第零話 さようなら
仄暗い地の底は、無数の死によって支配されていた。
辺り一面に咲き乱れる、血塗られた手指の花。あらぬ方向にひしゃげた脚。四肢を千切り取られ、腹部に大口を開けた幾多もの人の残骸。
ぶちまけられた臓物とヘドロのごった煮から、むせ返るような臭気が立ち上る。それに引き寄せられた黒い鳥の群れが、その亡骸を一心不乱に蹂躙し、食らい、生の喜びに狂喜していた。
唯一、人の形を残した女の亡骸があった。
全身に深く切り刻まれた傷から、痛々しく滲む紅い血。それによって白き肌は汚され、その身を包む服も泥にまみれていた。その姿は、まるで壊れ、捨てられた人形のようであった。
そして、その紅く濁った瞳は、ひたすら虚空を映し続けていた。
しかし、幾多もの死に囲まれながらも尚、彼女の死は孤独であった。
そう、彼女は死んだ。
たった独りで。