序章
至って平和だ。いや、僕はこのくらいの方が好きだ。
深くも、浅くもない森に、僕はいる。周りの世界のことはほとんどわからない。わかるのは、少し離れた家にいる、僕の友達くらいだ。彼は、麓に降りては食料を取ってくる。その分のお金とか、そういうものは2人で半分こするんだ。
「おーい、フィリアー?持ってきたぞー?」
「あー、ありがとう!」
すぐ近くの窓を開けた後、声のする方へ小走りし、僕は扉を開けた。
そこにいるのは、バスケットを加えたレントラー、そう、僕の友達だ。彼の名前はレイガ。僕の憧れの人さ!
「今日はな、モモンのジャムとバゲットを取ってきた。これだけあれば……十分かな。」
「……そうだね、十分だよ!」
レイガを部屋の中に招き、僕はバゲットを切る。彼は前足を丁寧に使ってジャムの蓋を開けた。
「「いただきます!」」
果実の甘みが口の中に広がる。ぼくはこの味が大好きだ。
しばらくしてレイガは、紙を机に差し出し、食べる口を止めた。
「ああ、そいえばこの赤い紙、お前のところにも入ってたか?」
「赤い紙?……ちょっと見てくる。」
レイガの差し出した紙と全く同じな紙が僕のポストにも入っていた。それも同じように机に置いた。
「……?見たことがないけど……これは?」
「いいか?フィリア。その文字をよく見るんだ?」
「え、あ、うん。」
『召集令状 フィリア ♂ ルカリオ
レパの森に住むフィリア殿
明日、ロアク軍集合地に遅れず来ること。
集合地は以下の地図を参考にせよ。』
その文の下に、地図があるだけ。
────それだけの紙である。
右下に赤いはんこが大きく押されている。
「召集令状……?」
「ああ。俺たちは……そう。戦いに、行くんだ。」
「戦いに……?」
レイガは静かに頷いた。
流れていた風が、まるで時が止まってしまったかのように止む。
囀る鳥ポケモンの声と、揺れる草木の音だけが聞こえた。
「戦いに……?僕…たちが?でもなんで?ロアク軍だけで足りるんじゃ?」
「これは街で聞いた話だが……。
聖地が、ルキアに奪われたらしい。」
「聖地って、あの聖地?」
「ああ、そうだ。というかそれしかないだろう?」
「いや、そうだけどさあ……ロアクとルキアは、ずっと昔から、友好関係あったじゃん!一体……なんで……?」
「ルキアに新しい王が君臨したらしい。ルキアの信教を徹底する、そんな王らしい。
その際、ロアクの信仰が存在するのはおかしくないか?……そうやって、ルキアはロアクの聖地に触れた……。
互いに触れない約束だったんだ。だが、触れてしまったんだ。
だから、ロアクはその聖地を取り返す、と。制裁する、と。」
「……そうか、戦うのは嫌だけど、聖地は取り戻さなきゃ。
出来るだけ戦わないように、武器は尖ってない奴を選んで、そして────」
レイガは僕の言葉を遮った。そして言った。
「戦いに、行くんだな?」
「……レイガも考えてみなよ。この召集令状はあくまで国から出されたものだ。町の奴らはきっと、喜んで戦争に行くだろう。いや────当たり前なんだ。戦うことが、誇りになるのだから。
そして、謀反を起こしたものは、徹底的に排除される。なら、そんな死に方より僕は戦いに、そして……息を断ちたい。」
「……そう……だな。そうだな。うん。
明日集合だ。準備をしっかりしよう。」
「うん!」
終わりのない戦いと気付かず、素直に戦いへと出向く僕。
この時の僕は愚かで、そして勇敢だった。
ねえ、今、この時に戻れるなら、僕は……僕は、何をすればよかったのかな。