DEATH NET
2日目 その1
……朝になった。
あれから襲撃してきた男二人の身柄を木寺に渡し、その後仮眠室で眠っていた。
「……」
午前5時50分……

「明日の朝6時、デスネットからメールが届く」

「他言無用だ。ほかの人に言った場合は……キミの命が危うくなる」

ルカ……と言う名の少女の声がやたらと気になり、とても眠れたものではない。
「……」
白井のベッドのとなりには、狭山が眠っている。
狭山には、結局話をしていない。
だが、なぜ他の人物に話すと俺の命が危うくなるんだろうか?
「……」
仕方なく署内をうろつき、適当に時間を潰すことにした。
「あ、白井君。おはよう」
「おはようございます。木寺さんも今日は早いですね?」
「あぁ。実は……今日のZIPPER!で、青柳ちゃんの特集をするんだ!」
……は?
「え?早起きした理由って……」
「それだけだよ?」
そう言うと、鼻歌を鳴らしながら木寺は去っていった。
「青いスーツ……そういう意味があったのか」
しかし真面目な木寺が、アイドルのファンとは思わなかった。
そのために昨日取り調べをして、仮眠して……こんなにも早起きしたのか……
テテテテーン!
「!?」
気が付くと、6時になっていた。
恐る恐るメールを開く。

件名:死亡のお知らせ

今日 午前7時00分 セントラルエリア にて 白井 誠さんが 死亡します

死因は 頭を撃たれることによる 失血死

「!!?」
白井……誠……!つまり、俺だ。
「……な、なんで……」
セントラルエリア……ここヒウン署があるのはセントラルエリアだ。
まさか、この署内で俺は……?
テテテテーン!
「!?」
さらにもう一つメールが来る。

件名:(無題)

ヒウン署地下駐車場にて キミを待つ

必ず 来ること    ルカ

ルカ……昨日の少女だ。
「……」
地下駐車場……?
なんでそんな場所に行かないといけない。
死角が生まれやすい地下駐車場に行っては、それこそ犯人の思うツボ……
「……?」
待てよ。
もしかしたら、このデスネットを送っているのは……?
「どうしたの?誠」
「!……優希か……」
「何?人を幽霊みたいに。失礼しちゃうわね」
まぁ、そう言われるのもわからんでもないが。
……そうだ。
いっそ優希に、このメールのことを言ってしまうか?
「なぁ、優希。このメールを見てくれ」
「え?」
白井はデスネットのメールと、ルカからのメールを見せた。
「ルカって……誰?」
「あ、そうか。お前には話していないんだったな。
 ルカって言う奴は、昨日俺はポケモンセンターに捜査に行った時、捜査に協力してくれたんだ。
 GTSの交換履歴を調べてくれたのも、その人だった」
 で、このメールが来ることも教えてくれたんだが……」
「……」
優希はしばらく考えたあと、
「でも、仮にそうだとしたら、わざわざ誠の手助けなんてするかな?」
「え?」
「いや、だってそうでしょ?GTSの交換履歴をさらけ出すなんて、
 みすみす自分を怪しませるようなものだよ?」
それもそうだ。
だがルカの事は正直信用できない。
身分証明書を見る限り警察らしいが、身分証明書なら偽造も出来なくはない。
このまま地下駐車場へ行ってもいいものだろうか?
「……」
デスネットによると、俺はあと1時間弱で死ぬらしい。
このままここにいれば、俺は銃殺されることもないんじゃないか?
白井はそう考えた。
テテテテーン!

件名:(無題)

キミが地下駐車場に来なければ、

他の誰かが死ぬ事になるだけだが?

「?」
「他の誰か……?」
「……」
意味がわからなかった。
白井は、念のためにルカにメールを送る。

件名:(無題)

仮に俺以外の誰かが、俺が来なかったせいで死ぬとしよう。

それはお前……とか言わないだろうな?

テテテテーン!
すぐに返信がきた。

件名:(無題)

その可能性もある、と思うのなら来なくて構わない。

「えっ」
白井は思わず声を上げた。
どういうことだ?
ルカは俺に、何を求めている……?
「……」
「誠、どうするの?」
「……悪い。黒木。俺は地下に行く」
「罠かも知れないよ?」
「罠だとしても、だ」
結局ルカが、俺に対して何を示したいのか。それも確かめなければならない。
白井は地下駐車場へ急いだ。



「おい!来たぞ」
声を上げる白井。
「ルカ!どこにいる!」
自分の声が大きく反響する。
・ ・ ・ ・ ・
が、ルカの声は帰ってこない。
「ルカ?ルカ!どこにいる!」
その時だ。
ターン!
「!?」
銃声!?
まさか。白井は走り出した。
「ルカ!ルカ!おい!」
その時だ。
ドサッ!
「うぐっ!」
車の近くに来ると、何者かに飛び蹴りを食らった。
「……お、お前……!」
口に手を添える……ルカ。
「物音を立てないで。……気配も出来る限り消して」
ルカはハイハイをしながら少しだけ進むと、
バシュン!
「!?」
右足に少し力を込めたかと思うと、そこにルカの姿はいなかった。
「お……おい……!」
遠くから、殴る音が聞こえる。
その直後に発砲音。しかし再び殴る音。
何が起こっているのかわからなかった。
永遠のような時間がしばらく続いた後、一瞬の静寂のうちに……
「シライ。こっちに来て」
「?」
ルカの声が聞こえた。
ルカの目の前に、男が倒れている。
「……!?」
見ると、駐車中の車には無数に弾痕が付いていた。
「大丈夫か?」
何も言わずにこくりと頷くルカ。彼女は息切れ一つしていない。
「……」
男の懐に手を突っ込み、上着を強引に脱がせるルカ。
「……見て」
男には、無数のダイナマイトが付けられていた。
「なっこ、これ……」
「おそらくこの男の狙いは、この警察署を占拠すること。
 そして、この男がもし、この地下駐車場から署内に侵入したら……
 あなたはほぼ確実に、銃殺される」
つまり、男はこの警察署の中で立てこもり事件を起こす。
そしてそれを許せない俺は、真っ先に男に向かっていって……

ターン!

「……なんで」
「?」
「なんでお前は、デスネットが6時に来ることも、それで俺が狙われることも知ってるんだ?」
「……」
その質問にはルカは答えなかった。
「でも、助けてくれたんだよな。俺を」
黙って頷く。
「シライ。代わりと言ってはなんだけど」
「なんだ?」
「あなたに届いたデスネットを見せて」
……え?
なんでデスネットを見せないといけない?
そもそもルカは、敵か味方かわからない。
俺を助けたところで、完全に味方とは言えない。
それになぜ、名乗っていないのに俺の名前を知っていたのだろうか?
「キミの名前を知っているのは、キミがボクと同じ職種の人間だからだ」
「えっ……?」
考えが読まれている……?
「……」
再びルカは、身分証明書を見せた。
「……」
インターポール……?
「ボクは国際警察の一員だ。なんなら今から、ボクの先輩にあたる人物に電話をかけても構わない」
そう言うと、ルカは自分のスマホを白井に渡した。
「……」
スマホを見たあと、ルカの顔を見ると、彼女はすました顔をしていた。
「警察だから……俺の名前も知ってるってことか?」
こくりと頷く。
「とりあえず教えてくれ。なんでお前はデスネットの事を知っていたんだ?」
「それはキミの事をなんでも知っているから」
「は?」
まるで冗談のようなことを、ルカは口走る。
「なんでも知っているって……じゃあ俺の好きな食べ物は?」
「そんなことは知らない」
「知らないじゃねぇかよ」
「そういう意味で言ったわけじゃない」
……言われてみればそうだ。
「デスネットを送信している人物は、なんと名乗っているかわかる?」
「送信……している人物?」
目を閉じ、思い出す。

どちらも進むべき色を切れ そうすればタイマーは止まる ナイトメア

「送ってる奴かどうかはわからないけど……ナイトメアって名前は知ってる」
「ナイトメア……」
それを聞くと、ルカは突然白井から自分のスマホを強奪した。
「お、おい」
「……」
素早くスマホを操作していき……
「……やっぱり」
「な、なんだよ」
「今あなたに教えても、この国の警察では限界がある。まともに取り合ってくれるとは思えない」
「どういうことだよ。そんなにこの国は無能じゃないぞ」
するとルカはスマホを直し、わかりやすく肩を落とした。
「……?」
「キミはボクが思っている以上に楽天家のようだ」
「……じゃ、じゃあ、ナイトメアって何なんだよ」
「もういい」
背を向けるルカ。
「待てよ!散々教えといて、いきなり{もういい}はないだろ!?」
「キミやほかの人に教えても、きっと意味がわからない」
「だ、だけど……」
「……資料室に行って。おそらく……そこにまだ、10年前の{悪夢}は残っている」
10年前……?
「だけど、それを見て……キミは正気を保てる?」
「どういうことだ?」
「映像に写っているのは、その名の通り{悪夢}それだけ」
「……」
悪夢……
だが、それがデスネットと関係があるなら、見ておいて損はないはずだ。
「……」
はやる気持ちを抑えきれない白井を見て、ルカは……
「……こっちが先」
「あ?……あぁ」



男を署に連行して、地下駐車場へ向かう白井。
「……あれ?」
しかしそこにルカはいなかった。
「ど、どこへ……?」
「どないしたんや?白井」
そこへ、狭山がやってきた。
「あ、狭山さん。いえ、ここにさっき女の人がいませんでしたか?」
「女の人……?誰やそれ。知らんけど……にしても、さっきここでお前は何しとったんや?」
「あぁ。その人と話をしていたんですけど……狭山さんこそ何の用です?」
「俺?俺はな……」
カチャ。
「……え?」
「……」

「お前を消しに来たんよ」

「……は?」
拳銃がまっすぐ、白井の頭に向く。
「ちょっ狭山さん!?狭山さん……何を……!」
「何を……すると思う?」
「……」
「背中、手ぇ回してみぃ」
言われるままに背中に手を回す。
「!?」
何かが指に当たった。
指に当たった「それ」は、地面に落ちて跳ねた。
「盗聴器……!?」
白井は思い出した。

「お?白井、どうした?いきなり愛の告白?それとも……」

その時に、多分付けられたんだ。
小型の盗聴器を、狭山の手によって……
「お前、あいつに何吹き込まれた」
「何を……吹き込まれたって……?」
「答えられへんか?なら代わりに言うたるわ。
 あいつに{悪夢}のことを聞いたんやろ?」
ジリジリと距離を詰められる。
「……まさか昨日、俺と一緒にGTSに行った理由って……?」
「簡単なことや。捜査中の事故と見せかけてお前を殺そうとしただけ」
「!?」
「お前が優希ちゃんを助け出すほどの知力と時の運を持ってるとは思わんかった。
 やから俺の仲間に頼んで、お前を間接的に殺そうとしたんよ。
 お前の行動は{あのお方}の邪魔になるからな」
あのお方……?
「狭山さん……何かの、冗談でしょう?」
その時電話が鳴った。
「出てええぞ。どうせお前はもうすぐ死ぬんやし」
震える手で、電話に出る……
「あ〜、俺にも聞こえるレベルのでっかい音で聞かせてくれ」
「……」
通話音量を最大まで上げてから、電話に出る。
「も、もしもし……?」
「誠!大変なの!」
「な……どうした?」
「さっき、連絡があって……」

「昨日ポケモンセンター前で逮捕された二人、狭山さんに頼まれて誠を襲ったって!」

全身の血液が凍りついた。
「こんな状況で冗談ねぇ……そんなもん、言えるわけないやろ?
 考えても見ろよ。白井」
ターン!
「!?」
スマホに綺麗に命中した銃弾。
画面に巨大なクモの巣ができたように、ヒビが入った。
「お、お前……!?」
「お?グランブルファンタジーが出来へんから怒ってるんか?」
「……」
「ええやろ?あの世で存分にやりゃあな!」
その時だ。
「伏せて!」
「!?」
ターン!
すぐ上を、銃弾が飛んでいく。
「こっち!」
ルカが呼んでいる。
「くっ……!」
「お?鬼ごっこか?負けへんで〜?」
ターン!
「ぐあっ!」
間一髪でかわしたあと、車の陰に隠れる。
「やっぱり俺を、助けてくれるのか?」
「一応」
「一応って……」
「……とにかく、署に戻らないと。ボクに考えが」
ルカは耳打ちをした。
「……」
少しだけ押し黙る。
「そうしないと助からない」
「……いや、俺は俺の力で、助かってみせる」
白井は狭山に向かって飛び出した。
「飛んで火にいるなんとやらやな!」
「それはどっちがそうかな?」
銃は使わない。
白井は警察に入った頃からそう決めている。
「ゼブライカ!」
白井はゼブライカを出し……
「目を閉じろ!ルカ!」
「……」
カッ!
「ぐっうぅ……!」
激しい光に、狭山はその場にひざまずいた。
フラッシュだ。
狭山が怯んでいる隙に、白井とルカは署内へ向かう。
「……はは、やってくれるやないか」
狭山は前後不覚な中、こう叫んだ。
「言っとくが、俺を捕まえようとしても無理やからなぁ!」



そのまま地下駐車場を抜け、署内へと向かう。
「どうして」
「え?」
「どうしてキミは、ボクの言うとおりにしなかった?」
「……」

「彼に威嚇射撃をするべき。怯んだ隙に、一気に駆け抜けて」

ルカにはそう言われていた。だが……
「ダメなんだよ。俺は銃を使ったら」
「意味がわからない」
「理由が聞きたいか?……お前なら{くだらないな}とか言いそうだが」
「……走っている間の、退屈しのぎにはなる」
白井は、ゆっくりと話しだした。
「俺、父親も母親も警察官だったんだ」




それは、白井がまだ12歳の時である。
白井と母親が銀行に来ていた時、突然銀行強盗が発生。
白井の父は、外から突入の機会を伺っていた。
上からの命令により突入する。
犯人も武装していたため、銀行内は激しい銃撃戦となった。
ポケモンを使うことより、銃を使う方が犯人を手早く沈黙させることが出来るためである。
そのうちの流れ弾の一発が、たまたま白井の母の頭に命中。
白井の母はその場に倒れ、病院に運ばれたものの……まもなく死亡した。
白井の父はそれに深く絶望し、自分のせいだとずっと自分を責め続けた。
まもなく父も、立てこもり事件の突入の際に腹部を撃たれ、意識不明の重体になる。
そして最期の時、父は少しだけ意識を取り戻し、白井にこう言った。

銃は……使うな……白井……

どんなことがあっても……鉛は……絶望の色しか残さない……




「だから俺は犯人の確保の時でも、ポケモンを使うし、犯人を直接やろうとは思わない」
「くだらないな」
「思い通り、ありがとな。それが俺のスタンスだ」
「……勝手にすればいい。ただ、それで足元をすくわれてもボクは知らない」
しかし、起きてから2時間の間にいろいろなことが起こりすぎた。
デスネットで自分が標的になり、
ルカに立てこもりを起こそうとした男から助けられ、
そして今、狭山に命を狙われた。
「……」
そもそも、デスネットの狙いとは一体何なのだろうか?
それに、20年前に起きた「悪夢」とは一体……
……ダメだ。考えることが多すぎる。
今はただ、木寺と優希、そして柘植に今起こったことを伝えなければ……

バタフライ ( 2016/07/11(月) 22:33 )