ポケスロン(2)
実況『さあ、各ポケモンスタートしました!全長200Mのハードル走!一番先に出てきたのは虫ポケモンのストライク!一気に群を抜き去りました!そしてスピアーとバタフリーが一位を追うように上位に定着しました!そしてブルー、ブイゼル、オオタチ、ワニノコ、バクーダ、マリル、ミルタンク、コータス、マグカルゴと続いていきます!・・・今回のレース、タクヤ選手の虫ポケモンが有益か!?』
「(・・・この競技場のトラック、少し地面が柔らかい気がする。いつも走っている硬い地面と違って、なんだか反発性がある。・・・少し足が軽く感じる・・。)」
僕は、全速力で前へ前へと駆けた!
手を大きく降り、体を前屈みにし、足のリズムを段々と細かくしていく!
マツリ「おーやぶーん!ワニッペーー!ゼールー!頑張れーーー!!」
アカネ「よっしゃ!みんなええ感じやん!」
実況『さて優勝候補のアカネ選手のポケモンは、ブルーが4位、オオタチが6位そしてミルタンクが遥か後方にてポジションをキープ。これは大判狂わせに期待がかかりそうです。・・・・さあ、先頭が50Mを通過します!ここから、障害物のハードルの設置エリアとなります!ストライクがハードルを・・・飛び越え、な、なんと!そのまま空中を滑空するように、ハードルの上を推進していきました!!後ろのバタフリーとスピアーも同様!彼らには全くハードルが効かない!これに関しては、ハードルを飛び越えた事になりますので、ルール上は問題ありません!ここから一気に引き離すのかタクヤ選手!!さあ、後続のポケモンも次々とハードルを飛び越えていきます!』
目の前を走っていると、自分の体よりも少し大きめのハードルが、道を塞いでいた。
「(・・・だいじょうぶ・・・多分・・・!)」
ハードルと自分の距離を目測で確認し、踏み込むポイントをおさえる!
「(・・・ここだ!)」
僕は一気に跳躍した!
走った時の速度を落とさないように、高く飛び過ぎないように、前にヒモで引っ張られるようなイメージで、僕はハードルを飛んだ!
そして、着地してすぐ駆け足に移行する!
−−−−−−−
『あ!目の前に溝があるよーーー!』
『ワ・・ワニ・・ワニ・・!(ハァ、ハァ・・・え、何て言った・・・?)』
『飛び越えろ!マツリ!』
『ほーい!それ、ジャーーーンプ!!』
『ワニ・・・・・ワ、ワニャーーーーーー!?(え・・・・・!?・・・ひぃいいいやあああああ飛んでるーーーーーー!?)』
『っしょ!着地♪アンドダッシュ!!』
『・・ギャフッ!?・・ワ・・・・ワニャーーーーーー!?(ぶへ!!・・・も、もろ地面に腹うった・・・て・・・ぎゃあああああああ!!?ま、き、急発進いやああああぁぁぁ!!)』
.
−−−−−−−
・・・・・なんだろ、思い出すたび、涙が溢れてくる・・・。
実況「さあ!間もなく先頭のストライクが100Mを切ります!あ、おーっと!!後方でビリだったトウドウ選手のポケモンが追い上げてきました!?ニ、ニトロチャージです!!炎ポケモンのバクーダ、マグカルゴ、コータスが凄まじい勢いでスピードを上げていきます!バクーダは5位のオオタチと並びました!そのまま抜け切れるか!?そして最後尾のコータスとマグカルゴが、マリル、ミルタンクを抜いて行きました!!」
三つ目のハードルを飛んだ!
普段なら平地を走るだけなら、少しの距離ぐらいなら疲れたりしない。
でも、僕よりも高いハードルを何度も飛び越えると、いつもより心臓がチクチクした。
「(はぁ、はぁ・・・ま、まだゴールに着かないのかな・・・?)」
僕は、更に足を速く交互に動かす様に走る!
実況「さあ!先頭のストライク!このまま逃げ切りたい所!まもなく150M地点に差し掛かります!現在その後ろの順位は、バタフリー、スピアー、ブルー、オオタチ、バクーダ、ブイゼル、ワニノコ、コータス、マグカルゴ、ミルタンク、マリルとなりました!そこからどう順位が浮動するのか・・・あーーっと!バクーダがグングンと距離を縮めていきます!!少し追い込みが速いが大丈夫か!?バクーダ!一気に4位!オオタチのグループを抜き去りました!このまま虫ポケモンに攻め寄るバクーダ!おっと!どうした事でしょう?2位をキープしていたバタフリーとスピアーが、突然興奮し始めました!あーーー!なんと!スピアーがコースを離脱しましたーーー!スピアー、コースアウトにより、失格です!・・・どうやら、炎タイプのバクーダに恐怖を感じ、イレ込んだ模様です!これは急展開です!」
タクヤ「スピアー!?・・・くっそ、バタフリー!スピアー!なんとか逃げろーーー!!」
・・・・・あれ、なんだろ。
さっきまでハイペースで全力で走ってたのに。
既にもう、100Mは切った。息は絶え絶えで、足がだるく、身体が異様に熱く、手を振る動作も疲れてきた。
「(それなのに・・・なんだろ・・・このフワフワした感じは?)」
このフワフワ感。僕はたしかに最初から全力で走った。ここまで、減速したりしてない筈。
「(フワフワというよりも・・・なんだろ・・・時間が遅くなった・・?)」
あれだ、考えてる時間は長いと感じてても、実際の時間はそんなに経っていなかったっていう、アレに近かった。
なんだろ?・・・疲れてるのに・・・まだ、速く足が動ける気がする・・。
近くに迫ったハードルを飛び越えた!
再び着地し、速度を落とさないように前へと集中すると・・・。
「(い・・・いいい!?ア、アレ卑怯でしょーー!?)」
.
実況『さあ勝負は大詰め!150M地点に到達しました!最大の難関!3縦ハードルが待ち構えます!ひとつひとつの間隔がかなり短くなったハードルが3つ設置されています!ラストのハードルです!この障害に屈する事なく、ゴールに辿り着けるのか!?』
マツリ「頑張れーーー!あとチョットーーー!!」
トウドウ「バクーダ!一気に決めろ!」
タクヤ「ストライクーーー負けるなーーー!!」
アカネ「(・・・・ここらやな。)」
.
「(げええ!何あの最後のハードル!?何で三回連続!?ありえない!?)」
そう不平を述べて嘆くも、着々とあの恐怖の難関が近づいてくる・・・!
「(か、間隔が狭すぎ!た、多分助走するスペースないよこれ!?ど、どうすんのコレ!?)」
実況「(ストライクはこの障害を・・・難無く通過!!飛行ポケモンの利点をうまく使います!つづいてバタフリーも難無く通過します!そしてその後ろから爆走するバクーダは・・・・あーーっと!激突です!!ジャンプのタイミングを逃したのか!?三台のハードルに大きく突っ込みましたーーー!?バクーダ転倒!動けない!!・・・な、な、な、なんと!?ハプニングが続出!バクーダが打つかったハードルが吹っ飛び、先頭を独占していたストライクに激突ーーーーー!?ストライク!倒れた!ストライクが地面に落ちて動けなくなりました!ストライクとバクーダ、ダメージが大きいようです!これで先頭はバタフリーとなりました!」
その最後のハードルは、一番目を飛んだとして、一歩でも助走の足を使えば、僕は二番目のハードルに打つかってしまう。
かといって、試した事ないけど、助走なしで二番目を越えれば、間違いなく減速する。そして、3番目のハードルにドッカン。
「(う、打つかるの痛いし、少しペース落として、いっこいっこゆっくり飛ぼうかな・・・?)」
よし、そうしよう。最悪、打つかってケガじゃ済まなかったら大変だ。
実況『さあ!ストライクとバクーダがレース離脱!次に最後の障害を通過するのは・・・おおっと!ブイゼルが追い上げたあああぁぁ!綺麗なアクアジェットが炸裂ーーー!ブイゼル、3縦のハードルを一気に3台もろとも飛び越しました!!まるでイルカのようなジャンプにスピード!そのまま2位に踊り出たあああ!・・・そして後続のブルーとオオタチがハードルに差し掛かり・・あっと!衝突しました!ブルーにオオタチ、一気に減速!うまく立ち直れるのか!?』
うん、危険な賭けはやめて、安全策をとろう。
・・・そう思い、減速を実行しようとした時だった。
ドクン。
「(え?)」
き、急に、余裕が出て来た!?
いや、疲れはある。心拍数もバクバク。今にも倒れそう。
なのに、なんだろう。既に限界の筈なのに、まだ速度が上がる・・・。
・・・今まさに、そんな感じだ。
既に目の前に、ハードルが迫る!
「(ええ!?コレもう行っちゃう!?行くしかない!?知らないよ!?速度上げるよ!?知らないから僕!!)」
.
実況『つづいてワニノコが最後の難関を・・・飛んだ!1!2!っっと!ああああっと!!凄い!ワニノコ!二段ジャンプで最後の3縦を抜いたああああああああ!!なんとワニノコ、最初のジャンプでハードルを一気に二台飛び越す大技!そしてその後です!普通なら二段も飛ばせば減速し、体勢が崩れる筈ですが、ワニノコはものともしない!!3台目に少ししっぽが当たりましたが、無事に難関を・・・ぅおおおっと!速い!速い!ワニノコ!追い上げて来ましたーーーーーー!!』
マツリ「ワーーーニーーーッペーーー!!!」
.
「(っっっ!!?ヤバいヤバいヤバい!!!マジで!?ちょっ!?僕凄くね!?マグレだけども!?)」
あ、あの3縦ハードル成功しちゃったし・・・。
ていうか、それよりも、まず。
スタタタタタタタタタタタッッッ!!!
「(足が・・・凄い速く動く!)」
.
実況『さあラスト50M!!先頭はバタフリー!!その後ろを5M突き放してブイゼル!そしてそれを追いかけるワニノコ!そしてだいぶ間隔が空いてオオタチ、ブルー、コータス、マグカルゴが追いかけ・・・あっと!コータスとマグカルゴが失速!?追い込みがやはり早過ぎたか!?コータスとマグカルゴが疲れた表情でペースが遅くなりました!後ろのマリルとミルタンクが迫ります!』
最後のハードルを飛び越え、僕は前方を見た。
ゴールが近い。もうハードルは一つもない。
僕は、全力で走った!!
「ぅううおおおおおおお!!!」
あとは、ゴールまで突っ走るだけ!
ていうか、よくここまでハードルひとつも倒さずにここまで来たよね、僕。
・・・アハハ、それでも僕は遅い方だろうなぁ。
自分の世界に没頭し過ぎて、周りが全然気にならなかった。
うん、だってさ。
「(走るのって・・・こんなに気持ちいいんだ・・・!)」
今まで、リーダーさんやおやぶんさんに無理矢理に嫌々と走らされた毎日。
それを、自分から全力で走る爽快感。
よく、やらされる時とやる時は違うというけれど・・・。
「(・・・ハハ、走らされたのは嫌な思い出だけど、それがなければ、こんなに楽しいとは思わなかったかな?。)」
僕は、ラストスパートを駆けた!
.
実況『バタフリーが引き離す!ブイゼル追いつかない!バタフリーがゴールに迫ります!残り20M!!おおお!!3位のワニノコがブイゼルと並んだ!!そのまま追い上げるワニノコ!そして、ブイゼルを抜いたああああ!!ラスト10M!!バタフリーかワニノコか!?明けてぞ今朝は別れ行くーーー!!』
ゼル「ワ!ワニッペ!?」
「・・ハッ!・・ハッ!・・ハアアッ!」
ゼル「(気付いてない・・・。・・・ワニッペ、あんなに速かったのか。・・・凄いな、ワニッペは。このペースだと、ひょっとすると・・・!)」
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実況『ワニノコが勝つか!?バタフリーが逃げるか!?軍配はどちらに・・・・・・な、なんとおおぉぉ!!?』
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アカネ「っしゃああ!いてもうたれ!ミルタンクーー!!」
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パアァン!!
.
実況『ゴ!!ゴールです!!さ、さすがの私も驚きました!!誰が予測したでしょうか!?ワニノコとバタフリーのデッドヒートの後方から猛烈な勢いで駆けてきた!まさかのミルタンク!!堂々と一位に輝きましたーーーーーーー!!』
「(はぁ・・はぁ・・・・!・・あ、お、終わったぁ〜〜〜。)」
僕は、ドッと来た疲れに耐え切れず、その場に仰向けに倒れた。
照りつける太陽に、ドクドクと血湧く身体。
落ち着こうにも落ち着かず、息が全然整わない。
「(はぁ、はぁ、な、何位くらいだろうなぁ、僕?・・・・虫ポケモン3体に、ジムリーダーのポケモン3体にはまず勝ってないだろうし、おやぶんさんやゼルにもスピードじゃあ勝てない。・・・やっぱ、最初に予想した通り、9位くらいが一番いいかな?・・・ハハハ、ビリだったりして。)」
頭がクラクラするけど、なんとか寝た状態から、座り込んで息を整えた。
バシィン!!
「痛っったああ!!?」
突然背中を叩かれた!!?
「よぉ。」
あ、おやぶんさんだ・・・。
バシィン!!
「あだっ・・・!」
痛っ!こ、今度は誰!?
「・・・ふふ、ワニッペ。」
ゼ、ゼル・・・?
「私はポケモンの中では、素早さに誇りを持っていた。・・・君のせいでズタズタにされたよ。どう責任取ってくれるんだ?」
・・・・・ハハ、怒ってるや。
てことは、相当みんなの足引っ張ったんだな・・・。
「はぁ、はぁ、す、すみません。ぼ、僕のせいで。」
ドガ!バキィ!
「痛っ!?」
「るせぇ!」
「殊勝だな。」
「ちょっ、あ、謝ってるじゃないです ドゴォ! バシ! ベキ!
「黙れ!」
「全く、君には呆れたよ。」
実況『それでは順位を発表します。最下位だったミルタンクがラスト40M、高速のジャイロボールで見事一位!ミルタンクはスタート直後から、自分に”のろい”をかけていた模様でした。やはり優勝候補は伊達ではありませんでした!
そして2位がワニノコ。
3位がバタフリー。
その後順にブイゼル、オオタチ、マリル、ブルー、コータス、マグカルゴ。
他3体は失格。・・・では、採点まで今しばらくお待ち下さい。』
ボカボカボカボカ!ボコボコボコボコ!
「何堂々と2位になってんだてめぇ!カッコつけやがって!このスケベがぁ!」
「この私を差し置いてお世辞とは、・・・君は私をコケにしているのだろう。」
「がっ、ぎゅふ、ま、ちょ!に、2位!?だ、誰がですか!?」
「てめぇだバカたれ!」
「ええええぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!?」
「ったく、褒めてやろうと思ったが気が変わったぜ。」
「私もだ。」
「・・・え、僕、ホントに、2位なんですか?」
「けっ、まだほざいてやがる。」
「ふふ、この期に及んで惚けるとはな。」
・・・・・ホントに・・・2位なんだ・・・。
「あの、おやぶんさん達は?」
.
「俺は、確か7位ぐらいだな。」
「・・・・・・(プイ)。」
「あれ、ゼル?君は何位だったの?」
「・・・・・・・。」
ゼ、ゼル、どうしたんだろ・・・。
「・・・そういえば、君は無我夢中で走っていたから、順位を知らないのも無理はないな。」
「え、あ、うん。そうなんだよ。走ってる間、何も聞こえなかったし、完全に自分の世界に入ってた。」
「(・・・なぜか、ワニッペに私の順位を教えるのに躊躇ってしまう。・・・ふふ、どうしてだろうな。)」
「?」
「ワニッペーーー!!おーやぶーーん!!ゼーールーーーー!!」
「お、マツリのバカが来たぜ。」
本当だ、リーダーさんが、物凄い速さでこっちへかけてくる。
「みんなーーー速い速い!!凄かったーーー!!イエェーーーーーーーーーイ!!」
パチィン!!
その場で僕達は、ハイタッチを決めた。
・・・はぁ、なんだか疲れたなぁ。
でも、言われてみれば、確かに僕、初めてリーダーさんと会った時より、かなり速くなってる気がする。
目の前で燦然(さんぜん)と眩しい笑顔で、僕達を褒めたたえるリーダーさん。
疲れたけど、みんな喜んでくれてるし、良かった・・・。
僕は、走り終わって初めて笑みを浮かべた。
.
「よーし!このチョーシで2回戦も頑張るよーーー♪」
.
・・・・・へ?
・・・・・・・にかいせん?
.
「えへへ!ぽけすろんって楽しーね♪」
.
・・・・・・・・・・。
・・・・・・僕は、意識を手放した。
.
ワニッペ side out