シンソウ
一方月島。
「……」
引き続きパソコンの解析を続けると、さらに気になるファイルを見つけた。
「……これは……?」
〜ポケモントレーナーメガシンカ計画〜
「なんだか、変わったデータですね……?」
「ちょっと見てみるか……」
心、技、体。全てを強いトレーナーに成長させるため、我々はこの学校から「王」を作り出す。
そのために、私が考えたものがこの、ポケモントレーナーメガシンカ計画だ。
卒業試験……それをこの学校の中で行う。
学校の中に生徒たちを閉じ込め、極限状態に置きながら、それを乗り越えさせることで、力強い精神、明晰な頭脳。
それらを兼ね備えた、明日に煌くような、ポケモントレーナーを、私は育成する。
そして……この世を、真に強いトレーナーではびこらせるため……
私は鬼にも、悪魔にもなってみせようぞ。
「つまり、学園長がこの卒業試験の発案者、そしてさっきのコルニさんからのメール……」
すでに特別学科の役割は一通り終了し、これ以上の躍進は不可能なはず。
それに、最近になっての貴方の行動……
まるで、特別学科の卒業試験のために、子供たちを閉じ込めようとしているのでは?
そういった閉鎖空間で、卒業試験などできるはずもないでしょう。
「では、特別学科は……」
「あぁ。おそらく、とうの昔になくなってたんだよ。……君たちが特別学科の高校生として選ばれたのなんて……嘘だったんだ。
君たちはこの学校に通う、普通の高校生だったんだよ」
「……そんな……」
信じられない様子の赤井に、さらに月島は証拠を突きつける。
一体私の何がいけないというのだ。
私はただ、あの子達に強くなって欲しかっただけだ。
私の娘も、喜んでいたぞ。
この極限の状況を、喜んでいたぞ。
なのに。なのになのに。
どうして私の学校から、どいつもこいつも逃げていくのだ。
酷い奴は入口からではなく、ガラスを突き破って抜け出す奴もいた。
どうしてだ。どうして……
いや、悪いのは私ではない。
強い精神を持っていなかった。あいつらが悪いんだ。
私はこれからも続けよう。
この特別学科。この卒業試験を……
「第3回の卒業試験を終えたところだな。えっと、被験者リストによると……」
脱落。という言葉が並ぶ中、第3回の卒業試験のみ、一人だけ合格者がいた。
それ以外の卒業試験では、全てのトレーナーが脱落扱いになっている。
その人物の名は、影山 愛(かげやま めぐみ)。
「……」
この学校の学園長の名前を調べると、影山 和三郎(かげやま わさぶろう)。
「私の娘……つまり、学園長の娘が卒業試験の唯一の合格者」
「……そして、第4回……」
その名前の中に、コルニの名前を見つける赤井。
「コルニさんは、やっぱりこの学校が母校だったのか」
「……あの、ちょっといいですか?」
赤井が一言。
「な、何?」
「この、コルニさんの顔……」
「え?」
「何か、違和感を感じるんですよね……おととい亡くなられた……コルニさんと……」
よくよく見るが、そもそも月島はコルニの顔をそこまで深く見ていない。
「そしてやっぱり、今回の卒業試験の被験者リストは……」
「あったよ。和也」
「!?」
声がして、びくりと心臓が止まりそうになる。
「……あ、兄貴か……驚かせんなよ……」
「ごめんごめん。僕は最初の日に確かに被験者リストを目撃したよ。隣の部屋の……」
その被験者リストを取り出す。
「職員室からね」
「……職員室?」
「今思えば、この時点で気付くべきだったよ。真犯人の甘い罠に」
「!?」
一方金城。
「……」
物陰から身を乗り出す。
間違いない。あれは初日に出会った青葉 エレーナだ。
「……柴山さん。黄山さん」
「え?」
「……離れてください」
なぜか金城の背中を二人で持っている。
「す、すまん」
「ど、どうするんだな?もしあいつに見つかったら……どうなるんだな?」
「手に持っている得物を見てわかるでしょう。おそらく彼女は私たちを……無き者にするつもりです」
緊張感が高まる。
「お、お前のポケモンでなんとか……」
「したところでどうするのです?仮に彼女が犯人だとするのなら、彼女は何か手を打っているはずですよ……?」
「手?手って……」
「例えば、凶器を別に持っている。とか……それに、私がポケモンで戦っている際に、あなた方が狙われる可能性もないわけではありません」
ドギマギする二人。それを尻目に、金城は四つん這いのまま進みだした。
「な、何をするんだな……?」
「私が青葉さんを引きつけます。その隙に、あなた方は階段へ……」
そして青葉と距離が少し離れた隙に金城は駆け出し、
バタン!
科学実験室の扉を力強く開け……
「う〜ん!ここに手がかりになるものはないかな〜!」
わざとらしく大声を上げた。その瞬間に、騒ぎを聞きつけた青葉がつま先を180度変える。
「……ゆくぞ、進撃の時だ」
そして黄山と柴山が、猛スピードで走り出した。
「よし、私も……!」
そう思った時だ。
ガバッ……!
「……!?」
突然金城は、背後から口を押さえられ……
「……」
抵抗する間もなく、だらんと腕を下ろした。
「……」
その金城を眠らせた人物は、次にあるポケモンを出し……
2階に戻ってきた黄山と柴山は、すぐに状況を説明した。
「金城さんが……!?」
「あぁ、間違いないんだな!きっと金城さんは……青葉っちに襲われて……」
「何、あいつなら助かるに違いない」
「根拠は……」
「……ない」
静かになる一行。
「……仕方ない。金城さんの無事を祈りつつ、まずは話をまとめよう」
「そうだね。鍵がかからないここにあまり長居し続けるのも良くないし。まずは和也から頼むよ」
月島は、話を始めた。
この卒業試験は、コルニが反対を唱えていたということ。
学園長の娘が、唯一の合格者であったということ。
特別学科、というのはかなり前にその役目を終え、廃止されていること。
「廃止……つまり、あたし達がここに来てる意味って……」
「簡単だよ。君たちはこの場所に、卒業試験でもなんでもない理由で呼ばれたんだ」
「そ、その理由って……何なん?」
「それが分かれば苦労しないよ」
そう言いながら、両手をやれやれと開く大樹。
「……君たちが行っているこの<卒業試験>これは、君たちを強くするためのプログラム。
ポケモントレーナーメガシンカ計画だったんだ。
しかし始めた当初から、この企画は無茶苦茶になってしまってね。
脱落者は続出し、ポケモントレーナーをやめる人までいたんだ。
それでも学園長はこれを続けた。なんでも、自分の娘がこの企画を褒めていたから、らしい……」
「つまり娘の言葉だけで、こんなくだらん茶番劇をやっていたのか。ふん、実に愚かしい奴よ」
「多分君だけには言われたくないと思うな、柴山君」
次に大樹。
「先に言うと、コルニさんは生きてるよ」
その瞬間、部屋の空気が一気に張り詰める。
「ちょっちょっと待て兄貴!コルニさんなら、最初の日に殺されたはずだ!服も、ローラースケートも、コルニさんのものだったはずだ!」
「服とローラースケート……<だけが>コルニさんのものだったんだよ」
「……お、おい……じゃあ待てよ。じゃああの死体は……誰のなんだ?」
「そりゃもちろん、そばに置いてあったポケモンのモンスターボールを見ればわかるでしょ?」
シャンデラ 親:ブルーリーフ 技:かえんほうしゃ シャドーボール エナジーボール サイコキネシス
「ブルーリーフ……青い葉っぱ……青葉……エレーナ……さん……?」
「大正解」
しかし意を唱えるのは黄山。
「で、でも、その青葉っちにおいらたちは襲われそうになったんだな!つまり青葉っちは生き返った!?」
「生き返ったもなにも……犯人が変装したんじゃない?青葉さんに」
「じゃあつまり、犯人はどうしたっていうんだよ……」
「それは考えればわかることなんじゃないかな。あ、そうそう。白戸さんが何か言いたいことがあるんだよね?」
大樹に言われ、白戸が口を開ける。
「そういえば、美術室調べた時、ハンマーが一個なくなってたんよ。一番でっかいのが」
「ハンマー?」
それを聞いた柴山は、思い出した。
「奴が持っていたミョルニルの鉄槌を持っていたぞ。青葉 エレーナ……の、ような奴が」
「な、なぜかあのハンマーには血が付いてたんだな!」
「血……?!」
それを聞いて、ふと嫌な予感がした。
「金城さん……まさか……!」
「いや、あの女が共にいる時からそのミョル」
「ハンマーには血が付いていたんだね。つまり金城さんが襲われているとは限らない。と」
大樹が先に言うと、柴山はしょんぼりした目をしていた。
そして黄山。
「せ、生物学室をしらべていたら、そこには巨大な冷凍庫が3つあったんだな。真ん中と左側をあけて見たんだけど……
左側の内部に、大量の血がついていたんだな……お、思い出しただけで恐怖なんだな!」
「大量の血……?」
「あと、人一人ぐらいは余裕で入れるくらいの大きさがあったし、床は凍っていたんだな」
考えを整理すると、
「多分その凍った床は、誰かが開けたまま何か作業をしていたから、じゃないのかな。水蒸気が床に水滴として落ちたあと、
それが凍りついて凍っていたんだろう。そして、その大量の血は……」
全員が注目。
「……」
じ〜っ……
「……なんだろう?」
大樹以外全員ズッコケ。
「はぁ」
「とにかく、金城さんが気がかりだ。みんなで探そうか?」
「いや、まずは事件に関する要点をまとめて言うことが大事だと思うよ。おそらく残された時間は少ないはずだしね」
「ど、どういうことだ?」
大樹はこう言った。
「だって、金城さんがここまで帰ってこないってことは、すでに犯人に捕まっているかもしれないよ。
だからこそ、今事件を解決して、それから犯人を追い詰めないと、逆効果になるかもしれない。
金城さんを探している間に、何日も日にちが経ったら一大事だからね」
「……そうだな。でも……」
その時だった。
「!?」
モンスターボールが、激しく振動し始めた。
「ちょっ……ちょっとトイレ……」
「え?」
「……」
腕を組みながら見守る大樹。
2階の近くのトイレに駆け込むと……
「まったくも〜〜〜!」
ゾロ子が飛び出した。
「思い出したかのように現れては対して発言せずに帰っていく出番しかない!そんな世の中は」
「ポイズン♪ってか」
「だいたい和也。本当に気付いてないの?犯人に」
「……いや、大体は目星が付いてる……ような、付いてないような」
頭をかく和也に対し……
「……あのねぇ。和也……」
「え?」
ゾロ子は顔を近付け……
「あんたの脳はずっとずっと、メガタイカ状態になってるんじゃないの?」
え〜っと。メガタイカってどういうこと?
メガストーンを使った結果、能力値が低下するの?
さしずめ俺のステータスは……
素早さ2(頭の回転的な意味で)
うん。間違いないね。間違い……
「あるわ〜〜〜!」
腕をブンブン振り回しながら怒る月島。
「あるっての!すばやさはせめてナットレイを抜けるぐらいはあるわ!」
「い、いきなり何言い出してんの……?」
「大体なんだよメガタイカって!ここがシャラシティだからそう言ったのか!俺は命ではなく頭爆発してんのかオラ〜〜〜!」
「て、てか詳しいわね……無駄に……」
呆れ顔のゾロ子。
「せめて入れ替えろよ!俺の打たれ強さは少なくとも100くらいはあるから、すばやさと入れ替え……!」
そこで電流が走る。
「……入れ替わり。か」
「……」
「……ゾロ子……行くぞ。事件を解きに」
「はいは〜い。かっこよく決めなよ?」
一方その頃、金城は……
「んっ……」
見知らぬ部屋で目を覚ました。
「あれ、ここは……」
全身が少しだるい。薬を吸わされたからだろうか。
「……ごめんなさい」
「え?」
声のした方を振り向くと、そこには女性が座っていた。
透き通るような青い目、頭にはヘルメットをかぶっており、金髪のトリプルテールの髪型。
そして白を基調とした服を着て、ローラースケートを履いていた。
「……!?」
目を見開いた。
「あなたは……!」
「でも、こうするしかなかったの。彼女から、あなたたち全員が助かる方法はなかったと思ったの……」
「……いえ、元は私がいけなかったんです」
「……」
その女性は立ち上がったあと、
「私は、あの人が貴方の真似をしている。ということを知りながら、わざと彼女の罠にかかったのです。
ですが、よもやここで<ご本人>に登場願えるとは思ってもいませんでした」
「いや?あたしは最初からこの部屋にいたわ」
「え?」
ドアを開ける金城。目の前に赤井のいた部屋が写りこんだ。
「なるほど、彼女の部屋が開かなかったのは……」
「そう、あたしがここにいたから」
そう。その人物は……
「……念のため、貴方の名前をお教えください」
「コルニ。このシャラシティのジムリーダー。そして、このマスターハイスクールの特別講師……だった」
「……やはり」
そう、金城は相談しに来たコルニ、そしてこの卒業試験自体がでっち上げであると、すぐに見抜いていた。
そうして、コルニの真似をしていた人物の罠にかかる真似をして、生徒たちを守ろうとしたのだ。
「あなたがここにやってきた理由を教えてください」
「……青葉 エレーナさんの姉から連絡があったの。彼女ともう、何日も連絡が取れないって。
だからあたしは、それを調査するために、卒業試験の何日も前からこの学校の中にずっといたの。
もちろん、誰にも見つからないようにして、ね。だけど……青葉さんは見つからなかった」
「どうして?」
「それはわからない……だけど、どこを探しても見つからなかったの」
だが、金城には心当たりがあった。
「コルニさん。少しお聞きしたいのですが……」
「あたしが答えられる範囲なら、なんでも聞いて?」
「この女の子をご存知でしょうか」
それは、最初に偽物のコルニが手渡した写真だ。
「!?」
それを見てコルニは少しだけたじろぐ。
「ご存知もなにも……この子……青葉 エレーナさんだよ!?」
「やはり……そうでしたか……」
金城は立ち上がろうとするが、まだ少し体がだるく、足に力が入らない。
「……そうとうなものを使いましたね?」
「ご、ごめんなさい。いざとなったら、またカイリキーに運んでもらうから……で、どこに行くの?」
「2階の学園長室……の、前に少し確認したいことがあるので、私についてきていただいても構いませんか?」
「え?……いいけど……?」