番外!踊るポケ捜査線!〜クチバの波止場の浦島作戦〜(5)
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クチバの港、街の景観、煌めく海原。
そのすべてを見渡せる場所が、ヤマブキとクチバを挟んだ山道、草むらや水場を避けるように曲がりくねった道が敷かれている。
ここは6番どうろ。
日は傾きかけた頃。
この閑散としたところに湖があり、そのほとりに、一つだけ小さな墓が建てられた。
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そこにやってきた一人の少女。
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「・・・まだ実感がないけども。」
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自分に言い聞かせてるのか、それともその墓に対して言っているのか。
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「・・・結局、私は何日経っても、あなたを忘れられない。」
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その少女は、不思議と憎しみや悲哀はなく、無礼かと思われるけれども、清々しい気持ちだった。
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「・・・私、助けてあげたい・・・。私には、その力があるの。・・・あなたのお陰で気づいたわ。」
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墓前に花を添え、その場を去っていく少女。
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「・・・・・・・・いつまでも・・・見守ってあげてね。私よりも、あいつらをさ。
あの子達、目を離すと危なっかしいしさ、ま、そんな簡単にやられるの、想像できないけどね。」
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そして少女は山を下りていった。
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シャワーズ「(・・・全く、私に伴侶ができるかと思いましたが、思い過ごしでしたね。
・・・私を負かせたのですから、このくらいで死んでもらっては困りますよ、ピカチュウ様。
・・・いい仲間に出会いましたね。
さて、暇潰しに作者様でも弄りにまいりましょうか。)」
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頑なにつぶった目を、恐る恐る開ける。
そこには、銃を構えて恍惚の面で見据えたメタモンは、地面に突っ伏していた。
「(・・・・・ぇ・・?)」
ピストルは、宙に投げ出され、明後日の方向へ飛ばされていた。
「(・・・・・・・・。)」
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助かった。
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死ななかった。
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生きてる。
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段々と心身が正常に定まっていく。
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顔に生気が戻っていく。
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ハッと、ピカチュウは現在の状況を確認した。
倒されたメタモンに跨(また)がる新たな影が、声を発した。
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「ピカチュウ殿、ケガはないで御座るか?」
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カモネギが現れた。
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「カ、カ、カモネギさん!?ど、どうしてここに!?」
カモネギは、さっきルナがトレードでゲットした手持ち。ルナからは『非常食』と呼ばれたりしているが、何故ここにいるのだろうか、と疑問に思うピカチュウ。
「余りにも皆の帰りが遅い故、探しに来たで御座る。ルナ殿も心配してるで御座るよ。・・・・・まあ、それは一先ず置いておこう。」
カモネギは、視線をゴルバットに向ける。
「身内が随分と世話になったで御座るな。」
「・・・減らず口を。」
ゴルバットのエアカッター!
「疾ッ。」
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サンッッッッッッ!!
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カモネギは迫りくるエアカッターを自前のネギで一閃した。
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「何!?ネギごときで俺の技を!?」
「やれやれ、話の途中で横槍とは、躾がなっていない子童で御座るな。」
カモネギがネギをひと振りし、戦闘態勢をとり、構えた。
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「お仕置きが必要で御座る。」
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「ぬかせ!」
ゴルバットのエアスラッシュ!
「疾ッ。」
またしても、カモネギは風の斬撃をネギで払い退けた。
「拙者に飛び道具は通用せぬ。」
カモネギはネギを右手に持ち替え、峰を左手で沿えるようにして構える。
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「深谷一刀流・・・!」
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風が靡いた。
そして、止む。
そこには、カモネギはいなかった。
ゴルバットは辺りを慌てて見回す。
その僅かな時間、段々と、風の音が大きくなってきているのが理解できるゴルバット。
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「根儀魔亜血(葱マーチ)。」
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声の主の方を向くゴルバット。惜しくもカモネギはゴルバットの真後ろにいた。
しかし、ゴルバットが気づいた時には、身体に幾田の斬撃が、傷が、血飛沫が、断続的に増えていく。
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ズババババババババババババハ!!!!
「ぐわああああぁぁぁぁ!!?」
ゴルバットは倒れた。
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「・・・他愛もない。」
ネギを背に仕舞うカモネギ。
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「・・・・・・すごい。」
「修行の賜物で御座るよ。拙者はまだまだで御座る。」
「いやいや、チートだと思う。」
ピカチュウはフラフラしながら、カモネギに近寄る。
「ありがと、助けてくれて、今ちょっと大変な事になってるの。」
ピカチュウは事情をカモネギに説明しようとする。
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ケケケ、
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メタモンはゴーストに変身した。
ゴーストのシャドーボール!
ドゴンッッ!!
カモネギの背後に直撃した。
「カモネギ!?だいじょうぶ!?」
「有無、平気で御座る。・・・・・・・・・あの程度ではくたばらぬか。」
斬り倒した筈のメタモンは、隙を伺ってゴーストの姿に戻り、カモネギに気づかない角度からシャドーボールをぶつけた。
「ケケケ、なんで効いてねぇのか知りてぇんだが。」
「・・・拙者は飛行の他、無の属性も兼ねている。霊的な技は拙者には効かぬ。」
「ケケケ、そいつは盲点だったぜ。てめぇ強ぇな。なんだその深谷一刀流っつーのはよ?」
「・・・他人に教えられる程、モノを修めておらん故。」
「ケケケ、じゃあ、勝手に調べるぜ。」
ゴーストは再び姿を変えた。
今度はカモネギの姿だった。
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「ケケケ、・・・・・コイツは興味深ぇな。深谷一刀流。カントー地方より北西、てめぇはそこのサイタマの霊地に迷い込んだ。そこにいた人間共は、昔から退魔に長けた一族で、霊峰である総本山を拠点にして過ごし、てめぇも混じって修行したっつー訳か。その後は・・・、遥か西で武者修行。ハカタ?シモニダ?イワツ?色んな処へ行ってやがるな、ケケケ・・・!」
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「・・・驚いたでござるな、その能力は姿形の他に、記憶も写生するのか。」
「ケケケ、それだけじゃねぇ。」
敵カモネギは自身のネギを両手で構え、地面を蹴り上げてピカチュウ達に迫る。
「ケケケ!深谷一刀流奥義〜!」
「ピカチュウ殿!離れてまいれ!」
「うわわわ!」
ピカチュウは殺気を感じ取り、後退した。
敵カモネギはネギを振り上げ、超高速で移動してカモネギの間合いを詰めた。
「葉常刈(初音借り)!!!ケケケ!!!」
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ドッカアアアアァァァァァンッッッ!
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敵カモネギが、ネギを振り落とした際の衝撃は凄まじく、地面のコンクリートは砕けちり、爆風が生じる。
「ケケケケケケ!!コイツは凄ぇ!!」
カモネギは、詰め寄られた間合いを一度離し、一旦距離をとっていた。
「てめぇがどんだけ強かろうがよ、俺の変身能力は完璧だぜ!俺とてめぇの能力の差はほぼ0だ!戦っても体力が浪費するだけだぜ!ケケケケケケケケケ!頭の中でてめぇの技が沢山溢れてきやがるぜ!!」
敵カモネギは狂喜に満ちた顔で嘲る。
「試してみるで御座るか?」
泰然と態度を崩さないカモネギ。
「・・・ケケケケケケ!!深谷一刀流奥義〜!!」
敵カモネギは、右手にネギを持ち替え、右腰に柄を当てた。
そして、バチバチと電気が練り上がる。
「え!?ネギから電気が!?」
驚くピカチュウ。
溢れ出る電気は、ネギから自身の敵カモネギにまで伝わる。漏れた電流が青白く弾けるように光る。
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そして、敵カモネギの姿が消えた。
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・・・閑散とした空気が流れる。
ピカチュウは、辺りをキョロキョロして、敵を探している。耳をヒクヒクさせて索敵しても、気配こそするが、全く探知できない。
一方、カモネギはというと、目をつむり、ネギを逆手にして持っている。
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・・・一向にして姿を現さないと思ったその矢先。
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「利根氾濫(とねはんらん)!!ケケケ!!」
激しい雷の音と共に、ピカチュウの背後にやってきた敵カモネギは、ピカチュウを狙って、電気の斬撃を浴びせ 「温い。」
「なっ!!?」
カモネギ居合斬り!
ズバッ・・・・!!!
「がっ・・・・は・・・ぁ。」
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敵カモネギは吹き飛ばされ、壁にたたき付けられた。
「・・・な、なぜだ・・・なぜ・・・俺とてめぇは・・・互角のはず・・・。」
「・・・互角か、・・・それは技量と努力の差で御座ろう。この深谷流の奥義は、技の為だけににあるのではない。幾年も修行を重ね、己の心と闘うので御座る。故に、自分の技の欠点や隙ぐらい、熟知済みで御座る。」
「だがこの力の差はなんだ・・・・!」
「・・・恐らく、この得物で御座ろう。」
カモネギは、自身が握っているネギを敵カモネギに見せた。
「・・・!・・・そういう・・わけか。」
「いくら変身能力が優れていようと、この唯一無二の『神楽』は写生できまい。」
カモネギが呼ぶ『神楽』という得物。それはサイタマにて伝承された、戦闘用のまがまがしい気を放つ特産秘刀(ネギ)だった。
敵のカモネギの姿が解けていき、メタモンの姿に戻った。
メタモンは倒れた。
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「ピカチュウ殿、もう平気で御座るよ。」
カモネギがピカチュウを呼ぶ。
「う、うん。っつーか、アタシ近づいてもへーきかな・・・。」
底知れないカモネギの戦闘力にたじろぎながら、恐る恐る近づくピカチュウ。
「いやはや、それにしても驚いた。かけつけたと思えば、ピカチュウ殿が満身創痍で敵が貴殿に銃を放とうとしていたとは。間一髪で御座ったな。」
ピカチュウは思い出したのだろう、俯いてふるえていた。
「おなごの顔に傷をつけるとは、なんと卑劣窮まりない。女の敵で御座るな。」
「・・・・・・・・・へ?」
ピカチュウはぽかんとした表情でカモネギを指す。
「あれ、カモネギさん・・・女の子?」
「有無、純情なる乙女で御座るよ。」
「(なんか似合わないなぁ〜。)」
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「あ、カモネギだ。どしてここに?」
「あ!ディグダ!身体は?ムリしゃだめだよ!」
気絶していたディグダは、カモネギの存在に気づくと、フラフラと近寄ってきた。
「ディグダ殿か、ルナ殿が心配している故、探しにきたのだぞ。」
「そっか・・・(ルナ、心配してるだろーな・・・・。)まあ、この状況見たら解るだろうけど、今僕ら大変なのよね。」
「有無、大方状況は把握した。敵がポケモンを盗んで街を抜けようとしているのを阻止しているので御座ろう。」
「へ〜、誰かから聞いたの。」
「それよりディグダ、カモネギさんすっっっごく強いんだよ!あの強かったメタモン達を簡単にやっつけちゃったんだよ!このネギで。」
「ネギで?ネギで倒せるの?」
「深谷流は武器を選ばぬ故に。」
「へ〜。」
「ねぇ、アタシにもやらせて。」
ピカチュウはカモネギのネギを手に持った。
カモネギは倒れた。
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「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」
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カモネギはヒクヒクと痙攣しながら、ぜいぜいと息を切らしていた。
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「「ぇぇええええええええええ!???」」
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「・・・ふ・・・不覚。」
「えぇ!?どうしちゃったのカモネギさん!?」
「凄い、ピカチュウがカモネギを倒した。」
「違うわよ!アタシのせいじゃないって!」
「・・・せ・・・拙者、秘刀である『神楽』を携えてからというもの・・・・・・一度でも手放すと・・・・・・・力が入らないので御座る・・・・。」
「ええぇ!?なにそれ!?」
「やっぱピカチュウのせいじゃん、勝手にネギ取るから。」
「う、うるさい!・・・ご、ゴメンねカモネギさん。」
「・・ぜぇぜぇ・・・・、ネギを・・・早く拙者にネギを・・・・・・死ぬぅ・・・・・。」
「わ、解った!」
「麻薬中毒者みたい。(呪われた装備より質が悪いな、そのネギ。)」
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その時。
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ハガネールのアイアンテール!
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ハガネールの鋼鉄の巨大な尾がピカチュウ達を薙ぎ倒そうとする。
ピカチュウはカモネギを抱えてかわす。
ディグダも潜ってかわした。
「・・・び、びっくりした。」
「・・・かたじけない、ピカチュウ殿。」
「ななな、何だお前は!」
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目の前に立ちはだかる巨大な鋼鉄のうわばみ、ハガネールがピカチュウ達を見下す。
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「さっきのはなかなか効いたぞ。だが貴様らは、倒したかどうかを確認しないのか。」
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「・・・さっきの・・・ゴルバットなの?」
ピカチュウが声をかける。
「相棒がやられたか・・・。」
壁に疼くまっているメタモンを一瞥し、ピカチュウ達に視線を戻す。
「あいつの変身能力は、相手の記憶さえもコピーする。だが、俺は今まで見たポケモンなら何時でも変身できる。」
ハガネールが尻尾を高く上げて構える。
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「・・・死ぬがいい。」
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「うわわわ、来るよピカチュウ!」
ディグダは慌てる。さっき避けたのが精一杯なのか、焦燥に駆られていた。
「カモネギさん!ほらネギ持たせたよ!あんなやつやっつけてよ!」
ピカチュウはネギをカモネギに握らせる。
「・・・・面目ない・・・一度得物を離すと・・・・・・持ちはじめて10分経たぬ限り・・・・力が戻らないので御座る。」
「え・・・・・えええええぇぇ!!?」
「ピカチュウのばっきゃろー!!」
「ふ・・・・・深谷流は・・・・武器を選ばない・・・。」
「選ばないっつーか、完璧にとり憑かれてるよね!?そのネギ!?」
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「・・・俺はこんな鳥ゴトキにやられたのか・・・・・?」
怒りに身を震わせるハガネール。
「いい加減くたばれ!!」
ハガネールのアイアンテール!
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ドゴオオォォォォーーーーンッッ!!
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