ポケスロン(1)
??? side
「アカンアカンーー!!寝坊してもうたーー!!」
コガネシティの北ゲートを抜けて、そっからまた北へと走る。
まだ朝方とはいえ、夏から結構ムシムシすんな。赤ジャージの内から、若干湿ってきてんのがわかる。
ほんでも走ってかへんとさすがに間に合わへん!
「(今日の午前中のスピード種目の優勝商品は、”ラブラブボール24個”やで!何が何でも手に入れたるーー!)」
朝早いさかい、人気が少ない閑散とした道路を、ウチは息を切らしながら走っていく。
ポケスロン会場まであと少し!
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「おねーさん!ポケモンしょーーぶ!」
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すると、目の前にトレーナーが現れた。
深緑の迷彩ジャケットにミニスカ履いた、割と可愛い女の子が、ウチに向かって指さしとる。
その横には、その子のポケモンやろか、ワニノコとブイゼル、マリルが立っとった。
ウチもトレーナーやから、バトルしたいのはヤマヤマやけど・・・。
「ウチ急いでんねん!カンニンしたってやーー!」
足を止める事なく、ウチはその子の横を通り過ぎた。こんな朝早うから、わざわざご指名して貰うてんのに、申し訳ないと思いながら、ポケスロン会場へ急いだ。
「ねーねーー!どこいくのーー♪」
どわぁ!?
な、なんでついて来るん!?
ウチの真横を並走するその子は、走りながらピッタリとついてきた。しかも、その子のポケモンらも一緒に走っとる!?
「どこって、ポケスロン会場や!」
「ぽけすろん?何それ?」
執拗に話しかけてくるその子は、目をキラキラさせてウチに迫るように聞いてきた。
「ポ、ポケスロンってのはな、その、えと、ポ、ポケモンのスポーツ祭典や!」
は、走りながら話すのしんど!
「ポケモンスポーツ!?面白そ〜〜〜♪アタシもやりた〜〜い♪どこであるの!?いつあるの!?」
その子は顔をニカッと輝かせ、興味津々そうにウチに迫る。な、なんつー落ち着きのない子や・・・。
「あーもー!とにかくウチ急いでんねん!」
「ワニッペ!おやぶん!ゼル!スポーツだって!スポーツ祭典!」
その子は、自分のポケモンらに愉しそうに喋りかけた。
・・・こ、こんな子を天真爛漫ってゆんやろなぁ・・・。
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マツリ side
「おおおおーーー!!おっきーーーい!!」
今朝もおやぶんの課題の『トレーナーとバトル10連勝』をやろうと思ったら、今日はなぜか誰もいなかった。
しばらく待ってたら、ジャージを着たおねーさんが走って来たから、バトルを申し込んだら、断られちった。
すっごい急いでたから、きっとなんか始まるんだと思って、そのおねーさんと一緒に着いて行った。
自然公園に繋がるゲートを西に進むと、だんだんと賑やかになってきた。
大きな競技場!出店がいっぱい!
「ここが、ぽけすろんって所!?」
アタシは、隣で膝に手を置いてぜーぜー言っているおねーさんに聞いてみた。
「せ、せや。・・てか、アンタ、めっちゃスタミナあんな。・・ウチなんかもう、クタクタやで。」
「んー。でもおねーさんの方が、ずっと走ってたよ?」
「あ!そや!受付や!急がな!」
そう言うや否や、おねーさんはダッシュで建物に入って行った。
「けっ、このひとだまり、差し詰め今日は祭行事って所か?どうりで今日は道路にトレーナーがいねぇ訳だぜ。」
おやぶんが腕を組みながら言った。
「ほえ〜。おやぶん、ぽけすろんって何するの?」
「知らねぇ。俺も此処に来んのは初めてだ。」
「ワニ。」
「ブイ、ブイ、ブイ。」
んにゃ?ゼルが何か言ってる?
「おやぶん、ゼルなんて?」
ブイゼルの通訳をしてもらう。
「・・・・・成る程な。・・・ゼルは此処で一度出店をやってたらしい。何でも、トレーナーのポケモンを3匹まで出して、スポーツで競い合う大会行事だそうだ。誰でも参加自由、種目も自分で選べるし、賞品もゲット出来る。・・・昔と比べて、いろんな施設が増えたよなぁ。」
「ほえぇ〜〜。・・・・・よっし!おやぶん!ワニッペ!ゼル!」
「あ”?」
「ワニ・・(やな予感・・。)」
「ブイ。(ウチのリーダーはわかりやすいな・・。)」
「出場するぞーーーーーー!!」
「言うと思った。」
「ワーーニャーー!?(ええーーーいきなりーーー!?)」
「ブイブイ!(ふふ、面白そうだ。私も選手として出てみたかった。)」
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アタシ達は、目の前の建物に入り、受付にやって来た!
「すみませーーーん!水泳競技に参加しまーーす!!」
アタシは手を挙げて受付のおねーさんにハキハキと言った。
「も、申し訳ありません。水泳競技はやってないんです・・・。」
「へ?そーなの?」
「お客様は、新規の方ですか?」
「はい!しんきのかたです!」
「こちらでは、5種目の中からお好きなひとつの種目を選んで頂き、ひとつの種目のうち3つ競技が行われますので、各参加選手のうち、得点が最も高かった選手が優勝できるようになります。・・・今回は、人数が多いので、こちらの種目のみになってしまうのですが・・・。」
受付のおねーさんが、プリントを見せてくれた。
「んにゃ?・・・『パワー種目』に、『スピード種目』?どっちか選べばいいんですか?」
「はい。どちらに参加されますか?」
んーーー。どっちがいいかなーーー。
・・・おやぶんに聞いてみよ。
「おやぶん。水泳競技ないんだってー。」
「ちょっと待て、勝手に話を進めんじゃねぇ。」
「ほぇ?」
おやぶんがしかめっ面で、受付のおねーさんに話しかけた。
「おい、参加対象者はポケモンのみだよな。」
「は、はい。そうです。(わわ、マ、マリルが喋ってる・・・♪)」
「何匹まで参加出来るんだ。」
「規定で、必ず3匹で参加登録をお願いします。」
「・・・・・なんだと・・。」
ワニッペ ←(1匹目)
ゼル ←(2匹目)
おやぶん ←(暫定3匹目)
「マツリ!参加すんなら今すぐ一匹ゲットして来い!」
「いえーーい!おやぶん参加決定ーーー!」
おやぶんが参加すれば、優勝間違いないね♪
「馬鹿野郎!旅の最初に言ったじゃねぇか!俺はバトルに関しては不干渉だとよ!」
「うん!スポーツだからオッケーだね!」
「うぐぐ・・!」
「・・・おやぶん、単にメンドクサイだけだよね。」
「・・・・ち、わーったよ!出りゃいいんだろ、出りゃ!ま、気分転換に体動かすのも悪かねぇ。」
こーして、ワニッペとゼルとおやぶんで選手登録をし、スピード種目に参加する事になった。
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??? side
ふぅ・・・なんとか受付間に合うたわ。
遅刻で受付締め切りなんて、ちゃんちゃら話にならへんからな。
「あーー!おねーさん!」
お、さっきの子や。
手を振りながらウチの方へ駆け寄って来る。
「おねーさんも参加するの!?」
「ははは、おかしな事言うなぁ。その為に此処へ走って来たんやんか。・・・ん?『おねーさんも』ってことは、アンタも参加するん?」
「うん♪『スピード種目』に参加しちった。」
「お!ウチと一緒やな!」
「ホント!?えへへへ♪」
その子は仲間が出来たんか、嬉しそうに顔を綻ばせた。
「アタシ、ワカバタウンから来たマツリ!!おねーさんの名前は?」
「ウチはアカネや!コガネシティ出身やで!」
「ほえ〜。アカネちゃんて、おっぱいおっきいね〜〜!」
「ふぇ!?」
な、何やねん!
お、お世辞でも、嬉しいやないかい・・///
まじまじとマツリは、ウチの美乳を見つめ、羨ましそうに感嘆を漏らした。
「ふふん、せやろ。毎日モーモーミルク飲んどるからな。マツリもええ身体しとるで、年いくつや?」
「もーすぐ14!」
「ほんなら、もうちょいしたら一気にバーンとセクシーに豹変するで。」
「えへへへ♪」
「社交辞令だ、バーカ。」
な!!?
ち、ちょ!空耳かいな!?
ウチは、マツリの足元にいるマリルに釘付けになる。
「な、い、今、あんたのマリル、喋らへんかった!?」
「あ、紹介するね♪アタシのマリル。通称『おやぶん』だよーー。」
そのマリルは、口を尖らせたまま、一向に喋らへん・・・。
「・・・っかしいな、今、喋ったような気ぃしてんけどな・・・。」
「喋るよーー。」
「・・・・・・・。」
・・マツリは喋るゆうし、このマリルは黙りこくったまんまやし、・・・気のせいか。
「ねえねえ!アカネちんはトレーナー?」
マツリが意気揚々と聞いてきた。
「せやで、それもピカイチのや!」
「おーーー、そしたら、後でバトルしよーね♪」
「ええで!ま、その前にポケスロンやな。・・・・・ん?マツリ。」
「ほえ?」
「アンタ、そのカッコで競技でるん?」
「んに?」
マツリのカッコは、ジャケットにカッターシャツ、ミニスカにビーチサンダル。運動する服装とちゃう。
「ダメなんだー?」
「動きやすい服とかないん?アスリート選手なら、それ相応のカッコせな。」
「あるよ!ホラ!」
するとマツリはその場で服を脱ぎだし・・・・て!何しとんアンタ!?
素早く上着を脱ぎ、スカートを外したマツリの姿があらわになる。
「じゃーーーん!」
・・・な、何や、白い水着を予め着といたんか、スレンダーな身体を強調するような、スポーティな純白の水着をマツリは着こなしていた。
「び、びっくりさすなや。公衆の面前で脱ぎだすモンやから、露出狂か思うたで。」
「えへへへ〜〜〜♪」
「褒めてねぇ!」
「はうっ!?」
ま、また喋ったで!?このマリル!?
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「確かにアスリートっぽいけどなぁ、スピード種目は陸上競技がメインやさかい、ジャージの方がええで。」
「そーなんだ?何処かで借りれるかな?」
「向こうの更衣室で、レンタルできる筈やけど。」
「わかった!じゃあ着替えてくるーー♪」
そういうとマツリは、駆け足で更衣室へと向かっていった。
変わった子やなぁ・・・。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
・・・その場に残されたマツリのポケモンを見た。
ワニノコにブイゼル、そしてさっきからメッチャ気になるマリル。
「(マツリのポケモン、えらいタイプ偏ってんな。水ばっかやん。)」
ウチはその内のマリルをじっと見つめた。
「・・・・じーー。(おっかしいなぁ、さっき絶対喋った筈なんやけど。)」
「・・・・(汗)。」
アカネ side out
.
.
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実況『えー、ご来場のみなさん。選手のみなさん。大変ながらくお待たせしました。これより、ポケスロン大会、スピード種目を行います!』
世界のオリンピック競技の舞台を連想させるような広い競技トラックに、巨大な観覧席。
雲ひとつない快晴の空に、花火が数発打ち上がる。
観覧席は観客に埋めつくされ、大盛況だった。
実況『それでは、選手の入場と、選手の紹介を行います!』
パーパパパパパー!
パーパパーパーパーパーパーパパパ!(♪)
軽快な、躍動感溢れる行進曲が会場に流れ、トラックに選手が入場してきた。
実況『エントリーNo.1【タクヤ】選手!出場ポケモンは、スピアー、バタフリー、ストライクとなります!虫と飛行タイプを揃えてきました!』
タクヤ「虫取り大会の前哨戦といくか・・。」
実況『続いてエントリーNo.2【トウドウ】選手!そしてその後ろを歩くのは、バクーダ、コータス、マグカルゴ!おっと、早くも観客からどよめきの声が伺われます、トウドウ選手。炎の重火砲の超ヘビーなポケモンを3体纏めてのエントリー!一体、どのような策があるのでしょうか?』
トウドウ「(・・・・種目まちがえたOrz・・・。)」
実況『そしてエントリーNo.3【マツリ】選手!率いるポケモンは、ワニノコ、ブイゼル、マリルの水パーティ!水タイプの素早さを発揮してもらいたい所!』
マツリ「うっわああああ!人がいっぱああぁぁい!!」
おやぶん「今更キョドってんじゃねえよ。堂々としてろい。」
ワニッペ「ワ・・ニ・・(カチコチカチコチ)。」
ゼル「ブイ・・(ワニッペ、大丈夫か・・?歩く手足が一緒だぞ?)」
実況『そして本日の優勝候補!エントリーNo.4【アカネ】選手の入場です!』
ウワアアアァァァァ!!!
キャーーーーーーー!!!
観客からの歓声が、打って変わってボルゲージアップした。
マツリ「わ!すごーー!」
おやぶん「耳に響くぜ。アイドルじゃあるめぇし。」
実況『コガネジムリーダーのアカネ選手!今日は久々の出場となります!今回のポケモンは、ミルタンク、ブルー、オオタチの三体!アカネ選手は過去における大会の種目において、バランス、ジャンプ、パワー、テクニックを制した四冠!残すスピード種目にて、全種目制覇を成し遂げるのか!?』
アカネ「よっしゃ!!気合い入れてくで!!」
ミルタンク「ンモ〜!」
ブルー「バウ!バウ!」
オオタチ「ッタチ!」
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おやぶん「(・・・あのミーハー、ジムリーダーだったのか。・・・形はどうあれ、真っ先にマツリと戦う事になっちまったな。)」
マツリ「ふえぇ!?アカネちん、ジムリーダーだったんだーーー!?」
マツリは、入場しながら観客に手を振っているアカネを見た。
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ワニッペ side
き、緊張してきた・・・。
この大きなトラックの中で競技すると考えただけで、冷や汗が浮き出てくる。
というか、ただのスポーツなのに、何この観客の数?何で満席なの?何でこんなに盛り上がってるの?っていうか、何で僕選手で出てるんだっけ?
ゼル「・・おいワニッペ、本当に大丈夫か?」
「あ、う、うん。ヘーキデスヨ。」
ゼルが心配してくれた。僕は、表情を顔に表しにくい体質の筈だけど、アガリ症の僕には関係ないか。
実況『さあ、選手が出揃いました。早速第一競技に移ります。【200Mハードル走】です!』
すると、4人の選手とそのポケモンは、トラックの直線コースに案内された。
そこには、各レーンごとに、いくつものハードルが置かれている。
実況『ルールは簡単です!全ポケモンを開始線に立たせ、スタートの合図でゴールまで競走し、速くゴールしたポケモンから得点が追加されます!勿論、上位になればなるほど得点は高く、ビリになればなるほど点数は下がります!・・・ただし今回はハードル走ですので、自分のレーンを阻むハードルをきちんと飛び越えなければなりません。接触や転倒、損壊は減点となりますので注意して下さい!・・・それでは、選手はポケモンを開始線へ並ばせて下さい。』
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僕は開始線の前に立った。
目の前には、白い石灰で描かれた線が、線路の様に2本引かれている。遥か前方には、ゴールテープが小さく見えた。その途中には、10個以上はあるだろうか、大きなハードルが行方を阻んでいた。
「ガチガチガチガチ・・(←自分の歯)」
段々と緊張感が募ってきた。
パコンッ!
「あだっ!?」
誰かが僕の頭を殴った!?あたたた・・。
おやぶん「いきり立ちすぎなんだよ、てめぇはよ。」
「あ、おやぶんさん・・。」
おやぶん「さっきから集合かけてんだよ、来い!」
そう言うと僕は、僕のしっぽを掴んで引きずられながら、連行された・・・。
おやぶん「聞け、お前ら。」
おやぶんにしっぽを離され、おやぶんが注目を集める。
マツリ「どしたのおやぶん?作戦会議?」
ゼル「?」
近くにいたリーダーやゼルが、おやぶんに対して首を傾げる。
僕も、おやぶんさんの話を聞く。
おやぶん「・・・ま、なんだ。楽しくやろーぜ。」
・・・そこには、幼げに無垢に笑うおやぶんさんがいた。
おやぶん「マツリてめー、さっきのミーハーねえちゃんがジムリーダーだと知った途端、ソワソワしてんな?」
マツリ「えへへ、バレた?」
リーダーさんは、頭をかきながら口元を吊り上げた。
おやぶん「俺ぁ確かに、コガネジムに挑む条件として『トレーナーに10連勝しろ』って言った。」
おやぶんさんが皆の顔を見渡した。
そう、僕らがジム戦に挑む条件として、おやぶんさんから僕らに課題を言い渡された。その課題が、なかなかクリア出来ないくらいレベルが高かった。
ここ数日間、コガネシティの近くの道路で、たくさんのトレーナーのポケモンとバトルした。
勝った時もあれば、負けた時もある。まだ旅を初めてソコソコの僕らが、いきなり10連勝しろなんて、出来るわけがなかった。
・・・・・でもウチのリーダーさんは、そんな僕の思い露知らず、『特訓だーー♪』とか言って目茶苦茶に走り回されるんだよね、アハハ・・・・・。
おやぶん「ジム戦に挑む為に強くなるのも大事だがよ、折角こんなイベントもあるんだしよ、楽しまなきゃ損だぜ?」
「・・・・。」
みんな、沈黙したままおやぶんの話を聞いていた。
だって、おやぶんは、普段は凄い荒っぽくて、特にバトルに関するとかなり恐くなる。
けれど、今日は違った。ベテランのポケモンであるおやぶんさんは、僕らから見れば、遥か見上げる高さにいる存在だった。
・・・今日のおやぶんさん、なんか、すごい馴染みやすいな。
ゼル「ふふ、どうしたんだおやぶん。今日は上機嫌だな。」
ゼルも僕と大体おんなじ考えみたいだ。
おやぶん「るせぇな、そりゃこれがポケモンバトルの試合なら叱咤かますが、スポーツなら関係ねえ。・・・つーわけでマツリ。『勝ちたい』とか思うな。せいぜい俺達を盛り上げろ。」
マツリ「・・・・・。」
ウチのリーダーは、口をポカンとしながら、おやぶんさんを見る。すると、ニカッと顔を綻ばせた。
マツリ「えへへ〜〜〜♪わかった!応援するからみんな頑張れ〜!」
おやぶんさんの話が終わった時には、さっきまで皆にあったプレッシャーが消えていた。広い会場に大勢の観客。僕らは少なからず動揺していた。
・・・・・凄いな、おやぶんさん。
僕は、改めておやぶんさんを尊敬した。
おやぶん「お、そーだお前ら!」
マツリ「ほぇ?」
ゼル「?」
おやぶん「どうせやるなら優勝目指しな。もし優勝できたなら、『トレーナー10連勝』の課題は免除だ。」
マツリ「ええぇーー!?おやぶん、今日ホントにどうしちゃったの?」
おやぶん「至極当然だろうが、ジムリーダーのポケモンにスポーツで勝てば、体力じゃ俺達が上回ってる証拠だろ?」
そ、そうか。今回はジムリーダーが参加してるんだっけ。
ポケモンバトルだと勝てないかもしれないけど、スポーツなら勝てる・・・・・あ、いや、ムリかも・・。
おやぶん「あの課題はな、お前らに実践力をつけさす為に与えたんだよ。お前ら、自分じゃ気付いてねぇだろうが、着実に強くなってる。スピードも、スタミナも、打たれ強さも、そして、水の威力も。」
そ、そうなのかな?
僕は、まじまじと自分の体を見回す。
おやぶん「自信を持ちな。今日は、自分の力がどこまで出せるかの確認にもなる。・・・だから俺はさっきから楽しめって言ってんだよ。」
.
.
.
実況『さあ、各ポケモン、準備が整いました!12体のポケモンが開始線で待機が完了しています。・・・それでは、第一競技、開始します!・・・位置について!』
アナウンスの合図で、僕の周りのポケモン達は、クラウチングの体勢をとったり、羽を強く動かしたり、鳴き声を上げたりしている。
僕も、見よう見真似で、少し膝を曲げて、走る体勢をとる。
目の前を見た。
さっきとは全然違う空気に圧倒される。さっきまであんなに騒がしかったのに、なんでこんなに静かになったんだろ・・・?
ゴールが200M先にあるのに、なぜか遠く感じた。
「ドク、ドク、ドク・・・。」
う、・・・駄目だ。
緊張して、・・・体が動かない・・・。
「ワニッペ。」
「わ!お、おやぶんさん?」
隣には、おやぶんさんがいた!?
「って、何で此処にいるんですか!もう始まっちゃいますよ!おやぶんさん、一番端のレーンですよね!?」
「周りを気にしすぎだ。」
「え?」
おやぶんさんが小さな声で言う。他のポケモンは今にもスタートせんとばかり、集中している中、おやぶんさんは僕に言葉を述べてくれていた。
「・・・いつもマツリに走らされた事を思い出せ。俺に”転がる”で毎回追い詰められた事を。」
「・・・おやぶんさん・・。」
「自分の世界に入っちまえ。勝敗なんざ関係ねぇ。実力をきちんと出せた奴の勝ちだ。」
そういうとおやぶんさんは、自分のスタート位置へと素早く戻って行った。
・・・わざわざ僕に・・・?
実況『・・・用意・・・・・!』
僕は改めて前方を見た。
200M先には、ゴールがあった。
「(さっきまでは、ゴールが遠く感じられたのに、・・・よく考えたら、いつもリーダーさんに長い距離を永遠に無理矢理走らされてるのと比べたら、へっちゃらな距離だ。)」
僕は目を閉じる。
「(・・・周りのポケモンは、素早そうな虫ポケモンに、ジムリーダーのポケモンがいる。・・・駄目元でやってみよう。・・・ま、9位くらいに入れば上出来かな・・。)」
そして、自分の世界に入ってみる。
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−−−−−−−
『さあさあ!今日も走るよーーー!』
『ワニャーーー!?(ま、またですかーーー!?)』
『よっし、あの山の麓(ふもと)まで行こっか♪』
『ワニ!ワニ!(えええ!?遠っ!?ムリムリムリ!!何これ!?何てイジメ!?)』
『マツリよぉ、たかだか木の実採集で、あんな遠い山行かなくてもいいだろ?』
『よっし!準備体操バッチシ!』
『ワニ・・・・ワニワニ・・(あ、あいたたたた、急にお腹が・・・コレラかな?休まなきゃ、いたたた。)』
『んに?ワニッペどしたの?おやぶん、通訳して。』
『・・・コレラらしいぜ。』
『ワニッペ、はいこれ♪』
『ワニ・・?(え、なにこれ?ヒモ?)』
『今日はアタシが引っ張ってくから、しっかりついてきて♪』
『ワニャーーー!?(また見透かされてるーーー!?)』
『へへへ、諦めろワニッペ。さて、そのヒモを体に縛ってだな・・・・・よっし、完璧。』
『んじゃいくよーーー!』
『ワニワニ!(ムリですーー!絶対について行けません!絶対転びます!途中西部劇の拷問みたいになりますからーー!?)』
『もし途中でへばってみろ?Level:68の”のしかかり”喰らわすぜ?』
『ワーーニーーーーー!!?(ちゃっかりレベルアップしてるーーーーーー!!?)』
『ドン!!』
『ワニャーーーーーー!!(ぎゃああああ誰か助けてえええぇぇぇぇぇ・・・・・・!!)』
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−−−−−−−
悲痛な過去を思い出し、無意識に涙がこぼれてしまった・・・。
実況『・・・スタート!!』
パンッ・・・!
スタートの合図がかかる!
僕は、足を大きく一歩踏み込み、全速力で目の前のコースを駆ける!