ポケモン世界を歩こう3
カナズミシティ〜ムロタウン

カナズミシティ ポケモンセンター

ザーザーと雨の降る暑い夜。

俺達は、宿泊施設の自室で、タウンマップを広げて話をする。

「ふわあ、ホウエンって島が多いんですね。」

「・・・さて、ここから近いのは、トンネルを抜けてシダケタウンを抜けてキンセツへ行くか、それとも南下してムロへ行くか。」

「でも、ムロって陸からじゃ行けませんよ?」

そう、ユウキはムロへ行くと言っていた。どうやって海を渡ったのだろうか?

「聞いてみるか。」

俺はポケナビを取り出し、ユウキにかけた。

・・・しばらくしてユウキが出た。

『もしもし?アズサか?』

「おお、ユウキ。今どのへんだ?」

『へ、ムロだけど?』

「ムロだけどって、どうやって行ったんだよ。」

『ああ、そういう事か。お前らもムロに行くんだったらさ・・・って、ムロに行きたいのか?』

「そーだよ、ジムが近いんだ。そこが。」

『・・・・お、おお!てことは!?』

「ゲットしたぜ!」

『やるじゃんか!スモモちゃんも?』

「はい!私もです!」

スモモが通話に割り込む。

『あ、スモモちゃん!元気してる?』

「はい、元気です!」

「・・・で、お前はどうやってムロに行ったんだよ?」

『あのよ、104番道路に海辺があるだろ?』

ああ、あの鍛練してた砂浜んとこか?

『そこにひとつだけ家が建ってなかったか?』

「・・あ〜、あったような、なかったような。」

『そこにハギ老人っていう漁師がいるから、その人に頼めば漁船出してくれるぜ。』

「ハギ老人?なんだ、ユウキ知り合いか?」
『知り合いっつーか、ちょっと旅先で仲良くなってな。お前らの事も話してあるからよ、俺の名前だしたら、ムロに連れてってくれるよう頼んどいたからな。』

「おお、気が利くな。スモモも礼言っとけ。」

「ユウキさん、ありがとうございます!」

『え、あ、いいよ。たいしたこ  プツン

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俺はポケナビの通話を切り、床のマットに放りなげた。

「・・せ、先輩?・・まだユウキさん、話し中でしたけど・・。」

「電池がもったいないからな。」

「あ、あははは・・。」

「でも、これで次の行き先は決まりだな。」
明日、ムロタウンへ向けて出発しよう。

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翌朝は雨が止んだが、曇り空で若干薄暗い。辺りには水溜まりが目だって多い。

俺達は毎朝5時に起きて鍛練を行う。

今日みたいに雨がふれば、室内で筋トレを中心的に行うが、曇りだから、ランニングを行う。

俺とスモモとワカシャモ達が、列をつくってカナズミの街を走りまわる。まだ人がいない時間帯だから、開放感があっていい。

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1時間くらい走ってポケモンセンターに帰り、ストレッチを行う。

「・・・なあ、スモモ。」

「はい。」

「お前、いつも裸足だな?道路濡れてたから、足がびしゃびしゃだぜ?」

そう、コイツは常に至るところで裸足でいる。鍛練の時でも、寝るときでも。さすがに公共の場では、スリッパくらいは履くが。

「そうですね、昔から裸足でいることが多かったので、慣れてしまいました。」

「・・・変なヤツだと思われるぜ?」

「そ、そういう先輩だって、ジャージに草履じゃないですか!?」

ポケモンセンターのフロアで伸脚や屈伸をして、身体をほぐしながら、スモモと俺は雑談していた。

「お前よりマシだよ。っつーか、裸足で走って痛くねぇのか?」

「あ、はい。全然平気です。」

マジか・・?
俺はスモモの足の裏を触った。

「・・・?・・あれ、ガチガチしてるかと思ったけど、そうでもない・・・。」

例えるなら・・・タイヤ?
超反発マットみたいに、フニフニしてるし、張りもある。

「ち、ちょっと先輩・・、く、くすぐったいです・・!」

「くすぐったい?皮膚の感覚はあるのか?地面を歩いても痛くないくせに、コイツ〜。」

「きゃーーー!?せ、先輩!?だ、だめです!やっ、あっはははははは!!」

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後で聞いた話だと、シンオウでスモモは、雪道を裸足で歩いていたという。

・・・・・何を目指してんだ、コイツ。

足の裏真拳でも究めてんのか?

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その後、ハギ老人の家を目指して出発する。

トウカの森を抜けて、104番道路に出た時は、すでに夕方になっていた。

海が見えはじめたとき、ユウキの言っていた古びた民家を見つけた。桟橋があり、漁船が海に浮いていた。

「あれっぽいな。いくぞ、足ドロドロスモモ。」

「・・・は、はい。」

・・・まあ、雨上がりに森を裸足であるけば、そうなるわな。スモモの足はぬかるんだ泥にまみれて汚れていた。

.

民家の入口の前に来た。

戸は開いているようだったので、覗いてみた。

「ごめんくださ・・・・。」

挨拶しながら家の中を見回すと・・・・・・。

言葉を失うくらいの、ショッキングな光景を目にした。

「先輩?誰かいました?」

スモモが気にかける。

・・・いるには・・・いるんだが・・。

「・・・・・・・・・。」

俺は目をゴシゴシと擦り、もう一度玄関から、家の中を覗く。

昔の家の間を連想させるような、石づくりの広い下足場。そして一面の畳。その中央にある囲炉裏。

・・・その囲炉裏の側にいたのは。

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「お〜よしよしよしよし。ピーコちゃんピーコちゃん、いいこじゃいいこじゃ〜。よ〜しよしよしよしよし。」

.

・・・キャモメにジジイがベッタベタと愛玩していた。

「・・・さて、帰るか。」

「ええ!?ど、どうしたんですか?」

「・・・・・ここにはハギさんはいない。いるのは○ツゴロウさんだった。」

「へ?・・・み、見せてください。」

スモモは、玄関に近寄り、顔を覗かせてみた。

.

「あははは〜、まてまてピーコちゃーん!あははは、コイツ〜。」

.

「・・・め、メルヘンチックじゃないですか、とても。きっとあの人がハギさんですよ。」

「何かいやだ!アイツ!」

「ごめんくださーーい!」

スモモが声を張る。

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「・・・ほう。君がユウキくんの妹さんか?話は聞いとるよ。ワシでよければ船を出してやるぞ。」

ハギさんの家に上がり、俺はムロタウンへの航行を、おこがましいと感じつつも頼み込んだら、ユウキの妹だと教えたらすぐにOKを頂いた。

「ありがとうございます。」

「ふむ。じゃが今日はもう遅い。ここで泊まっていきなさい。」

俺達は、ハギさんのご厚意に甘えることにした。

夕飯をご馳走になりながら、ハギさんがユウキの話をしてくれた。

「ワシがカナズミにいたときに、ワシのピーコちゃんが、マグマ団という男に盗まれたんじゃ。そのマグマ団を退場して、ピーコちゃんを助けてくれたのが、ユウキくんだったんじゃよ。」

誇らしげに語るハギさん。

困った人やポケモンをほっとけないのが、アイツの性分だからな・・・。俺もそうだけど。

「すごいですね、ユウキさんって。」

「キャモー!」

俺達は、囲炉裏を囲んで、メザシとごはんとみそ汁、漬物を食べている。

・・・スモモの頭の上には、ピーコちゃんが羽を休めるように乗っていた。

「キャモキャモー!」

コン!コン!

「いたたた!ピ、ピーコさん!痛いです!」
スモモの頭をクチバシで何度もつつくピーコちゃん。

「お前の頭がエサだと思ってんだろ。」

「ええ!?」

「ワシのピーコちゃんの好物は、モモンの実じゃ。」

「はははははは!気に入られたみたいだな」!スモモ!」

「うう〜、キャモメやペリッパーはもういいですよ〜。」

「キャモ?」

ピーコちゃんは、寝るときもスモモの頭の上に居着いていたらしい。よっぽどスモモの頭が気に入ったみたいだな。

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翌日。

早朝から船を出してもらい、俺達は海に出た。

だいたい30分くらいだろうか?

朝もやの中から、島がハッキリと見えてきた。

あれがムロタウンだな。

船は速度を上げ、島に向かってぐんぐんと近づいていく。

・・・船がないヤツは、どうやって行くんだろうな。やっぱりポケモンに乗って海の上を渡るんだろうか?

じゃあ、水ポケモンは必須になるのか?いや、波乗りを覚える格闘ポケモンを捕まえればいいのか。まあ、まだ先の話だな。

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「ほい、到着じゃ。」

「ありがとうございました。」

ムロタウンの桟橋に着き、船からおりた。
ハギさんにきっきりとお礼を言う。

「キャモ!キャモ!」

「ピ、ピーコさん!残念ですけどお別れです!」

頭からピーコちゃんを引き離そうとするスモモ。それを拒むピーコちゃん。

「ピーコちゃん。こっちに来なさい。」

ハギさんが言うとはじめてスモモから離れるピーコちゃん。

「はあ、やっと解放されました・・。」

「ははは、じゃあ行くか。ハギさん、ありがとうございました!またお願いします!」
いきしでもお世話になるからな。ムロの次はカイナシティに行くように言付けてある。

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ムロタウンのポケモンセンターについた。

大きな島に見えるが、街は小さく、道に迷うことは滅多にない。島民の民家にポケモンセンター、ジム、集会場と、建物の数がえらい少ない。

カナズミとのギャップが激しかった。

でも、自然が多いからいいよなあ、この街は。

ポケモンセンターに入る。

・・・あ。

「お!?」

「あ!ユウキさん!」

・・・ユウキを発見。回復を待ってるんだろうか、ソファに座っていた。

「よぉ!もう来たのか!?」

「ついさっきな。っていうか、遭遇率ハンパないな、俺達。」

「ハギさんに連れてきて貰いました!」

「ハギさんに会えたか?」

「はい!」

ユウキが言い、スモモが答える。

「ホントに人助けが好きだな、お前。」

「え?ああ、ホントは別に用事があってな。そこへ、ハギさんがポケモンを盗まれたっていうから、取り返しただけさ。」

「ふうん、ま、お前がハギさんと会わなきゃ、俺達はここにこれなかったしな。」

「いいって。それより、見てくれよ。」

ユウキはバッジケースからバッジを出す。

「2個目だ。」

「いちいち自慢すんな。」

「おお!ユウキさん凄いです!」

「褒めてくれるのはスモモちゃんくらいだよ。ありがとう・・。」

ユウキは鼻を啜る。

「そういやユウキ、お前が退治したマグマ団って、何だ?」

「俺も詳しい事は知らねぇ。けど気をつけたほうがいいぜ。あいつら、ポケモンを悪いことに使ってる。・・・デボンコーポレーションの資料を狙って、襲撃してきた時があってな。

大事な資料が奪われて、取り返して欲しいって頼まれたから、やっつけて取り返したんだ。

その資料、カイナに届ける大事なものらしいんだけど、デボンの社員だと、道中マグマ団がまた襲うかもしれねぇから、俺が渡してきてあげる事にしたんだ。」

ユウキが鞄から、茶封筒のようなモノを出す。

「・・・お前、いいようにコキ遣われてるだけだろ?」

「ちげーよ!善意でやってんの!」

ユウキが茶封筒をしまう。

「でも、なかなか出来ないですよ。人の為になるって素敵ですね、ユウキさん。」

スモモが羨望の眼差しを送る。

「・・褒めてくれるのはスモモちゃんくらいだよ。ウチの妹と代わってくれないか?」
「えぇ!?・・ええっと・・・。」

ドグシャ・・!

「ぐふ・・。」

俺はユウキの腹に蹴りを入れた。

「俺の弟子に干渉すんじゃねぇ。」

「・・もうやだ、こんな妹。」

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ユウキはカイナシティへ急ぐようで、預けたポケモンを受け取ると、俺達と別れた。

「・・・さて、俺達は鍛練を・・ん?」

ソファが視界に入る。そこには、モンスターボールがひとつ落ちていた。ユウキが落としたのだろう。

「あんのバカ。・・・スモモ!ダッシュであいつに届けろ!」

「は、はい!」

スモモはモンスターボールを手に取り、ポケモンセンターを出た。

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スモモ side

えっと、カイナに行くと言ってましたから・・・桟橋でしょうか?

私は足を速めて桟橋を目指します。

少し湿った砂が足に纏わり付きます。けどもう慣れっこです!

数分して、ユウキさんが桟橋にいました。ハギさんも一緒です!

「ユウキさ〜ん!」

「・・・ん?ありゃ?どうしたんだ、スモモちゃん!?」

よかったです。まだ出港してなかったみたいですね。

「ユウキさん!コレ、ソファの上に落ちてました!」

私は、ひとつのモンスターボールをユウキさんに差し出しました。

ユウキさんが目を丸くしました。

「・・・え!ウッソ!?」

ユウキさんが手で、パッパと身体をまさぐりました。

「・・・は、よ、よかった〜〜〜!!」

安堵した表情でユウキさんは、力が抜けたように手を膝に着きました。

「クス、間に合ってよかったですね。」

ユウキさんが安心したのを見て、思わず私も笑顔になりました。

「本ッッッ当にサンキューな、スモモちゃん!は〜、よかった〜。」

ユウキさんにボールを渡しました。

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「このベルト(モンスターボールを取り付ける専用のベルト)、安物だからな。新しいベルトに変えるか・・・。

わざわざ走って届けてくれなくても、電話すればコッチから行くのに。」

「・・・あ。」

・・・ほ、ホントですよ!
もう、先輩が急いで届けろっていうから・・。

「でも嬉しいぜ。ありがとな。」

「ふぁっ!?」

ワシャワシャとユウキさんが、私の頭を撫でます。

・・・・恥ずかしいですけど・・・・走って届けた甲斐がありました、えへへ♪

「危うく、野良ポケモンにさせるところだったよ。出てこいハスボー!」

ユウキさんがボールから、ハスボーを出しました。

「ハスッ!」

ハスボーさんが怒っています。置いていかれたからでしょうか?

「ハスボー、悪かった!次からは気をつけるからな!」

「・・・・・・ハス!」

・・・許してくれたみたいです。

ユウキさんがハスボーを抱きかかえました。

ポケモンが本当に大好きなのが、手にとるようにわかります。

「・・・クス。そっくりです。」

「え?なにが?」

ユウキさんは首を傾げました。

「先輩とユウキさんですよ。しゃべり方もですけど、雰囲気や、接し方も。・・・似ていますね。」

最初は、全然似ていないと思っていたのに、今ではアズサ先輩とユウキさんがかぶって見えました。

「げ・・・!ス、スモモちゃんもエグい事言うなあ。冗談きついよ。」

「えへへ、でもホントですよ?」

「どのへんが?」

「ポケモンを大事に想ってる所や、あとは・・・・・・・・前向きで素直な所・・・でしょうか。」

「う〜ん、・・たしかに、似てるかな?・・・まあアズサは素直じゃないだろ?どっちかと言うと捻くれてる。」

「あははは!そうですね。」

・・・でも先輩は、本当に素直な人なんですよ。少し照れてるだけなんです。だからきっと、ユウキさんの前では、威勢がいいんでしょうね。

.

「ユウキくん!船の準備ができたぞ!」

あ!ハギさんが船から顔を出しました。

「キャモーーー!」

「きゃっ!?こ、こらー!離れなさい!」

ま、またピーコさんは、私の頭に乗りかかります。

「ありゃ、スモモちゃん。ユウキくんの見送りか?」

ハギさんが言いました。

「えっと・・、はい!ユウキさんの荷物を届けにきたついでですけど・・。」

「キャモ!」

ピ、ピーコさん。下りてくださいよ〜!
ユウキさんの目の前で恥ずかしいです〜!

「ははは、スモモちゃんもポケモンに好かれてるじゃんか。」

「うぅ〜。そう見えます?」

ユウキさんが笑みを見せます。

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「・・・じゃ、そろそろ行こうかな?」

ユウキさんがハスボーさんをボールに戻しました。

「キャモ!」

ピーコさんが、ハギさんの元へ戻りました。・・・ひょっとして、私達がムロを出るときでも、ピーコさんの羽休めにされるんじゃ・・・・・。

「スモモちゃん、ありがとな。礼といっちゃナンだけど、これをあげるよ。」

ユウキさんがポケットから、チリンチリンと綺麗な音を奏でながら、水色の鈴を取り出しました。

「かいがらの鈴っていうんだ。ホウエンの海の浅瀬でしか採れない素材で出来てるんだ。」

ユウキさんが指で弾いて音を鳴らします。

・・・・チリ・・・リン・・・・。

「・・・海の音がします。綺麗ですね!」

「スモモちゃんにあげるよ。これは、ポケモンに持たせても効果があるんだ。きっとバトルで役に立つはずだよ。」

ユウキさんから鈴をプレゼントしてくれました。

「うわあ・・。いいんですか!?こんな素敵な鈴を頂いて!?」

「いいさ。っていうか、鈴でそこまで喜ぶ?」

「はい!だって私、プレゼントなんて初めて貰いました!ありがとうございます!」

ユウキさんから貰った、海の光を帯びた小さな鈴を、丁寧に下道着の右腰に着けました。

「えへへへ♪」

ジャンプしてチリンと鳴らしてみます。

「似合うよ、スモモちゃん。」

ユウキさんが言いました。

.

・・・・・・・・・・・あれ?

.

男の人からプレゼント→すぐに身につける→『似合うよ』

.

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「・・・・・・(ボン!)////////・・!」
.

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「じゃあな、スモモちゃん!修業、頑張れよ!」

「ひゃ、ひゃい!」

ユウキさんは、ハギさんの船に乗り、曇り空の下、海へと出ていきました。

.

・・・はぁ。
さっきから身体が熱いです・・。

湿った温い風が、海から桟橋へと吹き付けます。

・・・チリン・・チリン・・・・。

腰につけた鈴が、私の身体をたたきます。

・・・本当に、人から貰ったのは初めてなんですよ、ユウキさん・・。

ウチは事情が事情ですから、誕生日だってプレゼントはありませんでしたし・・・。

・・・しかも男の方から・・・・・・。

わたしは、胸につかえたモヤモヤする気持ちを吐き出すように、海に向かって大声を出しました。

「・・・・・・もお!ユウキさんが『似合う』なんて言うからですよ〜!」

「何がだ?」

「ひゃああああ!!?せ、せせせ先輩!!?」

い、いつからいたんですか!?い、いつの間に私の背後にいたんでしょうか!?

「ユウキが何か言ったのか?」

先輩が聞いてきます。

「ふぇ!?い、いいえ!何も!」

「・・・随分と帰りが遅かったな。」

・・・先輩、怒ってます?

「す、すみません!ユウキさんと話をしていて、長くなりました!」

「ほお?鍛練の時間割いてまで、楽しそうにおしゃべりか〜。」

ガシッと、先輩が私の肩を片手で掴み、強靭(な)圧力がかかります。い、痛いです、露骨に・・・。

「・・・・・しっかしよ〜、綺麗な鈴だな〜。男から貰って嬉しいか?すんげーニヤニヤしてるぜ?。」

先輩が、私の腰につけてある鈴を見ていいました。

・・・・へ?
まさか、え、えぇ!?
先輩、見てたんですかーーー!?

「ニ、ニヤニヤなんかしてません!」

「貰ったのは否定しねーのか。」

あ・・・・・。

先輩が、からかうように聞いてきました。

ダ、ダメです、恥ずかしすぎます!!

私は俯きました。

「はははは、最初は5パーだったのが、今じゃ50パーだぜ?」

・・・・だから何なんですか〜、そのパーセンテージは・・?

「・・・・・・・スモモ。」

「・・はい?」

先輩がポンと、背中をたたきます。

「・・・・・お前もすみにおけねーな。」

そう言うと先輩は、先に行ってしまいました。

「・・・へ、・・あ、あの・・・、・・・・ちょ・・!ち、違います!そんなんじゃありませーーーん!!」

走って先輩を追いかけますが、その度にユウキさんの鈴がチリチリと鳴りました。

あぅ〜、こんなときに鳴らなくていいです〜!

.

.

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アズサ side

ははは、ユウキのボールは、俺が引っぺがしたんだよ。

そして時間を見計らってスモモに届けに行かせる。

成り行きでアイツラを二人きりにさせる。

隠れて様子を見てたが・・・、
なんだ、満更でもねーな、二人共。

くーっ、俺って気が回るよなーー!

今後これでスモモを弄っていこう。

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.

正午。

新たな地、ムロタウンでの鍛練を始めた。

「よし!始めるぞ!移動動作!追い突き!」「押忍ッ!」
「シャモ!」
「リキ!」
「アサー!」
「リオ!」

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町外れには、広い砂浜が陸を被っている。砂の上での鍛練が主流になってきている気がするが、実際いい鍛練になる。

「次!二人組になれ!流舞をやるぞ!」

流舞とは、二人組になり、片方が一連の攻撃動作をゆっくりと行い、もう片方がその動きに合わせて防御を行い、これを交代しながら永遠と繰り返す鍛練である。

スローペースな動作をする事で、自分自身の形を正しく意識でき、闘いの流れを新たに掴めるようになる事が利点である。

俺とスモモ。ワカシャモとリオル。ワンリキーとアサナンで組になり、ビデオのスロー再生を見ているかのような速さでゆっくりと、打ち込みやガードを繰り返す。

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「ようし!次は今のを踏まえて、実戦だ!」
俺は、砂に線を引き、一辺8mの正方形を描いた。

「この正方形から出ないように、今から一対一で一本取りを行う!
突き技が決まれば一点、蹴り技が決まればニ点、投げ技が決まれば三点だ!
ただし、反則や場外はマイナス一点だ!
計6点とれた方の勝ちだ!
負けたら罰だからな!」

俺は描いた区画に足を入れた。

「よっしゃ、来いスモモ!」

「はい!お願いします!」

まず、俺とスモモが試合を行う。

審判は、ワカシャモだ。

姿勢を正し、互いに向き合って、左手の掌底に右拳を添え、試合前の一礼をした。

「・・・・・・シャモ!」

ワカシャモが開始の合図をかけた!

「ぉらあ!!」

俺から仕掛ける!

正面から攻めると見せかけ、右へ右へとスモモにプレッシャーをかけながら、相手の構えを崩していった。

牽制の突きや蹴りが互いに応酬するが、じりじりと間合いをスモモから奪っていく。スモモを角へ追い詰めた!

「腕冠(わんかん)!」

スモモに潜りこむように突きを出す!

当然スモモはガードしたが、何分後ろは場外だ。後ろへ吹き飛ばされるスモモ。

「シャモ!」

スモモは場外を取られた。

この試合は、片方がポイントをとれば、そこで一度止めをかけ、開始線に戻る。

「今度はこちらから行きます!」

スモモが開始線に立ち、左右に身体を振りながら、俺に突っ込む。

俺は素早いスモモの左右の動きに捕われる事なく、膝を落として迎撃に備える。

「せいやああ!」

スモモの前蹴りが迫る!

俺は避ける事もさばく事もせずに、スモモに突っ込んだ!

ドサッ!

「くっ・・!」

怯んだスモモに対して、顎に突きを入れた!

「シャモー!」

まず、俺が一点。0−1。

開始線に戻る。この開始線は、相手との距離が4mほどだ。

再び構えをとる。

「いくぜ!」

点を取ったが、まだ勢いが死なないうちに仕掛けた!

「十手(じって)!」

パシパシと、スモモの前拳を牽制する。

スモモは隙を見て、高速の突きを繰り出す。

もちろん、この時も蹴りの警戒を忘れない。

少しずつスモモとの間合いを詰めていく!

三回場外にすれば反則負けで勝つからな。

再び角に追い詰めた。

「(・・・流石に同じ技は使えないか、直蹴りの態勢をとってやがる。・・・なら・・!)」

俺は少し左側に寄れ、スモモに逃げ道をつくった。

「・・・。」

「(誘いに乗らねぇな・・・?)」

角に追い詰められたスモモは、カウンター狙いで俺を警戒し、スモモから見て俺が右側へ移動し、左側が空いた事を気にもしない。

「(・・・何をする気だ?)」

思いきって、足を一瞬だけ上げて、フェイントをしてみた。

ブォン・・!

うぉ!?あ、危ねぇ!!
危うく合わされるトコだった・・!

俺は後退し、スモモは角から逃げる。

・・・逃がすかよ!

「燕飛(えんぴ)!!」

横回し蹴りを、スモモの進行方向から遮るように、スピードをつけて蹴りつける!

ブンッ・・!

な!?み、見切られた!?

「せいや!!」

ズガァン!!

「・・・ぐ・・が・・・!?」

一瞬、目の前が真っ暗になった。

そして、身体が砂の上に崩れ落ちる。

「シャモ!!」

俺は何とか立ち上がり、目を開けるが、如何せんまだグワングワンと衝撃が残っている、視界が定まらない。

スモモの背面裏回し蹴りが決まり、3−1。スモモのリード!(攻撃して相手がダウンすれば、転倒プラス一点になる。今のは蹴りで俺が倒されたから、スモモに3点入った。)


・・・俺の燕飛を屈んでかわした瞬間、そのまま低い姿勢で俺の横を通り過ぎると見せかけ、死角から背面裏回し蹴りを当てやがった・・・・・!

開始線に立つ。くそ、今のダメージで前が見えねぇ。

「せいやああああ!」

スモモが仕掛けてきた!

ズババババババ!

突きと蹴りのコンビネーションが炸裂する。本来なら後退するが、目が見えないから対応できねぇ!

思いきって迎え打った!

「足刀!!」

バキィ・・!!

スモモの突きが俺の顎に入る!

「シャモ!」

ちくしょー、アッチの方が速かったか、同時に見えたんだがなあ・・・。

これで4−1。

スモモは蹴りひとつで勝利だ。

互いに開始線に立つ。コートの端で、ワンリキーやリオル達が声援を送る。

「先輩!勝たせて貰います!」

スモモが突撃してきた!追い突きか!?

左にかわす俺。・・・だいぶ視力が治ってきた。

スモモは俺に反撃を与えない様に、突きや蹴りを繰り出す!

じりじりと後退するうちに、角に追い詰められた!

もう接近はさせねぇぜ、蹴りをひとつでも食らえば俺はアウトだ。

スモモが、ゆっくりと、両拳を、俺の顔面へと突き出す。

・・・・バレバレなんだ、よッ!!

俺はわざと場外に出た!

ブォン!!

俺の視界を遮り、下から蹴りで攻めてきた!間一髪避けれたがな・・・。

「シャモ!」

俺は場外を取られた。

今は4−1。俺が勝つにはあと5点要る。

お互いに開始線に立ち、構える。

・・・スモモも慎重になったか?攻めを止めたな・・。

・・・・・・スモモはあと2点。俺は5点。

・・・俺を愚弄する気か?弟子の癖に生意気なヤツめ・・・。

・・・そろそろ、先輩らしいトコ、見せてやるか・・・・・!

俺は膝を曲げる。両手をダラリと下ろした。

「!?」

スモモが目を見開く。まあ、構えを解いたら、誰だってビビるわな。

・・・・・スモモの対応は・・・なしか。警戒してやがるな、俺の突然の行動に。

・・・まあいいや、そうしてくれた方がやりやすい。

俺は軽く息を吐いた。

「・・・・慈恩(ジオン)。」

バキィイイイ!!

「・・・!?・・くっ・・!」

スモモは倒れた。

「・・・シャ!?・・シ、シャモー!」

審判まで取り乱してやがる。

まあ、この技はお披露目初公開だかんなあ。

俺に入った点は・・・3点だ。4−4。追いついたぜ。

スモモが顔をしかめながら立ち上がる。

「どうしたスモモ?ただの蹴りだぜ?」

「くっ・・。(・・・反応できなかった?・・・いえ、何かあるはずです!・・・でないと、あんな普通の蹴りを食らうはずありません・・!)」

スモモと俺は再び開始線に。

俺はまた両手を下げた。

「う・・。」

・・・へへ、苦手意識してやがるな。

「(・・・あんなに隙だらけなのに・・・・、なぜでしょうか?なんかこう・・・見透かされてる感じがします・・!)」

スモモが構えを鋭くする。

慈恩(ジオン)・・・・・構えを解き、膝を曲げ、相手を視察する。

相手の構えから、相手の視線、意識、呼吸、リズム、立ち位置、準備、気持ち、すべてを視察する。

これにより自分自身に生まれてくるのが、『余裕』だ。

例えるなら、学校の発表会で、人前で立って緊張してるヤツと、自分の席で客観的に傍観するヤツ。俺は後者。

いざ試合で目の前に敵がいれば、自分の力を出すことが精一杯になり、なかなか平常な気持ちでいられないだろう。

だが、コートの外で見ているワンリキー達はどうだろうか?アイツらはきっと、俺達の試合を胡座かきながら、『俺だったらあーするのになー』と呆然と見ているだろう。

慈恩(ジオン)は、その典型だ。

試合中に観戦に徹する。見られるとどうしても人間、平静でいれなくなる。ならば、見る。

構えを崩して、膝を曲げて(次の攻防の準備)、相手が次どの技を出すか?俺がこの技をだせばどう反応するか?間合いを詰めたらどうなるか?相手はリードを奪われてどう想ってるか?

慈恩(ジオン)は、『余裕』を自分の感情に取り入れる為の技であって、攻撃技ではない。

故にスモモは・・・。

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・(このまま攻めて・・いや、何かあります!でもさっきの蹴りもありますし・・でも、相手は手を下げたまま動きません。・・・ど、どうすれば・・・!)」

ペースを奪われていた。

俺は息を吐く。

「(・・・・・・・・・・・前足重心・・・・・今はムリ・・・・・・少し傾いた・・・・・今息を吐いた・・・・・・・次・・・・次・・・・今!!!)」

スモモが息を吸う瞬間!

俺は蹴り足を上げた。

当然スモモは反応できない!

バキィイイイ!!

「きゃあああああ・・・!」

スモモは崩れ落ちた。

「シャモー!!」

4−7。俺の勝ちだ。

俺は倒れたスモモを起こしてやる。

「立てるか?」

「・・・ぐ・・はい。」

少し口を切ってるな・・・。

「一礼だ。」

開始線に立ち、俺とスモモは一礼した。

「ようし!次はお前らだ!今みたいにやるんだぞ!俺が審判する!ただし、特殊攻撃は反則とする!いいか!」

「シャモ!」
「リッキ!」
「アサ!」
「リオー!」

「よっしゃ!最初はワカシャモとリオルからだ!開始線に立て!」

こうして、ムロタウンの砂浜にて、俺達の鍛練の午後は過ぎていった・・・・。

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美容室 ( 2012/04/20(金) 06:49 )