カイメイ
学園長室に戻ってきた月島。
「……どうしたの?月島さん」
赤井が不思議そうに見つめると、その隣で大樹が、
「どうしたもこうしたも……わかったんだよね?犯人が」
「!?」
「あぁ。ご名答だよ。兄貴。この事件の真相もな」
静かになる学園長室。心臓の鼓動音が聞こえてきそうだ。
「……まずは、最初の事件より先に、緑川さんの殺害事件からだ」
「え?なんで最初の事件を後回しにするん?」
「色々と理由があるんだ。まずは落ち着いて聞いて欲しい。……まず、あの停電を起こした人物からだが……
それはおそらく、緑川さん本人だろう」
緑川さんは、あらかじめこの宿舎のブレーカーのことを知っていたんだ。
そして彼女は、ギリギリになるまで電気を使い込んだ。
脱衣所のドライヤーを強にし、ずっとかけっぱなしにする。
そして、同じくかなり高い温度に設定したエアコンのタイマーを、午後6時55分にセット。
外は12月。電力としては暖房にしたほうが、多くなっただろうからな。
そして彼女は、懐中電灯か何かを用意し、その時を待った。
ピピッ!……パチン!
電力の使いすぎによりブレーカーが落ち、夜の闇も手伝って宿舎内は真っ暗になった。
そして彼女は明かりをつけ、宿舎内を進み、真っすぐに白戸さんの部屋を目指した。
彼女にとっての幸いは、白戸さんが鍵をかけ忘れていたことだろう。
ガチャ……
彼女は部屋の中に侵入。しかしそこに白戸さんはいなかった。
だがその時、彼女に思わぬ出来事が起こった。
「!?」
何者かが、部屋の中に入ってきたんだ。
そして彼女は、その人物ともみ合いになっているうちに……
ゴオン!
窓の場所に頭を激しく打ち付け、そのまま亡くなったんだ。
「ちょっと待て。懐中電灯を使っては、ほかの人物に目撃されるぞ」
「それはどうかな。宿舎に行けばわかるよ」
宿舎にやってくると、月島は懐中電灯を取り出し、
「兄貴。悪いけど、ブレーカーを落としてきてくれるか?」
「わかった」
大樹がブレーカーを落とすと、宿舎内は真っ暗になった。
「……こんなことに、何の意味があるんやろ」
「さぁ……」
月島の声が聞こえた。
「さぁ、俺は今どこにいるか。わかるかな?」
「え?」
声が聞こえるが、明かりは見えない。
「どどど、どこにいるんだな?」
「君たちの目の前にいるかもしれないし、いないかもしれない。……ヒントをあげると、俺は今懐中電灯をつけてるぞ」
「付けてるんだったら、明かりが見えないのはおかしいっしょ!」
反論する黒木。
「じゃあ、タネ明かしと行こうか」
そこへ大樹がやってくる。
「和也は……いや、緑川さんはこうやって隠れたんだと思うよ」
懐中電灯を使って照らし出すと……
「!?」
そこには、巨大な扉が見えた。
「な、なんと……こんな場所にヘブンズ・ドアがあるとは聞いていないぞ!」
「そりゃそうだよ。だってこれ、防火扉だもん」
ギィ……
「緑川さんは防火扉を使うことで、懐中電灯の明かりが漏れるのを防いだんだ。
君たちの中に誰もフラッシュを使えるポケモンを持っている人はいなかったから、扉が閉まっても暗闇の中で確認することは不可能。
緑川さんにとって、これほどまでに好都合なバリケードはなかったはずだ」
ガタン……
「停電が復旧する前に扉を開ければ、怪しまれることもないしな。まぁ、扉を開けたのは犯人だったんだが」
「では、その犯人とは……」
柴山が聞くと……
「この停電の中において、明かりを使える人物は一人しかいないんだ。そうだよね」
月島は、ある人物を指さした。
「赤井 誠君」
「!?」
赤井は、何も言わなかった。
「ちょっ冗談はよしぃや!赤井が人殺しするような顔に見える!?」
「顔の問題じゃないと思うけど……」
「俺が考える、事件の概要はこうだよ」
君はおそらく、食堂から帰るときに聞いてしまったんだろう。
緑川さんが、白戸さんに対し明確な殺意を持っていることを。
だが白戸さんが包丁を持っている以上。下手に行動したら自分が危ない。
そんな時に、あの停電は起こった。
「……こ、これは……!」
慌てて外に出ると、
「!?」
白戸さんの部屋に、人が入っていくのが見えたんだ。
誰かはわからなかったけど、その人物はおそらく、白戸さんを殺害しようとしている。
そう思った君は……
ポン!
モンスターボールからリザードンをだし、尻尾の炎を明かりの代わりにして、彼女の部屋に行く。
そこで目撃したのは、包丁を握っている緑川さんだったんだ。
「緑川さん……!」
「……!?赤井か……」
「ど、どうして、白戸さんの部屋に……」
「決まっている。あいつを始末するためだ。このままでは、本当にあいつは人殺しをしかねないぞ」
だけど、赤井君にも言い分があった。
「だとしても……それで殺すのはよくないよ……」
「何を言っている」
「だって、白戸さんだって昨日あんなことがあったから今日少しおかしかっただけだよ!
緑川さんだって……僕だって、一歩間違えれば少しおかしくなるはず!
それなのに……それなのに殺そうだなんて、あんまりだと思うよ!」
だが緑川さんは、それに耳を貸そうとしない。そしてあなたは……
「どうして……どうしてわかってくれないの……」
「お前も殺されるかもしれないんだ。だから……」
ドン……ゴオン!
緑川さんを突き飛ばし、そのまま彼女は動かなくなってしまった。
「……!」
おそらく……いや、間違いなく衝動的な殺人だったんだ。
計画を持っているなら、こんな殺し方はしなかっただろうからね。
君は軽くパニックを起こし、そんな折に思いついた。
……コルニさんの殺害された状況と、今回の状況を似せてみようと。
その時、音が鳴った。
ガァン!
ベッドから聞こえたその音、君はそこにいた誰かに、罪をなすりつけようとした。
彼女の持っていた包丁を使って、両手を突き刺し、
彼女の血を使って、ゼツボウサーカスという血文字を残した。
そのあと、ベッドの中にいた人物に、その包丁を握らせ、
そして、緑川さんが閉じていた防火扉を元に戻して部屋に戻り、
「み、緑川さん!」
騒ぎを聞きつけたふりをして、俺たちに合流したんだ。
「……赤井 誠。お前が犯人だ!」
指を再び差す月島。
「……」
「あ、赤井っち……どうして……なんだな……?」
「刑事さんの……言うとおりだよ……」
赤井は、今にも泣き出しそうな目をして続ける。
「緑川さんは……白戸さんを殺そうとしていたんだ。僕はそれを……止めたかっただけなんだ」
「殺そうだなんて、あんまりだ?」
「そうだよ!緑川さんがダメだって言うのなら、僕が説得する!僕でもダメなら、ほかの人が説得するはず!だから……」
「そうこう言っているうちに白戸が行動を開始したら、お前はどう責任を取るつもりだ?」
「!?……それは……」
緑川さんは、僕の説得には耳を貸そうとしなかった……
「このままでは、あいつの思うツボだぞ。きっとコルニさんを殺害したのも、あいつに決まっている。
あいつを野ざらしにしておけば、次に危険になるのは誰だと思う?」
「……で、でも」
「でもも何もない!元はといえば、騒ぎを悪化させたのは白戸だぞ!
あいつを早いうちに始末しておかないと」
「……!」
始末。その言葉を聞いた瞬間、僕は意味がわからなくなったよ。
体中に何かどす黒いものが湧いてくるというか、
絶望って、そういうことを言うんだと思う。
「私たちを殺すことに、あいつは……」
「……っ!」
ドン!……ゴォン!
そこから先は、僕の記憶にないよ。
気がついたら緑川さん……びくりとも動かなくなって……
僕はどうしようか迷ったよ。
その時、思い出したんだ。コルニさんの殺害現場を……
そして僕は……
「あとは刑事さんの言うとおりだよ。……僕が……殺したんだ……」
「あ、赤井っち……」
「元はといえば……白戸さんが悪いのはごもっともだよ。だけど……白戸さんを殺そうとする緑川さんを許せなかった……
僕は……これ以上まっぴらなんだ……目の前で誰かが死んで行くなんて……!」
泣き崩れる赤井。
「でも君、偽善をかぶるのはやめたほうがいいよ」
「!?」
突然大樹が言う。
「偽善なんかじゃない!僕は白戸さんを助けようとして……やむなく……!」
「じゃあ白戸さんが助かるとしたら、君が包丁を握らせた人は疑われてもいいって?」
「!?」
赤井ににじり寄りながら、大樹は続けた。
「白戸さんが助かるなら、緑川さんを殺していいって?白戸さんが助かるなら、自分の罪をほかの人の仕業に見せかけるのもやむを得ないって?」
「そ、それは……!」
「あのねぇ。僕は自分の犯罪を正当化する人が大嫌いなんだ。君が行ったことはただの最低な」
「ヒトゴロシ。なんだよ」
「!?」
そう言われた瞬間、赤井はその場にへたりこんだ。
「それに、君も最初にコルニさんを殺した人も勘違いしていることがあるんだよ」
「え?」
月島が唖然とする。
「ブラッド・ハイドレイゴンは生粋のロシア人なんだ。だから、ゼツボウサーカスって血文字も、ロシア語じゃないとおかしいんだよ。こんな風にさ……」
ゼ ツ ボ ウ サ ー カ ス カ イ エ ン DECEMBER 11
最初の脅迫状だ。
「子供だましみたいな脅迫状。僕は信じてなかったよ」
「あ、兄貴……じゃあ……兄貴がこの学校に来た理由って……ブラッド・ハイドレイゴンを捕まえるためじゃなく……」
「ブラッド・ハイドレイゴン<の真似をして殺人をしようとしている>人物を捕まえるため。
だから最初から、何者かの罠だってことは気づいていたよ?もっとも、コルニさんが偽物であることは気づいていなかったけどね」
「……」
ハメられた。
自分は対して事件のことを聞かされないまま、ここへやって来た。
「和也。敵を欺くときはまず味方から、だよ」
「……」
だが、今は唖然としている場合ではない。
「緑川さんの殺人事件はとにかくこれで解決だ。だが……」
「え?」
「事件はまだ、何も解決していないよ」
再び緊張感が襲う。
「ど、どういう……」
「何度も言っているように、緑川さんを殺害した犯人と、コルニさんを……偽コルニさんを殺害した犯人は違うんだ」
「……」
「そのためにまず、学園長室に戻ろう」