エトワール・フィランテ〜星降りの夜の導かれし出逢い〜


















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第十四章 水中都市アトランティスと結界使い〜精霊の秘密と新たな兆し〜
第百十五話 キルリアの語り、力の正体〜過去と素性と本当の名前〜
 さほど深海でもないこのアトランティスには、天からの光がいくつか神々しい柱として降り注いでいる。故に海中という事もあって、視界いっぱいに波紋が揺蕩(たゆた)う。滞在時間こそ長くはないが、その幻想的な風景にも見慣れ、全身を水が包み込んでいる感覚もほぼ忘れかけた頃。
 微かに押し寄せる水流に短いスカートをたなびかせる少女は、四人の聞き手を抱える語り部となっていた。神妙な面持ちで聴き入るアルム達を前に、キルリアは至って落ち着いた声音で身の上語りを滔々と始める。
 その始まりはまず、彼女自身の生い立ちに近いところであった。キルリアはサンクチュアリで生まれ、その類稀なる超能力を見出された事から、幼き頃から精霊の巫女として抜擢されていた。――今その役割を果たしているラティアスのユーリは、あくまで代役に過ぎないのだ。
 巫女としての仕事は、精霊周りのお世話から神殿の管理のみに留まらず、時には精霊と共に自らの力を高める修行を行ったり、フルスターリを通して他の精霊との交流を図ったりするなど、決して息苦しい事ばかりではなかった。たまには息抜きと称して他所の町へ出かけるなどもしょっちゅうで、楽しい事も多かった。彼女自身もその使命と役割を誇りに思っていて、実直に務めを果たしていたのだ。
 だが、そんな平和な時も長くは続かなかった。今まで平穏そのものだったこの土地に、突如として襲撃が齎されたのである。キルリア自身もその稀有な力で対抗しようとはしたものの力及ばず、あまつさえ目の前で両親が体を張って守るという状況にまで追い込まれてしまったのである。幸いにも命こそ失われなかったものの、両親は昏倒したまま意識を取り戻さなかった。
「そうよ、あの襲撃から全てが狂ったのよ」
 わなわなと体を震わせ、表情に影を落とす。静かに相槌を打っていたアルム達が見かねて声を掛けようとするが、キルリアはそれを微笑みを浮かべて押し留め、再び追想へと戻る。思いやりこそ嬉しいが、今は真実を全て話きるのが先決だと判断しての事である。

 一瞬にして絶望の淵へ立たされたキルリアに、手を差し伸べるようにして現れたのが、他でもないベーゼと名乗るミュウツーだった。周囲に蔓延っていた掃討し、神殿とキルリアの危機を救ったのだ。その直後に、ジラーチの力によって生み出される“願いの鈴”という道具があれば、未だ眠ったままの両親を目覚めさせたいという願いを叶えられると教えられた。自分に付いてくれば、その入手も不可能ではない――そう告げられ、リーゲルが制止に至る前に即決したキルリアは、そのままベーゼに付き従う事となったのである。
「なるほどね。そもそも襲撃を画策したのはベーゼ自身で、君の特異な力を狙って近づくためだったって考えれば、合点も行くものだけど」
「ええ。あんな都合の良い時に現れたとあれば、今になって思えばそうとしか考えられませんわね。もっとも、当時失意の内にあった私には、精霊様に頼れなかった以上、藁にも縋る思いでしかなかったのですわね。大した弁解にもなりませんけど」
 ごまかして苦笑を浮かべるキルリアではあるが、その表情の奥には幾重もの苦労が偲ばれる。同じ境遇に身を置かれた事のないアルム達に軽々しく共感できるなどと口には出来ないが、それでも同情するくらいは出来る。
「それからはずっと、ベーゼの下で動いてたって事で良いんだよね?」
「ええ。義賊たちの心を掌握して仲間に率いれ、半ば強引に連れ去った事も。ニドクインが館長の図書館からジラーチに関する書物を盗むよう裏で糸を引いたのも。グラスレイノの王に取り入り、全てを乱したのも。全て指示を受けて行った私の所業ですわ。今思い返せば、本当に様々な罪に加担してきたのですわね」
 ここまで積み上げてきた事柄の全てが許されるものではない事は、キルリア自身も承知している。自らの願いのために従っていたという事実は確かであるが、それが免罪符になるわけでもない。ましてや操られていたのでもなく、自らの意思で続けていたとあれば、断罪されて然るべきだと思っているのだ。それ故に嘆息交じりに語り終えた後で、項垂れてアルム達の反応を待つという行動に出た。
 あまりにも反応が来ないもので、痺れを切らしたキルリアの方から恐る恐る顔を上げて正面を向いてみれば、そこには深刻な話を聞いた後でも普段通りの笑みを湛えるイーブイの姿があって、キルリアはまたしても呆気に取られる。隣に立つザングースも、心なしか解れた面持ちを見せている。
「もう謝る事はないって思うな。だって、キルリアさんは改心したからこそ、自分を偽ることなく、僕達にこうして全てを打ち明けてくれたんだもんね」
「ああ、おれも同感だ。そこの水の精霊も言っていたが、全てはこの後のお前次第だろう。それが贖罪であろうと何であろうと、今さらおれから咎めるつもりはねえよ」
 瞬間、深海の底に沈み切っていた重い体が、ふわりと浮き上がるような錯覚にキルリアは陥る。向かい合う二人はどちらも吹っ切れたような顔をして立って、自分の方を直視してくる。真っすぐで凛とした瞳が眩しくて、温かくて、思わず目を背けてしまう。だが、それは決して不快なものではなく、むしろ享受し続けたいと思えるほどの、心地良いものだとキルリアは感じ取っていた。
「こちらの世界は本当に甘いのですわね。でも、こんな感覚初めてですわ。――いいえ、リーゲル様の下にいた時から久しい、という表現の方が正しいのでしょうか。本当に、ええ、久方ぶりに光を目にしたようですわ」
 円らな赤い瞳から、不意に雫が滴り落ちる。悲愴に満ちた冷たいものではなく、心が揺さぶられた事から来る熱い涙――それはキルリア自身も予期せぬ事で、慌てて目元を拭う。アルムやアカツキとしては、キルリアの突然の感情の表出に戸惑いこそ覚えるものの、感情の起伏がこれほど見られた事で、幾分か信用に近い思いをキルリアに対して抱きつつあった。
「良かったら、これからも僕達と一緒にその光を見ていこう? あっちに戻るより、ずっと良いと思うんだ」
「――ええ、私で良ければ。むしろ、こちらからお願いしたいくらいですわ。そういえば、まだ私の本当の名前、言ってませんでしたわね」
「そういえば、ネフィカとかラクルとか名前をいくつも持ってたけど、どっちも本当の名前じゃないの?」
「ええ。あれらは己を律して活動に専念するための、いわば偽名と言うものでしたから。私の本当の名は、ティリスと言いますの、よろしくですわ」
 アルムの放つ光に包まれ、キルリア――ティリスは温もりと明るさを取り戻し、無事に和解するまで漕ぎつける。それも倒すことなく取り成したアルムの功績であり、ティリスの身柄と処遇の件はひとまず落ち着いた。
 場の空気もようやく和んできたところで、沈黙を貫いて傍観を決め込んでいたクリアが、不意にニノアへと視線を投げかける。それはついさっきの不快感を顕わにしたようなものではなく、純粋な疑問を内包したものであった。
「ニノアさま、もしかしてあいつの侵入をむざむざ許したのって……」
「まあね、他からの干渉を受けないようにするためには、隔離出来る空間が良いと思ってね。君の因縁の相手と知っていながら、黙っていたのは悪かったよ。この都市にいる皆はニノアの大事な家族みたいなものだ。だから、出来れば円満にとまでは行かなくても、力づくで解決する以外にも方法がないかなって思ってね。お互い後腐れなくするためにも、さ」
「それってつまり、僕が復讐心に心を囚われて、万が一あいつを氷漬けにしたりする事を危惧したって事?」
「そんな感じかな。復讐したい気持ちは分かるけど、もしそれより納得できる道があるのだとしたら、そっちを選んで欲しいなって思ったから。後はまあ、サンクチュアリのリーゲルから話は聞いていたからね。上手く戦闘を鎮圧する事が出来れば、彼女の力にはなれないかと思っていた。ニノアの出る幕はほとんどなかったけどねー」
「――ニノアさまには敵わないなあ」
 ニノアにはニノアなりの考えがあって、多少損で意地悪な役回りを演じていたのだ。呆れ気味に嘆息を吐くクリアは、今度こそ気持ちが晴れたように顔を上げる。爽やかな笑顔がふと表れ、もやもやしていた心を一掃していく。こちらもしこりなく終わりを告げたのを皮切りにして、一時はぎくしゃくしかけていた関係も無事落ち着いた。

 クリアの心の淀みが全て払拭されたところで、ニノアは今一度アルムの方を向く。何かあるのだろうかと身構えるアルムの前で、仰々しく手をぽんと叩くと同時に、さらに大袈裟に手を挙げてさながら「思い出した」と言わんばかりのポーズをとる。
「それはそうと、すっごく大事な事を忘れてたよ。アルム、君は自身が発動した力の事、何か分かっているかなー?」
「力ってあの、ティリスさんの幻覚を破った――白いカードと言うか盾みたいな、何かだよね」
「そう、あれだよあれ。もちろん意識はあったはずだし、覚えてるよね?」
 自分にある力と言えば、オカリナを発動体とした青い球状の盾を展開するものくらいしか身に覚えがない。それ以外は“すなかけ”“ねがいごと”くらいの、戦闘の主に攻撃面ではとんと役に立つ技くらいしか使えず、ニノアに指摘された力がそもそも自身の力なのかさえ疑っているくらいであったのだから。唸り声を上げながらも思い当たる節のあったアルムは、半信半疑ながら頷いてはみる。
「もう一度使ってみせてって言われたら、出来る?」
「どうだろう……うーんっ!」
 バリアを展開する時の感覚で全身に力を込め、気合いを入れて声を出してはみるものの、そちらのように何か体から力が溢れだしてくる感じはしなかった。むしろ内にあると考えていた力が空っぽで、その感覚は一種の飢えに近いものだった。
「だめだ、思うように使えないみたいだ」
「だろうね。そうだと思った。あれは君がイーブイだからこそ、イーブイとしてここまで頑張ってきたからこそ、報われた力なんだよ」
「進化出来ない僕でも、あんな力を自分で使えるようになるの?」
「君、自分自身の事を信用していないんだなあ。あの力を使ったのは確かに君である事は、君自身がよーく分かってるんじゃないの?」
 もったいぶっているのか、順序立てて話そうとしてくれているのか。ニノアの説明を出し渋る様子に機嫌を損ねたアルムは、珍しく頬を膨らませて感情を誇示する。だが、ニノアは悪びれる素振りもなく、小出しにするのを楽しんでいるかのように喜色満面の笑みである。しかし、このやり取りも一種の愛嬌。アルムは頬に溜めていた空気を呼気で吐きだし、ニノアも持ち上げていた口角を下ろすと、不思議とまた真面目な応答に戻る。
「ねえ、ニノアはやっぱり、この力の正体を知ってるの?」
「意地悪も程々にしないとね。うん、もちろんだとも。それは“きりふだ”っていう技で、純粋な成長で習得できる種族は中々いないんだよー。それも、イーブイは一度早い段階で進化してしまうと、もうその技を扱えるようになる機会を失ってしまうんだよ。だから、君みたいに覚えられるのは、珍しいんだよね。“進化出来ない君”だからじゃなく、“進化しなかった君”だからこその力ってわけ」
 解答を得たアルムは、雷に打たれたようにその場に立ち尽くす。いつの間にか取得していて無我夢中で使った力が、ずっと思い悩んでいた進化と密接に繋がっていた。それも、散々苦悩していた分を補って余りあるくらいのもので、嬉しさも相まって言葉を失っていたのだ。
「ニノア、それは本当なの? 僕だからこそ、使える力だってのは」
「そうだね。むしろ君はこの力を得るために、進化を望まない体に生まれてきたって言っても過言じゃないのかも。もしかしたらずっと昔から、君はこういう運命にあったのかもね。そのオカリナを託されて守りの力を得るくらいだから、きっとそうに違いない」
「僕だから使える……いまいち実感はないけど、あの力は確かに僕のものっていう認識で良いんだ……」
「うん。だけど、君の力の使い方は少し変わってるね。本来五回までしか使用が叶わず、回数を重ねる毎にその力が増していく攻撃――のはずなんだ。それが君の場合は、その全てを一度に扱えた上に、単純な攻撃として使ったわけでもない、ときた。これはニノアもびっくりだなー」
 口ぶりこそ軽いが、決して茶化しているのではない。その力の正体――“きりふだ”という力については、アルム自身も話に聞いた事はあった。未だアルム自身にも掴み切れていない不透明な部分は多いが、それでも胸いっぱいに弾けんばかりの喜びが満ち溢れてくる。
「えへへ……進化出来ないけど、まだまだ僕にはみんなの役に立つ事が出来るんだ。こんなに嬉しい事はないなあ」
 もう何も出来ないと打ちひしがれなくとも良い。新たな力のお陰でより自分が貢献出来る可能性が広がった事実に目頭が熱くなり、それはまた嬉し涙という形で溢れ出した。思わず口元が綻び、顔中にその嬉々たる感情が広がっていく事で、先までの不安も含めて一気に全てが融解していく。

 アルムの新たな力、ティリスの処遇についての話が共に終着を迎えた折に、ぞろぞろと上がってくる複数の影が視界の端に入った。アルムの身を案じて各々動いていた仲間たちが、改めて一堂に会したのだ。
アルム達の近くにいるキルリアの姿を認めるや否や、ヴァローが真っ先に毛を逆立てて警戒態勢に入った。事情を知らない以上は仕方ないとはいえ、慌ててアルムが駆け寄って制止する。
「アルム、これは一体……大丈夫だったか? 何だか涙の跡も見える気がするけど……」
「うん。クリアさんとアカツキさんがいてくれたから、心強かった! もう大丈夫だよ」
 喜ばしいはずの友人の笑顔に、ヴァローは同じ笑顔で返すことが出来ず、ほんの一時我を忘れるように表情が凍り付く。アルムが無事である事に胸を撫で下ろす反面、アルムが笑顔で言い放った『クリアとアカツキを頼りにしていた』という旨が、やけに胸にちくりと突き刺さった。普段なら気にも留めないような報告であるはずが、何か心に押し寄せるものがあって、ヴァローは気難しい顔をする。だが、その正体にヴァロー自身が気づいていないせいか、アルムと目が合うとすぐに冴えない表情を消し去り、にかっと笑って見せる。
 不審に思ったアルムが歩み寄ろうとすると、今度は背後から彼を心配していたものが近づいてきた。その気配を感じて無視は出来ないと振り返ってみれば、そこには頬を膨らませていかにも怒ったように立っているマイナン――ライズの姿が。
「ライズ、どうかしたの?」
「どうかしたの、じゃないよ。アルムくん、体調が優れないって言うのに、また無茶したようだから……僕、心配で」
「うん。ほら、こうやってみんな無事だったわけだし、大丈夫」
 仲間が揃った安堵で張り詰めていた神経がようやく解けたのか、忘れていた疲労と風邪による倦怠感が一気に押し寄せてきて、アルムは足元がふらつく。ライズはそれをすかさず受け止めて、地面に優しく横たえた。
「だから言ったじゃないか。アルムくん、こういう時でも平気なフリしちゃうって。僕だって新しい力を手に入れて強くなったし、もちろん戦い以外でも頼って欲しいな。アカツキさんや、ヴァローだけじゃなく」
「もしかして、ライズ、少しだけ妬いてた?」
「うん、妬いてたよ。悪い?」
 悪びれる様子もなく、ライズは渾身の笑顔を振り撒く。人格が分裂していた頃の影響もないくらい、ライズが素直な吐露を見せてくれた事がアルムとしても自分の事のように嬉しく、こそばゆく感じながらも心の底から笑って応じる。
「はいはい、アルムに心労をかけるのもそこまでにしないとね。薬を持ってきたから、これを飲んでゆっくり休んでね」
 優しく介抱する役目を担うのは、両手に器を持って現れたシオンであった。その中にはすり潰した木の実が入っており、そのまま寝ているアルムの口に流し込んだ。最初に顔を歪めたくなるような苦みが口の中に広がるが、それを中和するように後から甘さが追い付いてくるお陰で、涙目になる前に飲み込む事が出来た。
「まずいと言うべきか、おいしいと言うべきか、すごく迷う味だねこれ」
「薬なんだもの、多少は我慢しないとね。よくちゃんと飲めました」
 渋い顔をしながら舌を突き出すアルムに寄り添いつつ、シオンは毛並みを整えるように体を優しく撫でていく。あまりにも不意で驚きつつも、その心地よさについつい身を委ねてしまう。眠気にも少しずつ襲われ始め、瞼が重くなってきた頃、今度は空からの訪問者が上に被さるようにして落ちてきた。
「アルムー、早く元気になってねー! そしたら、また一緒に遊んでね!」
「うん、分かった、分かったから。ティル、今はちょっと降りてくれないかな……」
 地味にずしりと重いティルをシオンに引き剥がしてもらい、ライズに離れた位置まで連れていってもらう。こうして再びまどろみに落ちていく感覚が戻りかけるが、直後にレイルの姿が目に留まって、思わず体を起こした。表情の変化は窺い知れないが、その場に佇んで漂っている雰囲気が、どこかいつもと違うように見えて。
「主、私は……あなたのために、これからどうしたら良いのでしょうか」
 声の方もさして変化はないが、明らかに様子がおかしい事はアルムにも分かる。レイルは一人、珍しく何かに悩んでいるようであった。普段今までは何も言わずとも黙って付いてきてくれていたレイルの発言にしては、常軌を逸している。
「僕はこれからも一緒に旅をしてくれると嬉しいな。それじゃ、ダメ?」
「ダメなのです。私はもっと、あなたのために尽くせる事があるはずなのです。それを分かっていながら、未だに実行に移せないでいる。その事が、ただひたすらに口惜しい、と言いましょうか」
「じゃあ、どうしたら良いんだろう。レイルがしたいようにしてくれると、僕もレイルに応えられるかもしれない」
「私がしたい事……私はもっと主のお役に立ちたいのです。ですが、それが果たして正しい事なのか、私自身判断がつかないのです」
 いつになく多弁ではあるが、その真意までは話してくれない。ここまで何かに迷っているレイルは初めて見た。アルムも必死にくみ取ろうとはするが、何分睡魔に飲まれつつある身では、頭も気もこれ以上回せないでいた。その体調を察したレイルが、名残惜しそうにアルムの元を離れていく。
「レイル、待って……もっと、話を――」
「アルム、今日のところはゆっくり休みましょ。大丈夫、また明日になれば話す時間はあるんだから、焦らないで」
 足にももう力が入らない。隣にいるはずのシオンの声さえ、遥か彼方から聞こえてくるかのように朧げだ。視界が霞んで黒く塗り潰されていく間に、白い背中が辛うじて映ったのを最後に、アルムの意識はぷっつりと途絶えてしまうのであった。


コメット ( 2017/06/09(金) 20:15 )