カイナシティ(続)
スモモ side
私達は、港区の南にある噴水広場に足を運びました。
先程まで晴れ渡っていた青空は嘘のようになくなり、今私達の目の先にある大きな海にのまれるように、綺麗な夕焼けがカイナシティを照らしました。
この潮風の生温い感じや、鼻をさすような磯の香りにも少し慣れてきました。
そういった意味でも、この暑くて温かな街が好きになりそうです。
「綺麗な夕日だな。」
「はい。」
隣に座っているユウキさんが、美しい情景に目を奪われながら言いました。
「スモモちゃんが見た夕焼けの海と、どのくらい綺麗?」
「そうですね・・・、やっぱり、私がみた景色の方が、ずっと綺麗で、雄大でした。」
「・・・・・綺麗だな・・。」
ユウキさんがはかなげに言いました。
噴水から飛び散る水しぶきや濃霧が、冷たくて気持ちいいです。
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その時、私のポケナビが鳴りました。
「あ、ちょっと待ってくださいね。」
私はユウキさんに断りを言い、噴水から離れてポケナビの通話ボタンを押しました。
「はい。もしも 『まだか。』
・・・先輩の声です。な、なんか怒ってますよね?
「え、えっと、『まだ』とは?」
『さっさと告りな。ビシッと決めろ、今。』
「ええええ!!?」
先輩!そ、それ本気なんですか!?
すっかり私忘れてましたけど、本当にしないとダメなんですかあああ!!?
『スモモの想いをズバッと言ってやれ!』
「言ってやれじゃないです!というか先輩!前から思ってたんですけど、絶対どこからか見てますよね!私達を!」
『それが?』
・・・悪びれもなく言う先輩に、私はガックリとうなだれました。
『スモモ。『真剣勝負』なんだろ。なら締めはきちんとしとけ。格闘家なんだろ?・・・・・俺は先にポケモンセンターで待ってるぜ、じゃあな。』
そういうと、先輩との通話は終わってしまいました。
・・・噴水の近くにいるユウキさんは、私を待って座っています。
夕日は既に沈み、オレンジの空が映えわたり、次第に青くなるのも時間の問題です。
私は、緊張が高まり、心臓の音が速くなりました。自分の胸を何度も押さえます。
「(・・・ぅう・・どうしましょう・・・。)」
ユウキさんに告白する。
そう考えただけで頭が真っ白になります。
でも、告白しないと考えれば、なんだか胸の中がモヤモヤしそうです。
・・・こんな感じは昨日まではありませんでした。
ユウキさんを知ったのは、カナズミシティに着いた時です。
始めは、先輩のお兄さんだと知り、あまり似てないなと思いました。
でも、私にポケナビをくれた気遣いや、ポケモンに対する優しさ。血は繋がっていなくとも、なんだか先輩に似ていると思いました。
そして、私の中で、いい人だなと思うようになりました・・・。
・・・今日成り行きで、ユウキさんとふたりきりで過ごしましたけど・・・。
私は、今まで知らなかったユウキさんを知ったような感覚、ポケモンが本当に大好きなユウキさん、その為ならあとみずかえらないユウキさん、笑顔が眩しいユウキさん。
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・・・・・私は、ユウキさんが好きです。
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『真剣勝負』。
恋も、『真剣勝負』です!
私は口を固く紡ぎ、目を燦然(さんぜん)とさせ、心を意気づけて、決心します!
私は、ユウキさんの所へ向かいました。
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ユウキ side
「あ、誰からだった?」
「えと、先輩からです。ポケモンセンターで待ってるから、戻ってこいと。」
「ったく、アズサのヤツ。・・・悪いなスモモちゃん。俺なんかと時間過ごさせて。」
「いえ!そんなことありません!私は楽しかったですし・・、その・・・、ユ、ユウキさんと一緒に回れて・・・//。」
「・・・・そか、俺も楽しかったぜ。でも役不足だったろ、俺じゃあ?」
「クス、そんなことありませんよ。」
「なーんか中傷的だな、その言い方。」
「あははは。」
・・・・・アズサのバカのせいで、スモモちゃんとデートしちまったけど。
本当に楽しかったな・・・。
だって、スモモちゃんって可愛いし、気遣いもきくし、謙虚だし、しっかりしてるし、なんか俺みたいなヤツだと勿体ないよな。
フランクフルト焼いてたオッサンが『彼女』なんか言うから、つい意識しちまったけどよ・・・。
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ガチでスモモちゃん、『彼女』でもいいよ。マジで。
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ま、そんな事になりゃ、アズサにぶち殺されるわな・・・。
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スモモ side
・・・トク・・・トク・・・トク・・・!
「(・・今しか、ありません・・・!)」
いざいうとなると、身体が硬直してしまいます。
目の前にユウキさんがいるんです。その人に想いを伝える。それだけで・・・胸がちぎれそうです・・!
・・・しかし、私は格闘家!甘えは許されません!許されるのは普通の女の子だけです!
私は、息を吸い、試合前のような感覚を思いだしながら、言葉を発しました!
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「あ、あの!ユウキさん!」
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「え?」
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ユウキさんが見つめてきます。
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「・・・///ぅ///・・ぁ///・・その・・/////。」
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脳が溶けそうです。思考回路が音をたてて煙を出しているような感じです。
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「どしたの?」
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ユウキさんが言っていますよ。
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はい。
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私は、ユウキさんの事、始めは『いい人』という印象を抱いていました。
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しかし今日、ユウキさんと一緒に過ごし、あの時、本当のユウキさんを見つけました。
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「わ///・・・・・私・・・・/////!!」
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貴方が傷付いたマッスグマさんを発見し、私の言葉も聞かないで、必死にマッスグマさんを助けようとしていましたね。
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私は、心の中で窮屈な感情を抱きました。
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怒りでもなく、羨ましいとも言い難く。
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マッスグマさんに対する嫉妬でした。
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なんでポケモンにと、言うかもしれません。
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でも、私はそんなユウキさんを一部始終見てしまいましたから。
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ポケモンを、本当に『愛』しているユウキさんを。
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「わ・・・・私を・・・・!!!」
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ずるいです。寂しいです。
・・・私にも、その温もりが欲しくなりそうです・・・!!
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「わたしを・・・・!・・・・貴方のポケモンにしてくださいっっっ!!!!」
「へ!?」
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アズサ side
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「伝わるかああああぁぁぁぁああああ!!!!」
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ユウキ side
「へ、えと、ポケモン?え、どゆこと?」
「ふぇ////い、いえ、あの、その・・・・・・わ、忘れて下さぃ・・・・。」
なんだったんだろ、『ポケモンにしてくれ』?
どういう意味だ?
目の前ではスモモちゃんが、意気消沈としていた。
・・・・・・あ!まずい!
「あ、スモモちゃん。俺、そろそろ行かないと・・・!」
カイナシティの北の道路で、バトルの約束してたっけ。
「あ、はい。・・・その、今日はありがとうございました・・・。」
しおらしく頭を下げたスモモちゃんが、小さな声でそういった。
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アズサ side
ダメだコイツら!!
間違いなく破局するぞ!!?
うがああぁぁああ!!
見ててイライラするぅーーー!!
スモモはヘタレだし、ユウキはトンマだし、もうどうでもいいわ!!
クッソ!腹が立ってきた!
「ワカシャモ!出てこい!」
俺はワカシャモを繰り出した。
「シャモ?」
「おい、あそこに唐変木がいるだろ。アイツの首元あるよな、火の粉ぶちまけろ!ばれないようにだ!」
俺達は、建物に身を隠し、ユウキのアホとオタンコナスの弟子までの距離15m。ワカシャモに火の粉で命中させるように命じた。
なんでもいい!とにかくアイツら、ひっぱたいてやりてぇ!!
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ユウキ side
「じゃあね、スモモちゃん!」
「は、はい。」
俺は急いで、トレーナーとの約束場所へ向かおうといきり立つ所だった。
噴水の広場にいるスモモちゃんから目線を外し、後ろへ振り返ろうとする寸前の出来事だった。
この摩訶不思議な現象は、一生俺の脳裏に謎として刻まれるだろう。
そして、この瞬間の出来事を、一生忘れられないだろう・・・。
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ジュッ!
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「!!!?・・・・・っっっ熱!!!!」
首だ!後頭部だ!
凄まじく熱いモノが当たった!
衝撃がプラスでついてきた!!?
俺は前のめりで押された!!
えっと、理科で習ったよな、熱いモンが身体に当たると、脳の命令に関係なく無意識に動くアレ!「反射」だ!思いだした!
そして熱っっっちぃぃぃぃぃぃ!!
あまりの熱さに顔をしかめた!
全神経が首の後ろに集中する!
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だから、俺は今の現状に気づかなかった。
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「ユ!・・ユウキ・・さん・・//!」
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首がだいぶ冷めて、冷静さを取り戻して気づいた。
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俺は、スモモちゃんを、ガッチリとホールドアップしていた。
しかも、抱き着くとかいうレベルではなく、密着状態。
俺の顔のすぐ下には、スモモちゃんのピンクの髪があり、俺の鼻先に当たっている。
左手でスモモちゃんの右腕を封じ込めるように、肩から背中へ強く抱きしめ、右手でスモモちゃんの左手を動けなくしたように二の腕から腰回りへと離さないように抱きしめていた。
互いの身体といえる部分は全て密着し、スモモちゃんの胸やお腹、腰や太もも、強引に押し付けるような状態で立ち尽くしていた。
「な///////!!?ご、ごめん!スモモちゃん!今どくから!!」
どっからどうみても俺から抱き着いてきたようなこの態勢。
お互いに立ち尽くしたまま抱きつくだけで済んだものの、もしスモモちゃんが地面に倒れていれば、間違いなく俺はブタ箱行きだ。・・・そのまえにアズサに殺される。
俺は腕を解いて離れようとした。
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「・・・・え・・・・・・。」
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・・・ギュッ・・・・・。
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俺は顔を下へと向けた。
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顔を真っ黒にしたスモモちゃんが、その表情を隠すように、俺の胸に強く埋めていた。
そして、俺の腰回りから感じる温かな感覚。
スモモちゃんの腕が強く絡みついていた。
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「・・・・・スモモ・・ちゃん・・・?」
・・・どういうことだ。
俺が腕を離して、土下座して謝ればいい話だったんじゃないのか?
改めてスモモちゃんの表情を伺った。
「(・・・震えてる・・?)」
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「・・・・・・・ぃ。」
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小さな声が響く。
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「え、もう一回言って。」
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耳を傾けた。今度は聞き逃さないように。
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「・・・もうすこし、このままでいてください・・・・・・。」
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俺がスモモちゃんと初めて会ったのは、カナズミシティだったっけ。
アズサを見つけて、その後ろに可愛いピンクの子がいたから、誰かと思えば、アズサの弟子だと言った。
・・・あの時はビビッたな、流石に。
生意気にアズサがダチ作ってやがった。
しかも、アズサには勿体ないくらいのいい子だった。礼儀正しいし、真剣だし、真面目だし。
俺は確かに善意でポケナビを渡した。
そしたら。
『・・・ユウキさんって、優しいんですね。』
その笑顔が見たくて、俺は街でアズサ達を待っていたのかもしれない。
『・・・お前、・・・スモモに惚れたろ?』
・・・アズサ、お前は超能力者か何かか?
惚れたは言い過ぎな気がするけど、・・・守ってやりたいなと、そう思っただけだ。
今日、カイナシティでスモモちゃんとデートした。
アズサには悪いけど、俺、ますますスモモちゃんが愛しくなった。
・・・・・アズサにはお見通しだろうな。
ま、俺には甲斐性ねぇよ。
だって、デートの最中、スモモちゃんを2回もほっぽいてポケモン助けにいくようなバカだぜ?
スモモちゃんも呆れるに決まってる。
・・・結局、この恋は片想いだ。
それで踏ん切りをつけたつもりだった。
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そしてもう一度、顔を見下げた。
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あのスモモちゃんが、俺に抱き着いている。
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髪から伝わる甘美な香り。男の汗とは違った、甘酸っぱい発汗のにおいは、モモの様でクセになりそうだ。
けして大きくはないが、確かに発達している胸が俺の身体に押し付ける。
鍛練によって精練されたしなやかな腰回り。
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そして、惚けたように瞳をトロンとさせながら、頬を上気させる彼女の表情。
決して誰にも見せないような顔。
例えアズサにも見せた事のない色っぽい仕種。
・・・誰にも見せたくなかった。
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ガバッ・・・・!
「ふぇ・・!?」
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俺は力一杯抱きしめた。
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「好きだ。」
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俺は言った。
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「・・・スモモ・・・好きだ。」
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呼び捨てにして言った。本心を伝えた。
例えこの後殴られようが、泣かれようが、アズサに食われようが、俺は後悔しねぇ。
ただ、目の前の愛しい少女を、ひとりの女として、愛したい一心で抱きしめた。
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スモモ side
・・・・・・・・・・へ・・・。
・・・・い・・・・・・今・・。
ユ、ユ、ユユユユユウキさんが。
『好きだ』って・・・・・・・。
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ユウキさんの表情は見えません。私の視界のすぐ横には、ユウキさんの横顔があります。ユウキさんの重みが左肩から伝わります。
・・・ユウキさんの想いが。
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「あ!あの!ユウキさん!」
私はユウキさんを引き離します。
「ぅわ!え!ご、ごめん!スモモち 「私!ユウキさんの事が好きです!よろしければ私と・・・付き合ってください!!」
ガバッと頭を下げました!
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静かな沈黙が続きます。
私は恐る恐る顔を上げました。
ユウキさんの表情を確認します。
・・・・ぁ・・。
はにかんだようなユウキさんは、私の目を見つめて言いました。
「こっちの台詞だぜ。」
そして、今度は優しく抱き着かれました。
さっきの強い抱きしめよりも、いたわりや優しさが凄く伝わり、思わず涙が出ました。
「(・・・・よかった・・。)」
私はユウキさんの胸に頬を当てます。
心臓の音は相変わらず速いですが、さっきよりも何だかくすぐったい感じです。
なんだか、とっても安心しました。
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その後、噴水広場にいた周りの人達に一部始終見られたのに気づき、二人して顔を赤らめました・・・。しばらく、周りの囃し立てる声や口笛の音が止まなかったです・・・・・///////。
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アズサ side
・・・・・・・・・。
ガガーー。
自動ドアが開いた。
「あ・・ただいま帰りました。」
スモモが帰ってきた。
俺は待合室のフロアのソファで迎えてやった。
「・・・よぉ、どうだった・・・って、その顔みりゃ聞くまでもねぇか。」
弟子の顔は、いつも通りの晴々した感じから、少し恥じらいを覚えたような、大人っぽい感じになって戻ってきていた。
「あ、今日は、いろいろとありがとうございました。」
弟子が言った。
「やかましい。リア充共が。」
俺は蹴りをやった。
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「で?」
「はい?」
「・・・・ボソボソ(どこまでやった?)」
「へ?ど、どこまで・・とは?」
「まぁ、お前は奥手な性格だからな。よくても舌は入れたんだろうな?」
「した・・し、し、舌?ど、どういう意味ですか?」
「はぁ!!?告白が成功すりゃ、キスしてディープ入れ込んで服脱いで愛撫して○○すんだろ!?」
「な//////!!?そ、す、しょんな事しましぇんよ///////!!っていうか、○○って何ですか!?」
「嘘つけ!俺はてっきりホテルでも泊まるかと思ったら・・・。」
「ホ・・ホホホホテル/////!?」
「てめぇ、告白の後はどうした!?」
「ええ!?えっと、ポケナビの電話番号交換して、次会う約束して、帰りまし 「アホかあああぁぁ!!?」
「ア!アホって何ですか!?普通ですよ!」
「異常だバカ!キスひとつ出来ねぇで何が告白だ!笑わせんな!」
「キスなんて恥ずかしくて出来ません///!」
「・・・ち、まあいい。ユウキとはこれからもイチャイチャできるんだしよ。
(・・・俺がイロイロ教えてやるか・・・・・貞潔バカな弟子をよりよい女にしてやるのが師匠の務めだしな・・・)」
「(・・・なんか、嫌な予感が。)・・・・わ、私はちょっと、お手洗いに。」
ガシッ
「奇遇だな、俺もトイレ行こうと思ってたんだ。」
「ふぇえ!?ちょ、せ、先輩?目が怖いです!」
「せっかくユウキの彼女になったんだしよぉ。イロイロと教えてやるぜ、人生の先輩がなぁ。」
「いいです!結構です!」
「遠慮すんな、便所入ったら奥の個室へ行きな。幸いタップリ時間はあるしなぁ。」
「ぃ・・・い、いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」