ゼツボウノスベテ
学園室に戻ってきた一行。
「まず、今回の事件のそもそもの発端から、君たちに説明しないとね」
月島は、大樹に目配せをした。
「そうだね。僕が説明しないと。この事件はまず、僕と金城さんが偽コルニさんにここに誘われたことから始まるんだ。
偽コルニさんは、僕たちに手紙を送ってきたんだ。それは、ブラッド・ハイドレイゴンがこの学校の生徒を狙っているという内容。
そして、それと同時に、とある写真も送ってきたんだ。それが、この写真だよ」
少女が殺害されている写真である。
「これは……青葉さん!?」
「先に見せておくべきだったね。そうすれば、ここまで話がもつれることもなかっただろうに」
「……いや、顔が似ているだけだ。髪の色がまるで違うぞ」
柴山が反論。
「髪の色なんて、ウィッグを使うか、染めればいくらでも変えられるものだよ。それに、彼女が青葉 エレーナ本人だとすると、
青葉さんがいつまで経っても部屋から出てこない。そういう意味がわかるはずだ」
「でも……青葉っちはおいらたちを殺そうとしていたし……」
「何しろ、青葉はうちらも見とったんやで?初日、金城って人とポケモンバトルしとったやんか」
確かに、初日青葉は金城と戦っていたし、食堂の時もそうだった。
そして、月島たちは校舎に入ったところでその彼女に出会っていた。
「黄山君たちを襲おうとしていた<青葉さん>、初日、金城さんとポケモンバトルをしていた<青葉さん>そして、死体となって写真におさまっている<青葉さん>……
それらは全て、違う<青葉 エレーナさん>なんだ」
「!?ち、違う……」
「青葉 エレーナ!?」
ピンと、糸が張り詰めるような感じがした。
「そして、本物の青葉 エレーナさんは真犯人に、2回殺されたんだ」
「2回……!?その根拠はあるのかっ!?」
「最初に死んでいた、<コルニさん>……彼女の右手の刺し傷だよ」
「あと、もうひとつ聞きたいんだけど……コルニさんの右手に、古傷ってあった?」
「え?」
「いや、ブラッド・ハイドレイゴンの殺害方法は、後頭部、右手、左手……それぞれの傷なんだけど……
基本的にそれは一箇所しかないんだ。だけど右手には、なぜか刺し傷が2個あったんだ」
「コルニさんはケガとは無縁の人だったよ。グローブをはめてることが多かったけど、手はすごく綺麗なんだから」
「コルニさんがケガとは無縁な人物なら、右手の怪我はありえない。
となると、犯人が同じブラッド・ハイドレイゴンの殺人に見せかけるがために、傷を二つ付けざるを得なかったんだ」
月島はさらに携帯で撮った写真を見せる。
「さらにコルニさんの足は、こんなふうに素足だったし、なぜか彼女の足はペディキュアまでつけていたんだ。
前に踏ん張ることが多いローラースケートを履いているのに、ペディキュアをつけるのは普通はありえない。
つまり彼女こそが、今回……の、事件より前に殺害された、青葉 エレーナさんなんだ」
「そういえば、青葉ってファッションには人一倍気を使う人だったもんね」
「だが、それだけだとすぐに青葉さんが殺されたということが分かってしまいかねない。そこで犯人は、青葉さんの顔を……」
ゴオオオォォォ……
「彼女の持っていた、シャンデラのかえんほうしゃで焼いたんだ。
そうすれば、顔の損傷によって彼女が青葉 エレーナであるということを知ることがほとんど出来なくなる」
大樹の持っていた被験者リストを手に取り、全員に見せる。
青葉 エレーナ(あおば ー)身長142cm 体重38kg
「違和感はないかな?」
「……いや、むしろあるわ。青葉、ここまで小さくないもん」
「そう。犯人は俺たちがこの被験者リストを読むことも見越して、青葉さんのデータを捏造したんだ。
俺たちが最初に出会った。偽物の青葉 エレーナさんのものにね」
「ざっと見、身の丈は152cmはあったぞ。青葉は……だが、ポケモンバトルをする時に違和感はなかったはずだ」
「ポケモンバトルの時だけ、彼女の身長になればいいんじゃないかな?」
月島の捏造という言葉を、大樹が後押しする。
「その戦闘中のみ、青葉さんは厚底の靴を履いて戦うんだ。10cmほどの、ね。
ポケモンの戦闘に夢中になるあまり、みんなは靴までは普通は見ない。
だからこそ、偽青葉さんは違和感なく、戦いを終えることが出来たんだよ」
「でも……何日か前に殺した死体を使うとなると、腐るんちゃうの?この冬でも……」
「そのための生物学室だよ。黄山君。聞きたいことがあるんだけど……」
え?という顔をして、黄山がこちらを向く。
「金城さんは足を滑らせて尻餅をついた。というのは本当だね?」
「そ、そうだな。間違いないんだな」
「つまり犯人は、その日より前の日に生物学室を使用したんだ。そしてその時の冷気により、水滴が床に垂れ……」
ズルッ。
「きゃっ」
ぺたん……
「あわわ、大丈夫なんだな!?」
「ん……平気です」
「凍った。だね」
こくりと頷く。
「その証拠に、左の冷凍庫の中は血だらけだったはずだ。君たちの証言を信じるとするなら、ね」
「青葉に滅びのカタストロフをもたらしたあと、絶対零度の久遠の氷に青葉を抱かせ、それを自らのミラージュにした。という事か」
「よく意味はわからんけどそういうことだ」
話を戻す。
「だが、その様子を誰かに目撃されないと意味がない。そこで犯人がとった行動は……」
ピンポンパンポ〜ン……
「?」
「校内放送です。ただいま午後8時を回ったところです。まもなく食堂はドアをロックします。じゃあ皆、いい夢を……」
ガシャン!ドゴン!……パチパチパチパチ……!
「でも、その校内放送はうちらは聞いてないんやで?」
「決まってるよ。君たちに目撃されると犯人としては都合が悪かったから、見ず知らずの俺たち<だけ>に見せたかったんだ。
そのために、宿舎方面には放送を流さなかったんだ。念のために、宿舎の食堂のドアをロックしてからね
宿舎の食堂のドアがロックされるのは、午後8時。部屋の備え付けの時計しかない君たちは、時間を把握する手段に乏しかった。
犯人はそこを狙って、今の時間を午後8時だと、俺たちに錯覚させたんだ。……だが、犯人にもひとつだけ誤算があった」
首をひねる一行。
「赤井君が、火が燃え上がっているところを目撃してしまったんだ」
「ど、どうしたんです月島さ……!」
「……ダメだ、鍵がかかってる……赤井君!このドアの鍵は!」
「しょ、職員室にあるはずです!取ってきます!」
「犯人の計画はそこで頓挫しかけたんだ。だが、俺が赤井君にこの場を離れるよう言ったことで、かろうじてばれずにすんだ」
「つまり、和也のせいでもあるんだよね?」
「あの状況でそう言わないほうが無理だっての」
月島は次に、あるものを取り出した。
「そして犯人の計画は、次の段階に移行した。この手紙だよ」
今日は部屋にいろ。
君を殺そうとしている人がいる。
今日は何があっても、部屋から出てはいけない。
ずっと待つんだ。ずっと、嵐が過ぎるまで待つんだ。
「これ……うちが拾った手紙……」
「そして次に、これだ」
警戒してくれ。
君たちのうち誰かが、今晩中に白戸さんに殺される。
今日は1歩も動いてはダメだ。
白戸さんが、いつ牙をむくのかわからないからね。
「緑川っちの部屋にあった、手紙なんだな……!?」
「ま、まさか……!」
口を両手で押さえながら言う黒木。
「犯人の目的って……緑川に白戸を殺させること……!」
「考え方はあっているけど、少し違うよ……次は、食堂に行こうか」
食堂にたどり着く一行。すると……
「……!?」
「なっ……!」
そこに、頭を殴られ、倒れている少女がいた。
手には刺し傷があり、血文字で、
ゼ ツ ボ ウ サ ー カ ス
と、壁に書いてある。
「次に犯人は、俺たちが食堂に向かう。そう思ってこの現場を作っていたんだ。
今度はコルニさんではなく、青葉さんとしてね」
「……な……なぜ……」
「最初からゆっくり、順を追って説明するよ。……そして、明らかにしよう。犯人の組んだ、巧妙な罠を」
この事件の始まりは、約1か月前のある日のことだった。
「……」
犯人は、青葉さんを殺害し、その際の様子を写真で撮影。
そう、かつて世を震撼させた、ブラッド・ハイドレイゴンのゼツボウサーカスの真似をしてね。
そしてそれを持って、兄貴と金城さんに、相談事を持ちかけた。
自分の生徒たちを守るために、あなた方に協力して欲しい。
その言葉を信じた……いや、信じたふりをした兄貴と金城さんは、俺を連れてこの学校にやってきた。
その時、犯人は替え玉を用意したんだ。
青葉 エレーナさんの代わりになる人物を。
その人物に出会った俺たちは、彼女こそ青葉 エレーナさんと勘違いしてしまった。
そしてその日の夜……犯人は行動を実行に移したんだ。
生物学室からあらかじめ保存していた青葉さんの遺体を運び出し、放送室へ。
そこで再び青葉さんの腕、後頭部にそれぞれ傷を付け、髪の毛をコルニさんの髪型に整え、
ゴオオオォォォ……
シャンデラのかえんほうしゃで、その顔を念入りに焼いた。
おそらくこの犯行は、俺たちが食堂に行っている間に起こしたんだろう。
そうして顔を本人と判別できないくらいに焼いた犯人は、その後7時50分頃に校内放送を、俺たちがいる校舎側にのみ聞こえるようにして、
ピンポンパンポ〜ン……
「校内放送です。ただいま午後8時を回ったところです。まもなく食堂はドアをロックします。じゃあ皆、いい夢を……」
ガシャン!ドゴン!……パチパチパチパチ……!
途中で放送機材を破壊したあと、ライターか何かで火を点け、あたかも今火災が起きたように見せつける。
そしてその死体を、全員に見せつけたんだ。スプリンクラーを使ってね。
次に犯人は、俺たちの精神状態に漬け込んだ。
食堂で俺たちがもめているのを、モニタリングか何かをしていた犯人は……
緑川さんに、白戸さんに警戒するよう伝える手紙。
そして白戸さんに、誰かが君を殺すかも、という手紙を書いたんだ。
そうすることで、緑川さんが正義感が強いことを知っていた犯人は、緑川さんが白戸さんを殺してくれる。そう思った。
だけど、実際は違ったんだ。
赤井君が緑川さんを殺害することで、事態はさらに混迷を極める。
予想以上の展開に、犯人は胸をなでおろしただろう。
だが、現実は違った。
金城さんの手助けもあり、事態はそこまで深刻化しなかったんだ。
そこで犯人は、自分の協力者であった青葉さんの偽物を……
ドッゴォ!
「ぐぅ……!」
ドサ……
俺たちが校舎の探索に向かっている間に殺害。
そしてブラッド・ハイドレイゴンの事件を、再び起こした。
そうすることで、探索中に青葉さんが殺されたと見せかけ、再び人間不信を呼び込もうとした。
そして念には念を込め、青葉さんに変装した上で、金城さんたちの前に現れたんだ。
まるで、「青葉さんがすべての事件のキーマンであったが、誰かに殺された」と、俺たちに植え付けるためにね。
……これが今回の事件の真相だ。
そして、この事件の真犯人。
最初に青葉さんを2回殺すことで、俺たちに不信感を抱かせ、殺し合いを起こさせようとした人物……
「本物の偽コルニ。ということだよ」