ミシロタウン
ユウキ side
・・・ケツが痛くなってきた。
ちょっと立っておこう。
・・・うへぇ、ものすごく揺れるなぁ。
おっとと!こけるとこだった・・。
・・・・やっぱり座ってよ。
・・・!・・うおおおお!!?
痛っ!痛っててて、荷物に突っ込んじゃった。
「おい!!急ブレーキかけるなよー!!」
「うっせえな!男がピーチク文句言うな!!」
へっ、妹に怒られた。ジャンケンで勝ったからって、助手席で偉そうにしやがって。
・・・・お!・・・止まった。
・・・・エンジンも停止した。揺れがやっとおさまった〜。
・・・トランクを開ける音が聞こえるぞ。
ついたんだ、新しい家に!新しい町に!
トランクのドアが開いた!
さあ、俺を迎えてくれる最初の景色はなんだ!?
.
「「「「ゴーーーリッキーーー!!!!」」」」
.
・・・むさ苦しい漢達だった。
.
うわ!上がってきた!
どんどんトラックの荷物を下ろしていくゴーリキー達。
うわ、おい!俺は荷物じゃないぞ!
は、離せええぇぇ!!
.
ゴーリキー達に、バケツリレーのように運び出された俺は、外に投げ出された。
「ぎゃふ!」
地面は芝生が生い茂っていて、痛くもなんともない。起き上がって、目の前にある新築を見る。
「おおお!すっげー!」
辺りを見渡すと、森、原っぱ、草、林。
緑の自然が視界を覆いつくす。
「ここがミシロタウンか〜!」
綺麗な自然。うまい空気。青い空を堪能する。
ドカッ!
「がはっ!?」
後頭部に衝撃が走る。タンスだ、ゴーリキーが運んでるタンスが俺の頭に当たった。
俺は地面に疼くまった。
「ユウキてめぇ!何サボってんだ、手伝えよ!」
段ボールを抱えながら、上から罵倒するのは俺の妹のアズサ。青いジャージを上下に着こなし、額に白のタオルを巻いていた。
「うっせ!お前にトランクに乗せられた者の気持ちはわからねぇよ!ケツは痛いし、ホコリは舞うし、脳みそがグワングワンする。」
手でジェスチャをしながら、俺の苦行を伝える。
「知るか。」
シカトですか、そーですか。
「あら、きたわね。」
母さんが新築の家の玄関から顔を出す。母さんは別の車で、先に来ていたから到着が早かった。
「どう?ここがミシロタウンよ。空気が綺麗でいい所でしょ?」
幸せそうに、緑の草花の香る空気を吸う母さん。
「確かにな〜、ここなら鍛練するにはもってこいだぜ。」
「鍛練の他にねーのかよ、アズサは。」
「ほらほら、二人とも上がって。」
母さんと俺とアズサは、新築の家に入る。
.
「「うおおおおお!!」」
思わず感嘆がもれた。だってさ、新しい家だぜ?誰だって興奮するって。
新しい玄関、新しいリビング、新しいダイニング。
新鮮な気持ちになるよな〜。・・・まあ、こういう風景も、2週間もすればマンネリ化するだろうな。
そこらでは、数匹のゴーリキー達がせっせと、荷物の運搬をしてくれている。
・・・何故か妹も手伝ってるし。
「ユウキ!ぼけっとしてねぇで、荷物運べ!」
「いやいや、業者には金払ってるんだからさ、任せておこうよ。」
「うわ、コイツ。・・・そんな事こだわるか?目の前で誰かが動いていたら、手伝うのが筋だろうが、なあゴーリキー?」
「ゴーリッキ!」
「な?ゴーリキーもいってるだろ?仮にも自分の家をしてもらってるんだしよ〜。」
・・・ぐっちぐちとまぁ〜、減らず口をたたく妹は、段ボールから本やら食器やらを整理していく。
「へいへい、んじゃ母さん、俺自分の部屋みてくる!」
そう言い、俺はダッシュで階段を上がる。
「ユーキてめぇ!抜け駆けする気かあぁ!?」
うお!?何故かアズサが追いかけてきた!?
「お前!手伝いはどうしたああ!?」
「それとこれとは話が別だあああ!」
くっそ!現金な奴め!
階段を上がり、ドアが閉まっている。
俺はドアを開け 「うりゃあ!」
「がはぁ!?」
妹が俺の足を払って、床にこかされた。
「一番乗りは俺だー!」
アズサ、一位の俺を踏み倒してゴール。
・・・いつか殺してやる。
「おいユウキ!すっげぇ広いぜ!寝てないで見てみろよ!」
・・・・・・・へーへー。
「ほらな、すげーだろ!」
「おおおお、2階は片付いてるんだな。」
いやいやいや、12畳以上あるぞ、この部屋!?どんだけお金はたいたんだ父さん!?
「よしよし、じゅうたんやらベッドやら退かせば、道場になるな。」
「何勝手な事言ってんだよ、俺の部屋だぞ。」
「はあ!?何言ってんだよ・・・・て、あれ?部屋って、これだけ!?」
階段を上がって、すぐにドアがひとつあっただけで、部屋は目の前にある広いスペースのみだった。
「・・・・・ま、ここは年功序列で兄の俺が。」
ボスッ!
「ごほぉっ!?・・・み、溝落ち・・。」
「てめぇは廊下で寝な。」
「く、くっそ。なんでも暴力で解決すればいいと思いやがって!それでも武道家か!?」
「てめぇは例外だよ、バーカ。」
ギャーギャーと、部屋の入口で言い争いが始まる。
・・・はぁ、ホントは喧嘩したくないんだけどなぁ、何かとコイツ突っ掛かってくるからなぁ。
初めてアズサが家に来た時は、まだしおらしくて可愛かったさ。
・・・あの時は猫かぶっていたんだな、今のコイツが本性だからな。
・・・父さん。妹を守ってやれと父さんは言ったけれど、必要ないよ。コイツ、俺を盾にして生き延びるタイプだから。
「まーた喧嘩してるの?引っ越し早々。」
母さんが上がってきた。ナイス母さん。
「母さん、部屋がひとつしかないよ!」
妹が口を尖らせる。
「あら、本当ね。ユウキは廊下かしら?」
なんで妹と同じ事いうんだよ!?
アズサ爆笑すんな!
「それは横暴ってモンじゃ・・・。」
「だって、アズサちゃんはもう年頃の女の子だし、一人部屋が必要じゃない。」
「そーだユウキ!屋根で寝な!」
・・・コイツ、母さんを手なずけやがって。
「いやいや、部屋に仕切りでもカーテンでも引いてさ、共用とかでもいいじゃんか。」
「てめぇユウキ、もし着替え覗きとかしたらシバくからな!」
「・・・誰がんなハンペンおっぱいに欲情する ブォンッッ!!
アズサの裏回し蹴りが空を切る。
「へっへ、お前の行動パターンはもう ガシッッ!!
し、しまった!バックを取られた!
「死ね!スリーパーホールド!」
「ぐごご・・!・・うぐ、絞まる、絞まる!・・・くっそ、コイツに胸があれば文句ないんだけどな・・・。」
・・・グググッ!!
ここで俺の意識は途絶えた。
.
.
アズサ side
兄のユウキを絞殺し、廊下の端に捨てた。
「くっそ、調子こきやがって。」
「・・・ちゃんと致命傷は外したの?」
「大丈夫だよ、ちゃんと加減したから。・・・ん、もう下は片付いたの?」
「ええ、やっぱりポケモンが手伝ってくれると楽だわ〜。あっという間ね。」
「そりゃ、格闘ポケモンを舐めちゃいけないよ。力も繊細さも心も兼揃えた、一番純粋なタイプが格闘なんだからさ。」
「ふふふ、アズサちゃん、格闘ポケモン好きだからね〜。」
「ポケモンはみんな好きだよ。中でも格闘ポケモンは格別。」
「そのポケモン好きは、誰に影響されたんだっけ?」
「・・・・・そこで伸びてるソイツと、父さん。」
ユウキは、ずっと野性のポケモンと遊んでたからな。俺もついつい、よいしょされちまったんだよな〜。
「あ、母さん。お昼まだだろ。何か作るよ。」
俺は階段を下りようとしたけど、母さんに呼び止められる。
「まだいいわよ。キッチンの方、もう少し整理したいから。・・・それよりアズサちゃん、引っ越しの挨拶に行ってらっしゃいよ。」
「挨拶って?」
「隣にお家があるでしょ?私はもう挨拶済ませたから。」
・・・・・ま、母さんが言うなら、しょうがねーか。
「わかった、行ってくる。」
「あ、アズサちゃん!」
「・・・ん?」
「アズサちゃんは、初対面の人にはキツい顔をする癖があるから、ちゃんと行儀よくして、それから笑顔で、ね。」
・・全くもう、解ってるよ。
「大丈夫だよ。ちゃんとするから、じゃあな。」
俺は家を出て、辺りを見渡す。
・・・あの家だな。
10m先にある民家に真っ直ぐ駆けて行き、家の前で止まる。
「(・・・とは言ってもなぁ、確かに母さんの言う通り、初対面の奴には野犬みたいにバリア張る癖あるからなぁ。)」
ドアの前で腕を組んで悩みつづける。
「(・・・ち、ちょっと練習。)」
肩の力を抜いて・・・、
リラックスして・・・、
まぶたをパチッと開けて・・・、
口端を吊り上げる。
そして、目を少し細める。
「(・・・・///・・・か、鏡とかないかな?)」
足元に、水溜まりがあったから鏡代わりにしよう。
「・・・な、なんかぎこちないな。」
普段笑顔なんてしないから、どう意識していいかわかんねぇよ。
・・・でも、ちゃんといい感じにやらないと、母さんに泥ぬっちゃうしな。
あ、そうだ!
楽しい時の事を思い出せばいいんだ。
俺は、最初にユウキ達の家に来た事を思い出す。
あの時は、シバがいなくなって、道場から嫌われて、自暴自棄になってたっけ。
そんなとき、センリ(今の父さん)が俺を拾ってくれて、見ず知らずの俺によくしてくれたっけ。
.
―いつまでも、此処にいなさい。―
・・・トクン。
俺は自然に笑みがこぼれた。
「(あ・・・・、・・・・/////・・・なんだ俺、ちゃんといい笑顔できるじゃん。心配して損し 「何一人でにやけてんだ?気持ちわりぃ。」
.
・・・・・・・・・・・・・。
.
顔を上げた。
・・・うちの兄貴が、『御気持』とかかれた菓子箱を抱え、俺をジト目で見ていた。
・・・・・・・・・///////////・・!!!!
ドゴォ!ベキッ!ドガガガガガ!!バキィ!!
「がっ・・どぅほぉおお!!?」
フック、掌底、殴打、乱打、連打、蹴り!
・・・・・ちっくしょうが!!めっちゃ恥ずかしいわ////////!!
「ちょ!おま!何で殴るんだよ!別に吹いたわけじゃないだろ!」
「うるせぇぇええ!今せっかくイイ感じだったのに!てめぇが来るからいけねぇんだああ!」
ギャーギャーとまた喧嘩が始まった。
.
ガチャ
「あの、どちらさまでしょうか?」
「「あ。」」
とっつかみあいをしていた手を離し、出てきた人に挨拶しようと気構えた。
けど、さっきみたいにリラックスできない。
「あ、すみません。隣に引っ越してきました、ユウキといいます。こっちが妹のアズサです。どうぞよろしくお願いします。」
頭を下げる兄貴。
・・・・・・・・。
はっ、となって俺も頭を下げた。
「よ、よ、よろしくおねぎゃいしましゅ。」
「ブッ!・・・ククク。」
「て、てめぇ!笑ってんじゃねえ!」
・・・このクソ兄貴だけは!
「うふふふ、センリさんのお宅でしょう。初めまして、こちらこそ宜しくね。」
「はい、色々とご迷惑をおかけするかと・・・あ、これ、つまらないものですが。」
「あら、すみません。お母さんに宜しく伝えて下さい。ウチにあなたたちと同い年の子がいるんだけどね、『新しい友達が出来る!』ってずっと大はしゃぎなのよ。今二階にいるだろうから、会ってやってくれないかしら。」
「はい。すみません。お邪魔します。」
「あ、お、お邪魔します・・。」
兄貴に続いて、靴を脱いで、スリッパにはきかえて、家の中にあがる。
・・・・・ほんとにたまにだけど、兄貴として頼れる所はあるんだよな・・。
.
俺と兄貴は、ある部屋に通された。ドアには『ハルカ』とネームが貼っている。
兄貴がノックして入った。
「ちぃーっす、お隣りさんでーっす。」
俺はこけた。
「てめぇ!さっきと態度全然ちがうな!」
「同い年っていってたからいいじゃん。」
部屋に入ると、女の子の部屋が。
・・・俺達の部屋の間取りとそっくりだな。ミシロタウンの家ってみんなこんななのか?
すると、部屋のすみの机でパソコンをしていた女の子が、こっちに気づく。
「へ!?・・お、お隣りさん!?・・や、やだ!今来たの!?」
赤いバンダナで髪を覆い、赤いトレーナーにスパッツでキメたスレンダーな女の子がいた。
口元を手で隠しながら、突然部屋に入ってきた俺達に驚く。まあ、そりゃ驚くだろうよ。
「あ、ご、ごめんね。女の子の部屋にづかづかと。」
ユウキが謝る。
「んーん、いや、私もてっきり同い年が来るんだって思ってたけど、まさか男の子が二人くるなんて。ひょっとしてキョーダイ?」
・・・・ん?・・・・おとこふたり?
「自己紹介するよ、俺はユウキ。で、こっちが弟のアズマ。よろしく。」
「な!ちょ 「私はハルカ!宜しくね!」
ハルカはニコッと笑顔を振り撒く。
「いやいや!俺は 「あ!いっけない!お父さんの研究手伝う時間じゃない!ゴメンね!折角来てくれたのに〜!」
「いや、気にしなくていいよ。な、アズマ。」
「・・・てめぇ、いい加減に 「ありがと!じゃ、また後でね。ユウキくん、アズマくん!」
ハルカはそう言い残し、部屋を後にした。
「な、が、こ、このバカ兄がああ!アイツ完全に勘違いしてんじゃねーか!どう収拾つける気だてめぇ!!」
「ふ、日頃の恨みだ。男だと思われたくなければ、せいぜい女らしくしろよな。」
「・・・・・ふ、ふざけんじゃねぇぞ!」
「あ、女らしくっていっても、胸が無いから無理 「・・・・・ぉら。」
.
ミシッ・・・!!
.
「・・あ・あ・・あ・・・おま・・ちょ・・死」
ユウキは泡を噴いて倒れた。
.
.
ユウキ side
・・・・・・これだから女って奴は。
男の命である○○たまを、振り上げて蹴るとは・・・・。
だ、だめだ。なんとか立てるものの、ヨチヨチ歩きだ・・・。
・・・もう、逆らうのやめよかな?命が幾つあっても足りやしない・・・。
ハルカの家を後にし、帰路を通る。アズサは未だにキレてる。
・・・・もうすぐ家に着く時だった。
・・・これから起こる出来事が、俺とアズサを、大きく変えていくとは、思いもしなかった。
.
.
「た、助けてくれーーー!!」
「「!!?」」
誰かが助けを求めている!
アズサが咄嗟に動いた。相変わらず行動が早いなアイツは。
俺はアズサに続くが・・・・・なにぶん、股間が「あはんあはん」な状態な為、スピードが出ない。ちくしょーアズサめ・・・。
.
アズサ side
この雑木林の方から声がしたな。
俺は、森の入口にいた少女に聞いてみた。
「おい、今声がしたのはどっちだ?」
「あ、お兄ちゃん。いまコッチから助けてーって声が。」
「解った、ありがとう!あと俺は男じゃねぇ!」
・・・ハルカとの件で、少しぎくしゃくしていまう。
.
森を抜け出した。
すると、何か白衣をきたオッサンが、のら犬みたいなポケモンに追いかけられていた。
「うわわわわーー!君ーー!助けてくれーー!」
オッサンが俺の姿を見て、手を振りながら逃げ回る。
・・・ち、仕方ねーな。
俺はズカズカと灰色の野良犬ポケモンに近づく。
その野良犬は俺に気づくと、オッサンを追い回すのをやめ、俺を標的にした。
牙を剥き出して、敵意を示している。
「な!き、君!生身で闘う気かい!?危険だ!そこにカバンがある!中にポケモンが入っている!」
俺は腰を下ろし、膝を軽く曲げ、肩を脱力し、構えをとる。
「何やってるんだ!ポチエナは今気が立ってるんだ!怪我じゃすまないぞ!」
オッサンがさっきから叫んでいるが、集中してんだ、黙ってろ。
俺はポチエナとかいう野良犬を見据えた。
じりじりと距離を詰めるポチエナ。
俺は動かない。
・・・・・ピリピリと緊張が伝う。
ポチエナの体当たり!
ポチエナは大きな一歩を踏み出し、超速度で体当たりをしてきた。
・・・《流動》
俺はポチエナの軌道を読み、相手の死角のエリアへと3歩ステップする。
ポチエナの攻撃ははずれた。
「《鷲》」
ドサッ・・・!
背後を取った俺は、ポチエナの前足を掴み、首を押さえ、前のめりに転ばせた。
ポチエナは身動きがとれなくなった。
「「「ガルルルルル!」」」
・・・ち、仲間がいやがったか!
俺は3匹のポチエナに囲まれた。
一匹が俺に迫る。
「危ない!!」
オッサンが叫ぶ。
ポチエナの噛み付く。
ガブッ!!
俺は、押さえていたポチエナで盾にした。
「ガルル!?」
味方を噛み付いて動揺する二匹。
「《足刀》!」
ドゴォ・・!
足の裏のの側面で、ポチエナの腹を二匹もろとも蹴り飛ばす。
もう一匹が迫る。
ポチエナの噛み付く!
俺の足を狙うポチエナ。
「《蛇巻》!」
ドゴッ・・・ミシミシッ・・!
俺は片足でポチエナの眼下に瞬間的に蹴り、ポチエナの動きを止めた。怯んでいる隙にもう片方の足で首を蹴り、両脚で挟むようにして首をロックする。その態勢から、足の筋肉や腹筋を極限に使って、全体重をポチエナの首に押し付けた。
ポチエナはたおれた。
だが、俺はもう一匹見逃していた。
ポチエナの噛み付く!
俺の背後に回りこんで、俺の首に飛びつくポチエナ。
・・・反応しきれず、諦めかけた時だった。
.
キモリのはたく!
バッシィン!
「ガウッ!?」
突然叩かれたポチエナは、地面に転げる。
「おお、ユウキか、助かったぜ。」
たまには役にたつんだよな、うちの兄貴は。
「キモリ!もう一度はたく攻撃!」
「キャモ!」
キモリが素早い動きでポチエナに近づき、自慢の大きな尻尾で、一撃でダウンさせた。
.
「ふぅ・・・、野生のポケモンの調査をしていたら、ポチエナに見つかっちゃって・・・・・とにかく助かったよ、ありがとう。」
オッサンが頭をかきながらお礼を言う。
「いえ、当然の事をしたまでです。」
「困った時はお互い様だしな。」
兄と俺は思い思いに言葉を発する。
「ひょっとして、センリ君の所の子かい?なら、研究所にきなよ」
.
.
ミシロタウンの南側に、一回り大きな民家があった。俺と兄貴は、白衣を着たオッサンの後についていった。
建物の中に入ると、そこは研究所だった。
「おおおお、すげえ!」
ユウキが感嘆の意を漏らした。確かに、こんな田舎町に研究所って斬新だよな。
.
「さっきはどうもありがとう。私の名はオダマキだ。皆からはポケモン博士と親しまれているよ。」
「ええ!?あなたがあのオダマキ博士ですか!?」
ユウキが目を開いた。
「ボソボソ(・・・ユウキ、だれだこのオダマキ博士って、有名なのか?)」
「ボソボソ(バッカ!ホウエン地方で有数のポケモン研究者で、あのオーキド博士と同じくらい有名なんだぞ!)」
・・・俺はあんまり興味ないから知らないけど、兄貴はポケモンが好きだからな、いつか自分のポケモンを持って、強いトレーナーになるのに憧れてるしな。
「ゴホン。君達二人が、ミシロタウンに引っ越してきた、ユウキ君とアズサ君だね。センリ君から話は聞いてるよ。 ユウキ君は生まれてから一度もポケモンを持ったことがないんだって?」
「あ、はい。父さんが厳しかったし、それに野生のポケモンと遊んだり、勉強したりしてたので。」
「それにしては、さっきのバトルは見事だったよ。初めてにしては申し分ない。君にはトレーナーの才能があるかもな。」
ユウキがオダマキ博士に評価され、顔を紅くした。
「そしてアズサ君、君はあのシバの子どもだと聞いてるよ。」
「あ・・・まあ、血は繋がってないですけど。」
「最初君がポチエナに向かってった時は驚いたけど、さすがはシバの子だよ。威風堂堂と勇敢に立ち向かう君の姿は、最高に格好よかったよ。きっと素晴らしい格闘家になれるよ。」
「あ、ありがとうございます。まだまだですけど。」
褒められても、一応謙虚に返す。
「そこでだ。君達にポケモンをプレゼントしようと思うんだ。」
「おおお!!えぇ!?い、いいんれすか!?」
ユウキは呂律が回らないぐらい喜んでいる。
「ははは、私は折角の才能を開花させたいだけなんだ。遠慮せずに持って行きなさい。ユウキくんは、キモリだろう?」
「はい!ありがとうございます!っっっよっしゃあああああ!とうとうポケモンが手にはいったぞーーー!!」
ガッツポーズを決めるユウキ。
「アズサちゃんも、ポケモンを選ぶといいよ。」
「あ、俺ですか?俺は・・・・・どうしようかな・・・?」
「躊躇う事はないさ。格闘家とポケモントレーナーを両立させてる人はたくさんいるし、君の父さんのシバも、格闘技の王者でありながらも、四天王の実力を持っていたんだ。ポケモンとの生活は、きっと君を成長させるよ。」
「そ、そうですか?じ、じゃあ、頂いてる身分ですみませんが、格闘ポケモンを頂けますか?」
「格闘ポケモンか・・・。シバに近づきたいのが手にとるように解るよ。でも生憎、水タイプのミズゴロウと、炎タイプのアチャモしか残って・・・あ、そうか。アズサ君、アチャモだ。このアチャモにしなさい。」
俺はオダマキ博士からボールを受けとった。
「これは?」
「出してごらん?」
俺は貰ったボールからポケモンを出す。
強い光から現れたのは、小さなオレンジのヒヨコポケモンだった。出てきて早々、テクテクと歩き回り、回りをキョロキョロしている。
「(・・・か、可愛い。)」
「アチャモは炎タイプさ。だけど、進化すれば、格闘タイプの属性がつく。素早くて力も強いポケモンだよ。」
「え!そうなんですか!?ありがとうございます!」
俺はアチャモを両手で拾い上げて、顔の高さまで上げた。
「アチャモ、俺はアズサだ。最強の格闘家を目指してる!お前も一緒に鍛練しないか!?」
「チャモ?」
アチャモは首を傾げた。
「(アズサのやつ、なんやかんやで嬉しそうだな。)」
.
オダマキ博士は、ハルカの父さんだったようだ。今ハルカはフィールドワークに出かけているようだから、彼女に会いに行く。
ミシロタウンを出て、コトキタウンを過ぎ、103番どうろに出た。
草むらからポケモンが飛び出しても、こちらにはポケモンがいるから、闘わせる事ができる。
・・・まあ、俺は生身でも闘えるけど。あ、でも虫系は勘弁な。あれは気持ちわりぃ。
「あ!ユウキ君!アズマ君!」
・・・そうだった。まず誤解をとかなきゃ。
「あ、えーと、ハルカだっけ?俺はアズマじゃなくて、アズサな。一応女だ。」
・・・・・・・おい、何豆鉄砲くらったような顔してんだよ。
「え、えええええ!!?」
「ははは、コイツ外見も男っぽいしさ、弟ってごまかしてたんだけど、実は妹なんだ。」
ユウキが弁解する。
「えええ!?もう!ヒドイかも!」
・・・ふう、何とか誤解が解けたようだ。
「・・・ふ〜ん?」
ハルカは、俺の顔をまじまじと見る。
「・・・な、何?」
じーっと俺を見つめるハルカ。
「・・・すっごいイケメンなのにね?私さ、最初、男の子と友達になるんだな〜って思ってて、ちょっと緊張してたんだ。でも、女の子なら平気かも!仲良くしましょう!」
ぎゅっと、俺の手を握るハルカ。
「・・・あ、うん(な、なんだろこの娘。何か視線が熱い気が・・・。)」
「よかったなアズサ。友達できたじゃん。」
「ユウキ君もね?」
「おう!よろしくな!」
「・・・ハルカ?」
「ん?なーに?アズちゃん?」
「・・・どこ触ってんの?」
何か、俺の鎖骨辺りを指で撫でているハルカ。
「うふ、アズちゃん女の子なのに、体格ががっちりしてるなーって。」
「ああ、アズサは空手やってんだよ。」
「へえ〜、カッコイイかも!顔もイケメンだし!」
・・・・気のせいか?ハルカの目がギラギラしてるのは?
「じゃあ、フィールドワークも終わりだし、ミシロタウンに帰ろっか!」
三人でミシロタウンへと帰る。・・・・・道中ずっとハルカが、俺の手を繋いでたけど。
・・・・・どういう意図があんだ?
俺はハルカを見た。すっごいウキウキしている。ハルカがコッチに気づく。
「やん、そんな見つめられると、照れるかも。」
頬を紅くし、指でかいているハルカ。
・・・・・・・・・・・・・・・・?
・・・・ただ言えるのは、これから先、何か嫌な予感がするという事だけだった。
「(ハルカちゃん、アズサをよろしく頼むよ・・・。)」
「あ?何かいったかユウキ?」
「べっつに〜?」
.
.
.
俺達はハルカと別れて、家に帰った。
「お帰りなさい、二人とも。今パパがテレビに出てるわよ!」
リビングでテレビを見ていた母さんが俺達を呼んだ。ユウキが走ってテレビにかじりついたが、既に番組は終わっていた。
「あら、残念ね。」
母さんがほくそ笑む。ユウキはずるずると床に倒れた。
「母さん、今日隣に挨拶にいってさ・・・・・・・・」
俺とユウキは、夕食を食べながら、今日の出来事を母さんに話す。
友達が出来た事。博士を助けた事。ポケモンを貰った事。
話をしている間、母さんはずっと黙って聞いていた。
「よかったじゃない。カワイイポケモン貰えて。・・・・・・・ふふふ。」
「?」
ユウキの顔を見て、笑い出す母さん。
「ユウキって、ホント顔に出やすいわね。」
ユウキが顔を紅くする。
「・・・・だってさ。」
「いいわよ、いってらっしゃい。」
「え!?いいの!?」
「そのかわり、ちゃんとパパに報告に寄りなさいね。」
「ありがとう!よっしゃあああ!旅ができる!トレーナー修業ができるぞおおお!あ、そうだ!アズサも来いよ!武者修業したいってお前も言ってたよな!一緒にいこうぜ!」
「ええ、それがいいかもね。兄妹で一緒の方が安心だしね。」
「・・あ、えーとさ、俺、もう少し経ってから旅にでるよ。」
「どうしたんだよアズサ。今も後も変わらないぜ。」
「アチャモをさ、進化させてから、格闘タイプにして、武道を教えてから旅にでたいんだ。格闘家を目指す以上、旅の門出が、炎タイプだけって訳にはいかねぇしな。」
「・・・そっか。じゃあ、明日から俺は出発するよ。」
.
.
夕食を食べ、片付けをして、俺とユウキは二階に上がった。・・結局、この部屋は共用することになった。・・・・ベッドが一つしかないのがおかしいけど。
「なあ、アズサ、やっぱり一緒にいこうぜ?お前一人残していくのも、気が引けるしさ。」
・・・・はぁ、コイツはコイツで、兄貴として心配してくれてるんだけれど、いらねぇ世話だよ。
「余計なお世話だよ。自分の夢を果たすんだろ?だったら一人で旅をしたほうが、よっぽど修業になるぜ。」
「だけどよ・・・。」
「・・・・・・バカだな、ユウキは。・・・二人いっぺんに家を出たら、母さん悲しむだろ。」
「あ。」
・・・ま、ミシロタウンでしばらく鍛練したいってのも理由のひとつだけどさ、母さん、さっきまで辛そうな顔してたもんな。・・・・コイツは気づかないだろうけど。
「・・・・・お前、やっぱり偉いよ。気も回るし、しっかりしててさ。」
「へへっ、」
・・・なんか調子狂うな。兄貴が俺を褒めてら。
「兄貴。」
「ん?」
・・・・・ありがと。
「せいぜい先でだらだら旅してな。俺が追い抜いてやるぜ!」
「なにを!妹の分際で!喧嘩じゃ勝てないが、ポケモン勝負は別だって事、思い知らせてやるぜ!」
はん、言ってろ。
.
.
次の日。
兄貴はキモリと一緒に、ミシロを旅だった。
母さんは、笑って送っていたけど、昨晩ずっと泣いていたのはここだけの話だ。
まあ、兄貴には悪いが、俺の目標はてめぇなんかじゃねぇよ。
・・・・・・シバ。
何処で何やってんのか知らねぇが、俺はアンタに教えて貰った武道で、アンタを越えるつもりだからな。
「よし、アチャモ!鍛練開始だ!」
「チャモ!」
.
俺がミシロを出て武者修業を開始するのは、兄貴が出発した2週間後の話だ。
.
.