30番どうろ〜31番どうろ
マリル(おやぶん) side
・・・・・。
ここらは、ヨシノとキキョウの中間ぐれぇだな。
周りは木々におおわれ、暑い太陽の日差しを遮るように、日陰が広々と横たわっている。
歩道から離れた森の中。
俺の傍らでは、疲弊したワニノコがぜーぜーいいながら汗だくになって倒れてる。
・・・・・・・さて。
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「どこ行きやがったアイツーーー!!!」
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あんのバカ女が!
あの方向音痴に先行させて走らせるんじゃなかったぜ!
ちょっと目を離した隙に姿を眩ませやがって!
「・・・ぜぇ・・・あれ、ウチのリーダーさんは・・?」
ワニノコが息を乱しながら聞いてくる。
「・・・迷子だ。」
「(ま、迷子って・・・・。)」
「マツリは天性の方向音痴だ。超のつく、な。・・・アイツは一度はぐれだすと、当分見つけられねぇし、帰ってもこねぇ。」
「・・・ど、どうなるんですか?」
「決まってんだろ。」
.
『ポケモン世界を歩こう2』 完
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「じゃあ、ワカバへ帰るぞ〜。」
「えええええ!?」
「・・・冗談に決まってんだろ。・・・お前、『ええええ』とか言ってる割には嬉しそうだな?」
「へ?ソンナコトナイデスヨ。」
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5分が経った。涼しい風が木々の隙間を通り、葉を揺らしながら俺達の身体を冷ませる。
「あの〜、おやぶんさん、探しに行かないんですか?」
ワニノコが聞いてきた。
「静かにしてろ。こういう時はむやみに動くもんじゃねえ。入れ違いが一番怖ぇからな。・・・俺にまかせとけ。」
俺は自前の耳をピクピクと動かしながら、辺りの音をすまして聞いている。
「・・・・・・・・・・・・・・・見つけたぜ。・・・あのヘラヘラした笑い声は・・・・・マツリのバカだな。行くぞ。」
「は、はい。(・・・?・・僕には全然聞こえないな?)」
戸惑うワニノコを引き連れ、俺達はバカのいる元へと向かった。
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マツリ side
「えへへ♪アタシってば、昔から筋金入りの方向音痴で〜。」
「ハハハ、だからこの辺りをウロウロしていたのか。まあ、ゆっくりしていきなさい。」
アタシは森の中で迷っていたところを、ポケモンじいさんという人に会う。今はその人の家でお茶を頂いていた。
「おじょうさんはトレーナーかい?」
「昨日からです!あ、お茶ご馳走様でした!」
「せんべいもあるよ。」
「いただきまーす!」
見ず知らずの人だけど、話をしているうちに仲良くなり、ついつい長居してしまう。
「おや、その子は誰じゃ?」
んにゃ?
白衣をきたおじさんがやってきた。
「ああ、ついさっき知り合ってな。キキョウシティを目指していて、迷子になったらしい。」
「えへへへ♪お恥ずかしい。」
アタシは頭をかいた。
「ん?君はワカバから来たのか?」
「はい!ワカバタウンから来ました!マツリです!よろしくー!」
意気揚々と挨拶した。
「ほほう、元気がいいのう。ワシの名は・・・ バン!!
ほえ? 目の前のおじさんが自己紹介した時、家のドアが勢いよく開いた。
「見つけたぞゴラァ!!」
あ!おやぶんだ!ワニッペもいる!
そだった、この子達置いて来たんだったっけ♪
「おやぶん、ワニッペ、おかえり〜!!」
おやぶんのアクアジェット!
ドッゴオオオォォン!!
「おかえりじゃねぇぇえええ!!」
「うぃゃああぁぁーーー!?」
おやぶんの技をモロ受けたアタシは、イスから転げ落ちた。
「てめぇは何度迷子になりゃ気が済むんだ!!探す方の身になれってんだ馬鹿野郎がああぁぁ!!」
「ぅう〜、ごめんなさ〜い!」
おやぶん、キレたら母さんより恐いし痛い・・・。
「マ・・・マリルがしゃべってる。」
ポケモンじいさんが驚いてる。
「・・・しゃべるマリルだと?・・・む、ひょっとして、クドーのマリルか!?」
へ?白衣のおじさん、父さんを知ってる?
「おお!そういうアンタはオーキドのジジイじゃねーか!?まだ生きてやがったか!!」
「相変わらずじゃな・・・。おぬしより先にくたばってたまるか。」
あれ?おやぶんもこのおじさんを知ってる?へ、どうなってんの?
「何年ぶりになるか?3年ぶりか?全然変わらねぇな、てめぇの風貌ぶりはよ。」
「そういうおぬしこそ、今のアクアジェット、キレが全く衰えておらなんだ。未だ現役かの?」
「実は結構ヤベェんだ。ハハハ!」
「そうか。・・・クドーが死んでもう3年か・・・。ところでマリル、アサギシティに住んでたのではないのか。」
「一ヶ月前に引っ越したんだよ、ワカバタウンによ。」
・・・・・・・・もお!二人だけしゃべって!
「はーーーい!アタシの父さんは『クドー』って名前でーーーす!」
無理矢理会話に入った。
「黙ってろ。」
「はぅっ!?」
むぅ・・・おやぶんが冷たい。
「ほぉ、クドーの娘じゃと?・・・なるほどのぉ、確かに面影があるわい。」
「コイツはマツリって言うんだよ。クドーの一人娘だ。昨日からトレーナー修業を始めさせたのさ。」
「ワニ!」
「このポケモンは・・・ワニノコか。珍しいポケモンじゃな。・・・マツリちゃんだったかの?ワシはオーキドという者じゃ。皆からはポケモン博士と親しまれておるよ。」
オーキド博士が自己紹介をした。
「オーキードはかせは、父さんと知り合いですか?」
「・・オーキードではない、オーキドじゃ。クドーとは15年前に知り合っての。ギルドの仕事関係から始まって、ポケモンバトルをする仲になったのじゃ。
どうかな?ポケモントレーナーの旅は?」
「はい!楽しみです!」
今もとっても楽しいけどね♪
笑顔でアタシは答えた。
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オーキドはかせは、ラジオの収録があるらしいから、先に出ていった。・・・今度父さんの話を聞かせてもらお!
「それじゃ、アタシ達も出発します!お茶ご馳走様でしたー!」
「ワニー!」
「バカ女が世話かけたな。」
アタシ達は、ポケモンじいさんにお礼を言って、家の外に出た。
「おっと、待ってくれんか?」
んにゃ?なんだろ?
「君にこれを渡しておきたいんだ。」
アタシはポケモンじいさんから、大きなタマゴを受け取った。
「うわあ!ありがとう!さっそくみんなで食べよ!」
ボカッ!
「バカかてめぇ!そりゃポケモンのタマゴだ!食ってどうする!?」
・・おやぶん、最近怒りっぽい。カルシウム不足かな?
「・・・ゴホン、マリル君のいう通り、それは正真正銘ポケモンのタマゴだよ。以前までは稀少で、なかなか発見ができなかったんだけど、成り行きでタマゴが手に入ったんだ。
タマゴを孵すには、元気なトレーナーと一緒にいると、元気に生まれてくるらしいから、マツリちゃんに持ってって欲しいんだ。」
アタシはタマゴを見た。
バレーボールくらいの大きなで、タマゴにしては意外と軽いかも。白色の殻の上から、青いシマシマがついていた。
「ねえねえ!何が生まれるんですか!?」
ワクワクしてきた!早く孵らないかな!?
「それは私にもわからないさ。生まれてからのお楽しみだね。(確か・・・・ホウエン地方から取り寄せたって聞いたような・・・。)」
「ほぇ〜。」
アタシはタマゴを大事にバスタオルに包み、カバンに入れた。
「落として割るなよ。」
おやぶんが言った。
「大丈夫大丈夫〜♪どうもありがとうございまーす!」
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ワニノコ(ワニッペ) side
僕達は、森を抜け、歩道に差し掛かった。
登り坂の中腹。下へと視線を送ると、朝まで僕達がいたヨシノシティが小さく見える。
・・・結構走ってたんだなぁ。
「さあ!キキョウシティ目指してーゴー!!」
明るくハツラツとグングンと進む、僕のリーダーさんのマツリ。
僕は後に続いてきつい坂をのぼる。
「えっと、おやぶんさん?」
「あん?」
「僕達のリーダーさんは、キキョウに何か用事でもあるんですか?」
「用事もなにも、ジム戦に挑むに決まってんじゃねぇか。」
「・・・ジム戦ですか。なんか大変ですね。」
「あぁ?何言ってやがる、お前が出るんだぞ。」
「あ、そうなんですか。じゃあ頑張りますってええええええええ!!!?何で僕ぅぅ!!?」
「何でもクソも、てめぇはマツリのパートナーだろうがよ。ウツギ博士から話を聞いてなかったのか?」
「トレーナーのポケモンになれとは聞いてましたけど・・・、僕じゃやっぱり荷が重いっていうか、まだチコリータの方がいいっていうか・・・・。」
バトルは嫌いじゃないけど・・・、やっぱりその・・決心つかないっていうか、・・平穏な暮らしの方ががいいっていうか・・・。
「・・・さっきの家で、クドーって名前を聞いたろ?ソイツはマツリの親父でよ、昔、俺はクドーのパートナーだったのさ。」
「え、おやぶんさんも昔に旅を?」
「おうよ。ジョウトリーグで殿堂入りを果たしてんだ。」
「でんどういり・・・?」
「殿堂入りっつーのは、チャンピオンぶっ飛ばして新たにチャンピオンになったっつー事だ。」
「ええええ!?」
す、凄い人達に関わっちゃった・・・。
「ま、マツリのヤローも親父を目標にしてるから・・・・・・・・・おい。」
「へ?」
「マツリはどこだ?」
・・・そういえば・・。
さっきまでリーダーさんは、目の前を歩道を歩いていた。
僕とおやぶんさんがしゃべってる間に、姿を眩ましていた。
・・・あ、あははは。ひょっとして。
「またかぁぁああああ!!!?」
おやぶんさんが叫んだ。
・・・え、えっと、僕のせいじゃないよね?おやぶんさんに話しかけたのは僕だけど、違うよね?
・・・・ガザガサ!
歩道の端の茂みから音がした。
その茂みから誰か飛び出してきた。
「おぉ!ゴメ〜ン!また道に迷っちった♪」
・・・服についた茂みの葉や枝を掃いながら、マツリがニコニコと現れた。
おやぶんの頭突き!
ズドオオォォン!
「どうやったら一本道を迷うんだぁぁああ!!?」
「いぎぃっ!!?」
・・・うちのリーダー、レベル65のおやぶんさんのツッコミをものともしてない・・・・・。
「ほら、見て見て!見つけちった♪」
リーダーさんの手には、きのみが3つ乗っていた。
「見つけちったじゃねぇよ!しまいにゃてめぇ、鎖で繋いでやろうか?」
「えへへへ♪」
「褒めてねぇ!!」
「はぅっ!?」
・・・・・・・・誰が僕と代わってください。・・・・気苦労が絶えない気がします・・・。
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マツリ side
ぅわあ!トレーナーさん達だー!
開けた歩道で、ふたりのトレーナーがバトルしてる!
アタシも早速やりたーい!
「ねぇねぇ!アタシもバトル混ぜてくださーい!」
両手をパタパタ振りながら大きな声で言った。
「コラッタ!体当たり!」
「かわして電光石火だ!」
目の前で戦ってるのは、帽子をかぶった短パンの男の子二人。そしてコラッタとポッポ。
「しっぽをふるだ!」
「ポッポ!砂かけ!」
アタシは、目の前で繰り広げられるバトルをずっと眺めていた。
「(久しぶりにポケモンバトルを見た。・・・うわ〜、早くやりたいな、やりたいな♪)」
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「よっし!俺の勝ちだ!」
「くっそー、負けた。」
勝負が終わったみたい。
よし!次はアタシの番ーー!
「こんにちはー!誰かアタシとバトルしてくださーい!」
二人の男の子がコッチを見た。
「ええ!?さ、さすがにムリだよ。今からポケモンセンターに行くんだから。」
「ゴメンね、ねーちゃん。」
そういうと男の子達は、アタシの横を通り、ヨシノの方へ行ってしまった。
「・・・・ぶぅ。」
もう!せっかく待ったのに!
「ヘッヘヘ、まあ気を落とすなって、トレーナーくらいすぐ見つかるだろ。」
「ワニ。」
おやぶんとワニッペは言った。
「・・・・そだね。・・・お!」
「どした?」
「・・・という事は、今の勝負は不戦勝!?やったーーー!」
やったー!初めての勝負で勝ったーーー!
「ボソッ(おいワニノコ、こいつの頭ひきちぎって脳みそ出せ。)」
「・・・ワニャ。」
「んにゃ?何か言ったー?」
「全然。」
「ワニ。」
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「バトルがしたいなら、俺が相手してやるぜ!」
目の前に新たに現れたのは、帽子をかぶった短パンの男の子。さっきの子達より少し背が高いかな?
「俺は短パン小僧のゴロウ!勝負しようぜ!」
「わあーい!勝負勝負!よろしくー!」
やった!ポケモンバトルだ!
ゴローちんがボールを投げた。
中からコラッタが出てきた。
「うわあ、ドキドキしてきた!じゃあコッチは、ワニッぺ!レッツゴー!」
「ワニャーー!?」
「ん?どしたのワニッペ?」
「ワニワニ・・・。」
「おやぶん、ワニッペ何て言ってるの?」
「・・・急に腹が痛くなっただと、胃ガンらしい。」
「絶対勝とーね♪ワニッペ♪」
「・・・・・・・ワニ。」
「そーそー、諦めが肝心だぜ。さっさと行ってこい。」
おやぶんがワニッペの背中をポンと押す。
「・・ふぇ?どしたの、ゴローちん?びっくりした顔して。」
「誰がゴローちんだ!?・・いや、ちょっとな、言ってもいい?」
「いいよ♪」
「マリルがしゃべった!!?」
ゴローちんがビックリしたように叫んだ。
「んだテメー、見せモンじゃねぇぞ?喋る事がそんなに可笑しいか?てめぇらよりも遥かに喋るぜ俺は。」
「まーまーおやぶん。」
おやぶんが怒っちった。アタシはおやぶんを宥める。
「すげーな、世界は広いや。てゆーか、そのマリルと戦いたいんだけど。」
ゴローちんが言った。
「・・!・・ワニワニ。」
ワニッペが嬉しそう。
・・ワニッペはバトルが嫌いなのかな?
「ご指名はありがてぇが俺はしねぇ、やるのはワニッペだ。」
「・・・・・ワニャ。」
ワニッペはしぶしぶとコラッタの前へと歩きだす。
アタシはワニッペの側に寄った。
「・・・ワニッペ。」
「ワニ?」
アタシはワニッペの耳元で、誰にも聞こえないよーに囁いた。
「(ボソボソ)・・・・・・・・・・・・・・・。・・・オッケー?」
「・・・ワニ!」
「よっし!じゃあゴローちん!バトルしよっか♪」
「誰がゴローちんだ!?」
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短パン小僧のゴローちんが勝負を仕掛けてきた。
コラッタの体当たり!
「ワニッペ!水鉄砲!」
ワニッペの水鉄砲!
バッシャアアアアン!!
コラッタに大ダメージ!
コラッタの体当たり!
ドンッッ!
ワニッペに小さなダメージ。
「やべ!力負けしてる!」
「ワニッペ!水鉄砲!」
ワニッペの水鉄砲!
バッシャアアアアン!
コラッタは倒れた!
ゴローちんとの勝負に勝った!
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「やったーー!ワニッペ!イェーーーイ!!」
「ワ・・・ワニャワニャ。」
ワニッペとハイターッチ!
「くっそー、負けたぜ。そのワニノコ強いな。」
「えへへへ♪」
「てめぇじゃねーよ。」
おやぶんがツッコム。そして、ワニッペの側に歩いていく。
「どうだ?初バトの感想は?」
おやぶんは、ワニッペの肩に手を回すようにして言った。
「・・・ワニ。」
「・・・・・・へっ、そうか。」
「ん?ワニッペなんて?
「あぁ?男の話だよ。」
「あー、差別ー!」
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マリル(おやぶん) side
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―・・・その〜、あの、やっぱり痛いですよね。バトルって・・・・。―
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・・・ワニノコは・・・バトルが嫌いなんかじゃねぇ。ただ単に優しいだけだ。
まあ俺から言わせりゃ、『笑わせんじゃねぇ!それでも○○たま付いてんのかぁ!?』と怒鳴り散らしてもいい方だ。
さっきのバトルでも、相手にも、気を使うように技の力を調節して出していたしな。
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まあ、性格はバカに出来ねぇもんだ。
ポケモンバトルは、ワニッペのいう通り、相手を技で傷つけてぶったおせば勝ちだ。
それを普通に捉えられねぇのが、ワニッペみたいなヤツだ。
・・・悪いことじゃねぇ。むしろ、そう考えるのが正しい。
互いに傷つくのが嫌で、自分も痛いのは嫌。
「・・・なあ、ワニノコ。俺達トレーナーは何故バトルをすると思う。」
「え、えっと・・・、・・・強くなるため・・ですか?」
「まあ、そうだわな。じゃあ何の為に。」
「さ・・・さぁ。」
「たいていの奴は、栄光が欲しいから強くなるんだよ。トレーナーは優劣競い合ってなんぼの仕事だ。」
「そうなんですか・・。」
俺はワニノコの表情を見た。
ワニだけあって、なかなか感情が読み取りにくい。が、なんとなくわかる。
・・・戸惑ってるな・・・・・。
「別に無理してついてくる必要はねぇさ。何なら俺がマツリに言ってやろうか?」
「い、いや、大丈夫です。」
.
.
ワニノコ(ワニッペ) side
・・・何度もいうけど、僕はバトルは嫌いじゃない。
だけど、トレーナーのポケモンになるって事は、ずっとバトルをしなくちゃいけない。
死ぬほどきつい練習や修業を繰り返し繰り返しやって、何度も何度もバトルで戦う。
・・・正直いやだ。恐い。
でもそれ以上に、そのたび相手が傷つき、それが当たり前のようになってしまうのが一番恐い。
・・・僕には荷が重いと言いたい。
けど、意気揚々と旅を始めた人に、辞めますって言いづらいしなぁ・・・。一緒になって2日だけど、明るくて元気な女の子のトレーナー。そんな人をガッカリさせたくないのもあるんだよな・・・。
・・・・・結局、僕は迷っていた。
.
リーダーとおやぶんさんと道を歩いていた時だった。
閑散とした道のりを進行していた時、突然強い突風が吹いた。
そこらの草むらや地面を薙ぎ払うかのような衝撃が、足を伝って響いてくる。
・・・風が止んだ。
・・・・・その後。
「助けてぇぇええええ!!!」
登り坂の向こうから声が響いた。ここから近い。
「ほぇ?何だろ?行くよみんな!」
.
.
.
.
リーダーが走りだし、それに続いておやぶんさんと僕も走り出す。・・・リ、リーダー速い・・・。
きつい坂を駆け上がり、足が悲鳴を上げるけど我慢して、ようやく坂が終わった。平地に着いたようだ。
辺りを見回すと、目の前にある大きな池に目を奪われた。
大きな池の側に、小さなトレーナーが3人、大声で泣き叫んでいる。
リーダーが真っ先に駆け寄った。
「どしたの?みんな?」
リーダーが泣いている理由を聞く。
「か、風に飛ばされたんだ!!」
「ボールも飛んじゃったーー!」
「このままじゃ死んじゃうよーーー!」
男の子二人、女の子一人。泣きべそをかきながら声を上げた。
「へ?何?どゆこと?」
リーダーが頭にハテナを浮かべて再度聞いた。
「ぼ、ぼくのキャタピーが溺れちゃうーー!」
「私達泳げないの!!」
「うわーーん!コラッターー!」
・・・・・あ!!
あの池を見た。
.
池の水面に、散乱したように浮いているカバンやモンスターボール。
そして、もがきにもがいて苦しそうにしているキャタピーとコクーンとコラッタが、池の真ん中にいた。
さっきの突風で池の真ん中まで飛ばされたんだ!でも淵から20mもあるよ?
.
「うわーーん!キャタピーー!」
「どうしよ!?どうしよーー!?」
「死んじゃやだーーーー!」
子供達が泣き叫ぶ。
.
ザブン!! ザブン!!
.
・・・・へ?
何の音だと思考する。
・・・・・水の音。飛び込んだ時の音。
あれ?リーダーとおやぶんがいない!?
・・・・まさか・・・・・!
.
水面からおやぶんが顔を出した!
「ワニノコーーー!てめぇはコクーンを頼む!任せたからなーーー!」
そういうと、おやぶんは水中に潜って、池の中央へ向かっていった。
・・・・・!
・・・バッシャアアァァン!
一瞬呆然としたけど、僕も池に飛び込んだ!
「(・・・ウチのリーダーって、泳げるのかな・・?)」
前後の足をかきながら、尻尾で水の抵抗を消しながら、必死に前へ前へと泳ぐ。
僕は急いで池で溺れているポケモン達のいる、中央へ急いだ!
・・・!?
コクーンが沈んでいる!?
僕はスピードを上げて、コクーンの元へ潜った!
.
・・・・・あ。
深く青く光りの届かない所まで沈んでいたコクーンは、重力に逆らうように、真上へと上昇していく。
.
・・・僕は目を凝らしてよく見た。
そのコクーンは、リーダーの両手に抱えられながら、グングンと水面へと誘われていく。
僕はリーダーを追いかけた!
.
ザバッ!!
「ぷはっ!」
水面から顔を出す!
「ワニッペ!コクーンをお願いね!」
ジャケットを脱いで、カッターシャツ姿になっていたリーダーは、僕にコクーンを手渡した。
そして、リーダーは再度池に潜った!
僕は手渡されたコクーンを見た。
ブルブルと痙攣している・・・!
・・・生きてた・・!
僕は陸地へと泳ぐ!
青く、そして深い池を急いで泳いだ!
コクーンを背中におぶりながら泳いでいるから、僕の視界は暗い水深の底。
果てしない闇が広がっていた。
.
・・・・・・・・!?
.
その暗黒の深い空間から、何かがぽっつりと現れた。・・・なんだ?
だんだんと近づいて来る・・・!
光に照らされたソレは、僕を追い抜いた!
・・・・速い!
.
まるで、伝説の人魚のようだった。
細くしなやかな脚から、とんでもない水流を生み出していた。
まるで水に逆らうことなく、イルカのように身体を上下させていた。
キャタピーを胸の所で抱えながらも、生成される水泡よりも速く上昇していた。
・・・僕は、碧色の髪をした人魚に、見覚えがあった。
.
.
ザバァ!!
僕は池から陸地に上がる!
そこには、おやぶんとコラッタ。リーダーとキャタピー。そして涙ぐんだ小さい子達がいた。
そのうちの女の子が、僕に駆け寄ってきた。
「コクーン!!コクーンは大丈夫なの?死んでない!?死んでないよね!?」
僕より少し目線の高い場所で、女の子がグッと迫る。
僕は慌ててコクコクと頷き、背中に担いでいたコクーンを渡してあげた。
「うぅ・・・ぐす・・・ありがとう、ワニちゃん。」
.
・・・僕はこの子の表情を、きっと忘れないと思う。
.
おやぶんが歩いてきた。
バシッ!
「痛っ・・!?」
な、なんで!?
「よくやった!!ご苦労!!」
・・・・・・へ?
おやぶんがニッと笑っている。
「お前がいなけりゃ、コクーンは死んでたんだぜ。」
「へ?・・・えと、まあ、一応水ポケモンだし。」
「水ポケモンだから、だよ!」
おやぶんが僕の胸をこついた。
.
「溺れたポケモンはコッチーー!」
リーダーがカバンを探りながら、手をチョイチョイとさせて、皆を呼ぶ。
リーダーは、カバンからきのみを三つ取り出した。
溺れて衰弱したキャタピー、コクーン、コラッタ達に、リーダーがゆっくりと木の実を食べさせた。
.
「・・・よっし!これでだいじょぶだよ!」
リーダーがニカッと子供達に対して笑った。
リーダーのいう通り、キャタピーとコクーンとコラッタは、元気を取り戻した。
「キャタピーーーー!よかったーー!」
「うわーーん!コクーン!」
「コラッターーーーー!!」
子供達は、泣きじゃくりながらポケモン達に抱きついた。
「お姉ちゃん!ありがとう!」
「ごめんなさい!私達、およげなくて!」
「ねーちゃん、泳ぎ速いね!!」
「えへへ♪どういたしまして〜♪」
ウチのリーダーは、照れながら頭をかいた。濡れたカッターシャツから水を滴らせながら、笑顔をふりまく。
リーダーがコッチにやってきた。
「ワニッペ!おやぶん!イェーーーイ!!」
パチンと、トライアングルハイタッチ。
そして、僕の手を握り、ブンブンと上下に振る。
「ワニッペ!泳げたよね!泳げた泳げた!」
・・・へ?
僕は首を傾げた。
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「ワニッペが泳いだから、助けれたんだよ!!」
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ニカッと、碧色の髪の少女は笑った。
.
・・・・・おやぶんに言われた時は実感なかったけど・・・。
・・・・身体中から溢れるゾクゾク感。
・・・・・僕のリーダーに手を握られて。
・・・・僕の胸のモヤモヤが消えた。
.
.
「おい、ワニッペ。」
おやぶんさんが呼んだ。
「さっき、トレーナーの話したよな、バトルで勝つために強くなる話。」
目の前で、子供達にやんややんやとちやほやされてるリーダーがいる。
「俺達は、確かに強さは必要だ。」
おやぶんは目を細めた。
「俺達が目指してんのは、コレなんだ。」
コレと指差すおやぶんの指先を見た。
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―お前がいなきゃ、コクーンは死んでたんだぜ?―
.
きっと、僕がいなければ決してなかった光景。
小さい子達が、笑い声をあげて、じゃれあう。そして抱かれていたポケモン達は、にこやかに顔を胸に埋める。
「悪かねぇだろ?」
おやぶんが言った。
「・・・・・・・はい。・・・僕、すごく好きです。」
「ヘヘヘ、マツリを頼むぜ。パートナーさんよ!!」
おやぶんさんは、そう言って肩を叩いてくれた。
.
.
マツリ side
いや〜、よかったよかった!
ギリギリセーフってヤツ?
「えへへ♪良いことした後って、気持ちいいね!」
「けっ、調子にのるな!単に泳げてよかったって話だろうが!てめぇ、ちっと泳ぎが遅くなったな!?今度みっちりしごいてやる!」
「お願いしまーす!」
「・・・てめぇもだせ、ワニッペ。」
「ワニ!?」
・・・・・・・・・・あれ?
「ワニッペ?」
アタシはワニッペの顔を見た。
「ワニ?」
「(じぃ〜)・・・・・・・・・。」
「ワ・・・・ワニャ?」
・・・さっきより・・・元気になった?
「・・えへへへ♪」
アタシはワニッペの頭を撫でた。
「さって!もうすぐゆーがただよ!おやぶん!キキョウまであと何キロ?」
「・・・てめぇ、まさか。」
「その、まさか!」
アタシはスニーカーにはきかえた!
「・・・約3キロだ。」
「よっし!じゃあ、キキョウシティに11分以内に着けなかったら、罰ゲーム!」
「ワニャーーーーー!?」
「おいマツリ!ワニッペが何か言ってるぜ。ヘルニアが再発したらしい!」
「みんな準備オッケー!?」
「・・・・・・ワニ。」
「ヘヘヘ、諦めろ。・・・さて、ワニッペ!俺から遅れてみやがれ、level:65の捨て身タックルをかますぜ!」
「ワニャーーー!?(←level:7)」
「ようい・・・・・・・ドン!!」
アタシは駆け出した!
綺麗な夕日にかざされながら!
ワニッペ!これからもヨロシク!
んでも、父さんのギルドつくるには、もうちっと強くならなきゃね♪
さあさあさあーーーー!!
走るぞーーーーーーー!!
.
.
ワニッペ side
.
やっぱ、誰が代わって下さーーーーーーーい!!!!
.