トキワの森
トキワの森
私は早く試し撃ちがしたくて、ソワソワしていた。
・・・だけど、持ち弾が1つしかないから、一発で本番ということになる。
傷薬を買いすぎて、モンスターボールを買うお金がなかった・・・。だから、グリーンから貰ったボールしかない。
「・・・フシギダネ。どんな子がいい・・・?」
フシギダネに振る。
「ダ〜ネ〜・・・。」
とりあえず、トキワの森の散策を開始。
森中を歩き回り、虫取り少年複数からバトルを申し込まれ、連続かみつくで勝利。
草むらから出てくるのは、キャタピーやビードル・・・。
「・・・虫はいらない・・かも。」
「フシ。」
でも、ポッポはグリーンが持ってたし、コラッタは可愛くないし・・・。
「・・・やっぱり、フシギダネが一番・・・。」
私はフシギダネの頭を撫でる。毎回この動作をすると、気持ち良さそうに喉をならす。オマケに、あまりの気持ち良さに無意識に出す葉っぱのアロマセラピーに癒される。
これが、私達の癒しの時間・・・。
ガサ・・、ガサ・・、
なにかの足音が聞こえる。振り向くとそこには・・・。
「ピッカッチュウ!!」
野生のピカチュウが現れた。
私は、この森で芋虫系しか目にしてないから、一瞬、余りの可愛さにギャップを感じ、認識するのに時間がかかった。
「・・・・・・・・・かわいい・・。」
ピカチュウは、フサフサの頭をなびかせながら、甘い香りのするフシギダネに近づいていく。
2足でトコトコゆっくり歩く動作が、一つ一つ可愛らしい。
ピカチュウは、フシギダネの背中に乗っかり、香りを堪能し始めた。
「・・・・・ダネ・・。」
フシギダネは重そうな顔をする。でも、嫌そうな顔はしていない。・・・ひょっとして・・・。
「・・フシギダネ・・・。・・・意外とそっちの部類・・・・?」
「ダネフシ!?」
慌てて否定するフシギダネ。・・・でももう遅い。
・・・意地っ張りでクール装っても、母性的な所がでてる・・・。
「・・・・誰にも言わないから・・・、大丈夫・・。」
「ダネ!ダネダネ〜!」
・・・フシギダネは一人でいるとき、ポケモンの赤ちゃんや、無邪気な子供を見るとき、表情が一瞬緩む。
私はそれを偶然見た。数日前ポケモンセンターで・・・・・。
数分後・・・。
「スー・・・スー・・・。」
ピカチュウはフシギダネを枕にして、気持ち良さそうに眠っている。
野生のポケモンの割には、意外と警戒心が低いようだ。
私は、このチャンスをものにしない訳が無い。
背中に背負った銃をピカチュウに構える・・・!
「ダネェ!!?」
・・・予想外。・・・フシギダネが間に割り込み、ピカチュウを庇っている。私に対して、怒るようにほえている。
「・・・・・・・・・・どうして・・?」
「ダネ!!」
・・・・・・フシギダネの言いたいことは解った。相手は気持ち良さそうに寝ている。なのに銃を突き付け・・、もとい、・・手持ちに加えようとする行為がおこがましく思うのだろう。
それよりも、フシギダネの母性愛からなる優しさ故、無抵抗のピカチュウには干渉せず、そのままにしてあげたいのが、フシギダネの要望だろう。
・・・でも、私も簡単には引き下がらない・・・・・。
「・・・その子、トレーナーの私達に躊躇いもなく近づいてきた・・・。・・・人間に慣れていて、野生には慣れていない証拠・・・。・・・・・この森で飢えたり、食べられたりする前に、私達が守らないと・・・・・。」
「ダネ・・!」
う〜ん・・・。もう少し押そう・・。
「・・・フシギダネは、ピカチュウと一緒にいたくないの・・・?・・・ピカチュウ・・・嫌い?」
「・・・(ブンブン)」
「・・・このまま置いてきぼりにしたら、他のトレーナーにとられる・・・・・。・・・けど、今その子は・・・フシギダネに懐いてる・・・。」
「・・・・ダネェ・・。」
・・・よし、後一息。
「・・・フシギダネはその子を・・・守りたい?」
「・・・フシ!」
「・・・・・うん・・。今でも、・・私からピカチュウを守ってる・・・。・・・・・大切?」
「・・・・・・・・フシ!」
「・・・?・・・大切なものを守りたいなら・・・側にいないと・・・。・・・・・・・・・・・フシギダネ、ここに残る・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ダ・・ネ・・・・?」
フシギダネの顔が段々と青ざめていくのがわかる。
私は銃を下ろす・・・。
「・・・フシギダネは、優しいから・・・きっとその子を守れる・・・。」
・・・私はさっきから何を言ってるの?
「・・・私の事は、心配しないで。・・・元々、気まぐれではじめた・・・旅だし・・。」
・・・何真っ当な事言ってるの・・・!
そんな事言い出したら・・・、
取り返しがつかなく・・・・・・。
「・・・私、無理矢理ゲットしようとして・・・・おこがましかった・・・?」
・・・まって、まって・・・!
最初はフシギダネを説得する形で話したのに・・・!
「・・・私、真剣に庇ってるフシギダネに・・・風流につけ込んで・・・騙そうとしたの・・・・・。」
・・・・・わたしは・・・、なにをいってるの・・・?
さっきから、フシギダネの返事が無い。
「・・・たまに・・・様子見に来る・・・。・・・・・元気でね・・・。」
・・・いいかげんにして・・・・・!!
私がフシギダネを要らないなんて言い方・・・・・!!
恐る恐るフシギダネを見た・・・。
途方にくれた、淋しそうな、俯いた姿。
こんなフシギダネの顔、見たことがない。
・・・さっきまでの穏やかな時間が、嘘のよう・・・。
もう・・・やり直せないの・・・?
気づいたら私はフシギダネに背を向けて歩いていた。
「ダネ!?」
・・・・・ほら、呼んでる・・。
あんなに酷い事言っても、まだ呼んでくれてる・・・。
・・・振り向いてあげないの・・・・・?
「ダネェーーーー!!」
・・・・・なに、してるの・・・、わたし・・・・・・・。
ピカチュウの取り合いで、意見の仲違い。たった、それだけのこと・・・。
私は、・・・ただ、・・・ただ、
「大切なものを守りたいなら側にいないと・・・・・・ここに残る?」
あの一言で歯止めが壊れてしまった・・・。
今思い返せば、ピカチュウに対する嫉妬だったと思う。
真面目なフシギダネの意見ぐしに遠慮したんだと思う。
きっと、フシギダネは首を振って、否定してくれるのを期待した。お互いの仲を確認したかった・・・。
・・・でも、・・・・・もう、・・・・・・・・・。
「ダァーーネェェェ・・・・!!・・・ッッェ・・・!!」
・・・・・あのフシギダネが・・・・・泣いてる・・・・・?
フシギダネ side
・・・・・・・・。
ルナは、帰ってこなかった・
・・・ホントは、ルナと一緒に旅がしたい。けど、ピカチュウも一緒に旅することも出来た筈だ。
オレが、あんな態度とったからか?
このピカチュウはまだ小さい。誰かが面倒みてあげなきゃならない。
ルナが銃を構えるのを見て、自然に体が動いてた。
このオレが、初めて身をていした。
このオレが、初めて主人に逆らった。
話し合いの中で、何度か言い返せない事があったが・・・。
・・・・・・ルナァ・・。
・・・オレ・・・ホントは強くないんだよぉ・・。
今まで強がってばかりで、クールに装ってたけど・・・。
ホントはルナと、・・・旅が・・・したいんだよぉ。
初めてだよ・・あんなに泣いたの・・!
初めてなんだよ・・ルナのような、芯の強つて、優しいヤツ・・・・!!
・・・初めてなんだよぉ!!・・・・・別れた瞬間、こんなにも苦しいの・・・・・!!
帰って来いよぉ・・・
シャーーーーーーーーー
・・・・・・(!?)
シャーーーーーーーーー・・・。
・・・・・(ジョウロの・・・み・・ず?)
ルナ side
・・・。
遠回りして、フシギダネに気づかれないように、茂みのなかを通って、フシギダネの後ろに来ている。今私は、茂みのなかで隠れているから、フシギダネは気づいていない。
・・・フシギダネにひどいことしたのに、今更出ていけない葛藤が残っている。
・・・・・私、フシギダネにわがままいってばかりだ・・・。
そんな私をフシギダネは、素っ気なく、クールに、受け止めてくれた。
バトルも強いし、弱気を見せないし。
フシギダネは大人なんだなって・・・思ってた・・・・・。
でも・・・・・、
フシギダネは真面目だから、自分の意志を曲げれない。
フシギダネは優しいから、ピカチュウのような、か弱いポケモンを放っておけない子なんだ・・・。
フシギダネは・・・、私が背中を向けたばかりに・・・・・、どれだけ苦しんだだろう・・・・・。
あの子は、手の裏を返して、私の所へ戻ってこれるような子じゃないんだ。
私の言葉を全部呑んでくれた上、我慢してまで、義理を貫く子なんだ。
・・・・・・・あんなに、泣いてまで・・・。
私の頭の中で感情が渦巻く、目の中、鼻先が熱い。
声を抑えようとするたび、顎がガクガク震える・・・。
もう、無理・・・・・!!
私は、ジョウロで、フシギダネに水を上げている。
ビクッと身体を震わせ、その子は固まったまま動かない。
私は、水を最後の一滴まで水をやり続けた・・・。
ピト・・・ピト・・・・・・・ピト。
私はジョウロを投げ、後ろからその子を力一杯抱きしめる。
「・・・嘘。」
目を閉じて言った。
「さっきの・・・嘘・・。・・・冗談・・。真に受けちゃ・・、ダメ・・。」
体が水でビシャビシャに濡れたけど気にしない。
「・・・嘘・・だから・・・。」
・・・フシギダネが勢いよく正面を向いた。その子の顔・・・一瞬だけ・・、一瞬だけ見れたけど・・・・・、
・・・凄い泣き崩れてた・・・・・、ホント・・・・・ようやくわかった・・・。
フシギダネの力が強すぎて、私は仰向けに倒れてしまう。
この子の重みを感じる。
この子の温もりが伝わる。
この子の悦びが・・・。
・・・今、水に濡れててよかった・・・。
・・・・・泣いていた言い訳・・・できるもんね・・・・。
「・・・っっ・・・!!・・・うぅ・・!!・・・っ、・・っ・・うぐ・・・、・・・!・・っ・・・えっ・・・!!」
「・・・ねえ。」
「ダネ?」
「・・・ピカチュウ、・・あなたが誘った・・・。・・・”甘い香り”で。」
「ダ!?」
「誘っておいて・・・・・用が済んだら・・・・・ポイ・・?」
「グ!!・・・・ダ、ネ・・!」
「・・・・・・この、種馬。」
「ダネぐは!!?(吐血)」
ピカチュウを手に入れた。
「ピッカッチュウーー!!」
「フシ〜・・・。」
「・・・満更でも・・、ないんじゃない・・・?」
「・・・(プイ)」
「ピッカー!」