マサラタウン
「ルナはファミコンをしている。・・・よーし、そろそろ出掛けよう。」
.
私は階段を下り、1階にいる母が私に話し掛ける。
「そうよね、男の子はいつか旅に出るものなのよね。」
母さん、私、女ですけど。
そのまま家のドアを開けて外へ出る。
野原や花が広がり、懐かしい風が吹き渡る、真っ白な町。マサラタウン。
私は、誰にも促されることなく、自分の強固な意思にも関係なく、ただただ自然と、足を北へと進めて行った。
.
私は、どうしてここにいるのだろうか。
.
今まで、どこで、何をしていたのだろう。
.
ただ覚えているのは、壮大な暗い意識の中で、海に浮かび波に運ばれるように、時の流れを感じさせない、永い永い旅をしていた事。
.
気づいた時には、私に名前が付けられた。
.
ふと見ると、身体が構成されていた。
.
いつの間にか、私には自我が芽生えた。
.
何が目的で生かされているのか分からない。
.
ここがどんな世界なのか知る由もない。
.
ただ、
.
私は世界へと与えられた。
.
私は生きていく。生きていく。
.
生きていく、この世界の、どこかで。
.
.
「お〜い!まて!待つんじゃ!」
草むらに入った私を老人が呼び止める。
「危ない所じゃった。草むらには、野生のポケモンが飛び出す。」
・・・ぽけモン?
「こちらもポケモンを持っていれば戦えるのじゃが・・・・・そうじゃ!ちょっとワシについて来なさい。」
老人は私を連れて町中へ進む。
私は足を止めた。
「どうした?」
「・・・・知らない人に・・・ついていくのは・・。」
「おぉ!これは失礼。ワシの名はオーキド。ポケモンの研究をしているジジイじゃよ。ポケモンを持たずに外を歩く者を見て放ってはおけん。この先にある研究所に来なさい。」
「・・・ルナです。」
「るな?・・・ほぉ、君の名はルナというのか?よろしくの。」
私は、研究所の中へと入った。
「じいさん、まちくたびれたぞ!」
「おお、グリーンか、ちょっとそこで待っておれ。・・・ほれ、ルナこっちじゃ。」
私は研究所の奥の部屋にやってきた。さっきのオーキドさんに、知らない茶髪の男の子がいる。机の上には、赤白のボールが3つあった。
「さて、ルナ!そこに、3つのボールがあるじゃろう。そのボールのなかには、ポケモンが入っている。ワシも若い頃はバリバリのトレーナーとしてやってきた。いまは3匹しかいないが、残りをお前達にやろう。さあ、選べ。」
ポケモンとはなんだろうか?
私は3つのボールを見つめていた。
「あ、ずるいぜじいさん!俺にもくれよ!」
「慌てるなグリーン。お前も好きな物をとれ。」
私はグリーンという男の子に視線を向けた。
その子は、こっちに気づくと、しばらくして俯くように目を逸らし、ボールの机に近づいていった。
私も机に向かう。
「・・・見ねえ顔だな?引っ越してきたのか?」
男の子はボールを手に取りながら私に尋ねる。
「・・先月から」
「そうか、ルナっつったか?俺はグリーン。ルナはどれにするよ?」
聞かれたが、ポケモンというのがサッパリイメージがつかないから、答えようがない。
「何が入ってるの?」
逆に聞き返して見たりする。
「そうだな!出してみるか!」
グリーンは、3つのボールを出した。
中には、フシギダネ、ゼニガメ、ヒトカゲが出てきた。
「よし!俺はヒトカゲだ!」
グリーンはヒトカゲを選んだようだ。
残るはフシギダネとゼニガメ。
私はポケモンと聞いて想像してたのが野獣的な獰猛そうなモンスターで、イメージと裏腹に、全く予想外な容姿をした不思議な生き物を垣間見た瞬間だった。
「可愛い・・。」
私はフシギダネの顎をしゃくる。
フシギダネは気持ち良さそうに目をつむる。と、同時に、背中のはっばの中から良い香りがしてきた。
「いい香り・・」
「フシギダネは感情を花粉で飛ばして表現すると言われておる。ソイツは育てやすいぞ。」
・・・・私のパートナーはフシギダネに決まった。
.
私はオーキドさんにお礼をいい、外に出ようとすると、グリーンに止められた。
「おいルナ。折角ポケモン貰ったんだ。ちょっとバトルして慣らしとこーぜ。」
「・・・?」
バトルの意味が分からず、私は首を傾げる。
「競争でも、するの?」
「へ?お前、ポケモンバトルとか見たことねーのか?」
「・・・(コク)」
グリーンは、少しどぎまぎした感じになり、私の手を引いて外に向かって歩いていく。
「じゃ、じゃあ俺が手本見せてやるよ!知らない奴と張り合っても仕方ねーしな。だけど一回しか見せねーから良く見とけ。」
私はグリーンと草むらへと歩いて行った。
「・・・くくく、アイツもわかりやすいのう。」
.
私は、1番道路でグリーンの戦いを見ていた。ヒトカゲがコラッタに連続引っかくで勝った所だ。
「ルナ。どうだ?分かったか?」
「・・(コク)」
「よし、じゃあ俺は先に行くぜ。もっと戦って、もっと強くならねえとな。じゃーなバイビー!」
「うん・・・ありがと・・・。」
バイビーか・・・、かわい・・。
私はなんとなくだがバトルの要領が分かった。野生のポケモンが現れたら技を繰り出させ、相手をやっつければいい。
.
私とフシギダネはトキワシティへと進んだ。(フシギダネは、ボールから出して一緒に歩いてる。・・・だって・・・アロマがいい香りだから。)
そこへ、野生のポッポが現れた。
確かここで、技を命令することを思い出す。
「・・・ひっかく。」
「ダネ!?」
フシギダネは困惑した。
ポッポの体当たりでダメージが蓄積され、フシギダネが段々弱っていく。しかたない・・・
ガシッ!
私はポッポを空中でダイレクトキャッチした。
「ポォ!?」
そのままバックをとり、スリーパーホールドをきめる。
「ポポポポポポォー!!?
ポッポは苦しみもがいている。
「・・・あんまりいじめないで。」
私もいじめているけど。
私はポッポを解放し、逃がしてあげた。
.
技が違うのだろうか?確かにグリーンは引っかくで攻撃させていた。
ということは、ポケモン毎に得意な技不得意な技があるのだろう。
「フシ!」
フシギダネも頷く。ホントらしい。
「・・・この子は何が得意かしら。」
フシギダネの前脚を触ってみる。確かに爪はあるが、ヒトカゲ程ではない。4本足の生き物が武器として使う身体の一部といえば・・・。
私は、フシギダネの口の中をみて確信した。小さいが鋭く尖った牙が4本・・・。
.
野生のポッポが現れた。
「・・・かみつく。」
フシギダネの連続かみつくで勝利。
「初めて勝った・・。」
フシギダネはレベルが上がった。
.
トキワシティに着いた私は、フレンドリィショップへ向かう。傷薬を買うために。
店内に入ると、店員から荷物の配達を依頼された。宛先は・・・オーキドさん。
「傷薬・・・下さい。」
「オーキド博士によろしくね。」
・・・・・。
.
元来た道を歩み、マサラタウンへ戻ってきた。その間にも、フシギダネは強くなってきている。
「・・・オーキドさん・・。」
「・・・おぉ!ルナか、気づかんかったよ。ワシも年じゃ、最近耳が遠くて敵わなん。」
「・・おとどけものです。」
私は依頼の荷物を手渡した。
オーキドさんからお礼の言葉を受け、グリーンが帰って来た。私がいることに驚いてた。
オーキドさんから渡されたのは、赤い色の図鑑だった。
「ワシの代わりに夢を叶えて欲しい。」
「よーし、解った。全部俺・・ゴホン、俺達に任しとけ。」
.
私達は、研究所を後にして、再度旅にでる。
「ルナ、やるよ。」
「・・・?・・・・・これは?」
「タウンマップ。俺んち2枚あるから、ついでだよ。別に変な思い入れなんかねえかんな!」
そういって、グリーンは鼻を啜りながら先へ行ってしまった。
.
私も先へ進もう。
この旅が、図鑑を完成させる為になるのか、どんな結果を齎すのか分からない。
何のために先へ進むのか?
グリーンは強くなるために。
私は何の為に道を行くのだろう。
何かの運命なのか、何気なくこの町に引き寄せられた私は、ポケモンを貰い、旅の選択を余儀なくされた。
夢も、意思も、希望も。何もない私が出来る事。立ち止まる事も出来るけれど、色んな場所へ向かえる自由。
そう、自由を与えられた。
この広い世界で孤立するかのように置いていかれた私は、自由しか携えていなかった。なにかの運命的なレールもなく、導きの糸もなく、人生のゴール地点は愚か、スタートも見えなかった。
そして、フシギダネを与えられた。
私達の言葉を理解する生き物。この世界で生きる為に必要不可欠なパートナー。
これから何を成し、何が起こるのか分からないけれど、じっとしているのは、私の性分に合わないみたい。
ほんの散歩気分で、この世界を旅してみたい・・・・・と、思う。