「悪夢」の日の終わりに - DEATH NET
1日目 その4
ヒウン署に戻り、とりあえず始末書を3枚書き終えた白井。
時計の針は午後10時を過ぎていた。
「はぁ……」
「お疲れみたいね。流石に」
「命すり減らす思いして帰ってきてすぐ始末書3枚だぞ。そりゃお疲れだ」
すると黒木は、
「はい」
と、白井に缶コーヒーを手渡した。
「おっ気が利くな。サンキュー」
「白井君。戻ってたんだな」
缶コーヒーを開けようとした時に、声が聞こえた。
「木寺さん」
青いスーツを着た、木寺が目の前に立っていた。
「ん?黒木君!さっき電話が繋がらなかったんだが……あれはどうして?」
「え?……あ、はい。ご心配をおかけしました」
「それは俺からお話します。……いいよな?黒木」
白井が黒木を見上げると、なぜか黒木は不満そうな顔をしていた。
「黒木?」
すると、黒木はこう言った。
「優希って呼んで」
「え?」
「いいから、優希って呼んで」
それを見た木寺は……
「ほう……」
「何納得してるんですか」

木寺に洗いざらい、黒木……優希に起きたことを話した。
「本当……なのか?」
「最初は俺も信じられませんでした。だけど……見てください。これ」

件名:死亡のお知らせ

今日 午後8時00分 ヒウンストリート にて 黒木 優希さんが 死亡します

死因は 大量のビリリダマが爆発することによる 爆死

「そして、その前……昼間、細尾 秋吉さんが殺害される時に送られてきたメールです」

件名:死亡のお知らせ

今日 午後2時00分 ユナイテッドピアにて 細尾 秋吉さんが死亡します

死因はほのおポケモンのかえんほうしゃによる焼死

「確かに、細尾さんが殺害されたのはブーバーのかえんほうしゃだな。
 だが……少しおかしくはないか?」
「え?」
木寺はメールのある部分を指さした。
「まず、細尾さんの殺害予告……らしきものだ。これは{ほのおポケモン}の火炎放射。
 そして、黒木君の殺害予告……これは{大量のビリリダマが爆発する}と書いてある」
「あ、そうか。爆発するビリリダマと同じサイズか、それより小さいポケモンって、他にもいますもんね。
 ダンゴロとか、イシツブテとか……」
「そういう事だ。なのにどうして、黒木君の時は{ビリリダマ}と、
 ポケモンの種類まで言い当てることが出来たのか、ということだ」
確かに、言われてみればそうだ。
2件目の青柳 愛華も、死因については「頭を強く打ち付ける」と書いていただけで、
その死因がポケモンを使ったものなのかも、それ以外のものなのかもわからない。
「そもそも、大量のビリリダマなんて、どこで調達するんだろう?」
顎に手を添える優希。
「……」
ビリリダマはイッシュ地方ではまだ野生で目撃されていないはず。
いや、そもそも野生のビリリダマが見つけられていても、これほどの数を捕まえ、持ち歩けるものか?
まるで、あらかじめ用意されていたようにも思える。
……いや、待てよ。
そもそも犯人は単独犯なのか?それとも複数犯なのか?
それに、ビリリダマである意味はあったのだろうか?
優希の言うとおり、ダンゴロでもイシツブテでも、時間が来た時に刺激する仕掛けを使えば、
時限爆弾として使うことが可能なはず。
それに、ダンゴロはイッシュ地方に無数に野生のポケモンがいる。
用意するのは……重さを無視すればビリリダマよりは簡単なはずだ。
「このことを、柘植さんにも言っておいたほうがいいかな?」
「いえ、やめておいてください。また俺ら、始末書書かされます」
はははと笑う木寺。
「ところで白井君、黒木君、これは俺の話なのだが……」
「はい」
「実は先程、街の中でブースターを使って人を焼き殺す……という事件があってね」
「あぁ、知っています」
知っているのはテレビをつけた際のニュースのおかげなのだが。
「先程、その男の身元が割れた。赤城 大和。17歳。ヒウン産業高校に通う高校2年生だ」
「17歳でそんなことを……?」
「世も末ね」
咳払いが聞こえる。
「そこで、君たち二人の意見を仰ぎたいのだが……確かに赤城は犯罪者だ。
 それに、手錠をかけたまま俺から逃げ出した。
 だが、彼は17歳。まだ未成年だ。
 成人している人のように、名前を公表して指名手配していいものだろうか?」
「……」
確かにそうだ。
法律上では、未成年の名前を特例中の特例以外では名前を出してはいけない。
指名手配も、認められていない。
「木寺さん。もう一度現場の状況を詳しく教えてください」
「あぁ。俺が駆けつけた時、赤城は上半身裸だったんだ。
 そして隣には、なんというか……ローブ?そういったものを来ていた女の子もいた。
 赤城はブースターを出していたし、ブースターは元気そうに無邪気に走っていた。
 そして……その後赤城は、突然逃げ出したんだ。
 その後、再び赤城は俺と鉢合わせして……俺は手錠をかけた。
 だが、その後また何者かに邪魔されたんだ」
つまり、赤城を守るようにして、2人の人物が行動している……?
「……木寺さん。私は公表しても構わないと思います」
優希が言った。
「だって、木寺さんほどの人が邪魔される共犯者もいるんですよね?
 なんとか早く捕まえないと、手遅れになる気がします。
 いつブースターが、ほかの人を殺害するかもわからないし……」
「俺も公表しても構わないと思います。手錠をかけた男が逃げ回っているなら……
 俺たち警察の威信にもかかわります。マスコミもそこを狙うでしょうし。
 そこから、このメールのこともバレかねません」
それだけを言うと、木寺さんはこくりと頷いた。
同時に、白井には少し疑問が浮かんだ。
果たして本当に、赤城は犯人なのか?とも。
木寺が嘘をつく理由はないし、パトカーが出動していたのも確かだ。
だが木寺さんの言っていることは状況証拠であり、物的証拠ではない。
本当にブースターが、その男二人を燃やしたのだろうか……?
「ちょいとええか?」
そこへ狭山が入ってきた。
「狭山さん。何かわかったんですか?」
「あぁ、白井が停止させたビリリダマなんやけど……って、木寺さんもおるんですか」
「あぁ。少し話をしていてね」

4人で別の部屋に向かう。
「まぁ、見てみ?」
狭山は次から次へと、ビリリダマを出した。
「うん?」
すぐに木寺が疑問に気付いた。
「木寺さん?」
「見てくれ、白井君、黒木君」
見た感じは普通のビリリダマだが……
ニックネームの欄には、様々な名前がつけられていた。
ビリリダマ、Voltorb(ボルトオーブ)、Voltobal(ヴォルトバル)、
Voltorbe(ヴォルトオーブ)、雷電球……
それぞれ、日本語、英語、ドイツ語、フランス語、中国語だという。
「無論、トレーナーの名前も……」
それぞれの国と同じ名前がついている。
ほかにも、スペインや韓国、ヒンズーまでもがいる。
「……あっ」
白井はつい声を上げた。
「どうしたの?誠」
「……なんとなく、事件の全容がわかってきた」
と、白井の頭の中でピースが埋まっていった。
「何かわかったのか?」
「もったいぶらんとはよ言ってや」
「まぁまぁ、落ち着いて。まず、犯人がどうやってビリリダマを入手したか。それから話しましょう」
白井はその部屋の中から、とあるモンスターボールを取り出した。
「まずこのポケモン、ブーバー。これは1件目、細尾さん殺しで使われたポケモンです」
モンスターボールから出す。
「このブーバーの名前はFiamma。イタリア語で{炎}という意味を持ちます。
 そして、親の名前はカヴァリエーレ・アダミアーノさん。
 親の名前もイタリア人。つまりこのポケモンは、イタリアから来たポケモンです」
「ちょ、ちょい待て白井。殺された細尾さんには海外渡航歴一回もないんやぞ?
 まさか、20年以上も前のポケモンなんか?」
「いえ、このポケモンが何年前のポケモンかはわかりませんが……入手方法ならわかります。
 犯人はその{入手方法}を使って、大量のビリリダマも入手したんです。
 それを調べたいため、ポケモンセンターに行きたいのですが、どなたかついてきてくれませんか?」
そう言うと……
「じゃ、俺が行くわ」
と、狭山が言った。
「木寺さん、優希。後片付けをお願いします」
「わかった。何かわかったら連絡を頼むよ、白井君」
「気をつけてね。誠」
……
「俺にはなんもなしですか!?」
「あ、ついでに気をつけてください狭山さん」



ポケモンセンターから、GTSへ向かう。
受付に警察手帳を見せると、特別に二人同時にひとつの部屋に入ることができた。
「……と言っても、使ったことないからなぁ。狭山さん、わかります?」
「俺もよくわからんな……どないする?」
「ど、どないするって言われても……」
とりあえず、ビリリダマで検索条件をかけてみる。
「……」

ゼクロム きにしない
ミュウツー レベル10未満
ジラーチ きにしない
アルセウス きにしない

「なんだこりゃ」
「釣り合ってへんなぁ」
色々とGTSのあり方について問題を提唱している記事は週刊誌で見たことがある。
しかし正直ここまでとは思わなかった。
ミュウツーにいたっては、改造そのまんまじゃないか。
「……」
しかしここでの問題は、「どうやってビリリダマを入手したのか」ということである。
それに、ビリリダマを見つけたところで、どうやって「交換」したのだろうか?
「……」
まずい。
喜び勇んで出てしまったが、操作説明がわからない以上、何もできない……
並んでいる人もいるだろうか……
そう思い後ろを振り返った時だ。
ウイン
「え?」
「ちょっお客様、流石に3人同じ部屋に入られるのは……」
「……」
フードを被り、独特の緊張感を醸し出している。
「……」
その人物は、白井と狭山を押しのけるようにして、無理矢理な体勢で機械を操作し始めた。
「ぬぁっ、何してんだよ!」
「……」
白井の言うことなど、どこ吹く風だ。
姿をよく見ると、胸の部分に膨らみがある。
……女?
「……パスワード」
「え?」
「パスワードを教えて」
パスワード……?
「……聞いていないのね」
「あ、あぁ……」
「……」
小さく舌打ちをする。
「……わかった」

その少女が「捜査のため」と従業員に説明すると、
「わかりました。しばしお待ちください」
パスワードの入力画面を見ないことを条件に、オプションを開いてくれた。
「……」
少女は、慣れた手つきで機器を操作していく。
「キミが見たいものは、これ?」
「……あ、あぁ」
そこには、数多くのGTS使用履歴が載っていた。
「!?」
そこには、こう言った真実が載っていた。
3日前から、異常な回数ビリリダマが交換されている。
最後にビリリダマが交換されたのは……今日の午後2時。
あの箱の中に入っていたビリリダマは合計20匹。
今日のビリリダマの合計で、さらに10匹余る。
「……」
さらに名前を調べる。
すると、日本人の名前が目に止まった。
「……うん?」
ニャオニクス レベル30 親:あおやぎ

「誠、やっぱりあの女の人、ポケモンを取られてたみたい!」

まさか。

白井は部屋の外に出て、優希に電話した。
「もしもし?」
「優希。ちょっと聞きたいことがあるんだ」

「……うん。確かに昼間あった女の人は{ニャオニクスがいない}って言ってたわ」
「やっぱりな」
「ちょっと待って誠、つまりそれって……」
「あぁ。犯人はおそらく、ひったくったポケモンを、ビリリダマと交換していたんだ」
それだとつじつまが合う。
犯人は他人からポケモンを奪って、
そしてGTSを使い、ポケモンをビリリダマと交換する。
それに……ブーバーだ。
調べると1週間前、A.Mという人物がブーバーとエレブーを交換している……
「……こりゃ、一体どういうことや?細尾さんとはまるで関係なさそうな名前やけど」
「……」
そうだ、さっきの少女はどう思っているだろうか?
「君は……」
……いない?
なんだったんだ。さっきの少女は。
白井と狭山はとりあえず協力してくれた従業員に礼をいい、ポケモンセンターを出た。



「動くな」
「!?」
ところで、男二人に銃を向けられた。
「……さっきのデータ、永遠に忘れてもらおうか?」
誰だ……?
しかもなぜ、データを見たことを知っている……?
「……」
「いいから、忘れろ!」
引き金を引く指に力が入った時だった。
バキ!
「ぐおっ!?」
突然、何かが降ってきて、男を蹴り飛ばした。
「!?」
反動で白井もバランスを崩す。
「てめぇ!」
もうひとりの男が、銃を「それ」に向ける。
「……」
しかし「それ」はまるで臆することなく素早く男に近づき……
バキ!
今度は腹に1撃。
男ふたりは、簡単に伸びてしまった。
「……手錠をかけて」
「え?」
「二度は言わない」
何が起こったかわからないが、とりあえず手錠をかける。
「あ、ありがとうな」
と、狭山が言うと、少女は……
「!?」
懐から、何かを出した。
反射的にモンスターボールを構える白井。
バッ!
「?」
だがそれは、驚くものだった。
「Lucina Rio Caldwell(ルシーナ・リオ・コールドウェル)。ボクの名前だ」
それは、身分証明書だった。
さらにフードも脱ぎ捨てる。
「……ボク?」
ルカリオの体を模したボディスーツ。
その上からでもわかる引き締まった体。
そしてルカリオの耳を模した帽子……
コスプレイヤーか?と思ったが、
「……」
ルシーナの一言で、白井の考えは一蹴される。
「シライ……は、キミ?」
「え?なんで俺の名前を……」
「質問をしているのはボク」
黙ってこくりと頷く。
「……わかった。ボクのことは{ルカ}と呼んでくれ」
「で?お前はなんの」
「キミには聞いていない」
狭山、一蹴。
「……シライ」
「な、なんだよ」
すると、ルカは白井に近付いて……
「明日の朝6時、デスネットからメールが届く」
「!!?」
と、耳打ちした。
「他言無用だ。ほかの人に言った場合は……キミの命が危うくなる」
それだけを言って、ルカは去っていった。
「お?白井、どうした?いきなり愛の告白?それとも……」

なぜ、彼女がデスネットのことを知っている……?
突然の言葉に、白井はその場から動けなくなった。



TO BE CONTINUED…

バタフライ ( 2016/07/09(土) 23:05 )