フキョウワオン
「こ、コルニさ〜ん!」
赤井の悲痛な叫び声。
「……放送機材も激しく燃えてる……さっき聞こえた変な音はこのことだったのか……」
「え?変な音……?」
「赤井君は聞いていなかったのか?ほら、校内放送だよ」
「いや、何も聞いてないですよ。個室にいたけど、校内放送が流れるなら、ちゃんと聞こえるはずだし……」
赤井はどうして校内放送を聞いていないのか……?
いや、そんなことを考えるのは後だ。
「とにかく、兄貴、金城さん。他の人たちを連れてきてくれ」
「わかった。大至急連れてくるよ」
「お任せを」
死体に近づく月島。
「ん?」
すすを払うと、そこからモンスターボールが。
「……これは……」
モンスターボールからポケモンを出すと、シャンデラが出てきた。
「これが火元になったのか……」
シャンデラ 親:ブルーリーフ 技:かえんほうしゃ シャドーボール エナジーボール サイコキネシス
ブルーリーフ……
「まさか」
そう、青い葉。つまりは、青葉 エレーナのことだ。
「連れてきたよ」
大樹、金城が他の5人を伴いやってきた。
「……!バカな、こんなことがあり得るというのか……!」
「ななななななななっなんと……コルニさんが……!まだ冥府の王ゲンちゃんで挑んでいないというのにっ!」
「し、信じられないんだな!これは何かの夢なんだな!」
「う……うそやん……コルニさ〜ん!」
「あ、ありえなくない!?いったい誰がこんなこと……!」
それぞれ多種多様な反応を見せるが、共通していることは……
全員が、コルニのことを尊敬していた、ということだ。
「……残念だけど、これは事実なんだ。目の前で死んでいるのは……コルニさんだ……」
「……」
全員が呆気にとられる。
昼間まではあんなに元気だったコルニが、今目の前では物言わぬ死体となっている……
「……少し現場検証がしたいんだけど、全員とりあえず食堂に……って、食堂はもう封鎖中か……」
「隣に職員室があるから、そこを使ったらどうかな」
「しょうがない。そうするか……」
それに異を唱える赤井。
「現場検証って……そもそもあなた方は何者なんです?」
「……それも、後で話すよ」
他の6人を職員室へ向かわせ、金城にはその6人の監視を任せ、月島、大樹の2人は現場検証を始めた。
「ん?」
コルニの死体をよく見ると……
「なぁ、兄貴……一応聞くけどさ、ブラッド・ハイドレイゴンって、致命傷は後頭部の傷なんだよな?」
「いや、必ずしもそこが致命傷とは限らないよ。今回の事件のように、右手が致命傷の可能性もあるし」
火災による損傷が激しくない右手には、なぜか2つの切り傷があった。
「でも、大体は右手、左手、後頭部……全ての傷は一箇所のみなはずだよ」
「見ろよ、これ、右手に二つの刺し傷があるんだが、これはどう言うことなんだ?」
「コルニさんを、犯人が殺し損ねたか……あるいは、元からある傷か。とにかくこれは、ほかの人に聞く必要がありそうだね」
さらに死体を調べる。
履いていたローラースケートを多少強引に脱がせ……
「……あれ?」
履いていたローラースケートを……
「ぐぎぎぎぎ!」
履いていたローラー……
「和也、それは後ろ側のレバーを上げて脱ぎ履きするんだよ」
「そういうことは先に言え!」
パチン!
「……あれ?」
コルニの右足はなぜか素足だった。
「妙だね。ローラースケートを履くときは大体はハイソックスか、そういった靴下を履くはずだよ。
素足だと、感触が直に伝わって足への負担が大きくなるからね」
「なんで知ってんだよ」
「金城さんから聞いたんだ」
さらにその足の先には、付け爪もついていた。
「マニキュア?ローラースケートに、マニキュア……?」
「足につけるものだから、これはペディキュアだね。しかも中指と薬指のは取れてる」
「ローラースケートの中にも……ペディキュアはないみたいだ」
「コルニさんのような真面目そうな人が、ペディキュアを付けるかな?それも、ローラースケートを履いたまま、だよ」
妙だ。
引っかかる点が多すぎる。
「……一度職員室に行こう。金城さんや、ほかのみんなに話を聞かないと……」
職員室へやってくると……
「ち、違うよ!僕はただ、コルニさんに少し話が聞きたくて、職員室へ向かっただけだよ!」
「嘘付きなよ!あの時宿舎にいなかった赤井なら、いつでもコルニさんを殺せる時間があったはずよ!」
赤井と黒木が言い争いをしていた。
「ど、どうしたんだよ」
「だから、赤井ならコルニさんを殺せる暇がきっとあったって、そう言ってるの!」
「……」
そのほかの4人は、無言のまま事態を見守っている。
「……あれ?」
だがそこに、青葉の姿はない。
「なぁ、言い争ってるところちょっと悪いんだけどさ」
「え?」
「青葉さんはどこに行ったんだ?」
「青葉?……そういえば、見てないわね。さっきあたしたちはまっすぐ放送室に来たんだけど……」
そこへ金城がやってくる。
「か、金城さん。みんなの見張りを頼んでたはずだけど……」
「申し訳ありません。少しご不浄に。……それより……先ほどの騒ぎはなんですか?
職員室の外まで、声が聞こえていましたが……」
「あぁ。ちょっとした小競り合いだ」
念のため、全員のアリバイを聞くことにした。
「僕はさっきも言ったとおり、コルニさんに、少し聞きたいことがあったんだ」
「聞きたいこと……?」
「うん。個室でのことなんだけど、僕の部屋だけ、ドアの建て付けが少し悪いみたいなんだ。
なんというか……扉の枠が少しだけずれているみたいで、上手く鍵が閉まらないんだ」
「建て付け……か」
次は黄山。
「おいらは小腹がすいたから、食堂に行こうとしたんだな。でも、食堂には鍵が掛かっていたんだな」
「そりゃ、午後8時以降には食堂はドアがロックされるからね。入れないのも無理はないよ」
「そんなはずないんだな。僕が時計で見たときは、まだ7時50分だったんだな」
「……午後7時50分……?」
だが、自分が保健室にいて校内放送を聞いた時は……」
校内放送です。ただいま午後8時を回ったところです。
午後8時を回ったところ。そう言っていたはずだ。
つまり校内放送と、黄山の見た時計では、10分以上の差がある。
「……なぁ。みんなに聞きたいんだけど、みんなは携帯を使ってるのか?」
「いや?使ってへんで?卒業試験の時に、コルニさんに預けたままや。やから時計は個室の時計だけやで」
ちなみに今、職員室の時計を見てみる。午後8時40分だった。
「……ちなみに君が、食堂に行ったことを証明できる人は?」
「私だ」
声を上げる少女。緑川だ。
「部屋の中の冷蔵庫に、緑茶がなかったのでな。食堂に茶葉だけでも取りに行こうとしたのだが……」
「君も、食堂が閉鎖されていることを知らなかった。という訳だな」
こくりと頷く。
「その証言は信用していいと思うよ。呼びに行った時、黄山君と緑川さんは食堂の扉の前で立ち往生していたからね」
次に柴山。
「俺は自室にて、どうにかして<冥界アビス>を更新しようとしていたのだが、ここにはネット環境は整っていないようだ。
何度行っていても、そもそもオンラインにも繋ぐことができなかった」
「冥界アビス……?」
「なんと!?この俺の柴山 哲志のブログ、<冥界アビス>を知らないだと!?」
「ブログかよ!」
すかさず突っ込む。
「そして1階に電算室があったので、明日再度挑もうとし、母のゆりかごに寝転がったところ……その女が呼びに来た、という訳だ」
「母のゆりかご……つまりベッドね。私が証人です。柴山さんは確かにベッドに寝転がっていました」
「その前に部屋を出たことはあるか?」
首を横に振り……
「天地神明……全てのセラフ、全ての魔王に誓って、ないと言おう!」
「わかった」
面倒になったので、次は白戸。
「うちはちょっと、散歩してたんよ。あんまり部屋の中におっても体がなまっちゃうし」
「じゃあその時、柴山君とはすれ違ったか?」
「うん。やけど金城さんが呼びに来た時は部屋におったで?」
金城に尋ねる。
「部屋に居た白戸さんは、冷蔵庫を調べているようでした。私が名を呼んだら、頭をぶつけていましたよ」
「それ言わんといてって言ったのに……」
「すいません。ですが、これもあなたの無実を証明するためなのです」
最後に黒木。
「あたしは部屋の中で、メイクを落としてたよ」
「じゃあ今君はすっぴんか?」
「そうよ?それの何が悪いの?」
「いや……結構地味な顔立ち……」
バシ!
「いで!殴ることないだろ!」
「あたし地味とか言われるの最っ高に腹立つんですけど!」
「まぁまぁ……彼女も私が証明します。少なくとも、私が来る頃には部屋にいるようでした」
全員のアリバイを聞いたあと、改めて話をまとめる。
「この階に来るまでは歩いて5分とかからない。だからコルニさんを殺害して、部屋に戻る余裕は十分あったはずだよ」
「つまり、怪しいのは……二人だけじゃないってことか」
「え?二人?二人って、誰と誰ですか?」
赤井が聞くので言うと……
「……まずは君だ」
「え?」
「この階にやってきていた君は、やはり容疑者の筆頭に挙げられてしかるべきだ。
<コルニさんに聞きたいことがある>というのも、十分殺人の建前として成立してしまうしな」
「そ、そんな!僕はコルニさんを殺すなんて……」
そこで月島は赤井を制止。
「そしてもうひとりは……この場所にいない青葉さんだ」
「確かにそうだな。俺が青葉の門を解き放とうとしたが、部屋には鍵が掛かっていたぞ」
「あ〜、門……すなわち扉ね。あ〜まどろっこしい事件現場の放送室には、シャンデラのモンスターボールが置いてあったんだ」
心の声がダダ漏れしたところで、
「でもさ」
黒木が再び口を挟む。
「言ってあんたたちも怪しくない?」
「え?」
「だって素性を明かしてないし、あんたたちならペアでくんでコルニさんを殺すことだって出来たはずよ。
あたしたちばっかり怪しいと思うのはやめてよね?」
「でも、このお三方はドアが開かなくて立ち往生してたんですよ?」
「そんなもん、先にコルニさんを殺したあとで鍵を戻せばいいでしょうよ」
互いが互いを疑い合う。まさに一触即発だ。
「……仮にそうであったとしても、和也さんはどうやって火元を用意したというのですか?」
「そんなもん、そのシャンデラでしょ?」
「今日あったばかりの和也さんに、青葉さんは快くシャンデラを貸したりするでしょうか?」
「だから、その青葉も和也ってやつが殺したんでしょうが。きっと青葉は今も部屋の中で……」
このままだと埒が明かないが、ここで大樹が……
「あはははははははは。滑稽だね」
と、(何故か)黒木を挑発する。
「な、何が!?」
「だって、僕たちはまだ、宿舎のどこに誰の部屋があるかですらあまり把握していないんだ。
1度も宿舎の方に行っていない和也が、青葉さんの部屋に押し入って彼女を殺す……なんて出来っこないよ」
「……そんなの……」
「それに、素性ならもう明かすよ」
すると大樹は手紙を取り出した。
それは、ブラッド・ハイドレイゴンが送ってきた脅迫状だった。
そして大樹は6人に説明をする。
ブラッド・ハイドレイゴンが、この6人を狙っていること。
コルニはそれを知っていて、止めようとしたこと。
そして、今回の事件と今までの事件。現場の雰囲気がほぼ一致していること。
「……ま、待つんだな!じゃあコルニさんって……」
「あぁ。おそらくブラッド・ハイドレイゴンに殺されたんだ。そしてブラッド・ハイドレイゴンは……まだこの学校に潜んでる」
6人の背筋に、ゾクリと走るものがあった。
「俺たちはブラッド・ハイドレイゴンからコルニさんや君たちを守るため、コルニさんに依頼されてここへ来たんだ。
嘘をついていたのは謝るよ。そして……君たちを怖がらせたのも、謝るよ」
「で、でも!」
まだ引き下がらない黒木。
「その手紙だって、その話だって、あんたたちのでっち上げかも知れないでしょ!」
「黒木さん。このお二方がここへ来てまでさらに怪しまれるような嘘を付くと、お思いですか?」
金城は独特な威圧感を出しながら話を続ける。
「ブラッド・ハイドレイゴンが狙うのは女性のみ。そして自分勝手な妄想ばかりを引き出すあなた……
そう言った人は、真っ先に殺害されるパターンが多くてよ……?」
「ひっ……!」
「ですから、あなたにはもっと私たちを信じて欲しい……と言う忠告ですけどね」
月島は思った。
金城さん、それ忠告やない。
脅しや……
「……わ、わかったわよ……」
「ほんま?」
「う、うるさいわね。あたしは聞き分けがいいことだけが取り柄なの」
白戸と黒木の小競り合いを見たあと、今度は時計を見る。
「そういえば、もう午後9時か……」
「どうする?犯人がいるかも知れない学校の中で、私たちは一夜を過ごすこととなるが」
「……そうだね。鍵の保管場所はコルニさんしか知らない以上……この学校から抜け出すことも、助けを呼ぶことも不可能だよ」
念入りに言う大樹。
「鍵の保管場所はコルニさんしか知らないって……なんでそう言えるん?」
「あのね。今回の特別学科卒業試験のルールに、こんなものがあったんだ」
3、耐えられないと思った場合、職員室へ行き鍵を受け取ること その場合卒業試験を棄権とし、追試を行う
「<鍵を受け取る>と言う事は、コルニさんはこの学校から出る鍵を使うことが出来るということだよね。
つまりその鍵の隠し場所を知っているコルニさんが亡くなってしまった今……
この学校を脱出する鍵を僕たちが使うことは不可能なんだ」
「……じゃ、じゃあ!どこかの窓を突き破って脱出すれば……」
「それも今試してみる?絶望するだけだと思うけど……」
今度は大樹が、携帯で撮影した動画を見せる。
それは、大樹が力強く窓を職員室の椅子で殴っている様子だった。
しかし窓は割れるどころか、傷ひとつ付いていない。
「全部の場所で試してみたけど、結果は一緒だったよ」
「そ、そんな……!」
「無限の時の牢獄……そこに俺たちは閉じ込められてしまった……か」
「むわ〜〜〜!勘弁して欲しいんだな〜〜〜!」
騒がしくなる職員室の中。
それを止めるように、金城が3度ほど手を打つ。
「落ち着きなさい。こうなることこそが、犯人の思うツボですよ」
「それに、この学校でまだ3階より上は調べてないんだ。だから、その3階より上の階から脱出できる場所があるかもしれないよ。
まだ希望を捨てるには早いと思うね」
「そこで、提案なのですが……」
右手を上げる金城。
「今夜はゆっくりと体を休め、明日以降、この学校の探索をする。と言うのはどうでしょう」
「寝ている時をその、犯人が狙ってるとしたらどうするんだな?」
「大丈夫です。そのための部屋の鍵……でしょう?」
さらに月島が補足。
「容易に脱出出来なかったり、容易にほかの場所にいけないのは犯人も一緒だ。
だから君たちは鍵をしっかり施錠していれば、犯人も君たちの部屋に入れないはず。
それに、万が一のことがあったらポケモンを使えばいい」
「でも、それはルール違反では……?」
1、ポケモンは実技練習以外では使ってはいけない(特別な事情がある場合は別)
「殺人鬼がこの学校の中にいるかも知れない。それは特別な事情には当たらないかな」
「あぁ。それにルールの発案者のコルニさんが死んでしまった以上、このルールはもはや形骸化しているはずだ」
それを聞いて、納得した様子の赤井。
「じゃあ、部屋までは集団で帰って、今夜は絶対に鍵を開けずに寝るんだ。
トイレは部屋に戻る前にしっかり済ませでおいてくれ」
「あ、でも……僕の部屋は鍵が……」
忘れていた。
赤井の部屋の鍵は、うまく閉まらないそうだった。
「では、空き部屋を使う、というのはどうでしょうか?」
「え?」
「宿舎の白戸さんの隣の部屋は、空き部屋になっているはずです。そこを使えばどうでしょう?」
「いいの?」
全員こくりと頷く。
「決まり、のようですわね。私たちは、保健室に泊まりましょう」
だが、月島にはどうしても気になることがひとつ。
「なぁ、最後に聞きたいことがあるんだけど……今夜の校内放送は誰も聞いていないってことだよな」
「あぁ。そのはずだ。私は黄山とともに食堂の前にいたが、その時も聞こえなかったぞ」
「部屋にいた俺もそうだ。眠りへ誘う母の子守唄など……」
以下略。
「あと、もうひとつ聞きたいんだけど……コルニさんの右手に、古傷ってあった?」
「え?」
「いや、ブラッド・ハイドレイゴンの殺害方法は、後頭部、右手、左手……それぞれの傷なんだけど……
基本的にそれは一箇所しかないんだ。だけど右手には、なぜか刺し傷が2個あったんだ」
それを聞いた黒木が、
「コルニさんはケガとは無縁の人だったよ。グローブをはめてることが多かったけど、手はすごく綺麗なんだから」
「そうか、ありがとう」
6人を先に部屋に帰らせ、月島、大樹、金城は職員室に残った。
「怪しいのは、どうしてコルニさんがローラースケートの上からペディキュアをしていたのか。
そして、未だに姿を現さない青葉さんのこと……ですね?」
「うん。特に青葉さんはどうして、部屋にいつまでも閉じこもっているのかな?
職員室に彼女の鍵がない以上、彼女は未だに部屋の中にいるのか……それとも、別の場所にいるのか……」
「はたまた殺されたか、か?」
すると金城は何かの紙を取り出した。
「これをご覧下さい」
宿舎の見取り図だった。
部屋は8つ。北側は左手方向から見て、柴山 黄山 緑川 青葉の順、
南側は 黒木 赤井 白戸 空き部屋の順で部屋が連なっている。
「空き部屋には今赤井さんがいます。つまり赤井さんの部屋が、現在空き部屋となっています」
「こんなの……いつの間に作成したんだ?」
「トイレに行く……そう言ったあと、みなさんの部屋を調べました」
「おいおいおいおい。ブラッド・ハイドレイゴンに狙われたらどうすんだよ金城さん!」
「その心配は不要です。フライゴンとルチャブル。2匹を出しておきましたから」
若干防犯の仕方がずれているような気がする。
「続けます。そして青葉さんの部屋を調べてみましたが、やはり鍵はかかっていました。念のためノックをしてみましたが、部屋からは誰も出て来ませんでした」
「つまり青葉さんの部屋は、空き部屋になってるか、ずっと青葉さんが隠れているかのどちらか、という事か」
「そういえば青葉さんは、お食事の際も……」
「食べないのですか?」
「……あ、いえ……」
「……?」
「私たちを避けるように、行動していました。もっと言えば、実技練習の時も、私と戦う時以外は誰とも戦っていませんでした」
「……」
引っかかる。
なぜ青葉は、自分たちを避けるように行動するのか。
そして何故……コルニが殺害されたと聞いても、まるで動こうとしないのか。
「もっと引っかかるのは、あの校内放送だよ」
「校内放送です。ただいま午後8時を回ったところです。まもなく食堂はドアをロックします。じゃあ皆、いい夢を……」
ガシャン!ドゴン!……パチパチパチパチ……!
「あの音も含め、僕たちしか聞こえていないんだよね?」
「全員が同じような嘘を付くとは思えないしな。それに、保健室に時計はなかったし、黄山君の証言では、午後7時50分にはもう食堂はロックされていた。
つまりは、俺たちだけが時計の時間を狂わされてたんだ」
「逆の発想はどう?」
大樹はまっすぐな目をして、ある仮説を立てた。
「時計を狂わされているのは、僕たちではなく彼らの方。とね」
「それをする利点はあるのか?」
「犯人が殺人の時間を誤認させるため……じゃないかな」
つまりは、あの校内放送<だけ>が正しい時間を告げ、ほかの人物の目に止まる時計は、全て10分ほど遅れていた。
そうすることで、コルニが午後8時に殺されたかのように……
「じゃあコルニさんは、すでに殺害されてたってことなのか?」
「あの死体の顔の損傷……あれは多分、5分ほど火にさらされた後だと思う。
火にさらされたのが1〜2分なら、あそこまで損傷は進まないよ」
「そのあと、俺たちが駆けつけたあとにスプリンクラーが作動したんだよな」
そこで金城は、はっとした。
「スプリンクラーが作動するほどの大きな火なら、私たちがやってくる前に作動するはずです。
ですが、私たちの目の前でスプリンクラーは作動したはずですよ」
「それもそうか……じゃあ犯人は、死体の顔だけを焼いていたとか……?」
「それに賛成だ!」
ゾロ子が飛び出した。
「うわ!ゾロ子!急に出るんじゃない!」
「ごめんごめん。だけど和也、あの部屋で燃えている場所はほかにあったかな?」
「他には……放送機材が燃えていたな」
「逆に言えば、それだけだよね」
確かにそうだ。
焼け焦げていたのは、死体の顔、そして放送機材。
それ以外の場所は、焦げている場所もいくつかはあったが、いたって普通であった。
「どうやら、あの部屋のことももう少し調べる必要があるようだね」
「そんなことより、今日はまず寝ないか?流石にいろいろありすぎて疲れちまったよ……」
と、あくびをしながら言う月島。
「賛成ですわ。疲労しているとお肌にもよくありません」
「そうだね。じゃあ僕たちは、保健室に行こうか」
3人は職員室を出て、保健室に向かった。