ハナダシティ(5)
カスミ side
「・・・・・やるわね。ホント。」
私はシャワーズをボールに戻す。
「・・・ふぅ。・・・あ〜あ。何かスッキリしちゃった!!」
私は笑顔で脱力する。
「私、今まで何カリカリしてたんだろうな・・・。」
両肩を回して、リラックスする。
「・・・知ってる?ジムリーダーって、就任した際には、これらのポケモン以外を使ってはいけません、ていう規律があるの。」
私は、次のボールを取り出す。
「本来なら私が使うのは、ヒトデマンとスターミー。
オマケに、強さの規制もされて、基準のパワーを超えると、違うポケモンに取り替えられるの・・・。」
私はボールを投げた。
「・・・グリーンって男に負けて、帰り際に『たいした事ねえな』って・・・。
・・・・・私、何してんだろって気持ちになってね、
ジムリーダーになった自分が・・・だんだん惨めになってきて・・・。」
私はスターミーを出した。
「それから、ジムリーダーの規律破って、私の自慢のポケモンで、相手がベテランだろうが新米だろうが、全部叩き潰していったわ・・・!
それでも、イライラが募るばかりだった。」
私はルナを見つめる。
「協会から注意受けるわ、試合に勝っても嬉しくないわで、・・・挑戦者って、勝ち負けにこだわるじゃん?
・・・・・だから、私が勝っても、向こうは落ち込んだり、文句ばっかり言ってくるもんだから・・・。
今日、ホントはジムリーダーも、ポケモントレーナーも、辞めるつもりだったの。」
カスミは微笑んだ。
「そしたら、アンタが入り口にいたから、
・・・最期にと思って誘おうとしたら、
・・・アンタのギャラドス見て、・・・胸の奥底から、・・・・・昔は確かにあったあの気持ちが。
やる気、闘争心、昂揚感が溢れてきて。
・・・初心の頃に戻れて、何も気にせずにアンタに全てをぶつけたわ・・・・・。」
私は俯く。
ルナ。
今、楽しい。
今、すっごい楽しいの。
アンタ、すっごいワクワクするわ!
「・・・ポケモンバトルって・・・・・こんなに面白かったんだぁ・・・!」
・・・・・?・・涙がでてきた・・・・・
「・・・グスッ・・・・!
・・・・・ありがと・・・・!
思い・・ださせてくれて・・!
・・・もう、・・辞めるなんていわない・・・・・!
・・・・・アンタに会えて・・・良かった・・・。
ルナ Side
私の頭の中で渦巻く、ささやかな疑問。
カスミは本当に楽しそうにバトルをしていた。
・・・私のお陰だと、感謝された。
涙が出るほどの嬉しさ。相手からひしひしと伝わってくる。
私は、ただ、気まぐれに旅をしていただけ。
求めず、求められず・・・。
・・・でも、カスミに笑顔を向けられた時、心の底から、暖かな感情が芽生えた。
・・・初めて、人の為になれたと実感した。
・・・この旅で、私は誰かの助けになれた。
私はここにいる理由。
きっと
この世界で、多くの何かと出会うため、
多くのつながりをつくるため、
そういった目的なのかもしれない。
・・・私が成すべき事を成す時って・・・、ひょっとして今なのだろうか・・・?
グリーンの時も、
この子達の時も、
ロケット団の時も、
そして今、カスミとバトルしている。
私は、思い切って、聞いてみた。
「・・・・・カスミ。・・・私と闘う時、・・・どんな気持ち?」
カスミは、涙で濡れた顔をゴシゴシと擦り、私に言った。
「最高に面白いわ!私、燃えてきた!」
カスミは笑う。
「アンタと戦うとワクワクするけどね・・・。」
カスミの顔が真剣になる。
「アンタには勝つわよ!絶対!」
・・・!
あの顔だ・・・!
今のカスミの表情は、グリーンがバトルでよく見せる表情とダブって見えた・・・。
バトル再開。
「スターミー!スピードスター!」
ピカチュウに命中する。
かなり威力が高い・・・。
私はピカチュウに傷薬を与える。
「影分身で避けても無駄よ!スピードスター!」
スターミーは、星屑をピカチュウに目掛けて降らせる。
「・・・10万V・・!」
避けられないなら、当たって砕くまで・・・。
ピカチュウは、スピードスターを身体に受けながら、スターミーに目掛けて強大な電気を放つ。
「スターミー!守る!」
スターミーは、守りの結界を張り、ダメージを避けた。
ピカチュウは、力尽きて倒れた。
「ルナ!ポケモンはあと何体いる!?」
「・・・・2」
「奇遇ね、私もスターミーを入れて後2体しかいないわ!」
お互い2対2のバトルということになる。
私はディグダを繰り出した。
・・・非常食は・・・、最後のボス・・・。
「スターミー!水の波動!」
「・・・穴を掘る!」
ハナダジムでの激戦は、後半に持ち込まれた・・・。
カスミとのバトルは、夕刻を回る勢いで長引き、両者引きを取らない戦いだった。
スターミーの水の波動の連続攻撃を、潜ってかわすディグダ。
ディグダは、身を潜めながら隙を伺い、マッドショットで狙う。
素早さで勝っているディグダは、敏捷性を生かし、絶好のタイミングでスターミーに攻撃を当て、ダメージを蓄積する。
「スターミー!自己再生!」
スターミーは体力を回復する・・。
地道にダメージを重ねて倒せる程、甘くはない事は重々承知だが、下手に攻めるとやられてしまう・・・。
相手は水タイプ・・・。ディグダの地の属性では、相性が悪い。
・・・?
私は、ニビシティでのグリーンのバトルを思い出す。
あのグリーンでも、相性最悪という条件下の中、逆境に打ち勝ち、粘るに粘って勝利した・・・。
・・・・粘り強く・・。
「・・・ディグダ、すなかけ。」
ディグダのすなかけでスターミーの命中率が下がる。
「水の波動!」
バシャァ!
所が、運悪くスターミーの水弾を食らってしまった。
ディグダはフラフラしている。
私は、いい傷薬をディグダに使う。
「普通のディグダなら一発でアウトの筈なのに・・・!」
カスミは、私のディグダの気力に圧倒した。
「ディグ!」
ディグダ Side
「ちくしょ〜!水なんかぶっかけやがって!」
ボクは頭にきている。
「でも、あの時に比べれば・・・。」
自分の住み処を襲った災害。
土砂崩れで逃げ場を失い、押し寄せる海水に恐怖した過去。
「・・・ボクは強いんだ・・!家を失ったって・・・、ちょっと死にそうな目に遭ったって・・・、いくらでも立ち直ってやるさ・・・・・・・・・でも・・・!」
ボクは歯を食いしばり、相手を見据える。
「・・・その水のせいで・・・兄弟離れ離れになったと思うと・・・・・!!」
ボクは少しずつ、もどかしさと怒りが煮えたぎってきた・・・。
「おい!この無機物!」
「ジュワ?」
スターミーは水の波動を繰り出しつつ、返事をする。
すかさずボクはかわす。
「・・・お前の技はもう効かないぞ。」
「ジュワ!」
スターミーは、さっきよりも大きめの水の波動を体の中央にあるコアから放出する。
「見せてやる。」
ボクの正面へ迫ってくる水の塊を見据え、口元を向けた。
ボクは、それに向けてありったけの冷気をぶつけた。
ボクの思惑どおり、奴の水はぶつかった瞬間に凍って、威力を相殺させた。
氷の塊は、スピードを失い、そのまま地面に落下する。
「何でアンタのディグダは冷凍ビーム使ってんのよ!?ありえないわよ!!」
「・・・・・ノリ。」
「ごまかすなぁ!」
カスミが激しくツッコミ、ルナがシレッと答えた。
「無機物!これからだぞ!」
僕は身体を回転させた。
段々と速度を上げていく。
僕の周りには、微風ながらも旋風陣が巻き起こる。
「砂嵐を・・・みせてやる!」