本編
転入生
長いけど短いような休業期間。蝉の声は夏の暑さを再認識させる。

夏は終わっているはずなのに、照りつける太陽は秋の始まりを伺わせない働きようだ。
気だるい身体をなんとか進め、荷物を抱えたまま、入学した時にドキドキしながら通った校門を無意識に通過する。

私のノーネット学園では2学期が始まろうとしている。
昇降口を抜け階段を上がり、自教室へと歩みを進める。

「暑い……、なんでこんなに暑いのかな……」

陽の光を好む私も、あんまり暑いと気が滅入ってしまう。
もう見慣れている『2-C』の看板を確認し、ドアを開けた。

「あーっ!エルナ!久しぶりーっ!」

あぁ……とっても涼しそう……みずでっぽうでいいから水浴びしたいな……、じゃなくてっ。

「おはよー。夏休み中も全然だったからね」

彼女はロザンナ。シャワーズ種の女の子だ。
私はもともと内気な性格だったが、彼女は新入の時に初めて私に声をかけてくれた友達、親友なのだ。

「それでも、ずーっとピアノ弾いてたんじゃないの?」
「え?そんなこと言うロザだってずーっと絵描いてたんでしょ?」

茶化すように言ってくる彼女を見て、私は反論せずにはいられなかった。

「あ、バレた?」

くすっと笑う彼女を見て、私も顔がほころんでしまう。
たった1ヶ月間だというのに、何か懐かしいものを感じる。

「さてと……」

どうせ変わらない席配置表を見て自分の席を確認して座る。

――つもりだったのだが。

「あれ?私の席は……?Grazia……?」

私の名前が1つ右にズレて、間に入ってきたのは見ず知らずの名前だった。

この学園は1クラス9人前後の5クラス制だ。
1学年の人数も多くないため、誰とでも面識はあるつもりだったのだけれど……。
ってそもそも2学期にクラス替えはないか、じゃあ……転入生?

そうこう思っているうちに時は過ぎていたようで鐘が鳴る。
私は急いで新しい席に座った。
机がスライドされていたおかげか、夏休み前からの荷物の心配はいらないようだが、景色が新鮮過ぎる。

鐘が鳴るとすぐに担任の先生が入ってきた。
コジョンド種のドルチア先生、保健体育科だ。
実際のところ体術がかなりスゴいらしい。私は見たことないんだけど……。

Graziaと言う名の子はやはり隣には居ない。これはどういうフラグなのだろうか。
ってロザの言うことに感化されちゃだめ……フラグの使い方も分かってないのに……。

「エルナ = ハーモニア?」
「あ、はいっ」

ドルチア先生が既に私の名前を数回連呼していたようで、慌てて点呼の返事をする。
後ろからちょっかいを出すロザ。半分は貴方のせいなんだから。

「さて、2学期の開始の前に、皆に新しい級友を紹介する」

ドルチア先生の透き通った声がクラスの皆を包み込む。
内容にも驚いたのか、生唾を飲む音も聞こえた気がした。
無論、私も耳が反応してしまったけど……。

「グラツィア君、入りなさい」

私達は扉の方向へと視線を移すと、少し背の高いグレイシアの男の子が教壇に立とうとしていた。

「自己紹介をしてくれる?」

先生に勧められた彼は、一度私たちの顔を眺めると、沈黙を破った。

「ブローンカント学校特進高等科から転校してきた、
 グラツィア=コンジェラシエドです。どうぞよろしく」

周囲の皆はブローンカント学校特進の言葉にどよめいていた。
相当頭脳派でなければ入学できない狭き門の象徴校とも言われる学校であるからだ。
しかし、私はそれよりも、何か別のことを感じていた。
わからない、不思議な気持ち。なんだろう。

「皆、静かに。じゃぁグラツィアは出席番号順で、……エルナの隣に座りなさい」

彼はそこを降りて席に荷物を置くと、私に一瞥を投げたように見えたので私は彼に会釈した。
気がついたのか、彼も微笑んで会釈を返してくれた。
元の性格が抜けない私はドギマギして、机に空五線譜を広げペンを走らせた。

「さて、この後の日程だが……」

ドルチア先生の声が遠くに聞こえた。

■筆者メッセージ
初投稿です。主人公視点を交えながら描写していく予定です。
Luna = Lenezza ( 2012/08/27(月) 00:46 )