身を蝕む破壊神の力から使用者をも守る、アルムの守護の力の作用だったんです。そして、その力を引き出すには、相対するような力でありながら、実は互いに呼応し合う性質を持つあなたの破壊の神の力が必要でした』
「なるほど、僕をアルムさんと引き合わせるようにしたのは、僕の力を起爆剤とする為だったんですね」
『ええ、あなたの力が適任ですからね。しかし、それ以外にも理由はありますが――』
「あの、ちょっと良いですか?」
 天から聞こえる声とウィンのやり取りを遮るようにして、アルムが怖ず怖ずと一歩前に出た。姿の無い者を相手にしているせいか、迷ったように視線をあちこちに動かしながら話し掛ける。
「邪魔してごめんなさい。でも、この蒼いドームみたいなものは前から出たりしたんですけど、あれは一体何だったのか、僕には良くわからないんです。そして、その度にこのオカリナが強く光ってました。だから、僕の力じゃないような気がしますし」
『そうですね。説明不足でした。まずは以前にも何度かこの力が発現した時についてですが、誰かを守りたいと心の中で強く想いませんでしたか?』
 リーブフタウンでレイルが自分を庇ってくれた時、リプカタウンでヴァローが危険になった時。それぞれの事を思い返し、アルムは静かに頷いた。
『そうです。あなたの守護の力は、守りたい想いが強くなった時に発動するようになってるのです。しかし、あなたの中に眠っている力は、完全に目覚めるまでに時間が掛かるのです。そこで出て来るのが、オカリナになりますね。特別な素材で出来ていて、あなたの力を徐々に呼び起こす為に授けたのですよ』
「えっと、想いが力になるのはわかりました。授けたという事は、あなたがオカリナをくれた人だというのも。でも、特別な素材って何ですか?」
『何か思い当たる節はありませんか。ここに来るまでにも何度か目撃したはずです。神聖な力を秘めた物を』
 ここまで来れば、アルムにも推測出来た。目を閉じてオカリナに意識を集中させると、微かに心が落ち着く感じがした。そっと目を開けると、今度は瞬きを繰り返す。
「フルスターリ、ですか。あの、青白くて綺麗な水晶が……。でも、ずっと持ってたのに、気づかないなんて」
『それはですね、あなたの持つ“光”が強いのと、上手くオカリナの力があなたと同調していたからです。【月影の孤島】でサーナイトに言われませんでしたか?』
「あっ、はい。そういえば、言われたような気がします。でも、やっぱり、実感が湧かない、と言うか」
 今まで自分には何の取り柄も無いと思っていたアルムとしては、特別な力が眠っていると告げられた時は素直に喜びを感じていた。しかし、一方では自分の事とは信じられず、頭がこんがらがってしまっていた。その結果として、喋り方もたどたどしくなり、戸惑いが顕著に現れている。
『まだ焦る必要はありませんよ。自分の事ですから、ゆっくりと探求していけば良いのです。フリートにも直接の手助けはしないように言っておきましたしね。まだこれからわかる事もあるので、自分の力で見つけて下さい』
「はい。だけど、サーナイトさんの事も、フリートの事も、あなたは全てを知ってる。そんなあなたは一体誰なのか、僕は知りたいんですけど」
「――そうよ。いくら真実を告げているとは言え、姿も現さない以上は、怪しい存在である事に変わりはない。私もあなたが誰なのか気になりますね」
 アルム達の会話においては置いてきぼりを喰らっていたシオンが、ここに来て身を乗り出した。マリルという種族特有の丸い耳を大きく広げつつ、さりげなくアルムの前に出て、守るような姿勢を見せる。
『すいません、実はそこまで差し迫っている問題があるのです。もう、時間がありません。私があなた達と交流出来るのも、アルムの守護の力が私にも作用しているからであり、恐らくこの力の効力は間もなく消えるでしょう。ですから、最後に伝えさせて下さい』
 ここでアルム達も異論を唱えようとしたが、焦ったような声色に一同が押し黙る。同時に、反響して聞こえていた声が少しずつ弱まっているのも感じた。木の葉がざわつく音を頭の中で掻き消し、アルム達は耳をそばだてる。
『そのジラーチを――ティルをどうかよろしくお願いします。その子は我々の希望なのです。あなた達とティルに、全てを託しましたよ――』
 意味深な内容を告げ終えると、途端に声は薄れていった。微かな余韻が続いた後は、木霊していたのも含め、同じ声調のものは全く聞こえなくなる。
「本当にあの人はいなくなっちゃったのかな。……あっ!」
 最初に声を上げて、天を見上げたアルム。その視線の先では、強く輝いていた蒼い光のドームが点滅を始め、遂には謎の声の後を追うようにして消えてしまった。それに伴い、淡く光っていたアルムの身体とオカリナも光を失う。
「これ、かな? 効力が消えるって言ってたのは」
「アルム、身体は何ともないの?」
 一連の現象を目の当たりにした後で、シオンが真っ先に心配して声を掛ける。シオンにとっては、今は消えた声よりも、アルムの安全の方が先決だったからである。
「うん、大丈夫だよ。だけど、すごく変な感じなんだよね。自分の意思で思い通りに出来る訳じゃなさそうだし、まだ何もわからないし」
「そう。まあ、今は落ち着いたばかりだから、焦らなくても良いんじゃない?」
「うん、そうだねっ。とりあえずわからなかった事が少しでもわかって良かった」
 紛れも無い安堵の思いの篭った本音が漏れ、ここに来てようやくアルムはほっと一息吐く事が出来た。しかし、深刻そうな表情は未だに崩さないでいる。ウィンやヴァローの方に振り向くと、こちらも同様であった。
「そういえば、『差し迫っている問題がある』と言っていましたね。あれは一体何だったのでしょう」
「どうだろうな。俺達にも関係あるのか、はたまた俺達じゃ対処のしようがない重大な物なのか。もっとも、今となってはわからない訳だが――」
 ウィンとヴァローがそれぞれに不安な心境を述べていたところで、不意に遮るような突風が吹き荒んだ。思わず目を覆わないといけない程のそれは、今までの悪戯な風とは比べものにならない強さを誇示している。
「森が、自然が啼いている。何か悪い事が起きる前触れみたい」
 柄にもなく不吉な予言をするアルムは、内心で嫌な胸騒ぎを覚えていた。その姿勢も、恐怖がのしかかっているように身を屈め、全てを見たくないとばかりに目を固く閉ざしている。風は止んでいると言うのに、明らかに異常であった。
「アルム、大丈夫? 一体どうしたの?」
「わからない。でも、何だか怖いの。何か悲鳴のようなものが聞こえるような気がして」
 シオンが話し掛けても、アルムは顔を上げようともしない。ひたすら俯けたまま何かに怯えているようにも見える。原因こそ不明であるが、とにかくアルムを宥める為に身体を撫でようとシオンは歩み寄る。
「――何か、近づいてくる」
 手を伸ばしかけたところで自慢の耳が別の音源を捉えたらしく、シオンは途中で止めて空を見上げた。釣られるように他の全員も天を仰ぐ。
 青く澄んだ空。浮かぶ綿のような真っ白な雲。その中に自然と溶け込むようにして空を飛行していたのは、二本の跳ねたような頭と小鳥らしい丸く青い体、そして綿と見紛う程の翼を持つチルットであった。
「みんな、やっぱりここにいたんだ!」
 アルム達の姿を確認するや否や、垂直に降下してくる姿には、酷く焦りの色が窺える。地上に降り立って呼吸を整える際に見えたつぶらな茶色の瞳を見て、リプカタウンのウォルクだと改めて確信出来た。一番近くにいたシオンが駆け寄っていく。
「ウォルクじゃない。慌ててどうかしたの?」
「はぁっ、それがね、フリート様が捕まっちゃったんだ――」




コメット ( 2012/10/09(火) 14:15 )