ヤマブキシティ(1)
ルナside
私とカスミはクチバシティへ向けてフィールドを歩く。
育て屋を通過し、ヤマブキシティを経由して、クチバシティへ向かう。
ヤマブキの関門に差し掛かった所だった。
「あー、悪いけど今、通行止めだよ。」
黒い制服を着たガードマンが、道を塞いだ。
「何でなのよ!?どっか工事してんの?」
「地質監査や測量等、シルフカンパニーによる立ち入り調査が始まり、部外からの立ち入りが規制されています。期間は未定です。詳しい内容については、明日の報道で公表されると思うので・・・。」
「私達、別にヤマブキには用はないのよ!クチバシティに行きたいだけなんだから通しなさいよ!」
「地下通路をご利用下さい。」
「なんであんな薄暗いゴミだらけのトンネル歩かなきゃならないのよ!?」
「・・・・・・・。」
カスミはしぶしぶ、もと来た道に戻る。
私はというと・・・・・。
関門の脇に沿って、街を囲う巨大なフェンス。
フェンス沿いに歩いていき、少し朽ちている場所を見つける。
丁度、小さなポケモンが通れそうな隙間が、地面とフェンスの間にあった。
「・・・・・ディグダ。・・・穴を掘る。」
「ディグ!」
ズボボボボボ・・・!
ザクッ!ザクッ!
・・・通り穴、完成。
「・・・・・前進。」
「ピカァ!」
「ディグ!」
「待てぃ!」
カスミの反抗。
「さっき入るなって言われたばっかでしょーが!しかも、フェンス潜って抜けるなんてどんだけ緻密侵入よ!?」
「・・・・・大丈夫。・・・ばれたら・・・逃げる・・。」
「そーゆー問題なの!?ばれたら逃げるの!?」
何より、入るなといわれたら・・・・、入ってみたくなるのが人間。
「・・・いこ。」
私を筆頭に、ディグダにピカチュウは元気よく後に続いた。
「・・・・・・・・ダネダネ・・。」
「・・・アンタも大変ね。」
「フシ・・・(もう慣れた・・・)。」
.
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ヤマブキシティ。
北の関門から入り、クチバの港へ向かう道へ行くには、南の関門を目指さないといけない・・・。
・・・街中って・・・意外と歩く・・。
コンクリートやタイルで舗装された道を長く歩くと、かなり足に負担がかかる。
「ルナ、ちょっと休まない?」
カスミが痺れを切らせて言う。歩き疲れているのはカスミも一緒だった。
「・・・・・(コク)。」
私達は、休憩所のベンチに腰掛ける。
カスミが大きく息を吐き、足を投げ出してリラックスしている。
「何よあの警備員、工事とかなんとか言い訳つけちゃって。なんにもないじゃないの。」
「・・・・・・でも。」
「・・・ええ・・・奴らよ。」
カスミが奴らと代名しているのは、この街中にウロウロ徘徊している、黒ずくめの集団。・・・忘れる筈もない。
「街の人達も何も言わないわね?どうしてかしら?」
黒い服装で身を纏う人達のユニフォームに、でかでかと『R』のイニシャルがプリントされている。
街の人達は、彼等とすれ違う度に目を逸らし、距離をあけたり、道を譲ったりしていた。その挙動はおどおどしく、まるで弱みでも握られたかのような関係に見えた。
「街のあちこちで見かけるわね、あいつら。」
「・・・危ない?」
「そりゃそーよ。警察も一切動いてないし、他所の街だったら大騒ぎよ。・・・何か怪しい感じね。」
「・・・街の人、外へ出られない?」
「ロケット団、街に圧力かけてるとしか思えないわ。ニュースにもなってないし、人を出入りさせてないし、・・・当然連絡手段も・・・ね。」
・・・?
・・・電話とか無線とかモールスとか、周りに助けを呼ぶ手段はあると思う・・・。
「多分脅しかしら、周りに何かしらのアクションを起こせば、暴動を起こすとか。」
・・・・・・なるほど。
「・・・・・目的は?」
「さあね?ロケット団なんて所詮、ポケモンを金稼ぎの道具に使う、しょーもない連中だし。」
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・・・!?
・・・・・・・後ろ・・・!
私は咄嗟にカスミの肩を抱き、前にのめり込むように飛んだ。
「きゃあ!?」
バチッ!!
レンガの舗道に倒れ込む私とカスミ。起き上がって後ろを確認した。
「俺達がなんだとぉ?ゴラァ!!」
スタンガンを遊ばせ、電流をただ流しする黒ずくめの二人組の男。
私達の会話を聞いていたのだろう、怒りをあらわにし、今にも襲いかかりそうだ・・・。
「あ、あ、ありがとうルナ・・。」
もう少し遅ければ、首元にスタンガンを当てられてやられていた・・・。
おそらく足音を殺して背後から近づいてきたのだろう。
・・・そういう事に関しては専門のロケット団から、私は気配を感じ取れた。
「チッ、らしくもねぇ。じっとしてりゃ、楽に眠れたのによぉ!」
スタンガンをバチバチと鳴らして威嚇する男。
カスミは恐怖のあまり、ビクビクと畏縮し、私の後ろにひっつく。
「よく気付いたなぁ、クソアマ共。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・風が止んだから・・。」
「ああ!?」
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.
バチバチバチバチバチバチィィァ!!!!
「「ぐわわわあああぁぁぁ・・・!!」」
男達は、黒い煙を上げて、その場に倒れ込む。
「ピカ!」
「・・・ナイスタイミング。」
ピカチュウを二人組の後ろへスタンバイさせ、気絶させる程度の電流を流した。
「・・・ほら、カスミ。」
私はカスミの手を引き、この場を去ろうと足を早める。
「む、無茶苦茶するわね・・・、アンタ・・・。」
カスミは二人の屍(?)を目尻に置き、騒ぎになるまえに早々に逃げ出した・・・。
.
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南関門に差し掛かる前、近くの電気屋のテレビで緊急速報が流れる。
「何かしら?市内のニュース?」
「・・・・。」
私とカスミは、足を止めてテレビを見る。
「速報をお伝えします。株式会社シルフカンパニーの社長兼市長○○氏は、市内における更なる地質検査に乗り上げ、第二行程に進む方針を述べています。
また、都市開発に関する予算会議の議決を急ぐと共に、早急な対策を執行する事を述べています。
同時に、ROCKETSワークスとの関係を・・・」
・・・ざわざわ
・・第二行程ってなんだ?
よっぽどの事情や許可無しに、ヤマブキから出られねぇのさ。ふざけやがる。
・・・製品を作る会社が、急に土地を占めるなんて・・・。
・・・・なんかにおうな。
・・・ROCKETSワークスって?
しらね、でも製品開発に長けてて、契約を持ち込んで来たのは向こうらしいからな・・・。
・・・・最近ウロウロしているの、ロケット団だよな?・・・ROCKETSワークスって名乗ってるけど・・・。
また税金が増えるのか・・・。
デモ隊が増えたんじゃね?
・・・いや、シルフカンパニーにロケット団が張ってて、迂闊に入れないらしい。・・・でかい顔でふんぞりやがって。
・・・・合併も時間の問題だな。
・・・あくまで噂だよな?
表沙汰には出来ない理由があるんでしょう。周囲との干渉を極力避けています。
・・・・・ロケット団には関わらない方がいい、問題起こしてシルフカンパニー敵に回すような真似してみろよ、タダじゃ済まないぜ。
「「・・・・・・・・・。」」
「続けて速報です。ROCKETSワークス所属の社員が昼頃、中区の休憩所にて何者かに襲撃され、軽傷を負わされる事件がありました。目撃者に証言では、社員に対して都市開発に対する不平を弁舌した後、手持ちのポケモンで暴行を加えたとして、殺人未遂の事件として操作を進めています。シルフカンパニーも捜索の意志を示しています。犯人の特徴は、今のところは10代の少女二人組だということしか・・・・・・。」
私とカスミは逃げ出した。
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私は人の目につかない場所に目をつける。周りはコンテナ置場で、ヤマブキの境界線であるフェンスがあった。
・・・ここから出て、クチバに行こう。
「何なのよ!さっきのニュースは!?」
カスミが高らかに叫ぶ。
「・・・・・・間違ってはない。」
「アンタバカ!?被害者は私達の方よ!?何で加害者扱いにされなきゃならないのよ!!」
「・・・・当分・・来れない。」
「た、確かに悪口は言ったけどさ、でないと私達が危なかったわよ。おかしいじゃない、何でスタンガン持ってるような奴の会社とシルフカンパニーが手を組んでるのよ!?」
「・・・・・・とにかく、出ないと。」
ディグダを出し、穴を掘らせようとするが・・・。
ブーーーーーーーーー!!
「・・・・・セコム?」
「ど、どうすんのよ!?見つかっちゃうじゃない!」
・・・予想外。このままだと追っ手が。
・・・・・でも逃げ道は出来た。
「・・・一か八か・・・・やる?」
「へ?」
.
.
30秒後。
ロケット団数名がセコムの警報を聞き、確認に来た。
「ちっ!街の奴に逃げられたか?」
「探せ!絶対にこの近くにいるはずだ!」
「・・・!・・・おい、フェンスの上。」
「ん?・・・野生のピカチュウか?フェンスの上からこっちに渡ってくるぞ。」
「あ〜あ、あれにセンサーがかかったのか?」
「お、入ってきた。コンテナの方に逃げたぜ。」
「よし、俺がゲットしてやる!」
「いや、俺だ。」
「抜け駆けすんじゃねぇ!」
ロケット団は、ピカチュウを追って、コンテナ置場へと走っていった・・・。
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「囮作戦、成功。」
ピカチュウの影分身で、侵入したそぶりを見せ、コンテナの中まで行って姿を消す。
「私のゴルダックの催眠術でもよかったのに・・・。」
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森を抜け、道に出て、トレーナーと戦い、海が見えた。
海の次には、真っ白な港に大きな船が浮かんでいる。
あれがサント・アンヌ号だろう。
「うっわ〜!楽しまなくっちゃ!」
潮風が鼻をくすぐり、暖かい南風が頬を優しく撫でる。
ヤマブキの淀んだ空気とのギャップもあってか、今ではおいしく感じた。
もうすぐクチバシティ。
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「・・・・・・・・カスミ。」
「え?」
「・・・耳貸して。」
私は周りに聞こえない声量で、カスミに耳打ちする。
追っ手が来ていることを・・・。
ロケット団下っ端 side
・・・やっぱりね。
あのピカチュウは囮だった。
フェンスの下の地面が周りと微妙に違うと思って捜索してみたら・・・、見つけたわ。
「先輩の言った通りッスね。同僚を襲った連中って、あいつらで間違いないッスよ!」
馬鹿な下っ端共は、今頃コンテナでウロウロと立ち往生してるでしょうね。
「・・・しかもあいつ、ハナダのジムリーダーよ。」
「上部に報告しますか?」
「いえ、私達でやるわよ。ヤマブキから出しちゃいけない事になってるし、ついでに私達の功績も上げてから報告しましょ。」
「くくく、解りました。」
目標は前方50メートル。向こうはまだコチラに気付いていない。
「いい?いつもの手筈で。」
「了解、プリンのハイパーボイスからのスピアーの毒針ッスね。」
そう。私のプリンが野生を装い、人懐っこく目標に近づく。そいつらが油断したところでハイパーボイスで奴らの動きを封じる。当然耳をやられたから、スピアーの接近に気づかずにそのままグサリと。
今までこの作戦が面白いように成功してきたため、信頼性が高い。
さっさと始めますか。あいつらも・・・・・・。
「・・・・・・・・・・?」
「どうしたんスか?」
「・・・霧?・・・夕方よ?」
目の前に立ち込めてくる白い靄。段々と濃くなり、次第に周りが見えなくなる。
「どうなってんスか!?」
「しっ!」
・・・わざわざ迎え討とうっての?
・・・・・ガキのくせにナマね。
「バリヤード!出てきなさい!」
私はバリヤードを出す。
「何でバリヤードを?」
「念には念よ。」
霧が二人を包み込み、静寂が辺りを支配する。
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・静か過ぎる・・・。
霧に重なって映える夕焼けが、散りばめられた宝石のように映って見える。
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・ゴゴゴ。
「・・!バリヤード!守る!」
バリヤードは守る為に壁を精製する。
その瞬間、地面が大きく揺れた。
「うわ!?」
「下か!」
地面を見下ろすと、ひび割れて足場が悪くなった地盤の中に、その揺れの原因であるディグダが現れた。
「出てこい!スピアー!」
部下がスピアーを出す。
「ダブルニードル!」
ディグダに対して攻撃を命じたが、既にディグダは土の中。
やってくれるわね、突然の霧で注意が周りにいっている最中に、まさか地面から仕掛けるなんて・・・。
「バリヤード!未来予知!」
「バリ!」
未来予知を使って、標的の居場所を突き止める。・・・私に盾突いた事、後悔させてやるわ!
ダブルバトル、開始!