ポケモン世界を歩こう3
104番どうろ
アズサ side

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「つぎ!突き100本!」

「シャモ!」
「リッキ!」

シュ、シュ、シュ、シュ・・・・・・・!

「つぎ!蹴り100本!」

「シャモ!」
「リッキ!」

ズバッ、ズバッ、ズバッ、ズバッ・・・・・・・!

「つぎ!受け技100本!」

「シャモ!」
「リッキ!」

バッ、バッ、バッ、バッ・・・・・・・!

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「アズちゃーん!」

ミシロタウンから少し離れた森の中。

少し開けた広場で、俺とワカシャモ(進化した)とワンリキー(ロードワーク中にたまたまゲットした。)は、早朝の鍛練をしていた。

鍛練の基本動作を終えた頃、森の向こうから、ハルカが走ってきた。

「おつかれ様ー!はいこれ、ママと一緒に作ったの!」

ハルカが持ってきた包みを開けると、皿にマーマレードのクッキーが美味しそうに乗っていた。

「おいハルカ、今は鍛練中だ。」

「えー、いいじゃん。この子達も美味しそうに食べてるし。」

ワカシャモとワンリキーがヒョイヒョイとクッキーに手をのばしてたらい上げていく。

「てめぇら・・・まあいいか、休憩にしよう。」

額に巻いていた白いタオルを解き、髪についた汗をふく。

ここの森の風が気持ちいいんだよな。あと、木漏れ日が丁度いい感じに暖かいし。俺とハルカだけが知ってる秘密の道場だ。

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「今日出発するんでしょ?」

俺は、倒れた丸太に腰掛け、その隣に密着するようにハルカが問い掛けた。

「ん。ワカシャモに進化したし、成り行きでワンリキーも手に入ったし、そろそろ踏ん切りつけて旅立つ。」

「そっか。あーあ、寂しくなっちゃうなー。」

「つーかハルカ、フィールドワークで色んな所あちこち行ってんだろうが。」

「あ、ホントだね。じゃあ旅先でも会えるか♪」

「・・・兄貴、今どの辺だろうな。」

「二週間経つもんね。・・・もうそろそろひとつくらいバッジゲットしてそうじゃない?」

雑談をしばらく二人で続けた。

っつーか、コイツには随分と振り回されたな。
ベッドで寝てたら馬乗りになって起こしにくるし。
たまにこうやって菓子や弁当とか持ってきてくれるし(はい、あーんのくだりはもう勘弁。)。
最悪なのが、鍛練の後にマッサージを買って出て貰ったのはいいが、・・・・・・・・・いや、思い出したくない・・・。

「さあ、休憩終わりだ!ワカシャモ!ワンリキー!今日は心眼鍛え打ちだ!」

俺はワカシャモとワンリキーを召集する。

「今日の組み手は少し違うぞ、お前ら。まず、この手ぬぐいを目隠しにするんだ。」

俺はワカシャモとワンリキーの目を隠すように、手ぬぐいで頭を結ぶ。

「いいか、今から目が見えない状態で勝負をしてもらうぞ。例え視界がなくなろうが、自分の戦い方は変わらない。・・・気配を感じろ。耳で聞いて、においをかいで、肌で感じて、相手を察知するんだ。」

俺は始めの合図をかけた。

ワカシャモは、視界が遮られて集中できないようで、辺りをキョロキョロしている。

一方ワンリキーは、突然地面に伏せた。そして、ガサガサと音を立てて、立ちほうけているワカシャモの方向を捕らえた。

「いいぞワンリキー、自身の気配を絶って、相手を索敵するんだ。」

ワンリキーは、音を頼りに突撃する。

ドゴッ!

ワカシャモは弾き飛ばされた。

ワンリキーは手応えを感じ、地面におそらく倒れただろう、ワカシャモの位置を予想した。

「リッキー!」

ワンリキーがワカシャモに飛びつき、袈裟固めを決めた。

「シャモ!?」

ワカシャモはワンリキーを察知できたものの、見事に技を決められて、身動きがとれない。

「ワカシャモ落ちつけ、諦めるな。体格差ではお前が有利なんだぞ。自分のペースをつくれ!」

ワカシャモは俺の言葉を聞いて、倒れた体を起こそうとする。首に腕を回していたワンリキーを引きはがした。

ワカシャモのつつく!

「リキィ!?」

効果は抜群だ!

ワカシャモの火の粉!

ワカシャモは口から火の粉をワンリキーに飛ばした。

ワンリキーは命中し、転がるようにワカシャモから離れる。

これでお互い、再び位置がわからなくなった。

・・・だが、

ワカシャモの電光石火!

シュッ! バキィ!

「リッキー!」

・・・ワンリキーへワカシャモの電光石火が決まる。

ワンリキーは、何故自分の居場所がいとも簡単にばれたのか、わからないまま地面に倒れようとした。

「諦めるな!!」

俺は声を上げる。

「リ・・・リッキ!」

ワンリキーのカウンター!

ドゴォ!!

「シャモーーー!?」

電光石火のダメージを倍増し、ワカシャモにダメージを与える。

ワンリキーのマッハパンチ!

留めの一撃を放つワンリキー。

ドムッ!

ワカシャモは倒れた。

「そこまで!休憩だ!」

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ワカシャモを回復させ、ワンリキーと共にインターバルを過ごす。勿論、目隠しははずしてだ。

「・・・・・・ねえ、アズちゃん。」

ハルカはずっと俺達の鍛練を見学しているから、激しい鍛練を目の当たりにしても、あまり驚かなくなった。

「さっき、ワカシャモが電光石火したでしょ?ワンリキーの距離があれだけ離れてたのに、なんで居場所が分かったように命中できたの?」

ハルカが疑問を言った。

「炎ポケモンだからさ。」

「へ?」

「ワカシャモがワンリキーに火の粉を当てただろ?それからワンリキーは離れたけど、火の粉の炎熱がワンリキーの体に残ってるから、炎タイプのポケモンは、センサーみたいに感知できるんだよ。」

「あ、それは聞いた事あるかも。」

「たが結果はワンリキーの勝ちだ。勝因は、例え目が見えない状態になっても、自信をもって技を出せるぐらい気合いが入っていたからだな。どうしても、五感のひとつが欠ければ、冷静さを失うからな。」

俺はワンリキーと拳を合わせる。

「よし、ワカシャモは再び心眼のトレーニングだ!目隠しをして技を反復!ワンリキーは俺と約束組み手だ!」

こうして、俺達の午前が過ぎていった。

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タンクトップにスパッツを着て、青いジャージ上下を着る。

白いバンダナをつける。

黒いネックウォーマーをつける。

手足にテーピングを巻く。

黒い、ぶかぶかのボストンバッグに道着や日用品、旅に必要なモノを詰め込む。

俺はバッグを片手で肩にさげ、愛用の草履を履く。

「・・・じゃ、母さん。そろそろ行くよ。」
「ええ、立派な格闘家になりなさいよ。身体には気をつけること。」

・・・・・3年前。他所の子同然の俺を拾ってくれて、まるで我が子のように育ててくれた。愛してくれた。

「ねぇ、母さん。」

「ん?」

「俺・・・いや、わたしさ、・・・母さん達に会う前は、周りに男ばっかりだったからさ、男っぽい口調になっちまったけど・・・・・・・、母さんみたいな人って、結構・・・好きかも。」

「はいはい、泣かせるんじゃありません。・・・・・でも嬉しいわ♪」

ニコリと微笑む母さん。

「俺、いや、わたしはさ、シバみたいな格闘家も目指したいけど・・・、母さんみたいな優しい女にも・・・なりたいからさ・・・・・・だから・・・・ありがと。」

母さんがわたしを抱きしめた。

「・・・辛かったら、帰ってきてもいいから。・・・でも、アズサちゃんなら大丈夫よ。」

「え?」

「アズサちゃん、3年前とはすっごい見違えるほど明るくなったし、友達もつくれるようになった。・・・人との繋がりも大切な事なのよ。それが解らないと、夢を叶える資格はないわ。」

「・・・・・ふふ、解ってるよ。」

「うん、よろしい♪」

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・・・ちょっとシミジミしちまったが。

正午、晴天霹靂の空の元、俺ことアズサと、ワカシャモと、ワンリキーはミシロタウンを後にし、武者修業の旅が始まった。

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トウカシティ

「・・・フッ、シバさんを越える、か。ということは、いずれは私と闘うという事か。」

「へっ、そうかもな。」

ミシロを出て翌日の夕方。

俺達はトウカシティに到着した。

途中で鍛練やポケモンバトルを欠かさずに、急がず遅すぎない、辛い修業の旅を始めたんだ。シバに近づく為には、自分を追い込む為に、絶対妥協は許されねぇ。

トウカシティのポケモンセンサーでワカシャモ達を預け、父さんのジムに顔を出したという事だ。

「ユウキにも言ったんだが、私と闘おう者ならば、バッジを4つ集めてこい。仮にも武道家がこの程度の試練、乗り越えられないわけがないからな。」

「いってくれるじゃねぇか、首を洗って待ってろよ!」

「ほぉ、自信満々だな。アズサは格闘使い、私はノーマル使い。確かに相性じゃ負けてはいるが、ヤマブキの格闘道場の看板を奪ったのは私だぞ?」

「バーカ、3年前と一緒にすんな!・・・んじゃ、そろそろ行くな。」

「ああ、ここからなら、カナズミシティのカナズミジムに挑むといい。ジムリーダーのツツジは手強い相手だ。心してかかれよ。」

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翌日。

俺達はトウカシティを抜け、西に向かう。

そこには海浜があった。

白い、柔らかな砂浜が一面に広がる。

・・・へぇ、ここなら足腰が鍛えられそうだな。

俺は道着に着替える。やっぱり、鍛練の時は道着を着たほうが、締まりがいい。

俺はキュッと黒帯をしめた。

「ようし!鍛練開始だ!」

「シャモッ!」
「リッキー!」

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「基本動作!突き100回!」

ビュ、ビュ、シュ、シュ、シュ・・・!

「1!2!1!2!」
「シャモ!シャモ!」
「リキ!リキ!リキ!」

「次!蹴り100回!」

シュ、シュ、シュ、シュ、シュ・・・!

「顎を引け!ワカシャモ!」
「シャモーー!」
「リキ!リキ!リキ!」

「次!受け技100回!」

シュパッ、スパ、バッ、シュ・・・!

「ほらほら!脇が甘い!」
「シャモ!」
「リッキーー!」

「次!投げ技50回!下は砂浜だ!しっかりやれ!」

ヒュッ、ズトン!ヒュッ、ズトン!

「はっ、はぁ、はああ!」
「シャモ!シャモ!」
「リキ、リキ、リキ!」

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「よ、ようし、次は、ロードをやるぜ!」

・・・く、流石に砂の上でやると、なかなか安定しないし、結構筋肉を使う。

俺を先頭に、ワカシャモ、ワンリキーが後続し、砂浜をランニングする。

「ファイ!ファイ!ファイ!」
「シャモ!シャモ!シャモ!」
「リッキ!リッキ!リッキ!」

「・・・よっし、20分は走ったか。・・・よしお前ら!このまま戦闘の構えで走れ!ステップやジャンプはOKだ!ただし普通に走るな!常に構え(手でのカバー)を意識しろー!」

普通の走りから、ステップやジャンプ、サイドインやクロス等、戦闘や組み手の足運びをイメージしたランニングに切り替える。

「・・はぁ・・・・はぁ・・。」
「シ・・シャ・・モ!」
「リキ、リキ・・・リキ!」

「よし、休憩だああ!」

俺達はバタバタと砂浜に倒れた。

「(痛っっ!足の筋肉がパンパンだぜ、・・・砂浜の上、思ったよりも堪えるぜ。)」「シャモ〜・・・。」
「・・・・リキ・。」

眩しい太陽に照らされながら、砂浜に大の字に寝転ぶ俺達。

波の音が聞こえる。

「よし、お前ら、クーリングするぞ。海の上に集合だ!」

俺は道着のズボンの裾をめくり、海に入る。

「うわ!冷てぇ!すげー気持ちいいや!」

ワンリキーも入ってきた。けど、ワカシャモがまだだった。

「あ、そうか、炎タイプだからな。・・・・・お、そうだ!」

俺は波から上がり、砂浜に溝を掘る。
溝の先端に、穴をつくる。すると、溝を伝って海から水が押し寄せる。そして、その先にある穴に海水が溜まった。

「よし、ワカシャモ、この溜まった水に火の粉だ。熱湯にすれば、お前も大丈夫だろう?」

「シャモ!」

ワカシャモは、俺のつくった足湯でクーリングをする。(←約80゚C)

「さて、こっちはクーリングしている間、ボケッとしてる暇はないぜ。ワンリキー、下を見ろ。」

「リキ?」

俺とワンリキーは、下の海水を見る。足元には小さな魚がスイスイと泳いでいた。俺が少し足を動かすと、魚達は逃げてしまう。

「鍛練、魚獲りだ。見本を見せてやろう。」
俺は、道着の腕の裾を折り、魚のいる場所へと移動する。

チャプ・・チャプ・・。

俺は息を吐く。足元には小さな魚が一匹。俺は手を海に突っ込んだ。にもかかわらず、魚は逃げようともしない。・・・まあ、気配絶ってるかんな。

バシャ!

俺は手を振り上げた!
その手には、手の平から少しはみ出る程の、タチウオが握られていた。

「ワンリッキー!」

ワンリキーが拍手している。

「ワカシャモ!コイツを焼くぜ!枝と葉っぱを集めて来い!」

俺はワカシャモにタチウオを投げた。

「シャモ!」

「さあワンリキー、お前もやってみろ!」

「リッキ!」

ワンリキーはザブザブと移動するが、近づく度に魚がにげていく。

「ザブザブいったら逃げるに決まってんだろ?こういうふうに、波に逆らわずに進むんだ。この鍛練は、気配を絶ちながら、順応の動作をしつつ、一気に魚を捕まえる集中力を鍛えるんだ。」

チャプチャプと、水の抵抗を無視するように歩いて見本を見せた。

ワンリキーも見様見真似でやってみるも、なかなかうまくいかず、魚が逃げていく。

「・・・・・リ、リキリキリッキーー!」

ザッパーーン!!

うぉお!?海にダイブした!?

は?なんだアイツ?ひょっとして、潜って捕まえたほうが楽だってか?無理だろいくらなんで  ザバーーッ!

「リッキー!」

万遍な笑顔で、片手に魚を握るワンリキーが海から出てきた。

「す、すっげえええ!?」

・・・ああ、まあ、ワンリキーは人間と比べて、動体視力も反射神経もずば抜けているからな。

ワンリキーが魚を俺に渡した。

「・・・この魚・・・って、フグじゃねーか!?俺に死ねってか!?」

「リキキキ〜。」

「シャモ〜!」

「ああ!てめぇ!俺のタチウオ何勝手に焼いて食ってんだああ!」

・・・・・コイツら、鍛練は真面目にやるからいいが、それ以外だと、ずぼらだな・・・・。

・・・先が思いやられるぜ。

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「そこの方!格闘家とお見受けします!」

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俺とワンリキーが海でじゃれている時だった。

太陽が真上を差す頃。

この砂浜には俺達しかいなかった筈だが。

いつのまに現れたのだろうか。

ソイツは忽然とワカシャモの側にいた。

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??? Side

むむ、あれは道着を着たトレーナーさん?

ということは、格闘家という事ですね。

彼の周りにいるのは、オレンジのトリポケモンにワンリキー。

彼のポケモンに違いありません!

格闘家の血が騒ぎます!

私は裸足で歩道から石段を下りて、砂浜に飛び降り、彼のもとへ向かいました!

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「そこの方!格闘家とお見受けします!」

海で修業をしていたのでしょうか、彼がこちらに気づきました。

「あ?なんだてめぇは?」

う・・!なんてすごい迫力。目力だけで圧倒されそうです。

しかし、私も負けません。キリッ!

「ポケモントレーナーとして、また格闘家として、手合わせ願います!」

右手の拳を握り、彼を見据えます。

このホウエンに来て、ようやく骨のありそうな方と会えました。

彼が海から上がってきました。

さあ、私はモンスターボー 「ワカシャモ、捕獲。」

ガシッ!

・・・へ?

「シャモ。」

・・・・・へ?え?あれ?
どうして私は束縛されたのでしょうか?

ワカシャモ?というポケモンに腕を羽交い締めにされて、全く動けなくなりました。

海から上がった男の人が、道着の裾を整えています。

「あ、あの〜。」

声をかけるも、相手にされてないようです・・・。

わ、私、どうなっちゃうのでしょう・・・。

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アズサ Side

・・・とりあえず、ワカシャモに捕まえて貰った変な子を改めて見てみた。

ピンク色のショートカットに小柄な体格。
青いノースリーブに白いズボン(道着っぽいな)。
鼻と肩にはってある絆創膏が第一印象だな。

ま、それは置いといて。

「リッキー!」

「お、ご苦労ワンリキー。そこに置け。」

ワンリキーに頼んでおいた紙を、くしゃくしゃに丸めておいてもらう。この紙は、捨てられてあったゴミや新聞とかなんだけどな。

さて、ワカシャモが集めた枝や枯れ葉を寄せてっと。

「ワカシャモ、火の粉!」

ワカシャモの火で、燃焼物に点火させ、大きめの火を起こした。

「ワンリキー。このタチウオをこの枝で口から刺してだな・・・。」

ワンリキーに、魚の姿焼のやり方を教える。

「あ、あの〜。」

「あ〜、ちょっと待ってろ。」

絆創膏の女の言いたい事はわかるが、少し黙ってな。

「・・・よし、じゃあ焼くぞ。」

枝に刺したタチウオを5〜6匹、焚火の回りに陳列した。

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パチパチパチパチ・・・。

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「昔から魚は4分、肉は8分って言ってな・・・。」

だいぶ焼け目がついたタチウオ。

「あ、ちなみにお好み焼きは8分です。」

「シャラップ。」

「ぁ・・ぅ・・。」

まったく、なに会話に参加してんだか。

・・・お、香ばしい匂いがしてきたぜ。

「シャモ〜。」
「リッキ〜。」

コイツらも待ち切れないみたいだな。

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グゥウウウゥゥゥ〜〜〜・・・・・!

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突然、でっかい腹の虫があたりに鳴り響いた。

「てめぇワカシャモ!どんだけ空腹なんだよ、さっき俺のタチウオつまみ食いしてたくせによ!」

「シャ!?シャモシャモ!?」

・・・首をブンブン振ってやがる。じゃあ違うのか?

ワカシャモじゃねぇなら、誰だ?

ワンリキーでも俺でもねぇ。

グゥウウウゥゥゥ・・・!!

ワカシャモの方から、けたたましく腹の虫が鳴る。

「やっぱりてめぇじゃねーか、ワカシャモ!」

「シャモシャモ!!」

・・・まーだ首ふってやがるや。

「なあ、ワカシャモ。そこはウソをつかねぇとよ。」

「・・・・・シャモ?」

俺は、ワカシャモに羽交い締めにされた少女の顔を覗いた。

その顔は、真っ赤にそまって俯いていた。

「悪いな、ウチのワカシャモ空気読めなくてよ。」

からかうように俺は笑った。

「・・・・・/////・・!」

腹が減ってんのかよ、悶えてやがる。
・・・なんかハムスターみたいな奴でかわいいな。

「リッキ!」

「お!焼けたか!?」

刺してあった枝を抜いて、タチウオを手にとり、ワンリキーに渡した。

ワンリキーがむしゃぼりついた。

「うまいか?」

「・・!・・リキリキ〜!」

俺はもう一匹手にとり、さっきからワカシャモに掴まって動けない少女に見せびらかした。

「・・・!・・(ゴク)」

少女の喉がなる。

「旨そうに焼けてるだろう?俺が手づかみでとった鮮度抜群のタチウオを、ワカシャモの火力でオブラートに焼き上げた、この凛々しい姿焼。」

全体的に綺麗に焦げ目のついたタチウオは、今にも食べてくれといわんばかりだ。

「・・・!・・(なんて、美味しそう・・・。)」

少女はタチウオの姿焼に魅入る。

「そしてだ、」

俺はタチウオにかじりつき、そのかじった部分から溢れる液を啜る。

タチウオのかじった跡を少女に見せた。

「この濃厚な脂!」

「・・!・・(と、とろけそうです!)」

少女はよだれを垂らした。

「おい!涎でてんぞ!」

「へ?・・え/////・・・・・!」

・・・どんだけ腹減ってんだよ。

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その後は、焦らすに焦らして少女を弄りつづけた。だってよ、こんな弄りがいのあるやつ初めてだぜ?

目の前で塩をかけて食った時なんか、涙出てたからよ、可哀相だし一匹だけ食わせてやった。(もちろん拘束した状態で。)

・・・なんか凄ぇ顔赤くしてたけどよ。

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タチウオも食ったし、インターバルも終わったし、さて、本題に入るか。

自分の道着を整え、目の前の少女に問う。

「で?誰なんだ、てめぇ?」

「へ?わ、私ですか?」

てめぇ以外に誰がいるってんだーー!?

「はい!私は、シンオウ地方トバリシティのスモモと言います!己とポケモンを鍛える為、武者修業の旅をしています!」

ワカシャモに掴まったまま、スモモ?という少女はハキハキと答える。

「俺はミシロタウンから来た、アズサだ。・・・で?」

「はい!貴方にポケモントレーナーとして、また格闘家として勝負を申し込みます!・・・・どうして私は捕まったんでしょうか?」

「そりゃてめぇ、コッチは鍛練が終わったばっかでへとへとな上、今からメシ食おうって時に、意気揚々と参上されても迷惑な話だからよ、捕まって貰ったんだ。ワカシャモ、もう離していいぞ。」

ワカシャモがスモモを解放した。

「あ、そうだったんですか。お食事中、失礼しました。それに私にまで、ご馳走して頂いてありがとうございます。」

スモモはキビキビと礼をする。

改めて、スモモを観察した。
コイツも格闘家らしいけど、俺と同じくらい小さな体格だな。

さっきまで、タチウオによだれ垂らしたり、幸せそうにタチウオを頬張っていたスモモ。

だが格闘家としては、優れた資質があるのが見て取るように分かる。

「(・・・・・・コイツ・・・なかなかできるぞ。・・・今はかわいこぶっちゃいるが・・・・・試合になると目の色が変わるタイプだな。)」

・・・面白ぇ。

「よっしゃ!受けて立つぜ!ワカシャモ!ワンリキー!準備はいいか!」

「シャモ!」
「リッキー!」

スモモは、一瞬ポカンとしたが、すぐに切り替えてボールを構えた。

「はい!真剣勝負でいきますよ!」

スモモはボールを投げる。

スモモはアサナンを繰り出した。

俺はワンリキーを先頭に出す。

「では!行きます!アサナン!めざめるパ 「ちょっと待ててめぇ!!」

勝手にバトルに突入するスモモを怒鳴る。スモモはビクッ、と驚いていた。

「試合前の一礼はどうした!?それでも武道家かてめぇ!!」

「あ!・・・も、申し訳ありません!」

スモモは左手の掌底に、右手の拳を添えて、深く一礼をした。

俺もその動作をする。

・・・静かな、ピリピリ感が伝う。

「・・・では、行きます!」

お?スモモの目つきが変わった?

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・・・俺も、スイッチいれるか。

相手を目で射殺すかのように睨みつけ、ワンリキーに指示をした。

「気合いだめ!」

「リッキ!!!」

ワンリキーは張り切っている。

「さあ、やろうぜ!」

「はい!アサナン!ヨガのポーズ!」

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スモモとのバトルがスタートした。

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美容室 ( 2012/04/08(日) 07:19 )