104番どうろ
アズサ side
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「つぎ!突き100本!」
「シャモ!」
「リッキ!」
シュ、シュ、シュ、シュ・・・・・・・!
「つぎ!蹴り100本!」
「シャモ!」
「リッキ!」
ズバッ、ズバッ、ズバッ、ズバッ・・・・・・・!
「つぎ!受け技100本!」
「シャモ!」
「リッキ!」
バッ、バッ、バッ、バッ・・・・・・・!
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「アズちゃーん!」
ミシロタウンから少し離れた森の中。
少し開けた広場で、俺とワカシャモ(進化した)とワンリキー(ロードワーク中にたまたまゲットした。)は、早朝の鍛練をしていた。
鍛練の基本動作を終えた頃、森の向こうから、ハルカが走ってきた。
「おつかれ様ー!はいこれ、ママと一緒に作ったの!」
ハルカが持ってきた包みを開けると、皿にマーマレードのクッキーが美味しそうに乗っていた。
「おいハルカ、今は鍛練中だ。」
「えー、いいじゃん。この子達も美味しそうに食べてるし。」
ワカシャモとワンリキーがヒョイヒョイとクッキーに手をのばしてたらい上げていく。
「てめぇら・・・まあいいか、休憩にしよう。」
額に巻いていた白いタオルを解き、髪についた汗をふく。
ここの森の風が気持ちいいんだよな。あと、木漏れ日が丁度いい感じに暖かいし。俺とハルカだけが知ってる秘密の道場だ。
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「今日出発するんでしょ?」
俺は、倒れた丸太に腰掛け、その隣に密着するようにハルカが問い掛けた。
「ん。ワカシャモに進化したし、成り行きでワンリキーも手に入ったし、そろそろ踏ん切りつけて旅立つ。」
「そっか。あーあ、寂しくなっちゃうなー。」
「つーかハルカ、フィールドワークで色んな所あちこち行ってんだろうが。」
「あ、ホントだね。じゃあ旅先でも会えるか♪」
「・・・兄貴、今どの辺だろうな。」
「二週間経つもんね。・・・もうそろそろひとつくらいバッジゲットしてそうじゃない?」
雑談をしばらく二人で続けた。
っつーか、コイツには随分と振り回されたな。
ベッドで寝てたら馬乗りになって起こしにくるし。
たまにこうやって菓子や弁当とか持ってきてくれるし(はい、あーんのくだりはもう勘弁。)。
最悪なのが、鍛練の後にマッサージを買って出て貰ったのはいいが、・・・・・・・・・いや、思い出したくない・・・。
「さあ、休憩終わりだ!ワカシャモ!ワンリキー!今日は心眼鍛え打ちだ!」
俺はワカシャモとワンリキーを召集する。
「今日の組み手は少し違うぞ、お前ら。まず、この手ぬぐいを目隠しにするんだ。」
俺はワカシャモとワンリキーの目を隠すように、手ぬぐいで頭を結ぶ。
「いいか、今から目が見えない状態で勝負をしてもらうぞ。例え視界がなくなろうが、自分の戦い方は変わらない。・・・気配を感じろ。耳で聞いて、においをかいで、肌で感じて、相手を察知するんだ。」
俺は始めの合図をかけた。
ワカシャモは、視界が遮られて集中できないようで、辺りをキョロキョロしている。
一方ワンリキーは、突然地面に伏せた。そして、ガサガサと音を立てて、立ちほうけているワカシャモの方向を捕らえた。
「いいぞワンリキー、自身の気配を絶って、相手を索敵するんだ。」
ワンリキーは、音を頼りに突撃する。
ドゴッ!
ワカシャモは弾き飛ばされた。
ワンリキーは手応えを感じ、地面におそらく倒れただろう、ワカシャモの位置を予想した。
「リッキー!」
ワンリキーがワカシャモに飛びつき、袈裟固めを決めた。
「シャモ!?」
ワカシャモはワンリキーを察知できたものの、見事に技を決められて、身動きがとれない。
「ワカシャモ落ちつけ、諦めるな。体格差ではお前が有利なんだぞ。自分のペースをつくれ!」
ワカシャモは俺の言葉を聞いて、倒れた体を起こそうとする。首に腕を回していたワンリキーを引きはがした。
ワカシャモのつつく!
「リキィ!?」
効果は抜群だ!
ワカシャモの火の粉!
ワカシャモは口から火の粉をワンリキーに飛ばした。
ワンリキーは命中し、転がるようにワカシャモから離れる。
これでお互い、再び位置がわからなくなった。
・・・だが、
ワカシャモの電光石火!
シュッ! バキィ!
「リッキー!」
・・・ワンリキーへワカシャモの電光石火が決まる。
ワンリキーは、何故自分の居場所がいとも簡単にばれたのか、わからないまま地面に倒れようとした。
「諦めるな!!」
俺は声を上げる。
「リ・・・リッキ!」
ワンリキーのカウンター!
ドゴォ!!
「シャモーーー!?」
電光石火のダメージを倍増し、ワカシャモにダメージを与える。
ワンリキーのマッハパンチ!
留めの一撃を放つワンリキー。
ドムッ!
ワカシャモは倒れた。
「そこまで!休憩だ!」
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ワカシャモを回復させ、ワンリキーと共にインターバルを過ごす。勿論、目隠しははずしてだ。
「・・・・・・ねえ、アズちゃん。」
ハルカはずっと俺達の鍛練を見学しているから、激しい鍛練を目の当たりにしても、あまり驚かなくなった。
「さっき、ワカシャモが電光石火したでしょ?ワンリキーの距離があれだけ離れてたのに、なんで居場所が分かったように命中できたの?」
ハルカが疑問を言った。
「炎ポケモンだからさ。」
「へ?」
「ワカシャモがワンリキーに火の粉を当てただろ?それからワンリキーは離れたけど、火の粉の炎熱がワンリキーの体に残ってるから、炎タイプのポケモンは、センサーみたいに感知できるんだよ。」
「あ、それは聞いた事あるかも。」
「たが結果はワンリキーの勝ちだ。勝因は、例え目が見えない状態になっても、自信をもって技を出せるぐらい気合いが入っていたからだな。どうしても、五感のひとつが欠ければ、冷静さを失うからな。」
俺はワンリキーと拳を合わせる。
「よし、ワカシャモは再び心眼のトレーニングだ!目隠しをして技を反復!ワンリキーは俺と約束組み手だ!」
こうして、俺達の午前が過ぎていった。
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タンクトップにスパッツを着て、青いジャージ上下を着る。
白いバンダナをつける。
黒いネックウォーマーをつける。
手足にテーピングを巻く。
黒い、ぶかぶかのボストンバッグに道着や日用品、旅に必要なモノを詰め込む。
俺はバッグを片手で肩にさげ、愛用の草履を履く。
「・・・じゃ、母さん。そろそろ行くよ。」
「ええ、立派な格闘家になりなさいよ。身体には気をつけること。」
・・・・・3年前。他所の子同然の俺を拾ってくれて、まるで我が子のように育ててくれた。愛してくれた。
「ねぇ、母さん。」
「ん?」
「俺・・・いや、わたしさ、・・・母さん達に会う前は、周りに男ばっかりだったからさ、男っぽい口調になっちまったけど・・・・・・・、母さんみたいな人って、結構・・・好きかも。」
「はいはい、泣かせるんじゃありません。・・・・・でも嬉しいわ♪」
ニコリと微笑む母さん。
「俺、いや、わたしはさ、シバみたいな格闘家も目指したいけど・・・、母さんみたいな優しい女にも・・・なりたいからさ・・・・・・だから・・・・ありがと。」
母さんがわたしを抱きしめた。
「・・・辛かったら、帰ってきてもいいから。・・・でも、アズサちゃんなら大丈夫よ。」
「え?」
「アズサちゃん、3年前とはすっごい見違えるほど明るくなったし、友達もつくれるようになった。・・・人との繋がりも大切な事なのよ。それが解らないと、夢を叶える資格はないわ。」
「・・・・・ふふ、解ってるよ。」
「うん、よろしい♪」
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・・・ちょっとシミジミしちまったが。
正午、晴天霹靂の空の元、俺ことアズサと、ワカシャモと、ワンリキーはミシロタウンを後にし、武者修業の旅が始まった。
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トウカシティ
「・・・フッ、シバさんを越える、か。ということは、いずれは私と闘うという事か。」
「へっ、そうかもな。」
ミシロを出て翌日の夕方。
俺達はトウカシティに到着した。
途中で鍛練やポケモンバトルを欠かさずに、急がず遅すぎない、辛い修業の旅を始めたんだ。シバに近づく為には、自分を追い込む為に、絶対妥協は許されねぇ。
トウカシティのポケモンセンサーでワカシャモ達を預け、父さんのジムに顔を出したという事だ。
「ユウキにも言ったんだが、私と闘おう者ならば、バッジを4つ集めてこい。仮にも武道家がこの程度の試練、乗り越えられないわけがないからな。」
「いってくれるじゃねぇか、首を洗って待ってろよ!」
「ほぉ、自信満々だな。アズサは格闘使い、私はノーマル使い。確かに相性じゃ負けてはいるが、ヤマブキの格闘道場の看板を奪ったのは私だぞ?」
「バーカ、3年前と一緒にすんな!・・・んじゃ、そろそろ行くな。」
「ああ、ここからなら、カナズミシティのカナズミジムに挑むといい。ジムリーダーのツツジは手強い相手だ。心してかかれよ。」
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翌日。
俺達はトウカシティを抜け、西に向かう。
そこには海浜があった。
白い、柔らかな砂浜が一面に広がる。
・・・へぇ、ここなら足腰が鍛えられそうだな。
俺は道着に着替える。やっぱり、鍛練の時は道着を着たほうが、締まりがいい。
俺はキュッと黒帯をしめた。
「ようし!鍛練開始だ!」
「シャモッ!」
「リッキー!」
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「基本動作!突き100回!」
ビュ、ビュ、シュ、シュ、シュ・・・!
「1!2!1!2!」
「シャモ!シャモ!」
「リキ!リキ!リキ!」
「次!蹴り100回!」
シュ、シュ、シュ、シュ、シュ・・・!
「顎を引け!ワカシャモ!」
「シャモーー!」
「リキ!リキ!リキ!」
「次!受け技100回!」
シュパッ、スパ、バッ、シュ・・・!
「ほらほら!脇が甘い!」
「シャモ!」
「リッキーー!」
「次!投げ技50回!下は砂浜だ!しっかりやれ!」
ヒュッ、ズトン!ヒュッ、ズトン!
「はっ、はぁ、はああ!」
「シャモ!シャモ!」
「リキ、リキ、リキ!」
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「よ、ようし、次は、ロードをやるぜ!」
・・・く、流石に砂の上でやると、なかなか安定しないし、結構筋肉を使う。
俺を先頭に、ワカシャモ、ワンリキーが後続し、砂浜をランニングする。
「ファイ!ファイ!ファイ!」
「シャモ!シャモ!シャモ!」
「リッキ!リッキ!リッキ!」
「・・・よっし、20分は走ったか。・・・よしお前ら!このまま戦闘の構えで走れ!ステップやジャンプはOKだ!ただし普通に走るな!常に構え(手でのカバー)を意識しろー!」
普通の走りから、ステップやジャンプ、サイドインやクロス等、戦闘や組み手の足運びをイメージしたランニングに切り替える。
「・・はぁ・・・・はぁ・・。」
「シ・・シャ・・モ!」
「リキ、リキ・・・リキ!」
「よし、休憩だああ!」
俺達はバタバタと砂浜に倒れた。
「(痛っっ!足の筋肉がパンパンだぜ、・・・砂浜の上、思ったよりも堪えるぜ。)」「シャモ〜・・・。」
「・・・・リキ・。」
眩しい太陽に照らされながら、砂浜に大の字に寝転ぶ俺達。
波の音が聞こえる。
「よし、お前ら、クーリングするぞ。海の上に集合だ!」
俺は道着のズボンの裾をめくり、海に入る。
「うわ!冷てぇ!すげー気持ちいいや!」
ワンリキーも入ってきた。けど、ワカシャモがまだだった。
「あ、そうか、炎タイプだからな。・・・・・お、そうだ!」
俺は波から上がり、砂浜に溝を掘る。
溝の先端に、穴をつくる。すると、溝を伝って海から水が押し寄せる。そして、その先にある穴に海水が溜まった。
「よし、ワカシャモ、この溜まった水に火の粉だ。熱湯にすれば、お前も大丈夫だろう?」
「シャモ!」
ワカシャモは、俺のつくった足湯でクーリングをする。(←約80゚C)
「さて、こっちはクーリングしている間、ボケッとしてる暇はないぜ。ワンリキー、下を見ろ。」
「リキ?」
俺とワンリキーは、下の海水を見る。足元には小さな魚がスイスイと泳いでいた。俺が少し足を動かすと、魚達は逃げてしまう。
「鍛練、魚獲りだ。見本を見せてやろう。」
俺は、道着の腕の裾を折り、魚のいる場所へと移動する。
チャプ・・チャプ・・。
俺は息を吐く。足元には小さな魚が一匹。俺は手を海に突っ込んだ。にもかかわらず、魚は逃げようともしない。・・・まあ、気配絶ってるかんな。
バシャ!
俺は手を振り上げた!
その手には、手の平から少しはみ出る程の、タチウオが握られていた。
「ワンリッキー!」
ワンリキーが拍手している。
「ワカシャモ!コイツを焼くぜ!枝と葉っぱを集めて来い!」
俺はワカシャモにタチウオを投げた。
「シャモ!」
「さあワンリキー、お前もやってみろ!」
「リッキ!」
ワンリキーはザブザブと移動するが、近づく度に魚がにげていく。
「ザブザブいったら逃げるに決まってんだろ?こういうふうに、波に逆らわずに進むんだ。この鍛練は、気配を絶ちながら、順応の動作をしつつ、一気に魚を捕まえる集中力を鍛えるんだ。」
チャプチャプと、水の抵抗を無視するように歩いて見本を見せた。
ワンリキーも見様見真似でやってみるも、なかなかうまくいかず、魚が逃げていく。
「・・・・・リ、リキリキリッキーー!」
ザッパーーン!!
うぉお!?海にダイブした!?
は?なんだアイツ?ひょっとして、潜って捕まえたほうが楽だってか?無理だろいくらなんで ザバーーッ!
「リッキー!」
万遍な笑顔で、片手に魚を握るワンリキーが海から出てきた。
「す、すっげえええ!?」
・・・ああ、まあ、ワンリキーは人間と比べて、動体視力も反射神経もずば抜けているからな。
ワンリキーが魚を俺に渡した。
「・・・この魚・・・って、フグじゃねーか!?俺に死ねってか!?」
「リキキキ〜。」
「シャモ〜!」
「ああ!てめぇ!俺のタチウオ何勝手に焼いて食ってんだああ!」
・・・・・コイツら、鍛練は真面目にやるからいいが、それ以外だと、ずぼらだな・・・・。
・・・先が思いやられるぜ。
.
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「そこの方!格闘家とお見受けします!」
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俺とワンリキーが海でじゃれている時だった。
太陽が真上を差す頃。
この砂浜には俺達しかいなかった筈だが。
いつのまに現れたのだろうか。
ソイツは忽然とワカシャモの側にいた。
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??? Side
むむ、あれは道着を着たトレーナーさん?
ということは、格闘家という事ですね。
彼の周りにいるのは、オレンジのトリポケモンにワンリキー。
彼のポケモンに違いありません!
格闘家の血が騒ぎます!
私は裸足で歩道から石段を下りて、砂浜に飛び降り、彼のもとへ向かいました!
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「そこの方!格闘家とお見受けします!」
海で修業をしていたのでしょうか、彼がこちらに気づきました。
「あ?なんだてめぇは?」
う・・!なんてすごい迫力。目力だけで圧倒されそうです。
しかし、私も負けません。キリッ!
「ポケモントレーナーとして、また格闘家として、手合わせ願います!」
右手の拳を握り、彼を見据えます。
このホウエンに来て、ようやく骨のありそうな方と会えました。
彼が海から上がってきました。
さあ、私はモンスターボー 「ワカシャモ、捕獲。」
ガシッ!
・・・へ?
「シャモ。」
・・・・・へ?え?あれ?
どうして私は束縛されたのでしょうか?
ワカシャモ?というポケモンに腕を羽交い締めにされて、全く動けなくなりました。
海から上がった男の人が、道着の裾を整えています。
「あ、あの〜。」
声をかけるも、相手にされてないようです・・・。
わ、私、どうなっちゃうのでしょう・・・。
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アズサ Side
・・・とりあえず、ワカシャモに捕まえて貰った変な子を改めて見てみた。
ピンク色のショートカットに小柄な体格。
青いノースリーブに白いズボン(道着っぽいな)。
鼻と肩にはってある絆創膏が第一印象だな。
ま、それは置いといて。
「リッキー!」
「お、ご苦労ワンリキー。そこに置け。」
ワンリキーに頼んでおいた紙を、くしゃくしゃに丸めておいてもらう。この紙は、捨てられてあったゴミや新聞とかなんだけどな。
さて、ワカシャモが集めた枝や枯れ葉を寄せてっと。
「ワカシャモ、火の粉!」
ワカシャモの火で、燃焼物に点火させ、大きめの火を起こした。
「ワンリキー。このタチウオをこの枝で口から刺してだな・・・。」
ワンリキーに、魚の姿焼のやり方を教える。
「あ、あの〜。」
「あ〜、ちょっと待ってろ。」
絆創膏の女の言いたい事はわかるが、少し黙ってな。
「・・・よし、じゃあ焼くぞ。」
枝に刺したタチウオを5〜6匹、焚火の回りに陳列した。
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パチパチパチパチ・・・。
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「昔から魚は4分、肉は8分って言ってな・・・。」
だいぶ焼け目がついたタチウオ。
「あ、ちなみにお好み焼きは8分です。」
「シャラップ。」
「ぁ・・ぅ・・。」
まったく、なに会話に参加してんだか。
・・・お、香ばしい匂いがしてきたぜ。
「シャモ〜。」
「リッキ〜。」
コイツらも待ち切れないみたいだな。
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グゥウウウゥゥゥ〜〜〜・・・・・!
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突然、でっかい腹の虫があたりに鳴り響いた。
「てめぇワカシャモ!どんだけ空腹なんだよ、さっき俺のタチウオつまみ食いしてたくせによ!」
「シャ!?シャモシャモ!?」
・・・首をブンブン振ってやがる。じゃあ違うのか?
ワカシャモじゃねぇなら、誰だ?
ワンリキーでも俺でもねぇ。
グゥウウウゥゥゥ・・・!!
ワカシャモの方から、けたたましく腹の虫が鳴る。
「やっぱりてめぇじゃねーか、ワカシャモ!」
「シャモシャモ!!」
・・・まーだ首ふってやがるや。
「なあ、ワカシャモ。そこはウソをつかねぇとよ。」
「・・・・・シャモ?」
俺は、ワカシャモに羽交い締めにされた少女の顔を覗いた。
その顔は、真っ赤にそまって俯いていた。
「悪いな、ウチのワカシャモ空気読めなくてよ。」
からかうように俺は笑った。
「・・・・・/////・・!」
腹が減ってんのかよ、悶えてやがる。
・・・なんかハムスターみたいな奴でかわいいな。
「リッキ!」
「お!焼けたか!?」
刺してあった枝を抜いて、タチウオを手にとり、ワンリキーに渡した。
ワンリキーがむしゃぼりついた。
「うまいか?」
「・・!・・リキリキ〜!」
俺はもう一匹手にとり、さっきからワカシャモに掴まって動けない少女に見せびらかした。
「・・・!・・(ゴク)」
少女の喉がなる。
「旨そうに焼けてるだろう?俺が手づかみでとった鮮度抜群のタチウオを、ワカシャモの火力でオブラートに焼き上げた、この凛々しい姿焼。」
全体的に綺麗に焦げ目のついたタチウオは、今にも食べてくれといわんばかりだ。
「・・・!・・(なんて、美味しそう・・・。)」
少女はタチウオの姿焼に魅入る。
「そしてだ、」
俺はタチウオにかじりつき、そのかじった部分から溢れる液を啜る。
タチウオのかじった跡を少女に見せた。
「この濃厚な脂!」
「・・!・・(と、とろけそうです!)」
少女はよだれを垂らした。
「おい!涎でてんぞ!」
「へ?・・え/////・・・・・!」
・・・どんだけ腹減ってんだよ。
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その後は、焦らすに焦らして少女を弄りつづけた。だってよ、こんな弄りがいのあるやつ初めてだぜ?
目の前で塩をかけて食った時なんか、涙出てたからよ、可哀相だし一匹だけ食わせてやった。(もちろん拘束した状態で。)
・・・なんか凄ぇ顔赤くしてたけどよ。
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タチウオも食ったし、インターバルも終わったし、さて、本題に入るか。
自分の道着を整え、目の前の少女に問う。
「で?誰なんだ、てめぇ?」
「へ?わ、私ですか?」
てめぇ以外に誰がいるってんだーー!?
「はい!私は、シンオウ地方トバリシティのスモモと言います!己とポケモンを鍛える為、武者修業の旅をしています!」
ワカシャモに掴まったまま、スモモ?という少女はハキハキと答える。
「俺はミシロタウンから来た、アズサだ。・・・で?」
「はい!貴方にポケモントレーナーとして、また格闘家として勝負を申し込みます!・・・・どうして私は捕まったんでしょうか?」
「そりゃてめぇ、コッチは鍛練が終わったばっかでへとへとな上、今からメシ食おうって時に、意気揚々と参上されても迷惑な話だからよ、捕まって貰ったんだ。ワカシャモ、もう離していいぞ。」
ワカシャモがスモモを解放した。
「あ、そうだったんですか。お食事中、失礼しました。それに私にまで、ご馳走して頂いてありがとうございます。」
スモモはキビキビと礼をする。
改めて、スモモを観察した。
コイツも格闘家らしいけど、俺と同じくらい小さな体格だな。
さっきまで、タチウオによだれ垂らしたり、幸せそうにタチウオを頬張っていたスモモ。
だが格闘家としては、優れた資質があるのが見て取るように分かる。
「(・・・・・・コイツ・・・なかなかできるぞ。・・・今はかわいこぶっちゃいるが・・・・・試合になると目の色が変わるタイプだな。)」
・・・面白ぇ。
「よっしゃ!受けて立つぜ!ワカシャモ!ワンリキー!準備はいいか!」
「シャモ!」
「リッキー!」
スモモは、一瞬ポカンとしたが、すぐに切り替えてボールを構えた。
「はい!真剣勝負でいきますよ!」
スモモはボールを投げる。
スモモはアサナンを繰り出した。
俺はワンリキーを先頭に出す。
「では!行きます!アサナン!めざめるパ 「ちょっと待ててめぇ!!」
勝手にバトルに突入するスモモを怒鳴る。スモモはビクッ、と驚いていた。
「試合前の一礼はどうした!?それでも武道家かてめぇ!!」
「あ!・・・も、申し訳ありません!」
スモモは左手の掌底に、右手の拳を添えて、深く一礼をした。
俺もその動作をする。
・・・静かな、ピリピリ感が伝う。
「・・・では、行きます!」
お?スモモの目つきが変わった?
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・・・俺も、スイッチいれるか。
相手を目で射殺すかのように睨みつけ、ワンリキーに指示をした。
「気合いだめ!」
「リッキ!!!」
ワンリキーは張り切っている。
「さあ、やろうぜ!」
「はい!アサナン!ヨガのポーズ!」
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スモモとのバトルがスタートした。
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