ハナダシティ(1)
ルナ side
フシギダネにピカチュウはいるけど、・・・あと2匹は・・・・?
「・・・ディグダと非常食は?」
「ピカピカ!」
ピカチュウは、ベッドの下に潜り込み、私の鞄を出す。
・・・あ、そうか。
あの2匹が建物の中に入ったら、・・・・・というか入れない。
この子達の安否は分かった・・・。
・・・でも、色々わからないことが多い。
「気づきましたか?」
振り向くと、看護士の人がやってきた。
「おかげんはどうですか?」
「・・・はい。大丈夫です。・・・ありがとうございました・・・・・。」
「昨日、急患と聞いて手術の時に立ち会ったんだけど、すごいケガだったんですよ。右肩が不完全に接地してて、内出血箇所が多くて、意識が全然戻らなかったんだから、一体何があったんですか?」
昨日の出来事がフラッシュバックする。
「・・・・・。」
本当の事をいうか、ごまかすか・・・。
アーボックに・・・絞め殺されかけました♪
・・・言ったらどうなるかな?
事情聴取されて、ロケット団のこと聞かれて、しばらく街に滞在?
重要証人として保護監視をされる?
・・・それ以前に、正当防衛とはいえ、ロケット団を3人に怪我を負わせ、1人は崖へ突き落としたから、警察沙汰に関わることになりそう・・・・・。
「・・・・・・。」
・・・とはいえ、嘘が思いつかないし・・・・。
「・・思い出せない?焦らなくてもいいですよ。ゆっくり思い出して下さい。」
「・・・はい。」
・・・・・・そういう事にしておこう。
体に異常がなければ退院できると聞いた。
・・・というか、普通だと思う。
街の場所を聞けば、ここはハナダシティだった。
道中に、通りすがりの男性が、車で搬送してくれたおかげで、治療が早く済み、大事には至らなかった。
・・・お礼にいかないと・・・。
病院中にいる人達に尋ねてみたけど、・・・誰も知ってる人はいなかった。
私を送りとどけてくれた後、忽然と姿を消したそうだった・・・。
ハナダの病院に入院して1週間が経った。
まだ右膝に不具合があり、体重をかけると痺れるが、他は全然大丈夫。
・・・でも、右肩が並の人より外れやすくなってしまい、再発する確率が大幅に上がってしまった・・・・・。
今では、以前よりも右肩が、ゴリゴリと大きな音がなる。
入院中、遊びすぎて肩を吊ってしまい、看護士さんに迷惑かけた・・・・。
この数日、すごく暇・・・。
たまにポケモンセンターへ、リハビリの散歩をして、この子達を預けて、病院へ帰る。散歩には付き添いの人がいるから、自由に歩き回れない・・・。
病院でうろつくのも飽きてきた。
だから、退屈凌ぎのプロジェクト。
・・・深夜0時。
いつもは消灯の時間。
巡察や見張り、監視カメラをかい潜り、外へ飛び出し、夜の散歩へ出る。
街を抜け、西の道路へ。
獣道を通り、私のお気に入りの場所へ・・・。
草木を掻き分け、広い場所へ出る。
広い湖に広大な草原。
この場所は、最高の夜風が吹く。
水面に、鮮明に映る半月。
今日は明るいから、うっすらと、星も映って見える。
湖の向こうに岸があり、洞窟の入口らしきものがある。
・・・気が向いたら、探検してみたい・・・・・。
モコモコ・・・。
私が座っている所の横の地面が盛り上がり、あの子が顔を出す。
「ディグ♪」
実はディグダはポケモンセンターに預けていない。ポケモンフードより、土の中のエサの方がうまいらしく、この辺りは土壌が豊富で、過ごしやすいようだ。
一方、湖の底から水面へ向けて影が伸びる。
水しぶきを上げて、姿を現したのは、私の非常食だった・・。
この子も預けていない。
私は毎晩ここに来て、寛ぎ、鼻歌を歌い、夜空を眺め、この子達と遊んでいく。
・・・ディグダとは仲良しだから、よくじゃれているのに、非常食はまだ素っ気ない態度・・・・・。
非常食は湖に浮かび、眠り始めた。
・・・最初は美味しそうな姿してたのに、進化したらドラゴンみたいになった・・・。・・・カッコいいけど、もう食べられない・・・・・。
でも、いざという時の食料にする為に仲間にしたから、これからも、非常食と呼ぶ事にする・・・。
あの子達に別れを告げ、病院に戻る。
・・・でも、今日はまだ、行くところがあった・・・
私は更に西へ進んだ。
この近くのはず。
周りを見渡してみると、車が1台・・・。
・・・・・長髪の男の人、発見。
「む・・・?・・・誰だお前?」
身長が高く、黒いジャケットにジーパンを着た、若々しい男子・・・。
「・・・1週間前の事ですが・・・、覚えてますか?」
一応本人かどうか確認する私。
男は、目を少し見開き、溜息をつく。
「・・・・・・生きてたか。」
「・・・あの時は、ありがとうございました。」
お礼を言うことが出来、一安心。
「む。」
鋭い眼光に整った顔・・・。
月明かりでうっすら明るく見える。
キツネ目だけど・・・・綺麗な瞳をしていた。
「・・・こんな時間に何を?」
「こっちの台詞だ。」
・・・?
私を助けてくれた、顔も歳も分からない男の人。周りが知らなくとも、あの子達は知っていた・・・。
あの子達から話を聞き、助けられた時間や場所、どんな容姿をしていたか等を、大体の手がかりを聞いた。
だから、貴方を見つけました。
「はぁ・・。」
やれやれと、てをかざす。
「・・・ドライブだ。」
「・・・私は、散歩・・・です。」
「パジャマでか?」
「・・・入院中に脱走しました・・。」
「どあほうか。帰って治せ。」
「私、縛られないタイプなので・・・・。」
男の人は後ろを向き、肩を縮め、首を傾げ、肘を曲げ、お手上げのポーズ。
・・・やれやれのポーズ、好きなのかな・・・?
私たちは、しばらく話をする。
洞窟を通らず山を登った事、ロケット団に襲われて戦った事。
私が聞いたのは、ギャラドスが私を乗せて道を走っていたのを偶然見た事。倒れている私を下ろしてくれて、車に乗せて、ハナダに行く間、右肩を応急処置でくっつけてくれた事、治療費を一括で負担してくれた事等。
本当に、感謝してもしきれないくらい・・・。
私は、ちゃっかり持っていた鞄を開け、中に入っていた箱を渡す。
男の人に、中身を尋ねられる。
「お礼です。・・・傷薬・・・1ダース・・。どうぞ・・・。」
「どあほう。むしろお前が使え。」
今日、何回目の”どあほう”だろう。
話をしていた間にも、頻繁に言われてしまった・・・。
・・・だんだん辺りが明るくなってきた。
そろそろベッドに入っておかないと・・・。
私は、最後に名前を尋ねた。
「・・・・・お名前は?」
「俺か?・・・・・カエデ。」
「・・・ルナ・・です。」
遅い自己紹介が終わり、帰ろうと踵を返す。
「おい。」
カエデさんが呼び止める。
そして聞かれたのは・・・、意味深な内容であった。
「お前は・・・、何故自分がここにいるのか、考えた事あるか?」
「・・・・・?」
「・・・自分は今生きているっていう感じより、自分はこの世界で生かされているって、客観的な観念持ってねえか?」
「・・・・・!・・・・・多少は・・。」
私にも、心当たりがあった。
・・・だって、この世界で生を受ける前に、ただ広い、深い、真っ暗な海に、何年も何十年も泳ぎ続け、身体も心もないただの意識として、自分は確かに存在していた。
今は曖昧になっているが、確かに自分には過去があった。
周りから見れば、馬鹿馬鹿しく思われるかもしれない・・・。
でも・・・、おかしい・・・。
この世界での思い出が、全然ないもの・・・。
私がハッキリと覚えているのは、マサラタウンに引っ越してきた所から・・・。
それ以前の出来事は、自分でもどうでもいいかのようにうやむやだ・・・ 。
・・・でも、カエデさんのいう通り。
・・・・・私には、・・・私の本当の世界があるのかもしれない・・・。
・・・だって、小さい頃にキャッチボールの練習で肩を痛めた思い出・・。
あんなに鮮明に記憶に残っているのに、マサラの家には、グローブも、ボールも無い。
「・・・カエデさんは・・・?」
「さあ?俺が聞きてえ。」
「・・・・・・。」
カエデさんも・・・、私と同じなのだろうか・・・?
今私は、仲間をつれて、散歩気分で旅をする、素敵な時間を過ごせているから不満はない・・・。
「・・・ドライブは嘘。ここで、帰る方法を考えていた。」
「・・・どこに・・・・・?」
カエデさんは、確かに”帰る”と言った。
・・・帰る所があるのだろうか・・・?
「・・・さあ。・・・まあ何とかなる。」
「・・・・・・・・。」
私も、全てを思い出せば・・・・・、カエデさんみたいに・・・、帰りたくなるのかな・・・・?
「・・・ルナ。他の奴らと何か違うな。」
「・・・・・よく言われます。」
変わり者なので・・・。
「・・・この世界で満足か?勝手に記憶を消されて、勝手に人生左右されて?
・・・お前は我慢できんのか?」
「・・・・・・気まぐれ・・・だから。」
この問題は、簡単にうまく解決できるものではないかもしれない。
別に死ぬことはないだろう、気が向いたら考えてみて、思い出してみる。
私の性格ゆえ・・・、難しい事は後回しにして、今を堪能する。
「・・・なんとか、なります。」
「・・・・・はあ、ノー天気娘。」
やれやれ。・・・でも、その表情に曇りはなかった・・・。
朝焼けが眩しくなる・・・。
少し長居してしまったようだ。
カエデさんに別れを・・・・・?
・・・・カエデさんは・・・どこ・・・?
さっきまで近くにいたのに、いつの間にか姿を消していた・・・。
車はあるのに・・・。
思考タイム。
段々考えているうちに、怖い事を考えてしまい、駆け足で病院に戻った・・・。