第1話
集合知と記されていたロアクの首都は、すでにたくさんの人が集まっていた。何も知らずに歩いている町人たちの間を抜ける。
「思ったより人が多いんだな……。」
「まあ、首都だし仕方ないだろう。ここにいる人たちは兵士か、町人かのどっちかということか。」
「だね……。」
笑い話を割く、低く大きい声が聞こえた。
僕らは恐る恐るその方を見る。
そこには立派な立派なキリキザンが、仁王立ちしていた。
そこが静まり返ったことがわかると、キリキザンは噴水に足をかけ、これで全員が見える。とでも言うように、ひとりでに頷いた。
「今回は、この地に集まってくれて、とても光栄に思う。
我らこの軍は、ロアク軍に一般庶民を足したもの。
ロアク軍、ではなく、十字軍。『クロシア』として、庶民の期待を背負うことになる。」
彼は話を続ける。
「そして、我らがクロシアは、聖地エムサルの取り返しを行う。
そしてこの戦いを、聖戦、と呼ぶ。
順路はこうだ。
ロアクとルキアを結ぶ唯一の橋を渡り、エムサルへ向かう。途中で橋を壊されてはまずいので、すでにスコグには船の届け出をしている。
エムサルを取り返したのち、協定を結び帰ってくる。
この聖戦を早く終わらしたければ、目の前の敵を蹴散らせ。」
……僕らも何も知らなかったらしい。
クロシアとして聖戦を起こすことを。そしてそれはロアク軍と、一部の庶民だけで行くことを。
「はいっ!!」
僕らの周りからは、次々と応答の返事が飛び交っていく。
「そこのルカリオとレントラー、お前ら、返事は?」
顔を見合わせ、気まずそうに返事をする。
「はいっ………。」
「それでよし。」
「では、これにて説明は終了だ。
軍は6列に並び、絶対に列を崩さないように。
周りの人たちは言われるがままに列をなしていく。
やっと並び終わったかと思うと僕ら二人だけが列からはみ出ていた。
「お前ら……」
「あ、いえ、すぐに並びます!」
抗おうとするレイガの後を押し、列に入った。
「進むぞ!決して遅れをとるな!」
少しずつ列は進み始めた。
……決して遅れを取らないように。
────キュウウウウウウウン……。
どこかでなにかが鳴り響いた。
それでも軍は、知らないまま、知ろうとしないまま、前に続いていった。