私は「アオヤギ」?それとも「クロキ」?
1日目 その4
ライドが動き出した。
……と、いうより、映像に合わせて揺れているだけだが。
「……!」
テレビで見るより結構揺れるな。私は両足を広げて踏ん張る。
「青柳さん!危ないから座って!」
と、名倉。……あぁ。座るのか。
多分、モニタールームでは……

「ははははは!青柳さん立ってる……」
「子供みたいやな!」

なんて、ウラヌスの二人が言っているに違いない。

※ちなみにここからは読み&書き問題です。
 もしよければ、画面の向こうの皆さんも考えてみてください。

「レベル1、読めないと恥ずかしい漢字」
CGが学校の中に入っていく。
……まずい。順番でもないのに少し緊張してきた。
一応グループの長だというのに、情けない。

{海老}



画面に文字が出る。
よ……読むぐらいなら、私でも。
誰もがわかると思うが、これは{えび}だ。
ドゴン!
「さすが!」
と、はやし立てる坂本。
「黙れ!静かにしろ!」
顔を赤くして怒る大潮。

{珍妙}



「む、む?」
なぜか戸惑う大潮。
「……」
わかる。これは{ちんみょう}。
だが、なぜか大潮はなかなか打とうとしない。
「どこだ……どこに……ある?」
ちんみ だけ打って、止まってしまった。
「落ち着いて!よく見てください!」
「ええいうるさい!わかっとる!」
しかし、時間はムジョウにも過ぎ……
ドゴ〜〜〜ン!
「操縦士、交代」
「ぬぬぬぬぬ……!操作がわかりにくすぎるだろ!」
「ちょ、ちょっと、早く代わってください!」
「ふん!誰が代わるか!」
と、大潮が言うが……
「操縦士、交代!」
と、天の声が声を荒らげると、渋々交代した。
「はいは〜い!任せてくださいね〜!」
2番手は坂本。
……私は思った。

「どうせだし、最終問題までクリアしてくれないかな……?」

何度も言うが、私は書くのが本当に苦手だ。
だからもう、ここで終わらせてくれ。
私に回さなくてもいいから……

ドゴン!
あっさりと正解。
※珍妙(ちんみょう) 極めて珍しいさま
そして3問目。

{苦渋}の決断



「ほえ?」
あ、ダメだ。
今の「ほえ?」という声で、もうダメな気がした。
案のジョウ、私の不安は……
ドゴ〜〜〜ン!
的中した。
「ごめ〜んアイちゃん、後頼んだぁ」
「……」
仕方ない。やるしかないか……
私は深呼吸をして、ゆっくりと押した。
ドゴン!
※苦渋(くじゅう) 苦しみ悩むこと また、そのさま

「レベル2、同音異義語、{ムジョウ}」
ムジョウ?
私が知っている「ムジョウ」は2個しかない。

{ムジョウ}の喜び



「がんばって!落ち着いて!」
「任せといてください」
これぐらい、私も書ける。
ドゴン!
※{無上}の喜び この上ない という意味

{ムジョウ}な判断



「ファイト!」
「……」
これもわかる。
ドゴン!
「さっすが〜!」
「……」
さすが……なのだろうか?
※{無情}な判断 

諸行{ムジョウ}



「……」
ムジョウ……むじょう……
……思い出さないと。
必死で頭の引き出しを開ける。
むじょう……む……じょう……むじょ……う……
残り時間が少なくなった時、
「!?」
急いで書く。
「これだ!」
つい声に出た。
ドゴン!
「や〜るぅ!」
「すっげ〜!」
竹田と名倉の声が聞こえた。
※諸行{無常} 三法印のひとつ あらゆる事物は変化し続け、永遠ではないということ

「レベル3 書き間違いが多い漢字」
確かテレビで見た時はこのあたりからみんなわざとのように間違えているはずだ……

案の{ジョウ}



これはわかる。
みんな、きっとあっちの間違いをしているんだ。
だが私は、わかる。
ドゴン!
「うぉ〜!」
「さっすがアイちゃ〜ん!」
※案の{定} 「上」と間違えないように注意!

{レイトウ}パンチ



「……?」
これが本当に8問目か?
簡単すぎる気がするが……まぁいい。
ドゴン!
「す〜げぇ〜!」
※{冷凍}パンチ さんずいにしないように注意!

息をふぅっと吐く。
なんだか楽しくなってきた。

{ショウドウ}的に動く



が、その楽しい雰囲気はすぐに消えた。
「……」
腕が動かない。
ショウドウ……ショウ……ドウ……?
……
ショウドウ。ショウドウ……
{書道}
違う!これじゃショドウだ!
そう考えた時にはすでに遅かった。
私の手は既に動いていた。
「それ書道じゃねぇの!?」
ははははは と笑い声が聞こえる。
ドゴ〜〜〜ン!
……やはり、バラエティは甘くない……
心の底からそう思った。
(まぁ、笑いは取れたし……よしとしよう)
「貴様!こんな簡単な字もわからんのか!」
しかし大潮は、納得いかない様子で……
「わしが黙っておれば皆、くだらんミスばかりしおって……!もう知らん!」
と、大潮はライドから降りてしまった。
「えっ大潮さん!」
「わしは今後、収録には参加せん!即刻中止しろ!」
……
「い、一旦止めま〜す」
スタッフが顔面蒼白になり、収録の中止が宣言された。



「……」
仕方がないので楽屋で待つ。
「……」
正直、イライラしているのは私のほうだ。
いくらなんでも大潮は身勝手が過ぎる。
だが、芸能界というのはくだらない場所だ。
大御所は何を言ってもいいらしい。大御所はどれだけわがままを言ってもいいらしい。
「……ちっ」
寝転がりながら舌打ちをする。
こんなことをしている暇があったら、チームに戻りたい。
そう、思っていた時だ。
コンコン
「開いてますよ」
ガチャ。
「アイちゃん……」
坂本が、今にも泣きそうな顔で言った。
「どうした?」
「スタッフさんがね。大潮さんが呼んでるから……来てって」
「……」

ひときわ大きな楽屋の部屋に、大潮がいた。
大潮は偉そうにふんぞり返っていた。
楽屋の中にはウラヌスの3人、スタッフなど、多くの人々が居る。
「……ふん。遅い。わしを待たせるな」
「……」
立ち上がる大潮。
「貴様らの脳みそはどうなっているのだ?わしに勝たせたくないのか?」
「そ、そんなことは……」
「お、大潮さん。落ち着いてください」
その原田の言葉に、なぜか大潮が……
「これが落ち着いていられるかぁ!」
大声を出した。
「わしがどれだけ恥ずかしい思いをしたと言うのだ!この大馬鹿者!
 わしはただただ、娘にいい格好をしたいのだ!その思いを貴様らは踏みにじったのだぞ!
 所詮アイドルなど大したものではない……だからわしは組みたくなかったのだ!
 だからわしは勝てぬ勝負など、したくなかったのだ!
 貴様ら……わかっているのだろうな!」
激しい語気で怒鳴り散らす。
「ごめんなさい……!ごめんなさい……!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
頭を下げたまま謝り続ける坂本。
「貴様も謝らんか!最近のアイドルは謝ることも知らんのか!?」
「……」
……ダメだ。悔しくてもここで謝らなければ。
「……いません」
「声が小さいぞ!誠心誠意を見せんか!」
「すいません……」
そう言っている間にも、すいませんと呪文のように繰り返す坂本。
「貴様にも言っているんだ!誠心誠意謝るなら、土下座の一つでもせんか!」
ドン!
「きゃあ!」
「!?」
突き飛ばされる坂本。それを見た私は……
「いいから、さっさと土下座を……!」
ガシッ
「触るなぁ!」
ギリギリギリギリ……
大潮の腕を手のひらでしめつける。
「!?」
「ふざけるのもいい加減にしろよ」
ごめん、青柳。今の間だけ、お前を演じるのをやめさせてくれ。
「ふざける?ふざけているのは貴様の方だろう!わしの顔に泥を塗ったのだ!責任を」
「取る気はないね」
ギリギリギリギリ……!
「き、貴様……やる気か!?わしの手にかかれば貴様を消すことなど、造作もないぞ!」
「消して結構だ」
「ふぁ!?」
目から殺気を出す。
ここまで殺気をむき出しにしたのは、久しくなかった。
正直、殺気をむき出しにしなくても良かったのかもしれない。
だが、大潮のような権力を笠に着て振る舞うような奴は、許す訳にはいかなかった。
「てめぇのような奴と一緒に仕事?んなもんこっちから願い下げだ。
 だからここで消されるっていうのなら、てめぇの腕一本ぐらい奪っても構わねぇよな?
 あ?大御所さんよ……?」
ギリギリギリギリ!
「い、痛い!離せ!離さんか!」
「今、何と言った?{離して}いいんだな?」
ドサ!
「ぐえ!」
ソファの上に、大潮を叩きつける。
「な、何をするのだ貴様!」
「お前の言うとおり離した。以上だが?」
「もう許さんぞ貴様……!わしを怒らせたら……大きな間違いだぞ……!」
モンスターボールを取り出す大潮。
「痛い目にあわせてやる……あわせて」
バチン!
「がっ……!」
モンスターボールを持った手を力いっぱいはたく。
中からは、シシコが飛び出した。
「……」
私は諭すように、大潮に言った。
「……あのな。お前には娘が居るって言ってたよな」
「貴様、娘を馬鹿にすることは」
「やめてほしい。とでも言うのか?」
その先の言葉を聞く前に、大潮は灰皿を振り上げる。
「……」
脅したつもりか。
「一番娘を馬鹿にしているのは、お前なんだぞ」
「……!?」
「お前が収録現場で大暴れして、キャンキャン喚いて、今人を突き飛ばして、
 わがままの限りを尽くした上で、今番組までやめさせようとしてる。
 そんなことをしていたって、お前の娘さんが知ったら、どう思う?」
「そっそれは……!」
大潮の動きが止まる。
「わがままを言うのは勝手だ。それに、娘のために張り切るのも勝手だ。
 だけどな。お前のやっていることは最低のことだ。
 そんなことをやっているのを知って、いい思いをする家族なんか一人もいない。
 娘さんのため、とか言うのなら、お前は娘さんに見せないといけない姿がある。違うか?」
「……」
「お前の娘さんが見たいのは、わがままばっかり言ってる親か?」
シシコが大潮に駆け寄る。
「……」
「違うだろ。お前の娘が見たいのは……」
「もう、いい」
誰もがその様子を、唖然としてみていた。
そして大潮が、ゆっくりと坂本を立たせる。
「え?」
「……すまなかった。痛かったであろう?」
「……いえ、大丈夫です」
そして大潮は、周りを見て……
「ご迷惑をかけ、申し訳ございませんでした!」
と、深々と頭を下げた。
「い、いえいえ、大潮さん!顔を上げてください!」
「……」
はっと我に返る。
「……すいません。私が言えるような立場じゃ」
大潮は優しく私の肩に手を乗せた。
「……君にも、迷惑をかけた。許してくれとは言わない。ただ、すまなかった」
「……」

「許してくれとは……もう言わない。ゆかり……すまない……!」

「……」
大潮の姿に、私は父の姿を見た。
「スタッフの方々にもご迷惑をおかけしました。もう、わしは片意地を張ることはしません。
 わしの無様な姿、存分に撮ってくだされ!」
「ありがとうございます!」
私は当たり前のことを言っただけだと思ったが……どうしてだろう。
「大潮さん……娘さんを病気で亡くしてるんだ」
竹田が言った。
「きっと、娘さんのためにいい格好をしたかったから、あれだけ片意地張ってたんだろうね。
 あのシシコも、娘さんの形見のポケモンらしいんだ」
「……」
「にしてもキミ……度胸あるね。さすがは小悪魔系アイドルってとこかな」
「あ、あはは……」



その後、収録は滞りなく続いた。
ハイパーフィフスリーグ。
「残ね〜ん!坂本、青柳、間違えた〜!」
坂本「すいませ〜ん!」
大潮「ちゃんと新聞見ようよ!わしみたいに!」

ハイパーイングリッシュオーベムタワー。
竹田「俺鎖国してんだよ!」
黒木「馬ぐらいわかるっすよ!落ち着いて!」

パーセントフワンテ。
「56%!フワンテが36匹逃げる〜〜〜!」
名倉「や〜ら〜か〜した〜!」
黒木「名倉さ〜ん!」

ハイパーマルマイン。
大潮「え!またわし!?え、えぇっと……えぇっと……」
坂本「がんばって!大潮さん!」
竹田「まだあるっすよ!まだあるっすよ!」
大潮「体重が200キロ以上のポケモン……えぇっと、えぇっと……!」



……収録は、日をまたぐまで続いた。



TO BE CONTINUED…

バタフライ ( 2016/07/10(日) 21:05 )