カイナシティ〜キンセツシティ
アズサ side
よお、俺の名前はアズサ。格闘家だ。
ホウエン地方のミシロタウンに引っ越して、兄貴のユウキと同時に、トレーナー修業の旅に出てから、結構な時間が経った。
ま、ユウキとは別々で行動してるから、街中でたまに会うくらいだ。
この旅で早速、色んな事があった。
シンオウから来たスモモが弟子になり、
ジムバッジを2つゲットし、
日々の鍛練も順調で、俺達もポケモンも少しずつ強くなってきている。
さて、一応言っておくが、俺は女だ。
昔俺は捨て子で、シバに拾われてから、格闘道場で住み込みで稽古していたから、周りのヤロー共と常に一緒にいたせいで、こんな男口調になっちまった。
それ以外は、れっきとした女だ。故に、俺にだって嫌いなものはある。
そう・・・虫が嫌いだ!
女なら解るだろ!?あのウニョウニョした動き、変に素早くて思わず飛び上がってしまう。
っつーか、あんなのどうやって倒せばいいんだ!?普通の小型の野生のポケモンなら、俺でも倒せる。ポチエナとか、ジグザグマとか。・・・だが、ケムッソだの、キャタピーだの、ビードルだのは絶対ムリ!
だから、怖いものは俺だって怖いんだ。
今日は、そんな虫嫌いな俺の話・・・・。
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カイナシティ ポケモンセンター 宿泊施設 二人部屋
スモモ side
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「ぎぃいいやあああああぁぁぁぁ!!?」
・・・・!?
な、なんですか!?なんの声ですか!?
私は、ベッドから跳ね起き、辺りを見回します!
すると、隣のベッドに目がいくと、そこには部屋の隅の角に張り付くように、掛け布団で身体を巻き付けながら、怯えた先輩がいました。
「ど、どうしたんですか!先輩!?」
「ああああ!ああ!あれ!あれ!ジ、ジー!ジーが!ジジジジジーがああああ!」
「落ち着いて下さい!」
・・・こんな取り乱した先輩は初めて見ました・・・。
私は部屋の床を見渡します。
すると、部屋の真ん中で、くるくると回っている黒い虫、ゴキブリがいました。
「・・た、ただのゴキブリじゃないですか。」
「バ!バカ!さっきまで俺の目の前で!!ぎゃああ!気持ち悪いい!」
布団を頭から被って、自分の身体を怯えながら守る先輩の姿は、まるでイッシュ地方にいるクルマユみたいでした。
私は、ベッドからおりました。
テーブルの上に置いてあった昨日の新聞を、クルクルと丸めて、ゴキブリに近づきます。
バシィィィン・・・!
私はゴキブリが動かなくなったのを確認し、ひょいと持ち上げて新聞紙の中に入れ、固く包んでごみ箱に捨てました。
「南無〜。」
軽く合掌するのを忘れません。
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「もう大丈夫ですよ。」
私は先輩に言いました。すると漸く落ち着きを取り戻した先輩は、ため息をつきながら、ベッドから降りました。
「はぁ、朝からビックリさせやがって・・・。スモモ、お前よくあんなの平気で触れるよな?」
「あ、はい。慣れてますから。」
・・・私の家は、父がなけなしのお金で安く買った築80年のボロボロの長屋。
よく、ゴキブリやシロアリ、ムカデを何度も退治していました・・。
「・・・お前の家には行きたくねぇ。」
「あ、あははは・・・。」
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アズサ side
「よっし、忘れ物はないな!」
「はい!」
もう一度部屋を見渡す。ポケモンセンターの宿泊施設の寝室を綺麗に清掃し、少し朝早くからチェックアウトする。
来たときよりも美しく、それが武道家としての心構えってヤツだ。
「ったく!ゴキブリの部屋なんか寄越しやがって!衛生管理不行でとっちめてやろうか!?」
さりげなく此処の業者を恨んだ。
「あはは、でも一匹で済んでよかったですね。大抵ゴキブリは一匹を殺せば、仲間が一気にウジャウジャと 「ぎぃいいやあああああ!!」
俺はスモモの襟と荷物を掴み、ダッシュで部屋から出て行った!
「ぐぇ!ちょ!首が!は、離して下さい〜〜!(す、凄い怖がりですね・・・。)」
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「さあ、鍛練開始だ!」
「押忍!」
「シャモ!」
「リッキ!」
「マック!」
「アサー!」
「リオー!」
ポケモンをボールから出し、ポケモンセンターの前で、準備運動を行い、朝の鍛練を始めた!
全員駆け足で、カイナシティを北上し、北の道路へと走り出す。
今日明日で、ぼちぼちキンセツシティに着いておきたいな。
そう考えながら、俺は一列に並んでいるポケモンに目を向けた。
俺の手持ちのワカシャモにワンリキーにマクノシタ。
スモモの手持ちのアサナンにリオル。
みな寝起きなのか、集中してねぇみたいだ。
「おら気合い入れろ!声出していくぞ!」
「はい!」
「シャモーー!」
「リキ!!」
「アサァ!」
「マック!!」
「リオ!」
「(・・・・朝マッ○って聞こえた・・。)」
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・・・朝のロードワークを終え、林の中の広場で休憩をとる。
ここらはトレーナーが多いから、道路の端の林の中で鍛練をする事にした。
キンセツとカイナを結ぶ、サイクリングロードだっけか、すげぇでかいよな。夏は暑いから、丁度いい日差し避けの役目を果たしている、大きなバイパス。
ま、自転車なんかなくても、俺達は走りながら鍛練するから関係ない。
「よし!休憩終わりだ!次は技の稽古だ!スモモ!前へ!」
「はい!」
俺はスモモを前に立たせ、みんなに見えるように手本を見せた。
「お前らには、この技を習得してもらうぜ、よく見とけ。」
俺は、スモモを台にして、技をかけた!
ビュッ・・・・シュッ・・・ズトンッ!!
「ぅぐ・・!」
「あ、大丈夫か、スモモ。」
「は、はい・・!い、今のは・・?」
やられたスモモも、受け身をとれなかったのか、少し顔を歪ませた。
「もう一度いくぞ。」
「はい・・!」
ビュッ・・・シュッ・・・ズドンッ!
「・・!・・こ、今度は受け身をとれました。」
「お、やるな、スモモ。」
俺は、倒れたスモモに手を貸して起こした。
「シャモ・・?」
「リキ・・・?」
これから教える新しい技を目の当たりにして、少し理解に苦しむポケモン達。
「これはな、”山嵐”って技だ。」
山嵐は、対人の格闘技で使われる、必殺の技だ。下手をすれば、命にかかわるだろう。
ヤマブキ道場でシバに教えてもらった、かなり難しい技で、相手をどんな方法でもいいから、手足を封じ込めるようにして拘束し、そのまま相手と共に跳躍。その跳躍力を生かして、相手を地面へ頭からたたき付ける。
達人や忍者では、より高く、回転を加えて、殺傷能力を高めるらしい。
「これは、ポケモンの技でも有効なヤツでな。この技が決まれば、確実に相手の急所に当たる!・・・つまり、相手がどれだけ防御を高めようが、急所に当たれば勝てるって訳だ。」
「”山嵐”・・・。でも、格闘ポケモンの中でも、その技を使うのはほんの一部ですよ?」
スモモが心配そうに聞いた。
「とにかく、やらせてみようぜ。さあ!二人組になって、反復練習だ!」
「シャモ!」
「アサ!」
「リッキ!」
「マック!」
「リオ!」
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・・・・・しばらく練習してみたが・・。
「ぜ、全員適性0だな。」
「でも、先輩のマクノシタさんは惜しかったですよ?」
みな、山嵐を見様見真似で試すも、相手を地面にたたき付ける事はおろか、捕まえる事もままならない。
けど、俺のマクノシタは、元々足腰が安定しているのか、他の奴らよりかは少し綺麗な”山嵐”が出来ていた。
「うーん。じゃあ山嵐は、マクノシタをメインに教えていくか。」
マクノシタ以外の奴らは、勝手に他の技の練習に入ってしまった。
ワカシャモは炎のパンチ
アサナンはワカシャモの指導。
ワンリキーは回し蹴り。
リオルは・・・・・?
「なあ、スモモ。リオルのやってるアレって、なんだ?」
リオルは、膝を曲げて、何やら両手に力を篭めて力んでいる様だ。何度も何度もその動作を繰り返し、リオルは自分の掌を見ながら、首を傾げていた。
「あれは・・・波動弾の練習です。リオルにはまだ、早いと思うんですけど、本人がやる気になっちゃって・・・。」
「波動弾?」
「はい。リオルの種族は、波動という、目に見えない誰しもが持ってるエネルギーを使って戦います。波動を極めれば、自分の身体能力が上がるだけではなく、相手の動きや気配を感じとりやすくなります。」
「波動か・・・。それは、人間にもポケモンにもあるのか?」
「そうですよ。私達は波動という感覚すら掴めませんが、今でも無意識に微量ながら波動を体外へ出しているんです。」
「ふぅん。・・・今リオルがやってるのは・・・波動を集めてるのか?」
「はい。一カ所に集めた波動は、目に見えるくらいにエネルギーが凝縮されて、凄まじい力で相手を攻撃できます。」
目の前のリオルは、何度も試行錯誤しながら、ぜぇぜぇと息を切らしている。
「ちょっと、まだリオルには早いですよね・・・。」
「ま、やる気があるウチに、感覚が掴めればいいじゃねえか。・・・ったく、スモモのポケモンはあんなに頑張ってるのに、ウチの奴らときたら・・・・・。」
俺は、ワカシャモ達の方を見た。
「シャモ!シャモ!」
「リキ!リキ!」
ワカシャモとワンリキーは技の練習に励んでいた・・・・のは建前で、あいつらの側には、ふたりでチャンバラをして遊んでいたという証拠の、竹の棒がコロコロと転がっていた。
「てめぇら!俺の目を盗んで遊んでやがったなあああ!!?」
俺は制裁を下すべく、あいつらに走り寄った!
「シャモ!」
「リキ!」
ワカシャモ達は一目散に退避する。
「逃がすかあああ!」
俺は飛び蹴りをかました!
「リキ!?」
ワンリキーがギリギリ俺の飛び蹴りをかわす!
・・・ドゴッ・・バキバキィ・・!!
「あがっ・・・・・!・・・ッ・・!」
俺の蹴りは勢い余って、木にぶつかった!
「だ!大丈夫ですか先輩!?」
スモモが駆け寄ってきた。
「いったたた!っ畜生・・・いてて。」
やべぇな、完全に右足首イッちまってる。
俺は、蹴りの反動で揺れている木の下に座り、痛む足を確認してみた。
「私、スプレーとってきます!」
スモモは、荷物の置いてある場所へと急いだ。
「・・・シャモ。」
「リキ。」
・・・こいつらも、罪悪感からか、俺の足を心配そうに見ていた。
「・・・いいよ。気にすんな、俺が勝手にケガしたんだしよ。」
俺の右足は、足首は捻ったわけではないが、思い切り木の幹にぶつけたせいで、指が何本か持っていかれてしまった。足の甲にも痛みがひどい。
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他に痛むところはないかと、手で触りながら確認してる時だった。
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ガサガサガサ・・・。
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俺が飛び蹴りした木は、そこまで大きくないが。
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・・・・ヒューーーーー。
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その木の茂みの中に何かが居たなら、きっと蹴りの振動で、落ちてくるだろう。
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・・・・・ズドオォォォン!!
「シャモオオ!?」
「リキーー!?」
突然の地響きに、ワカシャモ達は一歩下がった。
俺は、ふと右を見た。
「・・・・・・・・・・・・。」
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・・・・見なきゃよかった・・・・・。
全身藍色の、太陽に照らされた甲殻。
表面はツルツルしてるくせに、腹部はゴチャゴチャしていて気持ち悪い。
ソイツは、頭から伸びたバカでかいツノを、上げ下げしながら、俺と目を合わせる。
無機質な、ムダに突き出たその目は、ギョロギョロと更に気味悪さをかもしだす。
なんか、そいつの身体中から、カサカサカサカサ不気味な音が聞こえる。
・・・俺の体格の1.5倍はあるだろう、その昆虫は、俺にズシズシと近寄る。
「あ・・・・あ・・・・。」
ワカシャモとワンリキーに助けを求めようとも、恐怖のあまり声が出ない。
そいつは、俺の目と鼻の先でピタリと止まった。
「・・・・・・・・?」
バサッ!!
「(ビクッ!!?)」
・・・・すると、背中から羽を広げ、自分の体を更に大きくし、まるでゴチャゴチャした怪物に変形した様。
はっきり言う!!
めっちゃ怖えええええええええええ!!
「ヘラクロオオオオオオオォォォォォォ!!!!」
「ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
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アズサ side out