104番どうろ〜トウカの森
俺とスモモはレストランを出た。
「アズサさん!ご馳走様でした!私、こんなにお腹いっぱい食べれたの、初めてですよ!」
「そうか、よかったな。(それで腹一杯じゃなきゃ、殺すぞ・・・。)」
こめかみに血管を浮かばせながら、スモモに笑顔で返す俺。
.
「で、これからどうすんだ?スモモ。」
本来なら、シンオウで武者修業するはずだったスモモは、野生ペリッパーに食べられて遠いホウエン地方に強制連行されたスモモ。
「そうですね・・・。せっかくホウエンに来たので、ここで修業するのもいいかもしれませんね。ジムリーダーに必須なトレーナー実務経験は、シンオウのエリアじゃなくても大丈夫なので。・・・それに、シンオウと比べてホウエンは暖かいですし♪」
スモモはホウエンに居着くつもりらしい。
・・・誘ってみるか。
「あのよ、スモモ。」
「はい?」
「・・・まあ、なんだ、その。」
・・・・・あれ、なんでこんなに躊躇ってんだ?旅を一緒にしないかって、誘うだけじゃねぇか?
・・・今まで、兄貴以外とつるむ事なかったから(ハルカは除外)、自分から仲間に誘う事自体、初めてなんだよな。
「・・・なんでもねぇ。」
・・・・・ヘタレだよな、俺。
いざ言うとなると、緊張しちまう。
なんでだ?仲間にならないかって言うだけだぞ?
・・・・・多分、怖いんだろうな、俺の心の中で、身体の傷痕や粗野な性格を拒んで、裏切られるのが。だから俺は今まで、ともだち一人、つくれなかったんだ。
「アズサさん!」
スモモが突然、大きな声をだした。
「な、なんだ?」
「アズサさんに、折り入ってお願いがあります!」
直立不動で俺の視線を真剣な眼差しでとらえるスモモ。どうしたんだ一体?
.
「私を・・・アズサさんの弟子にしてください!!」
.
・・・な、何ぃ!?
ガバッと頭を下げるスモモ。
「で、弟子ぃ!?なんだよ突然。」
「はい!先程の試合で、自分の未熟さを痛感しました!ポケモンバトルにしても、武道にしても、結果では互角でしたが、内容ではアズサさんが一段とうわてでした!・・・私、もっと強くなりたいんです!アズサさんに、いえ、アズサさんの武道の何たるかを私に教えて下さい!お願いします!」
執拗に、そして縋るようにお願いするスモモ。
「・・・え、それは・・スモモ。俺と一緒に武者修業したいって・・・事か?」
「はい!!お願いします!!」
・・・・・はは。なんだ。
向こうも同じだったんだな。
・・・仲間になるって事は、こうやって、スモモみたいに自分の心をきちんとぶつけなきゃ、いけないんだよな。
・・・・・へ、危うく、中途半端に仲間に誘うところだったぜ。
「全然OKだよ。っつーか、組み手の相手も出来るし、こっちも助かるぜ!」
「え!それじゃあ!」
「ああ、こっちこそ、よろしくな!弟子になるからには、ビシビシいくぜ!」
「よ!よろしくお願いいます!(やったーー!やりましたよ!私!あのシバさんの娘さんの弟子になりました!)」
嬉しさのあまり、ピョンピョンとびはねるスモモ。
「よし、俺の修業仲間になるにあたって、大事な事がある!」
「え?」
「俺の最終目標は、『シバを越える事』だ!その為なら日頃の鍛練を怠らねぇ!そして自分自身の武道の信条は、『絶対に諦めねぇ』事だ!そして、武道の信念は、『自分自身に勝ち続ける為』だ!
・・・スモモもこの際だ。自分の『最終目標』と『武道の信条』、そして『武道の信念』を今ここで言ってみな!」
「はい!私の最終目標は・・・格闘界の頂点・・『アズサさんを越える事』です!」
「はぁ!?なんで俺!?」
「アズサさんはシバ師範を越えるんですよね、だったら、そのアズサさんを越えれば、私が一番になります!」
「・・・へぇ。・・・で、続きは?」
「自分自身の武道の信条は、『真剣勝負』です!そして、武道の信念は、『誰でも人を助けるため』です!」
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『俺を越える』、『真剣勝負』、『誰でも人を助ける』
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『シバを越える』、『絶対に諦めない』、『自分に勝つ』
.
今、二人の武道が交錯した。
.
スモモが仲間になった。
.
「これからよろしくお願いします!先輩!」
「おう、よろ・・・・・へ?せ、先輩ぃ!?」
「はい!だって先輩は、私より武道歴が長いですし、ひとつ年上ですので!だから先輩って呼ばせて下さい!・・・・・だめですか?」
「・・・いや、いいよ・・。」
先輩、か。
スモモは俺の、後輩。
・・・うぉお!やっべ!ゾクゾクする!
少し酔った俺だった・・・。
「?」
.
翌日。朝5時。
「さあ!鍛練開始だ!」
「はい!」
新たな仲間、スモモと一緒に、鍛練に励む。
ポケモンセンターから、昨日の砂浜を目指して走った。
勿論、手持ちのポケモン全部ボールから出してだ。
夏だから、5時過ぎでも日が昇りかけて、青い光が道を映す。
.
砂浜に着いた。
「基本動作!突き100本!」
俺とワカシャモとワンリキーで行っていた基本動作に、新たな仲間が加わる。
「せい!せい!せりゃ!」
「アサァ!アサァ!」
「リオ!リオ!リオ!」
俺と同じくらい小柄な体格のスモモに、アサナンとリオル。全力で俺の鍛練のメニューに参加する。
「次ぃ!蹴り100本!」
つづけて受け技、投げ技と、いつもの基本動作をつづける。
「よし!次はシャトルランだ!」
砂浜にスタートとゴールに線を引き、その間隔を10mにする。
「全員スタートに並べ!10往復してドンケツ二人は罰ゲームだ!」
「押忍!」
「シャモ!」
「リッキー!」
「アサ!」
「リオー!」
.
・・・・結果は、一位からワンリキー、リオル、ワカシャモ、アサナン、スモモ、俺だった・・・・・。
「ぜぇ、ぜぇ・・・、やっぱポケモンと人間の差か・・・。」
「はぁ、はぁ・・・、も、もう、もう少しの所で・・・アサナンに抜かれました・・・。」
結局、俺とスモモが罰ゲーム。
・・・ワンリキーとワカシャモがニヤニヤしてやがる。鍛練メニュー発案者は俺だから余計ムカつくぜ・・・。
「先輩、罰ゲームって、何するんですか?」
「あ?懸垂だよ。」
「へ?あ、なんだ懸垂ですか〜。それなら得意ですよ!」
意気揚々となるスモモ。
ニヤニヤするワンリキー達に案内されたのが、砂浜から離れた原っぱにある、ポツンとはえた大きな木がある。
「リキ。」
ワンリキーが親指を木に向けて、『やれ』と顎を浮かせる。・・・・最近コイツ調子にのってんな。
その木から伸びた太い枝は、俺達がジャンプすれば丁度掴めるくらいの高さにある。
「それじゃあ私からいきます!」
ガサッと軽々と枝に掴まり、ぶら下がるスモモは軽やかに懸垂をする。
「1!2!3!4!5 「あーー、スモモ!ダメだダメだ。」
「へ?な、何がダメなんですか?」
「スモモの懸垂は、頭の高さまでしか上がってねぇだろ?ちゃんと顎の高さまで上げろよ?あと、手首が逆だ。甲を自分に向けろ。」
「ぅ・・・、わ、わかりました。」
「あ、それから、下ろすときは、一回一回肘を伸ばしてから上げろよ?」
「肘を伸ば・・・・え、ええ!?かなりきついですよそれ!」
「ノルマは10回だ。」
「じ、じゅっかい!?」
「ちなみに、落ちたら最初からだ。」
「ええええ!?」
.
顎の高さまで上げて、一回一回肘を伸ばしてから上げる懸垂を、スモモはつづける。
「・・・ぐっ!・・・ろ、6・・・!」
「ほらほら!しっかり顎まで!」
スモモは気力で踏ん張るが、腕がプルプル震えて、力がもう出ないでいた。
「・・・む、むりです〜!」
スモモは手を離す。
ワカシャモのつつく!
ガシ!ゲシ!
「ひゃああああ!!?」
スモモはワカシャモに背中をクチバシで突かれた。
「早く再開しないと、コイツら喜んで攻撃するからな。」
「痛い痛い!わ、わかりました!」
スモモは再度枝に飛びつく。・・・が、力を入れようにも、既に腕が悲鳴を上げていて、全然上がらない。
「どうした。一回も上がってねぇぞ!」
「あ、上がりませ〜ん・・・。」
涙目になりながらスモモは踏ん張るが、肘も伸びきったまま、上がらない。
「おらおら〜、ワンリキーやワカシャモが下で待ってるぜ〜。」
ワカシャモ達があくどい笑みを浮かべて、指を鳴らしている。
「・・ぅう〜、手に力が入りません!また落ちそうです!」
「諦めんじゃねぇよ!ほらほら!」
結局スモモは落ちた。
ワンリキーのにどげり!
「きゃああああ!?」
再びスモモは枝に飛びつく。
「どうした!10回だぞ!」
「ううう・・・!もう無理です・・・!」
スモモはぐずり出した。
「泣くな!てめぇそれでも武道家か!」
「リオ〜!」
「アサ〜!」
アサナンやリオルが応援している。
「・・・ぐす、・・・でも・・。」
「・・・たく、ワカシャモ、支えてやれ。」
ワカシャモがスモモの脇腹を持ってやり、スモモの腕にかかる体重を軽くしてやる。
「・・・う、すいませんワカシャモさん。」
「シャモ!」
「いいか、今の体重が軽い状態でもう一度やってみろ!」
「は、はい!」
ワカシャモに支えられ、ゆっくりと、全力を振り絞って、スモモは懸垂を10回やり遂げた。
スモモは疲弊して、地面に膝をつく。
「スモモ!しっかり腕と胸部をストレッチしろ!」
「は・・・はい・・・・・。」
息たえたえに返事をするスモモをよそに、俺は懸垂を始めた。
「1・・・2・・・3・・・!」
ぐいぐいと回数を進めていく。
「うわ〜!先輩すごいです!」
・・・へっ、コッチは何回も鍛練やってるかんな!
「・・・7・・・8・・・!
・・・もうすぐノルマの10回が終わる時だった・・・。
「・・・・・リキ・・・。」
「シャモ。」
なんか・・・下の方で、ワカシャモとワンリキーがボソボソ言ってやがる。
俺が9回目をやろうとしたその時。
ガバッ!
「きゅ・・うう!?な!何ぃ!!」
ビックリした!背中に突然リオルが抱きついて来やがった!?
「ぐ・・・・かががああ!」
お、重てええぇぇ!
腕に力が入らなくなる。ジリジリと負荷がかかりのなら解るが、ズッシリ来たからな、今!?
「先輩!あと2回ですよ!」
・・・嬉しそうだな、スモモ。
「シャモシャモ!」
「リッキー!」
・・・あいつら、あとでシバく。
「リオーーー!」
・・・お、下りろ!下りてくれ〜〜!
「ぐ!ががが!・・・き、9〜〜!」
「凄いです!あと1回ですよ!」
俺は腕を伸ばし、肘を曲げるが・・・。
「・・・・ぐ、が、リオル、下りろ〜〜!」
背中にズッシリと重みが伝わり、俺を地面に引きずり落とそうとする。
「シャモ・・!」
「リッキキキ・・!」
くっそ・・・!
あと一回なのに〜〜〜〜〜!!
俺は痺れる手を離した。
ワカシャモのつつく!
ワンリキーの空手チョップ!
「痛っってえええ!!」
ワカシャモのひっかく!
ワンリキーのけたぐり!
バキ、ザシュ、ベキ。
「が!ぐ!てめぇらああ!上等じゃねえかああ!俺に喧嘩売りやがってええ!」
ブチ切れた俺は、ワカシャモとワンリキーの首を抱えて締め上げる!
「シャ・・・シャモ・・!」
「リ・・リッキ!」
ワカシャモのにどげり!
ワンリキーのメガトンキック!
「てめええらああああ!」
俺はワカシャモとワンリキーに頭突きをかまして応戦した。
「わわわ〜!先輩!喧嘩はダメですよ〜!」
スモモやアサナンやリオルが止めに入る。
・・・しばらく騒動はおさまらなかった。
.
「・・・ぜぇ、・・・ぜぇ、・・・た、鍛練再開するか。そろそろ、真面目にやるぞ。」
「シャ・・・シャモ。」
「・・リキ・・。」
満身創痍で頭が冷えた俺達は、再び砂浜に戻る。
「えっと、先輩?・・・いつもこんな感じなんですか?」
スモモが言う。
「・・・・・大丈夫だよ。コイツらも、鍛練やバトルの時は一生懸命やるから。」
10分くらい喧嘩していて、ボロッボロのワカシャモやワンリキーを見据えて言った。
「よし!打ち込みを行う!台をひとつ作れ!まず、ワンリキーから!」
「リッキ!!」
ワンリキーが先頭に立ってこちら側へ向いた。
「他のヤツは一列に並べ!今から順番にワンリキーに打ち込め!攻撃は自由だ!一発当てれたら次のヤツと交代!ワンリキーは防御だ!隙があればカウンターをしてもOKだからな!3周したら台を交代だ!」
説明をして、打ち込みを開始した!
「リッキ!」
「アサァナン!」
アサナンが攻撃し、ワンリキーがかわして受けて隙あらば打つ。
「アサナン!相手をしっかり見て!」
「ワンリキー!腰が高ぇ!」
「シャモーー!」
「リオ!」
.
・・・40分後。
「よし!打ち込み終了だ!」
「押忍!」
皆、その場にへたれて座りこむ。
「休んでるヒマはねぇ!次の鍛練だ!」
俺は手をたたいて皆を立たせる。
「・・・せ、先輩、・・・す、少し休んでからの方が・・!」
「アサ〜。」
「リ・・・リオ・・。」
「元気じゃねーか、場所移動するぞ。」
俺は、ワカシャモとワンリキーを従えて102番どうろへ向けて走り出した。
「あ!ま、まって下さい〜!」
.
15分後・・・。
「到着だ!」
102番どうろに着いて、後ろを振り返ってみると、息苦しそうにしゃがみこむスモモ達。
「せ、先輩、速いですよ・・!」
「次の鍛練に入るぞ!」
スモモを無視して、俺は準備に入る。辺りには、ポケモンが飛びだしそうな草むらや、綺麗な水辺が張ってある。
「今からはポケモンバトルの実戦だ!全体的にポケモンの能力を上げていくぞ!」
「押忍!やっと本格的なトレーナー修業に入るんですね!」
スモモはやる気に満ち溢れている。
しばらくすると・・・。
コトキタウンの方角から、たくさんの人がやって来た。
「先輩、人が増えてきましたね。」
スモモが聞いてくる。
「あいつらは、俺と同じ、新米トレーナーだよ。毎日この時間は、トレーナー同士がバトル修業をしに、たくさん集まるからな。」
・・・まあ、スモモはベテランの域に近いだろうけどな。
「じゃあ、私達も修業しましょう!」
「まあ慌てるな。」
俺はスモモを制した。
・・・・・もうしばらく待っていると。
「「「「おはよーございまーす!!」」」」
向こうから、タンパン小僧やむしとり少年、塾帰りや鳥つかいの、小さなトレーナー達が仲良くやって来た。
「おう!おはよう!」
俺は挨拶を返す。
「先輩?この人達は?」
自分より、少し年下であろう男の子達を見て、スモモは困惑する。
「こいつらは昨日バトルして知り合ってな、今日修業の約束してたんだよ。」
「今日は俺が勝つぜ!」
「昨日みたいにいかないからな!」
「あれ、なんか違うねーちゃんが増えてる。」
「あぁ、コイツはスモモだ。俺の弟子だから、今日はコイツも一緒にやるぞ。」
「よろしくお願いしまーす!」
スモモが元気よく笑顔を振り撒く。
「「ねーちゃん、鼻にテープがついてるよ。」」
「ぶっ、こ、これは絆創膏です!」
.
この鍛練は、ただのポケモンバトルではない。
俺の手持ち
ワカシャモ level:21
ワンリキー level:19
スモモの手持ち
アサナン level:24
リオル :level:23
タンパンの手持ち
ポチエナ level:8
タネボー level:9
むしとりの手持ち
ケムッソ level:6
アメタマ level:5
マユルド level:7
塾がえりの手持ち
ハスボー level:9
キャモメ level:4
鳥つかいの手持ち
スバメ level:3
スバメ level:6
スバメ level:7
レベルでいえば、圧倒的な差が出ている。バトルでは苦もなく勝てる相手だ。
しかしそれでは鍛練にはならない。
確かに少年グループのポケモンレベルは高くはないが、野生のポケモンよりかは数倍マシだ。
そこで、俺達はハンディを設けている。
「よっし、準備オッケー。」
ワカシャモにワンリキー、アサナンにリオルは、それぞれに砂の入った袋を背中に背負っていた。背中の他に、手首や足首にも、ひとつ900gくらいの砂袋をつけて縛ってある。
「旧式矯正ギブスだ!いいか!その状態で戦うんだぞ!相手は確かに俺達より実力は劣るが、絶対に遠慮はするな!」
「シャモ!」
「リキ!」
「アサ!」
「リオー!」
「じゃあ、二手に別れてバトルをするぞ!おまえら、昨日と同じな?」
「うん!こっちがやられたら、ポケモンセンターに行って、回復したらすぐに戻ってきてまたバトルでしょ?」
「何回戦ってもいいんだよね?」
「よーし!あのワカシャモを倒せば、一気にレベルが上がるぞーー!」
・・・・そう、エンドレスバトルだ!
「あ、言うの忘れてたが、つけてある砂が、バトルの最中に当たって破れたら罰ゲームだから。」
「リオーーー!?」
「アサァーー!?」
「しかも、トレーナーも連帯責任で。」
「えええええ!!?」
.
・・・バトルが始まって10分が経った。
少年達がバトルに負ければ、すぐに他の男の子と交代してバトル。インターバルはなし。その間に負けたヤツはポケモンセンターへダッシュ。回復したらリターンマッチ。
だから、例え相手のレベルは低くても、スタミナ的にきつい。
現に、リオルやワカシャモは既に息が荒い。ワカシャモやアサナンはまだ平気そうだ。
「アサナン!炎のパンチ!」
「かわして体当たり!」
さらに、こちらはずっと同じポケモンで戦い、相手は多種類のポケモンを使う。
だから、同じトレーナー達と何度も戦えば、いくら小さな子供のトレーナーでも・・・。
「アメタマ!右に回るんだ!」
「スバメ!火の粉に気をつけろ!」
「ポチエナ!もっと引き付けろ!」
・・・俺達に対して策略が浮かんでくるのが道理だ。故に、お互いに良い練習となる。
.
「リオル!しっかり!」
「・・・リ、・・・リオ。」
・・・そろそろスタミナが限界に近いようだな。
「スモモ!リオル!気合い入れろ!まだバトルは終わってねぇ!」
俺は激を飛ばした。
「タネボー!タネマシンガン!」
ドガガガガガ!
「リオーーー!?」
急所に当たった。
リオルは倒れた。
「リオル!?」
「よ、よっしゃーーー!勝ったーーー!」
男の子は声を上げて喜ぶ。
・・・まあ、レベルの高い相手に勝った時の喜びってのは解るがな。
「スモモ!休むな!アサナンを出せ!」
「は、はい!」
さて、コッチもワカシャモがきついな。
「シャ・・・シャモ・・・!」
「スバメ!翼でうつ!」
「ワカシャモ!こらえる!」
ワカシャモはスバメの攻撃を堪えた。
「起死回生だ!」
「シャモー!」
バキィ・・!
スバメは倒れた。
ワカシャモは膝を着く。
「あれ?ねーちゃん?ワカシャモの砂がやぶれてるよ?」
「あーーー!ほんとだーーー!」
げ・・・!こらえるの時にガードした手に当たったのか・・・!
「まあ、ワカシャモ、自業自得だぜ。砂は手首の脈側につけてたはずだ。手の甲でガードしてねぇお前にも落ち度はある。」
「シャモ・・・・・。」
「ねーちゃん!ほら、罰ゲームしなきゃ!」「「いぇーーーい!」」
・・・コイツら。
罰ゲームの内容は・・・まあ、サーキットだ。腕立て20回、腹筋20回、スクワット20回、ジャンプ20回。これを3セットすればいい。
「じゃあ、オイラが数えてあげる!」
「・・・へーへー。」
・・・まあ、子供の前で無様な格好できないから、罰ゲームでも一応は身に入るんだよな・・・。
30分後・・・。
最後にワンリキーが倒れた。
「やったーーーーー!!」
少年達が飛び上がりながら、勝利を喜んでいた。
「ねーちゃん達、いいバトルだったね。」
「おかげで強くなれたよ!」
「ありがとうな!」
「ねーちゃん達、修業がんばってね!」
「おう、お前らもありがとうな!いい鍛練になったぜ!」
去っていく少年達に、俺は礼をいう。
・・・・・さて。
パコン!
「痛っ・・・!」
「・・・礼くらい言ったらどうなんだスモモ。鍛練の相手をして貰ったんだろが!」
「・・・・はい・・。」
・・・・はぁ、落ち込んでやがるな。
スモモは、リオルが戦闘不能になった後で、アサナンを出したが、隙をつかれてすぐに負けた。以降は、ワカシャモやワンリキーが終わるまで20分くらいあったからな。
「・・・ポケモンセンターだ。」
「・・・・・はい。」
.
トウカシティのポケモンセンター。
俺とスモモは、ポケモンを預けて、フロアで待機していた。
.
「さて、さっきのバトルだが・・・最後のバトルのあれ、なんだ一体?
ひとつも技が当てられずに負けやがって。」
「・・・・・・・。」
リオルの時もそうだが、アサナンとポチエナとの勝負で、決して速くはないポチエナの噛み付き攻撃をマトモにくらい、アサナンは戦闘不能になった。
スタミナの問題もあったが、最初からガンガン飛ばしてバトルさせていたスモモにも落ち度はある。
「お前、それでもジムリーダーの候補かよ。あいつらは少し前にトレーナーになったばかりの初心者だぜ?恥ずかしくねぇのか?」
「・・・・・・でも 「言い訳すんじゃねぇ!!」
ビクッとスモモが畏縮する。
「なにかてめぇ!?こっちはギブスつけてたし、スタミナもなかったし、立て続けだったからって理由つけようってのか!?それでも格闘家か!?」
「・・・・ぅ・・・。」
「てめぇが何で負けたか教えてやろうか!?
それはてめぇが慢心してたからだよ!
トレーナー初心者が相手でポケモンのレベルも低い!だからこそあいつらは必死に俺達に勝とうと真剣だったんだ!」
「・・・。」
「なのにてめぇは何だ!そんなあいつらを見下すようなバトルしやがって!遊びに来てんなら帰れ!だから足元掬われて無様に負けるんだろうが!」
「・・・ぅぅうううう〜〜〜!」
ボロボロと泣きはじめたスモモ。
「いちいち泣くな!」
・・・・・・実際、ただ勝つだけじゃあ、本当の強さは得られないし、鍛練にもならない。
自分を追い込んで追い込んで、本当にギリギリの所まで追い込まれて、踏ん張らないと鍛練をする意味がねぇ。
・・・スモモがどれだけシンオウで強いのか知らねぇが、多分、負けた事はなかったと思う。だから今落ち込んでるんだ。
今まで勝ち続けてきた誇りやプライド。それを初心者に打ち崩されたのは屈辱かもしれねぇ。
だが俺達は武道家だ。そこを履き違えちゃいけねぇ。
自ら鍛練を積むときは、壁をつくらずに限界を越えるまでやる。
人と鍛練を積むときは、誠心誠意をもって全力でやり、切磋琢磨できる事に感謝しなければならない。
「スモモ。俺達は何だ?」
「ううぅ・・、ぐす・・、・・ぶ、武道家です。」
「そうだ。・・・今日のことよく考えろよ。二度とさっき見たいに、ふて腐れた態度とるんじゃねぇ。」
「・・・・・ぐず・・・はい・・!!」
.
ポケモンを受け取って、ポケモンセンターを出る。時間は・・・もう正午だ。
そろそろカナズミに向けて出発しねぇとな。
「よし、トウカの森まで走るぞ。」
「・・はい。」
・・・・・・・・・・。
「・・・先輩?どうしたんですか?」
「出てこい、ワンリキー、ワカシャモ。」
俺はワンリキーとワカシャモを出した。
「新しい鍛練だ。」
「リキ?」
「シャモ?」
「?」
スモモとワカシャモ達は首を傾げた。
「スモモが元気ないようだから、くすぐってやれ。」
「へ?」
ワカシャモやワンリキーはニヤリとスモモに目配せする。
「GO!」
俺は合図をした。ノリに忠実なコイツらは、スモモにじりじりと近づく。
「ええええ!?ちょ、ダメですよ!」
「スモモはくすぐりに耐える鍛練だ。」
「なんですかそれ〜!!?」
ま、スモモは元気な時が一番だしな。こうやってハメはずさせて、つらい事は忘れさせてやるのがいい。
ワカシャモとワンリキーがスモモに迫る。
「きゃあああ〜〜〜〜!」
.
・・・・・・・・・誤算だった。
.
コチョコチョコチョコチョコチョ!!
「ぎゃ〜〜〜〜!!?っはははは!!て、てめぇら!俺じゃねぇ!スモモにやれっつったんだよ!離せ〜〜〜〜!」
ワンリキー達は、スモモに近づくフリをして俺を油断させといて、俺に猛突進してくすぐってきた。
「(ぽか〜〜〜ん。)」
スモモは呆然としていた。
「シャモ!」
「リキ!」
「あっはははは!ふざけんなてめぇら!っっははは!戻れ!もういいわ!」
無理矢理ボールに戻した。
「ぜぇ、ぜぇ・・・、あんのバカ共が・・・!」
「・・・・・ぷっ!・・・あはははは!」
「笑ってんじゃねぇよ!」
くっそ!
くすぐって笑わせようとしたっつーのに・・・。
俺は顔を赤くした。
「・・・クス。先輩。」
「あ?」
「ありがとうございます!」
ニコリと笑うスモモがそこにいた。
・・・・・ま、いっか。
.
トウカの森。
入口に入り、虫トレーナーや虫ポケモンに翻弄されながらも、先へと進む。
「(・・・だいぶ暗くなってきたな。)」
今はだいたい森の中間地点だろうか?
太陽は既に沈んでいる。
「よし、スモモ。森を抜けたら野宿するぞ。それまで頑張るぜ。」
「はい!先輩!」
・・・何が大変かってお前、ここの虫ポケモンの数だよ。
野生のケムッソが現れた。
「うげぇ!またか!」
俺は思わず後ずさる。
「アサナン!炎のパンチ!」
アサナンの攻撃により、撤退するケムッソ。
「ふぅ、どうも虫は苦手だ。」
「先輩、虫が嫌いなんですか?」
「嫌いというか、気持ち悪くねぇか?あんなのどうやって素手で倒すんだよ?」
「そんなことありませんよ!虫ポケモンって、意外に可愛いじゃないですか!」
スモモが木に張り付いているイトマルに指をさした。
「ひゃああ!なんかいる〜!」
「(せ、先輩が・・・可愛い・・///)」
.
トウカの森を抜け出した。月明かりが眩しい。
「ふう〜、やっと抜けた。」
「おつかれさまでした〜!」
原っぱに座りこむ。ホンッットに疲れた。
「さて、夜営準備するぞ。手伝え。」
「はい!」
簡単な天幕をたてて、寝袋を敷くだけなんだがな。
俺は鞄から、小型鍋を取り出す。
「ワカシャモ、枝や薪はあったか?」
「シャモ!」
これだけの森だ。なければおかしい。
ワカシャモに火の粉を命じ、固めた枝に点火する。汲んだ水を沸騰させるまで待った。
俺は鞄から、袋に入ったうどんと乾燥昆布を取り出した。
「今日はうどんですか!」
スモモがまちきれなそうにしている。
「ほら、メシはワカシャモに任せて、俺達は鍛練だ!」
「ええ!?また鍛練ですか!?」
「当たり前だろ!今から組み手やるぜ!メシができるまでだ。」
「はい、お願いします!」
俺とスモモは互いに技を打ち合った。
.
「《十手(じって》!)」
パシ!パシ!パシ!パシ!
俺は手首のスナップをスモモに散らし、注意を逸らしながら間合いをとる。
「せりゃ!」
スモモが蹴りで反撃する。
・・・と見せかけて・・・左だ!
ガシィ・・・ブンッ・・!
スモモが放った左の裏拳を受けて、カウンターを合わせたが、既にスモモは間合いを離す。
「《流動》!」
俺は後退したスモモを追うように、ステップトリックでスモモの側面に入り込む。
「《腕冠(ワンカン)!》」
ドガッ!
左手でガードしつつ、右手で脇腹を突く。
しかし、スモモは足を上げてガードした。
「せいやあ!」
バキィ!
「ぐっ・・・!」
・・・相変わらず速くて見切れねぇ。スモモの蹴りが俺の顎を薙いだ。
「シャモ〜〜!」
「お!メシだ!急げスモモ!食われちまうぜ!」
「は、はい!」
.
メシを食い終わり、洗面を済ませる。
「そろそろ寝ますか?」
「・・・スモモ。まだやる事があるぜ?」
「ええ!?ま、まだ鍛練するんですか!?」
「やりたいのか?」
「あ・・・う、あの、今日はさすがに・・。」
「冗談だよ。けど、これだけはやっとかねぇとな。」
俺はワカシャモとワンリキーを出した。
「スモモ。リオル達を出せ。」
「は、はい。」
スモモはアサナンとリオルを出す。
「よし。皆、横一列に並んで座れ。」
ワカシャモとワンリキーは、さっと並んで座った。
残ったアサナン達は、何をするのか解らずに立ちほうけていた。
「ほら、座れよ。瞑想すんだから。」
「あ!は、はい!(瞑想ですか、これはいつもやっていました!)」
横一列に並んだ俺とスモモとポケモン4匹。
「いいか。今日やった鍛練を頭の中で思い出せ。そして、今日の反省と明日への意気込みをしっかり整理しろ。」
各人、静かに座って目を閉じた。
草むらから鳴く虫達が耳をくすぐる。
風にゆれている草が、カサカサと摩りあう音が聞こえる。
池で跳ねる魚が、水音を立てる。
・・・・・こうやって、心を沈めて自分を見つめる事も大事なんだ。・・・まあ、今までの鍛練も、この瞑想も、シバの受け容れがほとんどだけどな。
・・・ちらっと、隣のスモモを見た。
眉間にシワを寄せて、真剣に想いに耽(ふけ)っていた。
「(・・・・・武道のセンスもあるし、真剣に鍛練もついてくる。・・・・・少し肝っ玉が小せぇがな。・・・・・これからもよろしくな、スモモ。)」
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5分くらい瞑想を行い、柔軟やストレッチをして、ポケモンをボールに戻した。
俺は道着を脱いで、寝ジャージに着替える。
「うわ〜、先輩の体凄いです〜。」
肌を露出させた俺の体をまじまじと見る体。
「・・・・凄いって、どこが?」
「どこって、全部ですよ!先輩力が強いから、ごつそうなイメージありましたけど、意外とスラーっとしていて綺麗ですよ。」
「・・・綺麗・・か。」
スモモのいう『綺麗』は、武道家としての体格や筋肉が、という意味だろう。
普通の女子同士の会話の『綺麗』とは、全く縁のない言葉だった。
「はは。まあ、こんな傷さえなけりゃあ、聞こえは良いんだがな。」
さりげなくスモモに愚痴をこぼす。
「傷ですか?百戦錬磨って感じでいいじゃないですか!私だってありますよ!」
スモモがガバッとノースリーブをまくって、小さな体を露見させた。
「な!・・・・どうしたんだその傷は!?」
身体全体を覆うかのような生傷が、スモモの身体の至るところにあった。擦り傷、切り傷、打ち身、ミミズ腫れ。
「えへへ。修業でこんなになっちゃいまして。・・・先輩と一緒ですね!」
ニコッと笑うスモモ。
俺はいたたまれない気持ちになりながらも、スモモと同じ仲間な感じになれた事に、少し安堵した。
「・・・・・・?・・先輩、その傷・・・・。」
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・・・やっぱり、俺の勘違いだったようだ。
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「・・・・やっぱり解るか?さすが武道家だな。・・・・これは鍛練でついた傷じゃねぇや。」
「・・・・(やっぱり・・・)。」
口には出さずにスモモはそう思った。
俺が1才の時からついていた、タバコの火傷やムチの痕、ショベルかなにかでえぐられた背中の皮膚。
どう考えても鍛練でつく傷じゃねぇよな。
俺は、このさいだと思って、額のバンダナを外してやった。
「・・・ひ!!?・・・・・せ、先輩・・・。」
スモモは口を手で覆ってたじろぐ。
ナイフの痕だ。指がすっぽり入るかのような窪みがある。
頭蓋骨もすり削られてるから、何年経っても、この凹みは治らない。
「・・・ま、普通の反応だよな。・・・そんな顔すんなって、コッチはもう慣れてんだしよ。・・・・だがまあ、あまり見せたくは・・・ねえかな。」
俺はジャージを着た。
・・・俺は、この傷があったから、武道に足を踏み入れたんだ。武道の世界でなければ、俺の心が折れてしまうから・・・。
・・・だがスモモはどうだ?自分で自分に傷をつけてまで、武道を続けている。
消極的な理由ではじめた俺なんかより、スモモの方がよっぽど偉いぜ。
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「・・・・・先輩、私を見くびらないで下さい!そんな事で私は人を差別しません!」
スモモは真剣に俺を見据えた。
「私は・・・平気ですよ!例え先輩に、傷があろうがなかろうが!私は先輩の弟子なんですからね!ひどいこと言いません、いや!言わせませんよ!」
どうだといわんばかりに、ない胸を張るスモモ。
・・・・・へ、俺にはもったいないぜ。
俺はスモモの頭を撫でた。
「ふぁ!?」
「・・・いい子だ。」
「え・・・えへへ。先輩に初めて褒めてもらいました〜。」
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俺達は、寝袋に入って、静寂な夜に溶け込むように眠った・・・。