エトワール・フィランテ〜星降りの夜の導かれし出逢い〜 - 第十五章 海底遺跡ラビュリントスと動き出す影〜強大な力と謎の封印〜
第百二十話 遺跡への侵入、探索〜四方への分岐行動〜
 道半ばで銘々の決意表明が済んで、一行は足を前へと進める。抜け道が通じているとは言え、さすがにアトランティスからは離れたところにあるのだろうか、中々目的地に辿り着くには至らない。道すがら小休止を挟みながら、都市を発つ前に調達した木の実と、ニノアがこっそり餞別としてくれたグミを口にして、アルム達は旅の疲れを取っていく。
 既に一本道であるが故に、半端なところで後戻りは出来ない。元よりアルム達にそのつもりもないのだが、目的地までの所要時間が分からなかったため、こまめな休憩が必要だと打診したのはレイルだった。それが功を奏したのか、長く歩き続けても思った以上に体力の消耗が少なかったのは、進化したレイルの思慮の賜物であった。

 つづら折りのような道の最後の角を超えたところで、不意に前方に見えていた景色が一変する。ごつごつした岩による洞穴が、途中からその構造と素材を変え始めたのだ。岩が途中から水晶のような輝く鉱石で出来たトンネルへと変わっていき、一転して仄かな光を放つ道を歩く事になったのだ。しかし、その神秘的な道も大して長くは続かず、すぐに行き止まりに突き当たった。
 両脇と同じく青白い輝きを放つ石による壁は、自然に出来たような武骨なものではなく、いかにも扉か石板のようにして真っ平に整えられたものである。天井も高くはないこの空間において、その行き止まりの両端には二本の石柱が建っていて、さらに怪しさを醸し出している。
「おい、いくら迷うような道なんかなかったとはいえ、本当にここで合ってるのか? どう見てもあの先に道が続いているようには見えねーけど」
 先頭を歩くヴァローが真っ先に見つけてぼやくように、確かに壁がある以上はその向こうに道自体は存在しない。だが、その代わりとでも言うように、突き当たりの壁には何やら特殊な紋様――複数の円がそれぞれ部分的に重なり合い、中に六芒星が描かれている――が刻まれていて、それと同じものが手前の地面に埋め込まれた石板にも記されている。
「いいえ、ここで合っているはずです。恐らくはこの先が目的地である遺跡なのです」
「問題は、この先にどうやって進むかって話よね。少なくともこの壁を壊して進め、なんて事はないだろうし」
 シオンが軽く壁を叩いてみるものの、それは見た目と予想通りのただの障壁でしかない。衝撃を与えたところで崩れるほど脆くもなく、むしろ破壊を試みたこちらの方が痛手を負うほどの堅牢さを誇っている。――何の前触れもなくクリアが放った“こおりのつぶて”が、傷一つ付ける事なく弾かれたのが良い証拠である。
「クリア、お前本当にせっかちなのな」
「壊せるんだったらとっとと壊して先に進んだ方が良いでしょ。ま、どのみち壊せなさそうってのは分かったけども」
 特に周囲への配慮や宣言もなく、無闇に攻撃を放った事にクリア自身は悪びれる様子もないが、今はそれを追及している場合でもない。急を要する事ではないとは言え、あと一歩のところまで来ている以上は、早く遺跡とやらを拝みたい。その気持ちはアルム達とて同じなのである。しかし、目の前には気になる紋様があるだけで、相応の知識を持たぬ彼らにとっては直接の手掛かりとはならないのだ。
「でも、ここまで来て無駄足って事はないよね? きっとどうにかすれば、遺跡への道は開けるんだろうけど……いっその事、全員の持ち技を一斉に壁にぶつけてみる?」
「それはさすがに危ないっての。クリアの技で傷が付かなかったんだから、やるだけ時間と体力の無駄な気がするぞ」
 アルムが持ち出した一応の提案も、ヴァローに一蹴されてしまう。頭を捻って振り絞り、必死に考えてはみるものの、これと言って良い案は浮かばない。唸り声を上げてうろうろと歩き回るが、さりとて天啓を得られるわけでもない。しかし、天啓の代わりにと、周囲の様子に徐々に変化が齎され始めた。
 アルムが不思議な石板の上をぐるぐると歩く内に、彼が常に首からかけているオカリナが燐光を纏っていく。それに呼応するようにして、壁と地面に描かれた紋様が仄かに光を宿し、空間全体が淡く輝きだしたのだ。
「アルムくん、何かしたの? オカリナと地面が何か一緒になって光ってるけど」
「え、えっ! 僕、何もしてないよ!」
 慌てふためくアルムをよそに、鉱石の洞窟の間は見る見るうちに発光が強くなっていく。光がまるで生き物のように鼓動する。当の本人には身に覚えがなく、ライズが心配して駆け寄っても、何をして良いか分からず狼狽えるばかり。ヴァローやシオンも近づこうとするが、あまりの眩しさに歩みを止めざるを得ない。
 そして、限界まで膨らんだ光が、満を持して一気に弾けた。空間が眩い粒子で覆い尽くされ、その場にいる誰もが耐え切れずに瞼を閉じる。光の嵐が止んだ時、既にそこは見覚えのある風景から様変わりしていた。

 集結している一行が立ち尽くす場には、先程と同じ紋様の描かれた石板がある。だが、周囲の空間の広さが桁違いになっており、かつて訪れた場所で言うなればステノポロスやグラスレイノの王宮に似た広大さをアルム達は覚える。立っている箇所からぐるりと周囲を見渡してみれば、少なくとも自分達が円形の広間にいる事は見て取れた。
 その外周を埋めるようにして荘厳な柱が八本立っていて、それぞれその二本ずつの間から向こう側に道が計四本、東西南北に伸びている。壁は全て群青色の鉱石で覆われていて、ここに至るまでの洞窟と同じように、僅かばかり光を帯びている。この空間には他に据えられたものはないようで、降り立った場所から読み取れる情報はそのくらいであった。
「おい、オレ達、さっきまで洞窟の中に立ってなかったか? こいつはいきなり過ぎてびっくりすると言うか」
 視界の移り変わりに唖然とせずにはいられない。何せ目を閉じた一瞬の隙に、先刻までとまるで違う空間に放り出されていたのだ。行き止まりに突き当たって一度は安堵しきっていた心を、そのまま置き忘れてきたようでさえある。不注意にもブレットがふらふらと歩き回るが、特に警戒すべき点もないのか、誰もその歩みを止めようとはしない。
「アルム、お前何したんだ!?」
「だから、僕は何もしてないってばあ!」
 転移の前に異変を発していたのは、アルムを除いて誰もいない。そうなれば、困惑する皆の視線の矛先は自然とアルムに向くのが当然ではあるが、無論張本人とて訳が分からずに頭に疑問符を浮かべている。光を発するオカリナの持ち主たるアルムにも、理解が追い付かないのである。ますます謎が深まる中、不意にティリスが思い出したように口を開く。
「これはもしかしたら、“テレポート”の一種なのかもしれませんわね」
「“テレポート”って、あなた達エスパータイプが使う技よね? つまり、光で視界が遮られている間に、ここに瞬間移動したって事なのかしら」
「ええ、恐らくは。私も“テレポート”を使える者の端くれですから、その感覚は何となく覚えていて、先程のもそれに近い感じが致しましたわ」
 光の集束に伴う急な景色の変化も、テレポートによる空間移動なのだと考えれば合点が行く。問題はティリスが行使したものではないのに、どうやってテレポートが発動したかであるが、今は不毛だと考えを及ぼすのを止めにする。
「そういえば、結局ここが例の遺跡って事で合ってるわけ? 僕達はそもそも遺跡がどんなものかも知らずにここまで来たわけだけど」
「はい。おっしゃる通り、ここは目的地である遺跡に間違いありません。私の中にあるデータと照合しても、ほぼ合致致します」
 横目で流し見ているクリアに対し、壁伝いに動いてまじまじと観察しているレイルの姿は、いつになく熱心そのものである。床に幾重にも刻まれている紋様や、謎の文字らしきものにまで隈なく目を通し、得心がいったように一人頷く。
「ねえ、レイル。遺跡のデータがあるなら、この先にどんな道が続いているとか、どこに辿り着くのか、そういう事は分からない?」
「あくまで遺跡と認識するための情報しか揃っておらず、内部のマップなどは私の記憶の中にも収められておりません。主、お役に立てず申し訳ありません」
「いやいや、レイルが謝る事なんてないんだよ! むしろレイルがいなかったらもっと分からない事だらけだったんだしさ。それに、探検するって考えると、わくわくもしてくるしね」
 今まで遺跡巡りやダンジョン探索といった事をしてこなかったアルム達にとっては、ある意味新鮮な体験なのである。選択肢が四つもあるのは悩みどころではあるが、それも含めてこの状況を少しずつ楽しみ始めているのだ。
「まあ、多少は能天気なのも悪くはないが、本筋を見失うなよ。おれ達は奴らの目論見を阻止するためにここへやってきた。だろ?」
 年長者たる威風堂々さも相まってか、嫌に響くアカツキの言葉で少年たちの気も引き締まる。これが未開拓地を探検する子供のような気分ではいけない事くらい、アルム達も重々承知している。故に目的を提示される事で、浮ついた心も収まりがついたのだ。
「だけど、いきなり飛ばされた場所から、道が四本も伸びてるんだろ? これ、どれが正しい道とか分からないなら、どう動くのが正しいんだ?」
「これだけ人数も揃ってるんだし、二手くらいに分かれるのはどうかしら? さすがに四つの道全てに行こうとすると心もとなくなると思うから、半分くらいならちょうど良いと思うの」
「僕もシオンの考えに賛成! 固まって動いても仕方ないもんね。行った先で無事合流出来るとも限らないけど、その時はまたここに戻ってくるようにしようよ」
 分担して探索をする案には、皆が揃って賛同する。問題はどう二組に分けるかであった。ティルはアルムと一緒に行くと譲らないし、ヴァローやシオンなども離れたくはないと言う。現在新たに三人加わって、総数は十である。半分ずつなら五ずつで分けられなくもないのだが、なかなかどうして上手く行かない。
「そんなに二組に分かれられないなら、いっそ四組に分かれたらどうだ。それなら道を網羅出来るぞ」
 纏まりのなさに痺れを切らしたアカツキが、一同のざわつきを一掃する。あれこれと決めあぐねていたアルム達も、結局その意見に賛同する形で、今度は揉める事なく手早く組分けを終える事に成功する。話し合いの結果、アルム・ヴァロー・ライズが一組、シオンとティリスが一組、レイル・ティル・アカツキが一組、クリアとブレットで一組という形に相成った。
「一時的に探索のために組み分けただけだ。ある程度進んで何か掴めたら、戻ってきて各々報告する。それで文句はないな?」
「ええ。いざと言う時のためにも、少数で行動出来るスキルを身に着けておくに越した事はないものね」
「大人数で動いて、全員が罠にかかるという危険を減らすという利点も含めてな」
「あんまり不吉な事言わないでくださいよう。でも、遺跡なら、変わった仕掛けとかもあるかもしれませんよね。気を付けなくちゃ」
 初めての分岐で少人数の行動に、特に年少組であるアルムやティルは少し不安の色を隠せない様子である。だが、必ずまたこの遺跡内で再会する事を願って。東西南北に向かって、四つのグループがそれぞれ探索に向けての歩みを開始した。


コメット ( 2018/08/20(月) 22:52 )