カイナシティ
・・・・・結局、あまり眠れませんでした。朝の日差しが窓から差し込みます。
私は布団を頭から被り、じっとしていました。
すると、向かいの先輩のベッドから声が聞こえます。
「んじゃあ、時間はあるんだよな?」
・・・寝ぼけた声で先輩が話します。誰かと電話してるんでしょうか?
「・・・ああ、たまにはいいじゃねぇか。・・・・祭があるらしいしよ。」
・・・・祭?
「ん・・・んじゃあ、昼にフリーマーケット広場だな。・・・ああ。じゃあなユウキ。」
・・・・へ、ユウキさんにかけて・・?
先輩が布団から声を発します!
「スモモ!アポはとった!あとはお前次第だ!」
・・・・・え、ええ、ええええええええ!!!
ほ、ホントにやるんですかーーーー!!?
私はガバッと布団を払いのけて、先輩の方を向きました!
「なんだ、起きてたのか。」
「起きてましたよ!・・・って、えっと、先輩?」
「ん?」
「・・・昨夜言った事・・・・・冗談ですよね?」
・・・先輩が、私の肩をポンと叩きました。
「・・・根性見せてや 「無理ですーーーーーーーー///////!!」
「心配すんな!俺とスモモとユウキ三人で回るってユウキに言ってんだしよ。別にデートとか口出ししてねぇ。」
当たり前です!!!
「あ!」
私はこの場を回避する方法を思いつきます。
「・・・先輩、私達は格闘家ですよ。武の道を志す者、日頃の鍛練無くして、祭に行くなんて考えられません!」
私は凛と見繕いつつ、ベッドから降りた時でした・・・・。
・・・・ズキ!!
「きゃああああああああ!!?」
「ほぉ?全身筋肉痛の上に鍛練を重ねるのか。見事な武道精神だなぁ。」
ニヤニヤと先輩が見下ろしてきます。
床に足をつけた瞬間、ふくらはぎが、ももが、膝が、足首が、腹筋が、すべての筋肉が痛みを発し、私は床に倒れました。
「いたたたたたたたた!!」
「鍛練したいなら付き合うぜ?」
・・・・・・この身体で鍛練したら間違いなく死にます・・・。
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正午。
私と先輩は、ポケモンセンターを出て右を曲がり、道路を進みます。
だんだんと人が多くなってくると、広場が見えました。
ビニールシートやテントを敷いて、商品を並べている人、それを買いに来る人が沢山いました。
私と先輩は、ユウキさんを待ちます。
「・・・・・(はぁ・・。)」
私は聞こえないようにため息をつきます。
「おーい、待たして悪いな!」
人混みの方からユウキさんがやってきました。
「んで、アズサ。なんの冗談だ?いきなり祭でも回ろうとかよ。」
怪訝そうにユウキさんが言います。
「るせぇ。たまにはいいだろうが、兄妹プラス弟子でのんびりするのも。」
先輩も口を尖らせて言いました。
「修業は休みか?」
「今日は超回復の日だ。身体の節々が痛ぇ。」
「無理すんなよ・・。」
ユウキさんが苦笑いしました。
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私達は3人で色んな出店を回ります。ぬいぐるみや人形、マットやカーペット等、部屋の模様替えにうってつけの品が勢揃いしています。
・・・私には縁がなさそうです。ウチはそんなもの買える余裕はありません。買ってくれもしませんから・・・。
さりげなく父を恨みました。
「ん?スモモちゃん。」
「はい。」
ユウキさんが私に話しかけました。
「アズサは?」
へ?
私は、辺りを見回してみます。
・・・先輩がいなくなりました。
周りはごった返す人で埋め尽くされています。
「げ、まさか逸れた系か?」
ユウキさんが呆れた顔をしました。
・・・・プルルルル・・!
すると、ユウキさんのポケットから着信音が聞こえます。
ユウキさんはポケットからポケナビを取り出しました。
「あ、アズサからだ。」
ユウキさんは通話ボタンを押します。
「おい、今どこだ?・・・・・・・はぁ!ハルカと出くわした!?・・・・・捕まって動けねぇ?・・・どうすんだよ。・・・・・・・・・・二人で回ってろって・・・ああ・・・・・ああ・・・・・・・ったく、早く戻って来いよ。・・・・・ん。」
・・・・・・・・・先輩。
・・・・・冷や冷やするくらいベタすぎませんか!!?ユウキさん、絶対バレますって!!?
「あ、スモモちゃん。アズサから。」
ユウキさんが通話中のポケナビを渡してくれました。
「あ、ありがとうございます。・・・・・はい。」
私はポケナビを耳に当てました。
『・・・場は設けたからな。グッジョブ。』
「えええ!?せ、先輩!早いです!早すぎですよ!」
チラチラとユウキさんを伺いながら、口に手を当てて通話します。顔が紅いのを悟られませんように・・・。
『何言ってやがる。俺がいても無粋ってモンだろ。』
「そういうやり取りが無粋なような気がしますけど!?」
『・・・まあ楽しんできな。ユウキは・・・ホントにいいヤツだぜ。肩の力抜いてよ、せいぜい仲良くやりな。』
「もぅ・・・。わかりました・・・。」
『それから・・・ちゃんと告れよ。』
「えええ!?」
『恋も真剣勝負。・・・じゃな。』
「ちょっ・・!」
プツッと音を立てて、ポケナビに通話終了の文字が画面に浮かびます。私はその画面をじっと見つめていました。
私はユウキさんにポケナビを返しました。
「・・・しょうがねーなアズサのヤロー。・・・取り敢えず、回ろうか?」
「あ、はい!」
先輩の思惑通り、私とユウキさんで、出店を回る事になりました・・・。
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ユウキ side
「よっ、そこの若いカップル!フランクフルト買ってよ!」
フランクフルトの屋台から、金髪の若々しい青年が俺達に声をかけた。
「カ、カップル!?」
「そうそう、アンタ達二人。」
『今が安し!お二人で二本で200円!』と板に書かれたロゴが立てかけてある。
「じゃあ二つ下さい!」
「あいよ!今日は彼女とデートかい?」
「えぇっと・・。」
KYな屋台の青年の発言にしどろもどろしてしまう。スモモちゃんの方を見ると、顔を紅くして小さく俯いていた。その仕草が可愛らしく想う。
俺は金を払ってフランクフルトを2つ受け取り、スモモちゃんに1つ渡した。
「あ!す、すみません!ご馳走になります!」
スモモちゃんは頭を下げて、フランクフルトにかぶりついた。
俺達は食べながら歩く。
「ったく、さっきのおっさん。きっと二人組なら誰でもカップルって言ってそうだぜ。」
「あはは、そうですね。そもそも私、こんな格好ですから、全然似つかわしくないですよ。」
スモモちゃんは苦笑いする。青のノースリーブに白いジャージのような道着のズボン、靴をはかずに裸足で歩く格好は、まさしく格闘家を印象付ける。
でも、どこか夏らしく、スポーティな格好は、俺は全然気にならない。むしろ、開放感があって好きだ。
「そう?俺は好きだけどな、そういったシンプルな服。」
「え・・・。あ、りがとうございます。嬉しいです・・。」
スモモちゃんは少しはにかんだ。
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「ユウキさんは、どうしてポケモントレーナーになったんですか?」
スモモちゃんが聞いてきた。
ある程度出店を見て回った俺達は、休憩所の日陰のあるベンチに座っていた。
「俺?そうだな、やっぱりポケモンが好きだからだな。俺結構、小さい頃から野性のポケモンと遊んでいたし。・・・ポケモンって、ただの動物じゃねえしな。ポケモンには心があるんだ。お互いが心の底から理解しあえば、必ず絆が生まれる。俺は、そんな仲間をたくさんつくりたいんだ。
・・・まあ、俺の父さんが、ホウエンでジムリーダーやってるんだ。父さんの影響も大きかったかな?バトルも好きになった。
・・・・・そういうスモモちゃんはどうなんだ?」
「えっと・・・、私は、成り行きで始めた武道がきっかけなんですけど、試合で勝ったり負けたりするうちに、格闘は自分にとって楽しくて、大切な存在になりました。・・・それで、格闘家になって、日々の鍛練で身につく力を、人の為、ポケモンの為に役立てたくて、ポケモントレーナーも両立させたんです。」
「へぇ、凄いじゃんか!アズサから聞いたけど、ジムリーダー候補なんだって?」
「はい。ジムリーダーになるには、まだ実務経験が足りなくて。」
「へへへ、大丈夫さ、スモモちゃんなら絶対なれるさ。いつか、俺もシンオウに旅に出ようかな。そしたらスモモちゃんとバトルする事があるかもな?」
「あははは、そうかもしれませんね。」
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フリーマーケットの広場を抜けて、出店の続く歩道を歩きつづける。
・・・それにしても遅ぇな、アズサのヤツ。
俺はふと出店と出店の間から見える海を見た。高い太陽から照らされた海が、ギラギラとまばゆく光る。
・・・・・あれ?
俺は、その海を凝視してよくみた。
「・・?・・・ユウキさん?」
俺は立ち止まり、スモモちゃんが俺の行動を不思議に思う。
「・・・・・・・あれは・・・!」
俺は走りだした!歩道からはずれて、出店の間を突っ切る。ガスボンベとかあったけど飛び越えて、その先の海水浴場へと走り出す!
後ろからスモモちゃんが大声で叫んでいるけど聞こえない!
石段を降り、砂を蹴り、ひたすらと速度を上げて海を目指す。海水浴場は、現在祭が行われていて、だれも客ひとり、人ひとりいない。
俺は、波打際に来た!
「・・・・・・ラクライだ!」
目の前の海面で溺れているラクライが、必死に手足をばたつかせている!でも、どこか怪我をしているのか、泳げないのか、だんだんと水中に身を沈めてしまう!
「・・・ち!」
俺は上着を脱いで、海へ飛び込んだ!
.
.
ジャブジャブと、浅くなった海辺を歩いて、砂浜に戻る。腕に衰弱したラクライを抱いて・・・。
「ユウキさーん!大丈夫ですかー!」
砂浜でスモモちゃんが待っていた。・・・追いかけてくれたのか・・・。
「ゲホッ、ゴホッ、だ、大丈夫、ラクライは生きてた。」
スモモちゃんが心配そうに俺を見据えた。
「(・・・あ、俺に対して言ったのか。)」
フッと自笑した。
腕に抱いているラクライは、辛うじて息をしているものの、顔色が青く、身体が冷たく、ブルブルと震えていた。
ラクライの身体には、鉤爪の痕のような傷があった。
「・・・鳥ポケモンに襲われて、海に落とされたんでしょうか?」
スモモちゃんが言った。
「何にしても、ポケモンセンターに連れていかなきゃ。」
俺は走り出すが、足がほつれて動けない。
「私に任せてください!」
スモモちゃんが、ラクライを渡すように言う。
「スモモちゃんが?」
「私、足には自信があります!」
・・・確か、スモモちゃんはきつい鍛練のあとで全身筋肉痛のはず・・。でも、スモモちゃんの目は熱意が篭っていた。
「・・・頼むよ、出来るだけ、速く。」
俺はスモモちゃんにラクライを托した。
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スモモ side
熱く照らされたアスファルトの舗装道路。足の裏がとてつもなく熱いです。
私はユウキさんから托されたラクライを抱き、ポケモンセンターを目指しますが・・・!
「あた、あたたた・・・!」
走る度に身体中に激痛が走り、足がとうとう止まってしまいます。痛む足を引きずりながら、普段歩くペースよりも遅滞した遅さで歩く私が許せなく、何度も勇もうと足を進めます。
・・・ユウキさんは、ポケモンの為に躊躇いもなく海に飛び込んでラクライを助けました。
意地っ張りだといって貰っても結構です!ラクライを助けたいのは私も一緒ですが、それ以上にユウキさんの力になりたいと、心の底から想うようになりました!
痛む足で走る私は、はたから見れば、ケガ人や老人のようです。
私は歯を食いしばり、筋肉痛に負けないよいに力を振り絞りました。
・・・しかし、ポケモンセンターに着くまで距離が半分もあります、限界が訪れた時でした・・・。
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「・・・・かせ。」
すると、目の前に人が現れました。
「・・・せんぱい?」
「貸せ。」
私の腕にいるラクライを寄越すように言う先輩。
「で、でも。」
私の代わりに行ってくれるのでしょうか・・・?
しかし、先輩に手を煩わせるわけにいかないという理性が働きます。
「師匠命令だ。」
・・・私はラクライを渡します。
「ほら。」
先輩が、私にバスタオルを渡してくれました・・?
「さっさと戻って安心させてやれ。」
そういって先輩は、ラクライを抱えてポケモンセンターまで走っていきました。その姿はどこか痛々しくも、かっこいい後ろ姿でした。
・・・・・っていうか、先輩、明らかにこっちの事情知ってるって事は、ずっと見ていたって事ですよね・・・。
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私は踵を返して、海水浴場へ向かいます。すると、港町と砂浜の境の石段のところに、ユウキさんがいました。
「あ!スモモちゃん!?え、えらい速かったな!?」
ユウキさんが驚いた顔でいいました。ユウキさんの服やズボンは海水で濡れていて、髪の毛も湿っていました。
「ユウキさん!これで拭いて下さい!」
私はバスタオルでユウキさんの髪の毛を拭きました。
「あ・・・えと、スモモちゃん?」
「あ、す、すみません・・。自分で拭きますよね・・?」
びしょ濡れのユウキさんを見て、私は直ぐさまバスタオルで拭きましたが、ユウキさんが制止をかけます。途端に、おこがましい自分の態度に嫌気がさします・・。
「いや、スモモちゃんがふいてるの、俺のニット帽・・・。」
「・・・ふぇ!?・・・え、これ地毛じゃあないんですか!?」
「俺は白髪じゃねぇ!!」
ユウキさんがニット帽をとると、黒い髪の毛が。
先輩の髪とは違った、なめらかなショートカットでした。
「・・・・・クス。」
「ハハハハ、白髪だと思ってたのか?」
互いに微笑しあいます。
ユウキさんがバスタオルを手に取りました。
「ラクライは大丈夫だった?」
「あ・・・・はい!」
・・・本当は先輩に全部任せてしましましたけど、一応ユウキさんを安心させる様、嘘をつきます。
「スモモちゃん、サンキュな。」
・・・けど、ユウキさんが私の頭を撫でてくれましたから、役得です・・・♪
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ユウキ side
俺はスモモちゃんからバスタオルで、海水を拭いた。・・・本当に気の利くいい子だよな・・・スモモちゃん。
俺達は、海水浴場を後にして、再び祭のエリアに足を運んだ。
さっきよりかは、客足も減って、歩きやすくなったかな。俺達は散歩気分で歩き続ける。
「あれは何でしょう?」
「ん。あれは博物館だな。」
スモモちゃんが、右手にある大きな建物に目を奪われる。そこには、俺は一回入った事がある。クスノキ館長を尋ねて、デボンの資料を渡しに行った時、途中でマグマ団の襲撃にあった。・・・あの時はドタバタしていて、あまりゆっくり見学できなかったからなぁ・・・。
スモモちゃんが、手を後ろに組みながら、博物館の外観を見続けた。
「入ってみようぜ。」
「あ、はい!」
俺はスモモちゃんと博物館に入った。
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「お一人様50円になります。」
「え、有料なんですか?」
スモモちゃんがたじろぐ。俺は、受付に100円を出した。
「す、すみませんユウキさん・・。」
「いいって、遠慮しないでさ。」
俺達は博物館を巡りながら、ブースを楽しんだ。
「(・・・つーか、アズサ何してやがんだよ。スモモちゃんを一人にして。・・・ていうか、スモモちゃんと二人で出店回ったり、博物館回ったりって、これって完全にデートだよな・・・。・・・やば、意識したら緊張してきた!)」
俺は自分の頬を抓(つね)る。
.
『海の水はどうしてしょっぱいのか?………海の水は、山から川へ、川から海へと流れて運ばれます。その際に塩分を含んだミネラルが、河の岩礁や岩に蓄わえられており(塩化カリウム、塩化ナトリウム等)、激しい水流によって岩が削られ、水中に塩分が溶け込む事で、海の水がしょっぱくなります。』
『海の水はどうして青いのか?………よく、海の水が青いのは空の色が映えているからという見解がありますが間違いです。太陽光線は水滴などにぶつかると分離して、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の七色の虹となり色別に見えます。海中に太陽光線が入ると、青以外の色は吸収されてしまい、青い光だけが海中に浮遊する微粒子に当たって跳ね返るため、青く見えるのです。 』
.
「海って、不思議がいっぱいなんですね。」
スモモが関心したように資料を読んでいた。
「ユウキさん、夕焼けの海を見たことありますか?」
スモモちゃんが溌剌と聞いてきた。
「夕焼けの海?うん、あるよ。」
「私が見たのは、きれいな水平線に沈む太陽が、オレンジ色に海を染めているような、広大で幻想的な海原だったんです。この資料には、夕焼け色は海に反射されないと書いてありますけど、私は綺麗な橙色の海を見たんです・・・。」
最近か昔かは解らないけど、そう語るスモモちゃんからは、幻想や理想を想う無邪気な表情と、自然の美しさを唯一知っているような孤高な雅さが感じとれた。
「・・・俺も見てみたいな。」
「見せてあげたいです・・・。」
俺は、そういうスモモちゃんの優美さに、少し言葉が詰まった。
スモモちゃんは、顔を紅くしていた。
「(・・・ホントに可愛いよなぁ。)」
.
.
俺達は博物館を出た。
「そういえばユウキさん。お届けものは無事に渡せれましたか?」
スモモちゃんが言った。
きっと、デボンの資料の事だろう。
「ああ。無事に渡せる事ができたよ。」
「クス、よかったですね。妨害とかがあると聞いてきたので、少し心配だったんですよ?」
「ああ、マグマ団だな。どうやらあいつら、資料に書いてある、潜水艦の設計図を狙ってたらしいんだ。・・・マグマ団は、世界中の陸地を増やそうとしてるらしい。・・・確かに、陸ができれば、陸上の人間は住む場所も増えるし、便利になる。だけど、それだと海に住む生き物がたくさん苦しむ羽目になる。」
俺は、博物館にいたマグマ団のリーダーの顔を回顧した。
『人間が生きていく為に、素晴らしい事じゃないか。なぜ邪魔をするのかね。』
「俺は・・・そんな身勝手な理由で、ポケモンを悪用したり、海に住むポケモン達を苦しめたくない。・・・あいつらを許す訳にはいかねぇ。」
俺は顔を渋めた。
.
スモモ side
そう語るユウキさんの表情は、決意と葛藤が浮き出ていました。
・・・私もユウキさんの考えに同意できます。
でも、ユウキさんはきっと、今でも会話にでてきたマグマ団という人達。その人達に関わるポケモンを痛ましく思っている。そんな顔をしていました。
ユウキさんは優しい人です。
・・・ひとりで、私達の見えない所で、悩みながら戦っていたんでしょうか。
淋しげな、ひとりよがりなユウキさんの面影を見て、私の胸が高鳴りました・・・。
.
・・・力になってあげたい。
.
「・・・・・あれは!」
すると、ユウキさんが走り出しました!
って、またですか!?
私はユウキさんの後を追いかけます!
カーブした歩道を走り、行き止まりに差し掛かり、民家と民家の間の狭い路地に来ました。
ユウキさんが、暗くて狭い路地を見ながら、しゃがんで背中を向けていました。
「ユウキさん?」
私は声をかけました。
「・・・・・・ひどい。」
「へ?」
私は、ユウキさんの頭上から顔を覗かせ、影になっている路地を見ました。
「あ!」
そこには、傷を受けたマッスグマが、横たわっていました。あちこち血みどろで、爪が割れ、毛皮が裂け、目が片方ありませんでした。
そしてその満身創痍のマッスグマの首には、首輪がついていました。
「・・・野性のポケモン・・・じゃないんですか?」
・・・首輪がついているという事は、トレーナーのポケモンでしょう。・・・でも酷いです、誰がこんな事を。
「速く、ポケモンセンターに連れていこう!」
ユウキさんがそういいながら、倒れているマッスグマに手を伸ばした時でした。
マッスグマの波乗り!
バッシャアアアァァァン!
「うわぁっ!」
「きゃあ!?」
マッスグマが突然起き上がり、私達を攻撃しました!
口から水を生成し、その水を膨張させて勢いよく私達に放ちました。
私は受け身を取りましたが、ユウキさんは腰をうったみたいです。
「大丈夫ですか!ユウキさん!」
「っつ、だ、大丈夫だ。怖くねぇよ。」
・・・こわくない?
・・・・・ひょっとして、マッスグマに言っているのでしょうか?
「ガルルルルル!」
マッスグマは、折れたキバで威嚇し、身体を路地の影に埋めています。
「人間を警戒しています。(トレーナーに、酷い事をされたんでしょうか?)」
マッスグマは、射殺すような目つきで睨みつけています。
「・・・ポケモンセンターには連れていけねぇな。」
「え?」
そういうと、ユウキさんはしゃがみながら、マッスグマに近寄りました。
「ガアアアアア!!」
大きく吠えています!
「あ、危ないですよ!ユウキさん!」
私は制止をかけました!
「大丈夫だ。俺は何もしないよ。傷を治してやりたいんだ。」
ユウキさんを背中越しに見ていた私は、ユウキの表情がよく見えません。
・・・ひょっとして、あのマッスグマと和解をしようと・・・?
「ガアアアアア!!」
マッスグマがユウキさんに突っ込みました!
ガッ・・!ブシュ・・!
ユウキさんの肩に噛み付いたマッスグマのキバが、ユウキの服から鮮血を出します!
「うっ・・!」
ユウキさんが、痛みを堪えながら、そのままマッスグマを抱きしめました。
「ユウキさん!!?」
さらにマッスグマが顎に力をいれます!
・・・ブシュ・・!
また血が噴きだします・・・!
それでも、ユウキさんは決してマッスグマを離しませんでした。
「ユウキさん!!危ないですよ!!」
感極まった私は叫び声を上げました。
「大丈夫!・・・だいじょうぶ・・だから・・な。」
・・・きっと、その『大丈夫』は、私に向けられた言葉ではない事は解ります。
必死にマッスグマをおだてているユウキさんに、私は軽い嫉妬を覚えました。
興奮していたマッスグマは、未だに噛みつき続けています。
「・・・ほらな、・・・こわくねぇだろ、・・・今すぐ助けてやるからな・・・安心しろ・・・。」
「・・・・・・・。」
・・・・マッスグマがキバを離し、倒れるようにユウキさんに寄り掛かりました。
きっと、体力に限界が来ていたんでしょう・・・。
ユウキさんが鞄から傷薬を出しました。
そして、丁寧に倒れたマッスグマを治療していきます。
.
「・・・グマ?」
マッスグマが目を覚ましました。
「・・・・・大丈夫か?」
ユウキさんがしゃがみながらマッスグマに優しく聞きます。
「・・・・・。」
マッスグマは、少し後ずさりながらも、目線をユウキさんに向けています。
「・・・マッスグマ、俺についてこいよ。」
ユウキさんが、ポケットからボールを出しました。
ビクッと、マッスグマが怯えたような気がしました。
「・・・お前を守ってやる。絶対見放したりしねぇ。・・・だから・・・信じてついて来てくれるか?」
ユウキさんがニッコリと笑みを浮かべました。
「・・・・・・・。」
そしてマッスグマはゆっくりと、足を進めて。
「・・・・・グマ。」
ユウキさんの手に収まるように、頭を撫でられました。
.
.
.
マッスグマをゲットしたユウキさんが、立ち上がるのを私は制しました。
「へ?・・どうしたの?」
「座ってください。」
私はきつく言い放ちます。
「座る?なんで 「座ってください。」
私の出す圧倒感に耐え切れなくなったユウキさんは、恐る恐る座りました。
私は続けていいました。
「上着をとってください。」
「はい。」
まるで逆らう事を悪手に思ったユウキさんは、トレーナーを脱ぎました。
ユウキさんの黒い半袖Tシャツの右肩部分に、小さな穴が二つありました。
「脱いで下さい。」
「はい。」
ユウキさんがTシャツを脱ぎ、背中と肩があらわになります。その右肩には、大きな黒い斑点が2つついていて、こびりついた血液が、まるで狙撃されたように右肩中に広まっていました。
「ユウキさん、救急道具お借りします。」
「はい。」
私はユウキさんの鞄から、ガーゼ、消毒液、ハサミ、包帯を出しました。
ガーゼに消毒液をつけ、血で汚れた背中や右肩をふいて、綺麗にしていきます。そして、血でこびりついた黒い瘡蓋(かさぶた)が残りました。
私は、ユウキさんの右肩の瘡蓋をハサミで軽くはぎました。
「っ痛!」
ユウキさんが身じろぎます。
「じっとしてて下さい。」
「・・・はい。」
制止させたユウキさんの肩から、二つの血液が流れています。
・・・チュ・・チュルルル。
私はそれを確認すると、その流れ口を、自分の口で吸い上げました。
「ぃいい!?」
ユウキさんがビックリしたように身体が跳ねました。
私は咥内に溜まった血を、地面に吐き捨て、後から溢れる血が鮮血かどうか確かめます。
「雑菌が入ったら、大変ですから。」
私はガーゼに消毒液をつけ、傷口を消毒し、綺麗に丁寧に包帯を巻きました。
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「いいですよ。」
私は救急道具を片付け、ユウキさんはシャツとトレーナーを着ました。
「えと、ありがとうな。」
ユウキさんが鼻をすすりながら、お礼を言いました。
「・・・ユウキさんって、無茶する人なんですね。」
私は呆れたように言いました。
「えっと、その・・・。」
紅くなった顔で、ユウキさんは頭をかきました。
「クス、でもよかったですね。マッスグマさん、懐いてくれて。」
私は笑いました。
「へへっ・・・!」
ユウキさんもつられるように笑いました。
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アズサ side
スモモのヤロ〜〜!
ユウキ裸にしといて何も無しかよ!
背後から襲うなり何なりしやがれ!
・・・ったく、おもしろくねぇな!
・・・・つーか、あの口から吸ってペッて吐くヤツ、蛇に噛まれた時の処方だろうが。
・・・・・狙ってたのか、スモモ。
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ユウキ side
気づいたら、既に夕方になっていた。
そろそろ腹が減ってきた。
「何か食べようか?」
「あ、はい。・・・でも私持ち合わせがなくて・・・。」
「気にすんなよ。俺が出すからさ。」
「あ、ありがとうございます!すみません、後日きちんと返しますから。」
「おいおい、そんなのいいからさ、俺にカッコつけさせてくれって。」
ユウキさんは苦笑しました。
「す、すみません。何から何まで。ご馳走になります。」
俺達は、近くのレストランに入った。
そこはバイキングで、魚介類が多めの食べ物が多かった。
俺達はトレイに皿を乗せ、好きなだけメシをついで、適当な机に座った。
「あれ、スモモちゃん。意外に少食だね。」
「え、そ、そうですか?」
「いや、アズサから聞いた話だと、スモモちゃんは育ち盛りだから結構食べるってきいたからさ。」
「ええぇ!?そ、そんなことないですよ!(先輩ーーー!何話してるんですかーーー!あ、まさか、ユウキさん私に気を遣ってバイキングに・・//////・・・い、あ、危なかったです。危うく普段のようにたくさんよそおう所でした・・。)」
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アズサ side
ぶざけんな!スモモのヤローーー!
俺の時だけバカみたいに食って、ユウキの前だと一丁前に色目つかいやがって!
ああもうわかった、スモモは完全なスケベだな。スケベ、決定。
・・・ち、ユウキに余計な事話しちまったぜ。
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